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我が子を抱いて

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第四章

「強過ぎる」
「疲れている時にうって出て来るしな」
「この城は攻め落とせない」
「これは諦めるしかない」
「それがいいな」
 こう口々に言ってだった。
 遂に城の囲みを解き下がった、だがここで梁紅玉は言った。
「敵に言うのです、宋朝に降りその兵となれば罪は赦すと」
「賊でもですか」
「赦すのですか」
「そうするのですか」
「そうします、そしてこれよりはです」
 降ってからはというのだ。
「共にです」
「宋朝に尽くす」
「そうせよというのですね」
「左様ですね」
「戦は終わりました」
 今も右手には剣左手には我が子がある、そのうえでの言葉だった。
「ならばです」
「無闇に血を流すことはない」
「そして降ればですね」
「宋朝の兵となる」
「だからですね」
「使者を送り降る様に言い」
 そうしてというのだ。
「そのうえで、です」
「降ればよし」
「それで赦しますか」
「そうしますか」
「その様にします」
 こう言ってであった。
 梁紅玉は賊達に使者を送り降る様に言った、するとだった。
「賊のわし等にそう言うとは」
「強いだけでなく器も備えておられるか」
「そのことに感じ入った」
「ならそうさせてもらおう」
 こう言ってであった。
 賊達は降り宋の兵となった、そのことを戦を終えて城に戻ってからだった。
 韓世忠は唸ってだ、この言葉を出した。
「流石は我が妻だ」
「そう言ってくれますか」
「むしろだ」
 その妻に言うのだった。
「わしには過ぎた妻だ」
「それは幾ら何でも」
「いや、その通りだ」
 こう言うのだった。
「まさにな」
「そこまで言って頂けますか」
「見事なことだ、全てを守り敵も降らせるとはな」
 妻に笑顔で話した。
「これ以上のことはない、しかしだ」
「しかしとは」
「城も民も我等の子を守ったことはそなたなら必ず出来る」
 梁紅玉の将としての裁量ならというのだ。
「間違いなくな、だが敵を降らせたことはな」
「そのことですか」
「ただ倒すだけではないか」
「そうしました」
「何故征伐せず降したか」
 妻にこのことを問うた。
「一体」
「我等の敵は金ですので」
 それでとだ、梁紅玉は夫に答えた。
「金と戦う為にはです」
「少しでも多くの兵が必要か」
「そう思いまして」
「賊を赦してか」
「宋朝の兵に加えました」
「そうしたか」
「左様です、我等の真の敵は何か」 
 それはというのだ。
「それはやはりです」
「金であるな」
「ですから」
「あの者達を宋朝の兵にしたのだな」
「そうしました」
「よくわかった、そのことも褒めたい」
 韓世忠は確かな笑顔で答えた。
「是非な、ではこれからもな」
「宋朝の為にですね」
「共に戦おう」
「その様に」 
 梁紅玉も確かな顔で頷いた、そうしてだった。
 夫婦で宋の為に戦っていった、これはその中の逸話の一つである。夫を助けた巾角英雄中国の女傑の一人のそれとして面白い話なので紹介させてもらった。一人でも多くの人が読んで頂けたなら幸いである。


我が子を抱いて   完


                 2021・12・15 
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