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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第八十話

 少し前に西軍の本陣に家康さんが入って、今壮絶なバトルを繰り広げてるらしい。
まつさんを抱えて戻って来た佐助が状況を教えてくれた。
ちなみに佐助はまつさんを下ろした後に、幸村君に破廉恥でござる、と殴り飛ばされてたけどそれは置いといてだ。

 ううむ、予想以上に進みが速いな。
これは急がないと勝負が終わってしまうような気がする。
急いで走っていく途中、西軍の陣の近くで鍋を担いだ怪しげな小男がうろうろしている。

 「わぁっ!!」

 一体この小男は一体何者なんだろう、なんて考えていたところで、
小男が私達を見て悲鳴を上げて飛び退き、蹲ってひたすらに謝り始めた。

 ……何か、私達が苛めてるみたいじゃない?

 「あのさー……」

 「ひぃっ!! ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 ……うーん、話にならない。
つか、恰好からすると何処かの兵ってわけでもなさそうだし、うっかり迷い込んじゃった民にしては随分といいもの着てるし。

 「……右目、こいつは小早川秀秋、天海の主だ」

 孫市さんの言葉に、私は少しばかり驚いてしまった。こんなところに黒幕と繋がりのある人間がいるなんて。
なるほど、小早川秀秋がコイツか。っていうか、随分と情けなくない?
幼いように見えるけど、実際いくつなんだか全然分からない……ん? 小早川?

 確か小早川秀秋って言えば……

 「小十郎、説得して来て」

 私は小十郎に指示を出して、説得に当たらせようとする。
だが、これに訝しがったのは指示を出された本人ではなく政宗様だった。

 「おいおい、景継。小十郎なんかに行かせたら、絶対に怯えられんだろうが」

 まぁ、普通に考えたら政宗様の言うとおりだけど、何となく成功しそうな気がする。半分くらいは。

 とりあえず、少し戸惑ったような小十郎が小早川に再び声をかけた。
まぁ、例の反応ではあるんだけどもさ、小十郎は基本的に弱い者には優しいから、まず小早川を落ち着かせて事情を説明している。
すると、向こうも小十郎の説得に応じてこちらに付いてくれることになった。

 「あ、貴方はもしかして……伝説の、片倉小十郎さん!?」

 ……伝説の? 伝説って、どういう種の伝説作ったんだ小十郎は。
つか、小早川って西国の人間でしょ? どうして奥州の一武将のこと知ってんのよ。

 「……何だその伝説ってのは」

 訝しがっている小十郎に小早川が目を輝かせて説明してくれる。

 「奥州に、日本で一番の野菜作りの名人がいるって聞いたんです!
その野菜を食べた人は、二度と他の野菜を食べられなくなるほどの虜になるって伝説が」

 なんて伝説作ってんだ、小十郎。つか、そんな伝説聞いて照れんなっての。
いいのか? 竜の右目の名で知られるんじゃなくて、伝説の農夫みたいな感じで知られてて。
アンタ、本業がお百姓さんじゃないんだから。もしかして、泰平の世が来たら引退して農夫になろうとしてる?

 「確かに、片倉殿が作ったお野菜は美味しゅうございました。落ち着いたら、また戴きとうございますれば」

 まつさんまでそんなこと言うもんだから、小十郎も満更でもないって顔しちゃってさぁ……。

 「……政宗様、今度八百屋でも作って任せてみたらどうですか。畑拡張して。
この調子だと財政潤いますよ、ほぼ間違いなく」

 「Oh……それも悪くねぇかもな」

 政宗様も何処か呆れ気味だけど、小十郎が満更でもないんならと諦めてくれた。

 「ところで、何でアレの説得を小十郎に任せた」

 「ああ、それは……」

 尊敬の眼差しを超えてるような、熱っぽい視線を小早川が小十郎に送っているのを政宗様が感じとって、慌てて小十郎の腕を引いて連れ戻してくる。

 小早川秀秋は、二代目片倉小十郎を追い掛け回していた、という説がある。
二代目は美男子で、小早川は男色家だったらしいですね。史実じゃ。
まぁ、息子ではないけどアレも“片倉小十郎”だから、ひょっとしたら手玉に取れるんじゃないのかな~と思ったわけで……。

 ……明智の件で相当なトラウマを作った小十郎には絶対に明かせないけど。

 「……おい景継、テメェは本当に鬼だな」

 政宗様の言葉を聞かなかったことにして、小十郎に擦り寄ってこようとしている小早川を軽く睨んで大人しくさせておきました。
野菜はあげても、小十郎の貞操奪うのはお姉ちゃんが許さないぞ♪

 ちなみに小十郎は気付いてないんだか、この様子を不思議そうな顔をして見てたけどね。
小十郎が鈍感で良かったよ、本当に。



 さて、本陣が大分近くなった辺りで利家さんが西軍の連中をなぎ倒している。
かなり怒っているといった様子に、敵はおろか味方までも怯んでいる。

 ま、そんな空気も今に一発で消えると思うけど。

 「犬千代様ぁ~!」

 「まつ!?」

 利家さんがまつさんを見つけて、一目散に走ってくる。
そして二人が熱い抱擁を交わしているのを幸村君が見て、また破廉恥でござると叫びそうになったんだけど、
それはきっちり顔に青痣を作った佐助が止めてくれました。

 君、私にキスしてすっごいこと言ったよね? アレは破廉恥じゃないのか。君の破廉恥の基準がどうにも分からん。

 「まつ、無事だったか!」

 「ええ……甲斐の猿飛殿に助けていただきました」

 「……甲斐? 甲斐とは、西軍では」

 完全に東軍西軍合わせた大連合軍と化しているこちらを見て、利家さんが眉を顰めている。

 「犬千代様、信長様がこの世に蘇ろうとしております。
……この天下分け目の戦を信長様の復活の為の儀式に用い、地獄の蓋を開けようとするものがおります。
まつは、それを止めんが為に集まった方々に救われたのでございますれば」

 こんなまつさんの言葉に、利家さんが厳しい顔をして槍を握り締めていた。
確か加賀の前田は織田とは繋がりがあったはずだ。
ひょっとしたら説得に失敗してしまうのではないか、そう思ったけれども利家さんの表情を見ている限りではそれも杞憂に終わりそうな気がする。

 「そうか……信長公が……。某も、この戦にはいろいろと思うことがある。
まつが戻って来た以上、これ以上東軍に加担する必要も無い。
……信長公を今もお慕いしているが、再びこの世を戦乱に導こうというのならば止めねばなるまい」

 先陣に立つ私を見て、利家さんは

 「小夜殿、某も加えてもらえるか」

 と言ってきた。私は勿論、と力強く答えて加賀を取り込むことに成功しました。

 「ところでまつさん、人質に取られるなんて大変だったね」

 「ええ! 今も思い出せば腹が立ちまする!! あの紳士を名乗る、いやらしい髭の男! 今度会ったら十倍返しで追い払いますれば!」

 ……紳士を名乗る、いやらしい髭の男?

 どーにも思い当たる節があるなぁ~……。

 「……政宗様」

 「Oh……皆まで言うな、そんな姑息な手を使う奴は一人しかいねぇ」

 「知っているのか? 二人とも」

 知っているも何も……。

 「な、何故うめ殿がここにいるのかね!?」

 その人の名前をなかなか覚えない割合甲高い男の声に、奥州の人間は揃って眉を顰めた。

 奥州の隣国、羽州を統治する最上義光……政宗様の母方の伯父当たるこの人物、いちいちポーズがウザい。
まぁ、アレを見るたびに政宗様のウザい……もとい、カッコつけた、じゃなかったオーバーなポーズは
最上の血なんだな、って思うんだけど、そんなことは口が裂けても言えません。
きっと斬られる勢いで怒られるから。

 「やっぱり裏で糸を引いてたのはアンタか、Gentleman!!」

 「おや、久しぶりだね政宗君。随分とご立腹のようだが、どうしたのかね?」

 ……面倒な奴が出てきちゃったわねぇ……。まともに相手してると癪に障るし、ここは……

 「……政宗様、お耳を拝借」

 ぼそぼそと話している私達を最上も含めて訝しげに見てるけれど、次の瞬間政宗様の口元に浮かんだ笑みを見て、絶対にまともなものではないと誰もが気付いた。

 「な、何だね、その凶悪な笑みは」

 「悪いが、アンタの相手をしてる暇は無いんでね。アンタに送る言葉は……Go to Hellだ!!」

 白龍の鞘を渡して、それを受け取った後にバッティングスタイルを取る政宗様に向かって、私は重力で操作して最上を投げつけてやる。
政宗様はタイミングを見計らって思いきり最上を何処かに吹き飛ばした。

 「ナイスバッティング!」

 親指を立ててそう言えば、政宗様もにやりと笑って同じように親指を立ててくる。で、互いにハイタッチをして鞘を返して貰った。

 「姉上……まぁ、今回は何も言いますまい」

 小十郎が酷く呆れた顔してたけど、さっさと終わって良かったじゃないの。まともに戦ってたら無駄に時間がかかるしさ。

 一仕事終えたという私の表情に、周りが結構呆れた顔をしていたけど完全に無視をすることにしておいた。 
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