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西王母の桃

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第三章

「この様な桃ははじめてだ」
「召し上がられると身体がよくなります」
「そうなのか」
「桃には霊力がありますが」
「この桃は特にか」
「そうなので」 
 だからだというのだ。
「五つ召し上がられると古稀を越えてです」
「生きられるか」
「さらに」
「それは何よりだ、ではな」
「どうぞ」 
 西王母は自ら食べつつ武帝に言った、そうしてだった。
 共に桃を食べた、その後で。
 武帝は食べ終わった桃の種を自分の皇帝の衣、黄衣に入れようとした。すると西王母は彼に微笑んで尋ねた。
「種をどうされるおつもりでしょうか」
「うむ、美味く食して長寿を得られるならな」
 それならとだ、武帝は答えた。
「ここで植えてな」
「実をですね」
「食したいと思ってな」
「左様ですね、ですがそれは適いません」
「そうなのか」
「崑崙の桃は三千年に一度花が咲きです」 
 そうしてというのだ。
「実を結びますから」
「三千年だと」
「はい、ですからとても」
「そうであるのか」
「申し訳ありませんが」
「わかった、それなら仕方ない」
 武帝は西王母の言葉を聞き納得した。
「今その桃を食し美味く思い長寿を得られてな」
「それで、ですか」
「よしとしよう」
「そうして頂けますか」
「その様にな、では美味い桃と長寿の礼をさせてもらおう」
 武帝はこう言って西王母をもてなし多くの宝を与え礼とした、そこには彼女の供の者達や小人もいてだった。
 廷臣達も交えて楽しんだ、その中で。
 西王母は共に宴を楽しんでいる東方朔を見て武帝に笑って話した。
「この悪戯坊主は元気ですか」
「ははは、いつも頓智や面白い知識を言っておるぞ」
「それは何より。この子はまだ若いですが」
「仙人としてはだな」
「頭がよく機転が利くので」
 それでというのだ。
「これからもです」
「その頓智に知識をだな」
「出させてやって下さい」
「それではな」
「それはきっと帝の助けになり」
「そしてだな」
「後世の者の学問にもなります」
 こう武帝に言うのだった。
「ですから」
「これからもだな」
「この者の言葉を聞いて下さい」
「そうさせてもらう」
「西王母様に言われるとは」
 東方朔は少し苦笑いで述べた。
「それがしも怠けたり悪戯を楽しんだり出来ませぬ」
「たまには真面目に働くのです」
 西王母はその東方朔に微笑んでいるば少しぴしゃりと告げた。
「そなたはいつも仙界では遊んでばかりなのですから」
「だからですか」
「そうしなさい、いいですね」
「わかりました」
「ではこれからも頼むぞ」 
 武帝も東方朔に言った、彼は純粋に微笑んでいた。
「そなたの言葉聞かせてもらうぞ」 
「わかりました」
 東方朔は武帝には畏まって応えた、そうして実際に彼に多くの知恵や知識を出してその疑問に答え助け後世の者達に学ぶべきことを残した。
 東方朔という人物のことは史記の滑稽列伝にもあるし漢武故事にもある、実在した仙人とのことだが果たして何処までが真実かわからない。
 だが彼にはこうした逸話もある、宮廷に西王母が来たという話と共に。彼が出る話を読むと実に面白くそのうちの一つをここに紹介させてもらった。一人でも多くの人が読んでくれたのならこれ以上の喜びはない。


西王母の桃   完


                  2021・10・18 
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