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昔の男

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第四章

「専務も喜んでおられた」
「そうだったのね」
「流石だとね」
「お父さんのやり方もなのね」
「いいと言ってくれた、やっぱり仕事はな」
「脚でやるものなの」
「会って話してな、インターネットよりもな」
 それを駆使するよりもというのだ。
「ずっとだ」
「実際に歩いてなの」
「そうしてな」
 会って話してというのだ。
「結果を出すものなんだ、机に座ってばかりでもな」
「ことは成らないのね」
「そういうことだ、じゃあ母さんにな」
 今度は母のことに言及した。
「チョコレートケーキをな」
「お母さん今お風呂よ」
 父にそれはと答えた。
「だからね」
「今はか」
「後で渡してね」
「そうするな、じゃあ今から飲むか」
「ワインね」
「だからビールだ」
 仕事が終わって家に帰って飲む酒はというのだ。
「飲むのはな」
「お母さんがそう言ってるの?」
「母さんはいつも頷いてくれるだろ」
「痛風になるけれどいいの?」
「そこでそれ言うか」
「この前身体検査で尿酸値高かったのよね」
「それでもだ」
 父は怒って言った。
「こうした時はワインじゃない」
「ビールなのね」
「飲むぞ、今日も元気だビールが美味い」
「お仕事上手くいったし」
「尚更だ、じゃあ自分で冷蔵庫空けて飲むな」
「それで痛風になって元気でなくなるのね」
「お前そんなこと言ってると結婚出来ないぞ」
 冷蔵庫に向かう途中で足を止めて娘に言葉を返した。
「性格と口が悪くて」
「お父さんにしか言わないから」
 娘はリビングでくつろぎつつスマートフォンでウエブ小説を読みつつ答えた。
「安心して」
「わしだけか」
「父親だから言うのよ」
「痛風のこともか」
「本当に気をつけないといけないわよ」
 痛風のことはというのだ。
「物凄く痛いらしいから」
「わし等の歳になるとなる人が多いな」
「もう肩と肩が触れた位で泣く位痛いから」
「だからか」
「ビールが一番怖いからね」
 痛風にはというのだ。
「まあそうなってもいいならいいけれど」
「ワインにするか」
 父もここで考えをあらためた。
「そうするか」
「そうした方がいいわね」
「そうだな、今日も元気だワインが美味いか」
 父はやや面白くなさそうに述べた。
「そうするか」
「そういうことでね、というかお風呂からあがってから飲んだ方がいいわよ」
「ではまずは晩飯食うか」
「冷蔵庫にお刺身あるしお味噌汁あっためてね」
「そうするな」
 娘の言葉に頷いてだった。
 父は夕食を食べて母にチョコレートケーキを渡して風呂に入った、それからワインを飲むがここでまた言った。
「美味いな」
「それは何よりね」
「ああ、これからは健康に気をつけないと駄目か」
「そう、働きたいならね」
 こう父に言った、父も今は頷いた。そうして風呂上がりのビールではなくワインを飲むのであった。


昔の男   完


                 2021・11・13 
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