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ドリトル先生とめでたい幽霊

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第十二幕その五

「それやとな」
「そして親戚のお葬式に勝手に上座に上がるという」
「作法も知らんでそこまで天狗か」
「そうでした」
「柳吉も大概やがな」
 夫婦善哉の主人公もというのです。
「いや、その柳吉もな」
「そこまでは、ですね」
「落ちてへんし絶対にな」
「落ちないですね」
「蝶子がおらんでもな」
 それでもというのです。
「そこまでならんわ」
「他の登場人物達も」
「もうだらしないっていうより」
「どうにもならない人ですね」
「私の作品の登場人物よりもまだな」
「ですね、こうした人も世の中にはいますが」
 先生も言います。
「転落しきって」
「終わりや」
「そうなるのが当然ですね」
「そうなったらいかんからな」
 だからだというのです。
「私自身戒めてるし」
「そうした登場人物はですね」
「ほんま落ち着かんで転落するしかないさかいな」
「どうにもなりませんね」
「独白文の形態の作品とか世相でしゃあない奴を書いても」
「そこまでは、でしたね」
「ああしたモンでもしょげかえって出て来たしな」
 作品にというのです。
「そんなんは助かりたい時だけ素直でな」
「すぐ後で文句ばかりで」
「しょげかえることもないし」
「そうですね、ただ面白いお話がありまして」
 先生は織田作さんに紅茶を飲みながらお話を切り出しました。
「夫婦善哉にある女の人が来てお店の人に聞いたそうです」
「どんな話や?」
「はい、かつて夫婦善哉にいた人で」
「働いていた人か」
「その女の人のところにも以前おられたそうですが」 
 働いていたとのことです。
「お金を持ち逃げして」
「夫婦善哉でも働いていてか」
「その人の行方を捜していると」
「私の作品の話そのままやな」
「そうしたことがありますね」
「おもろいな、今もそんな話があるか」
「人は変わらないですね」
 先生は笑ってお話しました。
「そうしたところを見ると」
「ほんまにな」
「そして大阪の街も」
「そうした話があるとな」
「変わらないですね」
「ええ意味でな、そうした人はよおないが」
「そうした人もいて暮らしている」
 まさにというのです。
「決して上品でなくだらしないですが」
「それでもな。何処か愛嬌があって」
「そして憎めない」
「当事者はかんかんでもな」
 それでもというのです。
「そうした懐の深さがあるのがな」
「大阪ですね」
「それがええねん」
 織田作さんはとても優しい笑顔でお話しました。
「そやからな」
「織田作さんは大好きなんですね」
「そこにおる人もな」
「ずっとですね」
「そやからな」
 それでというのです。 
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