DOREAM BASEBALL ～夢見る乙女の物語～　

花粉症ヤバすぎて目も鼻もしんどい 

前の打席空振り三振に倒れた一番打者。右打席に入った彼女はすぐにバントの構えを見せる。

「送りか」
「まずはゲッツーを無くしたいってわけね」

ランナーを進めておけばダブルプレーの心配はなくなる。そうすれば次のバッターも打ちやすくなる。

（でもそれじゃあ四番には回らない）

仮に1アウト二塁にできても二番と三番が打てなかったらそこでチェンジになる。そうなればせっかくのランナーも意味を成さない。

バッテリーもそれがわかっているからか早々にサインを決めて投球に入る。すると桜華はここでランナーを走らせてきた。

「走った！！」

この声で元々二塁ベースよりにいたショートがそちらに動く。しかし彼女たちの動きはこれだけでは終わらなかった。

「バスター！？」

バントの構えをしていたバッターがバットを引く。それを見てダッシュをしていたサードが慌てて立ち止まるが、バッターは容赦なくそちらを狙って振る。

ｷﾞﾝｯ

外角のストレート。バントをさせようとしていたバッテリーはやりやすい投球を選択した。バッターはそれを無理矢理引っ張りにかかるが打球はどん詰まり。普通ならサードの守備範囲だが……

「くっ」

前進していたサードが飛び付くがわずかに届かない。それでもショートが突進して捕球すれば十分に一塁をアウトにできる当たり。

「やばっ」

しかし肝心のそこにショートがいなかった。一塁ランナーの盗塁を見て二塁ベースに向かっていた宮川さんは大急ぎで打球を処理に向かう。結果、外野までは転がらなかったものの一塁ランナーも打者走者も塁に残す形になってしまった。

「ランナーを走らせることとバントの構えで三遊間を広くさせたのか」
「バントだと思わせればストレートが来やすくなるからね。それも込みの考えだったのかも」

ここまでまともなヒットはないのにノーアウト一二塁。次の左打者も打席に入るや否やバントの構えを見せた。

「今度こそバントか？」
「いや……バスターもありえる」

ランナーが二人出ているためダブらなければリュシーさんに回る。ならばバントもありだと思うけど、この回の攻め方を見ると決めつけられないから厄介だ。

その考え方は日帝大も同じだったようで初球は大きく外してボール。次は外角にストレートを入れるがこれに対してバッターはバットを引く。

「バントじゃない？」
「やるなら今のボールだったよな」

何を狙っているのか全くわからない。次のボールは吉永さんの得意とするカーブ。バッターはこれにも手を出さなかったがわずかに外れて2ボール1ストライク。

「仕掛けるならここだけど……」
「これ以上何かある？」

カウント的にウエストはない。そうなればここでこれまでのような戦法を取りたいがさすがに日帝大も警戒しているはず。その中で決めるのは不可能に近い。

「走った！！」

苦し紛れにも見える盗塁。しかし一度仕掛けられれば対策は容易い。バッテリーは急遽ウエストに変更しボールを外す。そのまま握り変えてランナーを刺そうとしたキャッチャーの園部(ｿﾉﾍﾞ)さんだったが、ランナーが元々いた塁に帰塁していることでそれをやめる。

「え？走ってないじゃん」
「あれ？でも走ったって……」

どうやらスタートの形だけを見せただけだったらしい。散々やられていた日帝大の守備陣は過剰に警戒していたらしく偽装のスタートと見極められなかったようだ。

「次はカウントを取りにいきたいけどそれはそれで狙われそう……」
「いや……ストレートを押し切ればまだわからない」

その言葉通り次のストレートは外角へと決まった。バッターも振っていったものの振り遅れて空振り。この空振りを見る限りもう一球ストレートを続ければ三振には取れそう。

この振り遅れを見ればバッテリーもストレートで行くことしか頭になくなる。これまた外角へのストレート。しかしバッターはこれを何とかカットする。

「まだ振り遅れてる」
「高めに入れれば空振りそう」

高めのストレートなら伸びが増すため空振りが奪いやすい。ましてやバッターはストレートについていけてない。それならば釣り球が有効のはず。

ｷﾞﾝｯ

低めのストレートを再びファール。フルカウントであるため万が一見極められるとノーアウト満塁になってしまう。それを嫌ってか高めのストレートを投げることができない様子。

ｷﾝｯ

続くカーブもバットを合わせてファール。ただ、打ちにいっているというよりも当てにいっているだけのようにも見えるのは気のせいかな？

「なるほど、カットマンか」
「これは根気強くいかないといけないね」

桜華の二番打者はフォアボール狙いのカットマンの様子。スイングを小さくしてギリギリまでボールを見極めればファールにすることは可能。ピッチャーは球数も使うしなかなか打ち取れないから嫌な存在になるだろう。

「ボール！！フォア！！」

最後は高めのストレートで釣りにいったが見送られてフォアボール。ノーアウト満塁でクリンナップに回った。

「これでダブられても四番に回るね」
「日帝大的にはホームゲッツーが理想だね」
「なるほど、一塁が空くから」

一塁が空けば四番と無理に勝負しなくてもよくなる。際どいところを攻めてカウントが悪くなれば歩かせることもできるし、ここは是が非でも彼女に内野ゴロを打たせたいはず。

「内野ゴロを打たせるなら配球は……ん？」

どうやって内野ゴロを打たせるか、それを考えていた時に打席に入った少女が何やら動きを見せます。

バットの先を遠くへ指すその仕草はまるでーーー

「シャキーンッ！！予告ホームランなうww」
「なっ……」

ありえない挑発行為に言葉を失う私たち。そしてマウンド上の少女も顔を真っ赤にして怒っているのがよくわかった。

















第三者side

「え？あれいいんですか？」
「よくはないけど……もうやっちゃってるからなぁ……」

本部席では今の少女の行動に苦言を呈する者が多くいたが、明確な規約がないために注意するにできない状況になっている。

「これは内野ゴロを打たせる配球をしてほしいようだな」
「え？でも桜華としては最悪ですよね？」

アウトカウントを増やされなおかつ主砲であるリュシーを歩かされる危険がある。それなのにわざわざそんな配球を要求する理由が彼らにはわからなかった。

「俺なら内野ゴロにこだわらないかな」
「それが正解だな」

そんな中まさかの回答をする町田と真田。冷静に試合を見極める町田はともかく、血の気盛んな真田も同じ回答をしたことに驚きを隠せなかった。

「内野ゴロが理想ですよね？」
「それは間違いないけど、たぶんこいつにそれが通じない」
「どういうことですか？」

全員の視線が集まる中、二人は顔を見合わせた後不思議そうな表情で彼らに答える。

「まさか覚えてないのか？」
「あいつ、一打席目にフェン直打ってるんだぞ」
「「「「「あ」」」」」

多くのものが気が抜けていたこともあり三番のソフィアの打った瞬間を見ていなかった。さらにはその直後にリュシーのホームラン。吉永の決め球であるカーブを打ったことでその印象が強かったが、このバッターも十分な力を有しているのだ。

「下手にゴロを打たせようとして投球の幅を狭めるよりもアウトカウントを優先した方がいい」
「犠牲フライなら塁も空くしな。同点でそれなら合格点だろう」

日帝大付属はそのことをわかっているのかは定かではないがベンチから伝令が走る。しばらく指示を受けた後、散っていった内野陣は前進守備を取っていた。

「どうやらエースのプライドを優先したようだな」
「まぁ、内野ゴロになってくれれば最高ではありますけどね」

相手の挑発行為に対して怒っているエースのプライドを優先しての行動か、はたまた何か意図があるかは勝負が始まらなければわからない。

全員が注目する中投じられた一球。それはインハイへのビーンボール。

「こりゃあ状況わかってないぞ」
「次は頭からのカーブか？」

一球目で仰け反らせ二球目は体からストライクへ変化球。初球の残像と次のボールでカウントを整えられた苛立ちと焦りを利用して外のボールでゴロを打たせる常套句。あまりにもわかりやすい配球に焦りを覚えていた。

「でも初球の残像があれば……」
「読みきられていれば打たれることも十分ありえる」

どっちに転んでもおかしくない。そんな中投じられたのはやはりと言うべきか頭からのカーブ。本来なら前のボールと同じ軌道であるため仰け反るところだが、ソフィアは微動だにせず待ち構えると……

ｶｷｰﾝｯ

打球は快音を残し空高く舞い上がった。


 

いかがだったでしょうか。
予定していたよりも進まなかったので次で取り戻したいです。