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東方絆日録 ~ Bonds of Permanent.

作者:福岡市民
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共存編
  乃愛:寺生まれのTさん

 
前書き
本ストーリーは時系列でいうと「早苗:七色の人形遣い」と同じ時間帯、具体的には早苗がアリス邸を訪れていたころの話しになります。 

 
人里にある妖怪寺「命蓮寺(みょうれんじ)」は幻想郷唯一の寺院である。
この寺の住職で魔法使いの(ひじり)白蓮(びゃくれん)は月に一度、法会(ほうえ)を開いている。彼女自身が「開かれた寺院を目指して」をモットーに十数年前から始めた法会で、人妖を問わず誰でも参加することができた。


白蓮「釈尊(しゃくそん)(=釈迦)は老若男女問わず、どのような者であっても差別することなく平等に施しをなさいました。そしてそれはこの命蓮寺も同じです。法会を聴きに来た者や救いを求める者はどのような者であっても決して拒むことなく皆等しく受け入れる。釈尊の教えを忠実に守り、受け継いでいくことこそが幻想郷の歩むべき道であり、また理想像なのではないでしょうか」


広い本堂には大勢の人妖が集い、誰もが真剣な表情で説法を聴いている。
その中に灰色のフードがついたジャンパーを被り、青いジーパンを履いた少女がいた。3年ほど前に外界から幻想入りした豊田(とよだ)乃愛(のあ)である。


乃愛(なるほど。白蓮さんの話しは分かりやすうてホンマに聴きやすいし、何よりタメになるわあ!)


乃愛は聴衆の最前列に陣取り、食い入るように白蓮を見ている。
彼女の視線は最後まで白蓮を捉えて離さなかった。



ーー
ーーー


法会終了後、乃愛は白蓮に声をかけた。


乃愛「白蓮さん、今日もええ話しをありがとうございました!」

白蓮「こちらこそ最後まで聴いてくれてありがとうございました。そういえば貴女、ここ最近ずっと来てるわね」

乃愛「うちは白蓮さんの法会が聴きとうて毎回来とるんですわ。幻想入りする前も色んなお寺さんの法会を聴いてましたけど、やっぱり白蓮さんの法会が一番分かりやすうて好きですね」

白蓮「あら、貴女も外界人?」

乃愛「はい、京都出身の豊田乃愛ですー」

白蓮「どうりで関西訛りがあると思ったわ。お寺にも詳しそうね」

乃愛「ああ、実は父が住職なんですよ」

白蓮「へえ、どこのお寺?」

乃愛「お西さん(西本願寺)です」


この答えに白蓮は目を丸くして驚いた。


白蓮「まあ、浄土真宗大谷派の総本山じゃない!」

乃愛「白蓮さん、真宗のことも知ってはるんですね⁉︎」

白蓮「ええ、かつて人間だったころに真言宗以外の宗派の勉強もしましたからね。他の宗派の宗旨を学び、理解することは宗教の対立を避けることにも繋がります。そこから自他の違いを認め、互いを尊重する心が生まれるのです」

乃愛「はあ…」


そのとき、ネズミのような耳と尻尾をもつ少女が本堂に姿を現した。彼女はこの命蓮寺に住むダウザーのナズーリンである。


ナズーリン「お話し中ちょっと失礼するよ。白蓮、私のご主人を見かけなかったかい?」

白蓮「あら、星ならずいぶん前に“宝塔を探しに行く”といって出かけましたよ?」


白蓮がそう言うとナズーリンはやれやれと首を振った。


ナズーリン「そんなことだろうと思ったよ、宝塔ならご主人の部屋の前にあるのに…。私はご主人を探しに出かけてくるよ。夕飯までには戻ってくるからもしご主人と会ったらそう伝えといてくれ」

白蓮「分かりました。気をつけてね」


ナズーリンは本堂を出ていった。


乃愛「……ナズーリンさんも大変ですね」

白蓮「いつものことですから慣れてるんでしょうけど…。ただ、毎日のようにああだと流石に疲れますよね」


ナズーリンの主人で毘沙門天の寅丸(とらまる)(しょう)は少し抜けているところがあって物を失くしては探し、失くしてはまた探し…を毎日のように繰り返している。
今ごろ星が血眼(ちまなこ)になって探しているであろう宝塔(ほうとう)は星の武器にしてお守りのようなものであった。


乃愛「はあ・・・。」




ーーー乃愛はことあるごとに星に振り回されるナズーリンの心情を(おもんぱか)り、思わずため息をついたのだった。 
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