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SHUFFLE! ~The bonds of eternity~

作者:Undefeat
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第三章 ~心の在処~
  その五

 突然ではあるが、バーベナ学園における体育の授業は二クラス合同で行われる。稟達の所属する2-Cは隣のクラスの2-Dと合同だ。しかしこの時期は水泳の授業があるため、別々に行われる。バーベナ学園のプールは他に比べてやや大きめではあるが、二クラスの合計八十人が入るにはさすがに手狭だ。そのため一方のクラスがプールを使用して水泳の授業、もう一方のクラスはグラウンドでの授業となる。今日は2-Dがプールを使用している。

『そんな~、リシアンサス様の水着姿が見られないなんて~』

 などという絶望感溢れる嘆きが聞こえてきたのは気のせいだろう。
 それはさておき。

「速いな……」

 そうつぶやいた稟の目には、ちょうど百メートル走のタイムを計り終えた樹と柳哉の姿があった。わずかの差とはいえ柳哉に負けたからか、樹は少し落ち込んでいるようだ。
 樹はその明晰な頭脳から“バーベナの頭脳”などと言われている。それだけではなく身体能力でもトップクラスだ。その上ルックスも良く、女子限定だが人当たりもいい、ということで女子生徒からの人気は高く、学園内には親衛隊も存在する。
 緑葉樹親衛魔術団、M∴M∴M――正式名称“もっともっと緑葉君”――とある特殊な趣味を持った、主に文系の女子生徒からなる親衛隊である。しかし、学内四大親衛隊とは(おもむき)が異なり、樹に近づく女子生徒を警戒したり排除したり、といった行為は一切しない。
 では何をするかと言うと、直接的には何もしない。あくまでも直接的には。彼女達がやっているのはとある薄い本の作成、発行、そして愛読である。ぶっちゃけ同人誌。
 主人公は樹であり、その相手役はほとんどが稟だ。内容は純愛から耽美、陵辱まで幅広い。いわゆるBL。そして十八禁。おまえら高校生だろうが、というツッコミを入れる者はいない。少なくとも親衛隊内には。
 以前は樹×稟か稟×樹かで争いになり、一時は内部分裂の危機を迎えたが、緑のショートヘアーの女子生徒の『どっちも素晴らしいことには変わりないでしょ! 共存はできないの!?』という名言(迷言?)によって収束。住み分けをすることによって現在に至る。ちなみにその時、その女子生徒の後ろで『まままぁ♪』と瞳を輝かせる金髪の女子生徒がいた、というのはまったくの余談である。
 そして最近では柳哉の登場により、悪友、幼馴染、ライバル、三角関係といったジャンル分けがされており、さらなる発展が期待されている、らしい。
 ちなみに稟も柳哉も、そして樹もこの事実をまったく知らない。知ったら知ったで精神に洒落にならないダメージを喰らうだろう。ある意味四大親衛隊より性質(タチ)が悪いと言える。幸いにして彼女達は妄想と現実をはっきりと区別できており(※必須入団条件)現実の彼らにそれを押し付けるようなことはしない。あくまでも自分達の妄想で楽しんでいるだけである。

 ……話を戻そう。というか何を書いているのか。

「負けたな、樹」

「ま、今回は勝ちを譲ったってことさ」

「物は言い様、だな」

 そう言って柳哉を見る。何やらクラスメイトに熱心に話し掛けられているようだ。

「陸上部の勧誘だよ。一応とはいえ俺様に勝ったんだ。当然と言えば当然だね」

「確かにな。というかあちこちの運動部から引っ張りだこなんじゃないのか?」

「ま、本人には受ける気は無いみたいだけどね」

 樹の言葉を証明するかのように柳哉がこちらに歩いて来た。勧誘していたクラスメイトは残念そうに肩を落としている。

「大変だったな」

「ある程度は予想してたがね」

 そう言って肩を(すく)める柳哉。

「お、リンちゃんが走るみたいだ。これは見逃せない」

 トラックのもう半分を使って百メートル走のタイムを計っている女子の方に目をやると、ネリネともう一人の女子生徒がスタート地点で待機していた。計測は二人ずつ行うためだ。合図と共に二人がスタートする。初めのうちはほぼ互角だったものの途中から差が付き始め、ゴールした時にはネリネは三メートル近い差を付けられてしまっていた。

「あー、負けたか」

「まあ、元々勝敗を競うものじゃないしね」

 ネリネは体があまり丈夫ではない。実際、今の計測でも、高校二年生女子の平均をかなり下回っている。と、柳哉が口を開いた。

「……何というか、アンバランスだな」

「確かに。あの身長であの巨乳は反則だね」

 実際、ネリネが走っている間、男子生徒の視線はネリネの胸に釘づけだった。

「おい」

「いや、まあ確かにそうだが、そういう意味じゃなくてな」

「じゃあ、どういう意味なんだい?」

 柳哉は笑って答えなかった。


           *     *     *     *     *     *


 同時刻、プールにて。
 デイジーは考えていた。

(リシアンサス様……)

 どうすればリシアンサスと親しくなれるか。放送部に入ってもらえるか。案はいくつかある。
1:直接交渉……これは駄目だった。土見稟という邪魔が入ったためだ。しかもあんな姿を晒してしまった。敬愛する神姫リシアンサスの前で。しかも土見稟のあの対応。許せなかった。ある意味自業自得とはいえ、やはり乙女心は複雑ということだろう。
2:土見稟を介しての交渉……論外。というか何度も交渉のチャンスを潰されている。駄目だ。
3:リシアンサスの周囲の女子生徒を介しての交渉……ネリネはリシアンサスにとって親友と呼べる相手だが、自分の立場上魔族の、しかも王女に借りを作るのはいただけない。芙蓉楓は土見稟と同棲しており、(実際は同居だが)最近は以前にもまして仲が良い。土見稟に情報が行ってしまう可能性が高い。時雨亜沙も駄目だ。生まれとそのコアな趣味から、同級生との付き合いさえ上手くいっていない自分が上級生相手にそれだけの交渉ができるとは思えない。カレハも同様。プリムラはよく分からないが、下級生に頼るのはどうかと思う。
4:緑葉樹を介しての交渉……本能的な危険を感じる。却下。

(となれば……)

5:水守柳哉を介しての交渉……以前に放送室で会った時は“あの”土見稟の幼馴染だということで警戒していたが、対応そのものは誠実なものと言えた。あくまでもデイジーの中ではの話だが。それだけではない。

(私を見た時、何か驚いていたようですが……)

 そのことがある。会長からの注意を受けている時も何かを考え込んでいるようだった。それに今思えば彼の容姿や纏っていた雰囲気などには、どこか懐かしいものを感じた。それはまるで……

(リシアンサス様と、初めてお会いした時のような……)

 これはデイジーのただの勘であり、根拠など何も無い。しかし、あの二人はどこか似ている。そう思ったデイジーだった。
 と、視線を感じて若干俯きがちだった顔を上げると、こちらを見ていたであろう授業中の男子生徒が目を逸らすのが見えた。その後もチラチラとこちらに視線を向けている。

(……? 何なんでしょうか)

 本日、デイジーはいわゆる“女の子の日”なので水泳の授業は見学していた。プールには入らないので制服姿のままなのだが、体勢が悪かった。現在、デイジーはいわゆる体育座りでプールサイドから少し離れた所に座っている。そして当然の事ながらプールの水面はデイジーの座っている位置よりも低い所にある。要するに下着が見えている状態なのだが、本人はまるで気付いていなかった。デイジーがその事を知ったのは、授業終了後の男子生徒達の会話を盗み聞いた時だった。デイジーが羞恥で顔を真っ赤にしたのは言うまでもない。 
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