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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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GX編
  第107話:奇跡を手にした者達

 
前書き
どうも、黒井です。

今回よりGX編スタートです! 

 
 その日、地球に向けて落下する一つの物体があった。遠くから見れば、それは隕石に見えたであろう。

 だがそれは隕石に非ず。その正体は、先のフロンティア事変に際してウェル博士によりナスターシャ教授と共に宇宙に打ち上げられた、フロンティアの制御ルームを回収したシャトルであった。

 先の事変でフロンティアはネフィリムがエネルギーを全て吸収した事によりその機能を完全に喪失、価値のないただのガラクタとなり果てた。
 しかし制御ルームは話が別だ。あそこはネフィリムにより吸収される前にフロンティアから切り離され、宇宙へ打ち上げられた。つまり、制御ルームには先史文明期の異端技術が一端とは言え残っている。

 そう言った技術を回収するだけでなく、共に宇宙に打ち上げられたナスターシャ教授の遺体を回収する意味でも、今回派遣されたシャトルは重要な存在であった。

 そのシャトルが今正に地球に落下しつつある。帰還時にシステムトラブルを起こしたのだ。
 シャトルのコクピットでは2人のパイロットが必死に制御を取り戻し、地球への落下と言う最悪の事態を防ごうと奮闘していた。洋上や人の居ない地に落下するならまだしも、予想される落下地点は人口密集地点。落下すれば大勢の人々に被害が出る。
 パイロットとして、それだけは避けなければならなかった。

 だが彼らの奮闘空しく、制御は戻る事なく機体は青い星へと落下していく。それだけでも十分最悪なのに、更なる凶報が彼らに届く。
 シャトルに向けて、ミサイルが二発飛んできていた。

「ミサイル!? 俺達を撃墜する為に!?」
「……致し方なし、か」

 理屈は分かる。このままでは大勢の人々の命や財産が失われる。その前に大気圏で撃墜して、被害を最小限に抑えるのだ。
 パイロットの1人はそれを理解し、最早ここまでと諦めの声を上げた。

 しかし――――

『へいき、へっちゃらです!』
『だから、生きるのを諦めるな!』
『さぁ、タネも仕掛けもないマジックショーの始まりだ!』

 幸運の女神は彼らを見捨ててはいなかった。

 二発のミサイルが空中で分解すると、そこから4人の装者と2人の魔法使いが飛び出した。

 ミサイルから飛び出すなり、クリスはギアから大型ミサイルを4発発射。装者達はそれぞれそのミサイルの上に乗り、サーフィンの様に暴れるミサイルを使ってシャトルへと近付いていく。

「まるで、雪音の様なじゃじゃ馬っぷり――!」
「だったら乗りこなしてくださいよ、先輩!」
「上等だ!」

 時折振り回されそうになりながらも、各々ミサイルを乗りこなしてシャトルへ近付く装者達。
 一方魔法使い2人はそれぞれ独自の方法でシャトルへと近付いた。颯人はハリケーンドラゴンとなって翼を生やして自力で飛び、透はライドスクレイパーに跨って飛んでいく。

 6人はある程度シャトルへ接近すると、装者達はミサイルを乗り捨ててシャトルへと取りついた。

「立花、奏!」
「はい!」
「応ッ!」

 取り付いた6人の内、奏・翼・響の3人はギアの一部を変形させてブースターにし、シャトルの落下方向に対する逆噴射を行い減速を図った。
 3人の行動によりシャトルは確かに減速した。だがまだ激突コースは変わらない。このままではシャトルだけでなく6人も纏めてお陀仏だ。

 勿論をれを受け入れる事はしない。クリスのミサイル、翼の脚部ブレード、響のガントレット、奏の砲撃が一斉に火を噴きシャトルにブレーキを掛ける。

「あっちぃ、少し冷やすか!」
〈ウォーター、ドラゴン。ジャバジャバ、バシャーン、ザブンザブーン!〉
〈ブリザード、プリーズ〉
〈グラビティ、ナーウ〉

 更に颯人はウォータードラゴンとなり、ブリザードの魔法で機体を冷やした。これで摩擦熱で機体の燃焼は防がれる。そして透のグラビティの魔法により重力操作で機体の落下速度はさらに下がり、シャトルは空気摩擦で空中分解することなく大気圏を突破する事に成功。

 だがまだ安心できない。依然としてカラコルム山脈への激突は避けられないコースで落下していた。
 最悪、船内に乗り込んでパイロットだけでも……と言う意見が司令部で上がったが、それは現場の装者達に一蹴される。

「そいつは聞けない相談だ!」
「人命と等しく、人の尊厳は守らなければならないもの」
「ナスターシャ教授が世界を守ってくれたんですよ。なのに、帰ってこれないなんておかしいです!」
「安心しろって。ここにはどんな絶望も希望に変えられる天才が居るんだからな!」

 要約すれば、パイロットの命だけでなくナスターシャ教授の……既に死した人の尊厳までをも守ると言う宣言。全てを欲しがるその優しい我儘は、本部の発令所だけでなく収容施設のマリア達の耳にも届いていた。

「どこまでも……」
「欲張りデスよ――!」
「チクショウ……敵わない訳だ――!」

 収容所で彼女達の強さと優しさを目の当たりにし、3人は静かに涙を流していた。

 その間にもシャトルは山脈の中で一際高い山・K2へと接近していく。見る見るうちに大きくなっていく山の姿に、しかし彼女達の顔に焦りは浮かばない。

「さぁてお膳立てはしてやったぞ? 一発決めてくれ颯人!」
「言われなくても分かってるっての! 透、行くぞ!」

 減速を奏達に任せ、颯人と透はシャトルの先端へと移動する。もう目前にまで迫ったK2には、あと数秒ほどで激突するだろう。
 その前に魔法使い2人は右手に同じ指輪を嵌め、タイミングを合わせて魔法を発動した。

「3カウントだ。透、3……2……1!」
〈〈コネクト〉〉
〈プリーズ〉〈ナーウ〉

 空間を繋げる魔法が同時に発動する。2人同時に同じ場所に作り出した事で、魔法陣が普段に比べて大型化。その魔法陣はシャトルの大部分を飲み込めるほどの大きさとなった。

 シャトルは魔法陣を通り過ぎて山の反対側へと通り過ぎる。ただ流石に全体全てを通過させることは出来ず、左右の主翼先端が削り取られるように千切れた。

「あっ!? 先っぽ折れた!?」
「落ち着け立花! どうせ落ちるシャトルだ、主翼など必要無い」
「それにどっちみち待ってるのは不時着だ。そうなれば主翼の一つや二つ無くなっちまう」
「さぁ、その不時着の時が来たぞ! 皆掴まれ!!」

 奏の言葉の直後、シャトルが山の斜面に不時着しそのまま滑っていく。大きく揺れながら尚も猛烈な速度で山の斜面を滑るシャトルは、さながらちょっとしたジェットコースターだ。

 その時、シャトルの先に森が見えた。このままだと今度は森の木々に激突してお終いだ。

「させるかよ、翼!」
「承知!」

 森を見て、奏と翼が颯人達と入れ替わりシャトルの先端へと移動する。そして揃ってアームドギアを巨大化させると、それを用いて森の木々を次々と伐採。強引に道を切り開いていく。

 無事に森を抜けたと思ったら今度はまた山々。
 右側に迫る山を響がガントレットで殴ってシャトルの進路を強引に変えた。

「響ちゃん次左!」

 シャトル自体に進路を変える力がない以上、激突を避ける為には装者や魔法使い達が動くしかない。
 その後もシャトルは装者や魔法使い達により激突を回避しながら斜面を滑り続ける。

 次第にシャトルの滑走の速度も徐々にだが下がって来た、山ももうすぐ抜ける。このまま行けば、全員無事に助かる。

 そう響が希望を抱いた……その時。

「ヤバい、村だ!?」

 シャトルの前に村が広がっていた。このままでは多数の民家を薙ぎ払い、激突してしまう。

「颯人! さっきのもう一回!」
「残念、俺はともかく透の魔力がそろそろ限界だわ」

 ここに来るまで、なりふり構っていられず魔法を多用してしまった。お陰で次に何か大きな魔法を使えば、変身すら維持できなくなるくらい魔力が限界に近付いていたのだ。
 その間にも村は目前まで近づいている。

 この事態に、響がシャトルの前に飛び出した。

「響!?」
「馬鹿ッ!?」
「何をッ!?」

 何をするのかなど、聞くまでもない。その身をもってシャトルを受け止める気なのだ。ここに来るまで、シャトルは大分減速している。今ならば、多少危険でも力尽くでシャトルを止めることは不可能ではない。

 だが1人では無茶である事に変わりはない。
 故に――――

「奏、唄え!」
「えッ!?」
「唄えってんだよ! クリスちゃんもだ! 透!」
「ッ!」
「透ッ!?」

 颯人と透の2人が、響に続いてシャトルの前に下りて共にシャトルを受け止めた。1人では無茶でも、2人3人揃えば不可能も可能になる。
 そこに愛する者の歌を糧とする魔法使いが加われば確実だ。

「絆! 心! 一つに束ね!」
「響き! 鳴り渡れ、希望の音!」

 愛する者、信じる者の為にシャトルの歌の装者達が唄う。その間にもシャトルは村の中を滑走し、道を削りながら正面にある建物へと突き進んでいく。

 その様子を本部から見ていた弦十郎は思わず叫んだ。南無三……と。

「信ず! 事を! 諦めないと!」

「ぬぅぅぅぅぅ! 透、響ちゃん! ここ正念場!」
「はい!」

 歌が響き渡る中、遂にシャトルが正面の建物へと迫る。

「唄え! 可能性にゼロはない!」

 奏の歌が――

「飛べよ!」

 翼の歌が――

「この奇跡に!」

 クリスの歌が――

「光あれぇッ!」
「おらぁぁぁぁぁっ!!」

 そして、響の歌と颯人の叫びが重なり、シャトルは持ち上げられ建物の真上を通過していく。
 だが僅かに距離が足りず、シャトルの機体が建物を押し潰しそうになる――――

「くぅっ!」

 その瞬間、パイロットがエンジンを噴射させ機体を僅かに持ち上げる事で姿勢を立て直した。その結果、建物を僅かに掠めはしたがシャトルは直立した状態で着地する事に成功する。

 足場だったシャトルが直立した事で、危うく落ちそうになった装者3人の内奏と翼はアームドギアを機体に突き刺し、クリスはそんな2人に支えられることで落下を防いだ。

「だは~……」
「ふぅ、危ない危ない」
「任務、完了しました」

 翼が報告し、本部にもシャトルの無事が知らされた。難が去った事で、発令所には喜びの声や安堵の溜め息が響き渡る。

 その様子を、発令所の入り口近くに佇んでいたウィズが見ていた。

「…………フン」

 彼は小さく鼻を鳴らし、取り出そうとしていた指輪を仕舞い発令所を後にした。

 一方現場では、響と颯人、透の3人が大の字で地面に横になっていた。颯人と透の2人は、今ので魔力を使い果たしたのか何もせずに変身が解かれる。

 そこに奏達が3人を心配してやってきた。

「颯人、大丈夫か?」
「ん? あぁ、大丈夫大丈夫」
「透!」
「…………(こくん)」

 颯人と透は奏とクリスの手を借りて立ち上がる。だがただ1人、響だけはまだ大の字になったまま起き上がらない。

「無事か、立花!」

 翼が心配して問い掛けると、唐突に響が笑い始めた。

「ふふっ! ははははっ!」

 何がおかしいのか、注目されながら笑い続ける響の姿に颯人達は首を傾げる。

「おかしなとこでもぶつけたか?」
「……おい颯人、止めてやれ」
「え、俺!? 何が!?」
「お前が響を魔法で擽ったりしてるんじゃないのか?」
「してねぇよ!? 魔力限界だって言ったろ!」
「でもペテン師なら……」
「TPOくらい弁えますぅ!!」
「すみません。私もちょっと疑ってました」

 透以外の全員から疑われた颯人だったが、真実は響自身の口から告げられた。

「違う、違うんです。私……シンフォギアを纏える奇跡が、嬉しいんです!」

 その答えに、全員が思わず笑みを浮かべた。
 何と言うか本当に、響らしい。

「お前、本当の馬鹿だな」
「その奇跡は、響ちゃんが自分で掴んだ奇跡だ。誇りなよ?」
「はい!」

 こうしてシャトルの落下と言う大惨事は防がれた。
 そしてこの一件を機に、特異災害対策機動部二課は正式に国連管轄下の組織――その名も超常災害対策機動部タスクフォース、通称『S.O.N.G.』として再編され、世界中の災害に派遣される事となる。
 これによって颯人達は、シンフォギアや魔法の力をより多くの人々を助ける事に使う事が出来るようになった。

 それはつまり、世界中で活動するジェネシスとの戦いが更に激化する可能性もあるという事を示しているのだった。









「…………フン。S.O.N.G.、ねぇ」

 暗い室内で、ワイズマンが椅子に腰掛け魔法で投影した景色を見ていた。その全てに颯人や奏らの内誰かが映っており、シンフォギアや魔法使いが人命救助に勤しんでいるのが分かった。
 暫くそれらを眺めていたワイズマンだが、唐突にそれらの景色を消した。

「下らん連中だ。それに、邪魔だな」
「如何なさいますか?」

 どこか忌々しいと言いたげなワイズマンの言葉に、女性が問い掛けた。
 女性の問い掛けに、ワイズマンは暫し思案して答えた。

「確か……”彼女”がそろそろ動く頃だったな?」
「はい。探った限り、大方の準備を終えたそうです」
「よし。では彼女を少しばかり手伝ってあげよう。作戦などは君に一任するから、精々頑張ってくれ――――――









――――メデューサ」 
 

 
後書き
という訳で第107話でした。

原作では尊い犠牲となったK2の標高、今作ではランキング低下を免れました。

そして最後の最後でかなりの爆弾を投下しました。これが一体どういう事なのかは今後明らかになります。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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