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死海文書

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第一章

                死海文書
 一九四七年の春第二次世界大戦が終わって少し経った頃だった。
「どんどんユダヤ教徒が入ってきてるな」
「そうだな」
「何でもここに国を建てるらしいが」
「俺達はどうなるんだ」
 この地面のムスリム達は彼等を見て不安を感じていた。
「ここにパレスチナ人の国を建てるんだろう?」
「そういう話だろ」
「何かユダヤ人の国も建てるらしいが」
「じゃあパレスチナ人はどうなるんだ」
「イスラムはどうなるんだ」
「イギリスはどっちの味方なんだ」
「若し連中の国が出来たらまずいぞ」 
 その時はというのだ。
「気が立っている者達がいるからな」
「それもアラブの各地にな」
「だからな」
「それじゃあ戦争になるかもな」
「欧州やアジアではこの前まで物凄い戦争だったが」
「今度はこっちでか?」
「そんなの勘弁してくれよ」
 穏やかな者達はユダヤ教徒達を見てこれからのことに不安を感じていた、今度はこちらが戦乱に覆われるのではと。
 そんな中でだった。
 ベドウィンの牧童であるムハマッド=アズ=ジーブは従兄弟のハールーン=アル=シャーヒルと共に家業で羊や山羊の世話をしていた。場所はヨルダン川とエルサレムの間のクムランと言われる場所である。
 そこにいてだ。ムハマッドはハールーンに話した。二人共浅黒く痩せていて黒い髪と目である、背はムハマッドの方が頭一つ大きい。
「羊が一頭いないぞ」
「あっ、確かに」
 ハールーンはムハマッドの言葉に頷いた、数えてみるとだ。
「足りないな」
「一頭な」
「何処に行ったんだ」
「少し探すか」
「ああ、ちょっと他の子に見張り頼んでな」
「僕達は探しに行こう」
「そうしよう」 
 こう話してだった。
 別の従兄弟に見張りを頼んで二人でその羊を探しに行った、だが何処にもだった。
 羊はいない、それでムハマッドはクムランの断崖の方に行った、すると。
 そこに洞窟があった、それでだった。
 そこに羊がいるかと思って驚かせて洞窟の外から出させてそこで捕まえようとした。それで石を洞窟の中に投げたが。
 羊の鳴き声ではなくだった。
 何かが割れる音がした、するとここでだった。
「おい、見付かったぞ」
「羊いたのか?」
「ああ、いたぞ」 
 後ろからハールーンの声がした。
「それで群れに戻したぞ」
「そうか、実は今洞窟の前にいるんだけれどな」
「洞窟?」
「これだよ」 
 自分の傍に来たハールーンにその洞窟を指差して話した。
「この洞窟だよ」
「こんなところに洞窟あったんだな」
「俺はじめて見たけれどな」
「俺もだよ」
「それでさっき羊がいると思って石投げて驚かせて外に出してな」
「捕まえるつもりだったんだな」
「けれど何か割れる音がしたんだよ」
「何かか」
「若しかしたら昔の人が隠したお宝が隠してあってな」
 ムハマッドはハールーンに若しやという顔で話した。
「それでな」
「それを入れた壺にお前が投げた石が当たってか」
「割れたのかもな」
「だったら凄いな、けれどもう夕方だしな」
 ハールーンはムハマッドに時間のことを話した。
「だからな」
「帰るか」
「日が沈まないうちにな」
「そうだな、冷えるしな」
 日が暮れるととだ、ムハマッドも応えた。この地は砂漠に近い状況なので寒暖の差がかなり激しいのだ。 
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