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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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ダークホース

 
前書き
サウナ入りまくって熱中症になりかけた件について笑 

 
「すぐベンチ片付けろ、次のチーム来るからな」

整列とスタンドへの挨拶も終えベンチを片付ける面々。そんな中真田は鞄からスマホを取り出しどこかに電話をしながらベンチを後にしていた。

「陽香さん大丈夫なのかな?」
「今確認してるみたいだけど……」

ベンチの前でアイシング前の軽いキャッチボールを終えた莉愛と瑞姫はそんな会話をしていた。エースでありキャプテンである彼女はチームの精神的支柱であるためそのケガの具合は皆が気にするところだ。

「莉愛、瑞姫、鞄持っていくよ」
「ありがとう!!」
「サンキュー」

二人の鞄を翔子と若菜が持っていきベンチから明宝の選手たちがいなくなる。それと入れ替わるように次の試合の学校が入ってくる。

「戻ってアイシングしよっか」
「そうだね」

ベンチ裏へと引き上げようとした二人。その時、突然二人の後ろである少女の目が光った。

「キャッチ!!」
「「きゃあ!!」」

突然お尻を掴まれ悲鳴をあげる二人。彼女たちは慌ててその手を振り払うと距離を取るように離れる。

「さすがスポーツウーマン!!いいお尻してますね!!」
「あ……ありがとうございます?」
「いや、そこはお礼じゃないような……」

彼女たちの目の前にいるのは銀色の長い髪をした少女。その容姿は幼く見えたが、日本人とは違う瞳の色をした彼女の身体は大人びているように見えた。

「それに二人とも可愛いし日本は最高ーーー」
「やめなさい」
「うっ」

なおも絡み続ける少女の頭にチョップを落とす黒髪の少女。彼女も同様に異国の人物のように見えた。

「うちのが変なことしてすみません」
「いえ……」
「大丈夫です」

深々と頭を下げる少女に首を振って応える莉愛と素っ気なく返す瑞姫。頭を叩かれた少女はその部位を抑えながらうずくまっていた。

「そんなに痛くないでしょ、ソッフィ」
「痛いよ~、痛いよ~、今日投げれないくらい痛いよ~」
「あらそう?じゃあカミュに言って帰らせましょう」
「あぁ!!ウソウソごめんなさい!!」

背を向けた彼女に抱き付き懸命に止める少女。その姿があまりにも不憫で見ていた二人はいたたまれない気持ちになっていた。

「何しに日本に来たのよ」
「女の子を漁りに……じゃなかった野球しに来ましたはい」

なおも冗談を言おうとする少女を一睨みし黙らせる。その圧力は獣のそれに似ていた。

「もう戻らないといけないですよね?本当すみませんでした」
「いえ!!本当大丈夫ですので!!」
「失礼します」

呆気に取られている二人を逃がすように再度頭を下げた彼女にペコペコ頭を下げる莉愛とその手を掴みグラウンドから出ようとする瑞姫。

「準決勝で会いましょう、明宝さん」

背中越しに聞こえたその言葉に思わず振り返る。そこにいた二人は既に背を向けており、早足で外野へと向かっていくのだった。
















莉愛side

「あ!!こっちこっち!!」

スタンドに着いた私たちを見つけるとブンブンと手を振ってくる優愛ちゃん先輩。あまりにも目立ちすぎる彼女の姿に恥ずかしさを感じながらそちらへと向かう。

「二人とも、痛いところとかないよね?」
「大丈夫です!!」
「特には」

ビシッと敬礼しながら答えた私といつも通りの低めのテンションで答える瑞姫。それを聞いて安心したのか、栞里さんはホッと息を吐いていた。

「もしかして陽香さん相当悪かったんですか?」

栞里さんの反応に思わず瑞姫が問いかけた。その問いに先輩たちは顔を見合わせた後口を開いた。

「重症ではない。でも準決勝、決勝には間に合わないと思う」

陽香さんの左足はどうやら捻挫だったらしい。恐らく本塁突入時は大したことはなかったとのことだったが、投球時の踏み込みでそれが悪化してしまったとのことらしい。

「ということは次の試合は……」
「うん。瑞姫に任せることになると思う」

エースである陽香さんがいないとなれば当然瑞姫にその役割が回ってくる。それを聞いて彼女もわかっているようで小さく頷いていた。

「次の相手は日帝大付属だからね。とにかく振ってくるチームだから疲れると思うけど、いざとなったら私たちも投げれるし」
「大丈夫です。絶対抑えて見せますから」

今日の好投が相当な自信になったようで瑞姫は鋭い眼光で応えてみせる。その頼もしい姿に栞里さんも他の皆さんも笑みを浮かべていた。

「頼もしいねぇ。じゃあ今日は日帝大の戦力確認でもして帰るとしようかね」

そう言って私たちに座るように促す彼女に従う。恐らく次の相手はこの東京都で東英に次ぐNo.2と言われる日帝大付属高校。普通に考えたらそうなんだけど……

(さっきのあの人たち……あの自信は何なの?)

これから格上相手を相手にするとは思えない先程の発言。ハッタリとも取れる言葉なのにそれが妙に胸の中に残っている。この感覚は一体何なんだろう……
















第三者side

ガチャッ

本部席でシートノックを見守っていた各校の顧問たち。その部屋の扉が開かれそちらを向くと、そこには先ほど陽香を連れていった町田の姿があった。

「悪かったな、陽香を任せて」
「いいですよね。監督には世話になりましたからね」

口元は確かに笑っていた。しかし、誰も彼が真田に好意を向けているとは思わなかった。なぜならその目は一切笑っていなかったのだから。

「陽香は元気そうだったか?」
「落ち込んでましたけど、球場に戻るとか言い出したんで親御さんにそのまま引き渡して帰らせました。今のうちに安静にしておけば準決勝もベンチには入れるでしょうし」

彼女が投げれないことは曲げられない事実。しかしキャプテンである彼女がベンチにいればそれだけで選手たちの士気は上がるはず。それも考えての強制帰宅だった。

「後で家に行かないとな」
「かける言葉に気をつけてくださいよ。その辺デリカシーないから、監督は」

そんなことを言いながら席に腰かける町田。彼の目は一塁側ベンチへと向いていた。

「そっちは桜華だぞ」
「日帝大は三塁側ですよ」

東英学園最大のライバルと評される日帝大付属。そんな彼女たちの試合前の様子を確認しようとしているのだと思った面々に突っ込みを入れられるが、指摘された青年はクスクスと笑っていた。

「俺ら何回日帝大とやってると思ってるんですか?もう奴らのデータは十分すぎるほど揃ってますよ」

言われてみればその通りだと納得する。となると彼の視線はその行動通りライバルの対戦相手に向けられたことになる。

「桜華だと去年の試合のことか?」
「まぁ苦しみましたからね。あいつのピッチングには」

去年のことを思い出しながらタメ息を漏らす。その試合のことを覚えている者たちは火が付いたのか、口々に感想を漏らしていた。

「でもあの子、今年はキャッチャーでしたよね?」
「秋に肩壊したって話だったからね。春も投げてなかったし」

ブルペンでボールを受けている黒髪の少女。その彼女に向かって投げているのは同じくらいの背丈の銀髪の少女だった。

「苗字が同じってことは姉妹ですか?」
「そうだって桜華の監督も言ってましたよ」
「そういえば監督も変わったんでしたね」
「監督も外国の方でしたっけ」

話題性のある情報が多々あることで一気にその話で持ちきりになる。そんな中で神妙な面持ちでそちらを見ている町田に気付いた真田は訝しげな視線を向けた。

「なんだ?そんなに気になるチームか?」
「監督はわかりませんか?あの監督」

そう言われてようやくそちらに目を向ける真田。彼はしばらく監督と思われる青年を見た後、何かに気付いたように選手名鑑を手に取り、該当の高校の名前を見て町田へと向き直る。

「まさか……」
「たぶん間違いないでしょう」

彼らが何を言いたいのかわからない面々は桜華ベンチと選手名鑑にある名前を見比べながら懸命に頭を働かせる。すると、少しずつ彼らが言わんとしていることにわかるものが現れた。

「え?マジ?」
「春から監督だった?」
「いや……ならもっと早く気付いてたはず……」

次々と気付くものが増えるに従って本部席のざわめきも大きくなる。しかし中には彼のことを知らないものも当然おり、そのうちの一人が町田へと声をかけた。

「え?誰なんですか?あの人」

野球に興味があったわけではなく人員の関係で顧問になったと思われる女性からの問い。それに町田はスマホで何かを調べ始めると、ある画像を見せて答えた。

「昨年の甲子園で史上初の三連覇を達成した東日本(ヒガシニホン)学園。その最強のチームをもっとも苦しめた外国人留学生軍団『聖エスポワール学院』の主将であり実質的な監督も務めていた正捕手……カミューニ・フィゾー。場合によちゃあダークホースになりかねない存在だよ」

苦虫を噛み潰したような表情を見せる町田。それは彼だけではなく、ベンチに座る赤髪の青年のことを知るものは皆同じような反応を見せていた。



 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
本当は別作品でプレイヤーとして出したかった選手をここで使ってます。やる気があればもう一回天王寺たちの作品を書きたいなとは思ってます(^o^;)イチオウネ 
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