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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第85話 究極に甘い食材はどれだ!オカルト研究部だけの初めての捕獲!後編

 
前書き
 ボーノの過去の一部、蝶魅料やまさつまいもの生態、グロウアップルの伝説や生態、効果などにオリジナル設定を入れましたのでお願いします。 

 
「暇だな……」


 イッセーはオカルト研究部のメンバーの帰りを待ちながらクリスが食べなかった食材を分けてもらいソレを食べながらそう呟いた。


「なんだ、イッセー。お前猫やリーア達の事心配じゃねえのかよ」
「捕獲レベル40を超える猛獣がいるならともかくそうじゃないのなら今更心配はしないさ。朱乃とギャスパーの側には黒歌もいるからな」
「ふーん」


 隣で同じように暇そうにしていたサニーがそう聞いてきたが、イッセーは心配していないと返した。


「そういえばさ、リン姉」
「ん、なに?」
「祐斗とはどういう関係なの?」
「へっ……?」


 イッセーの突然の質問に呑気にパフェを食べていたリンが食べる手を止めてしまった。


「ど、どういうって?」
「いや、なんか祐斗がよく自分用の香水作ってもらってるからお礼がしたいって前に言ってたのを思い出して……丁度今一緒にいるし欲しい物でも聞いておこうかなって……実際どうなの?」
「べ、別に普通の関係だし……祐斗君は話が合うし甘い物とかお土産でくれるからおかえししてるだけだし……」
「えっ、でもなんか前に一緒にデートに行ったって祐斗から聞いたけど……」
「デートじゃないし!調合に使うハーブを買いに行偶然会っただけだし!それで甘いもの巡りしただけだし!」


 オカルトメンバーは稀に個人や二人でグルメタウンに行くこともある。冒険は危険なため今回は例外だが基本は必ずイッセーと同行のルールだ。


 でも町なら心配は無いからイッセーが同行する必要はない。だからリアスも休みの日に朱乃やアーシア、小猫と一緒にグルメタウンで買い物をしたりしている。


 祐斗もイッセーと最近はギャスパーも交えて一緒に行動したりしているがリンとも一緒に行動しているらしい。


「ふーん、あの食い意地しかない我が妹がなぁ……」
「お兄ちゃん!その顔止めるし!凄く腹立つ!」


 サニーがニヤニヤしながらリンをからかう。当然リンは怒った。


「何の話をしてるの?」


 するとティナがイッセーに話しかけてきた。


「ティナ、司会はどうしたんだ?」
「今は休憩中よ。そういえば祐斗君達は?」
「祐斗達は食材を取りに行ってるよ」
「そうなんだ……」


 イッセーがそう答えるとティナは寂しそうにそう答えた。


「祐斗に会いたかったのか?」
「うん」


 イッセーはそう聞くとティナは素直にそう答えた。


「す、素直だな」
「だって隠したってしょうがないし」
「……デリカシーの無いことを聞くが祐斗の事好きなのか?」
「ええ、好きよ」


 これまたあっさりと答えたティナに一同は動揺した。


「どうしたのよ、イッセー?」
「いや、普通は「は、はぁ!?そんな訳ないじゃない!」って感じで誤魔化さないか?」
「そんなラブコメ漫画みたいなテンプレ行動しないわよ」
「いやでもお前は成人で祐斗は高校生だぞ?世間体というものが……」
「ハーレム作ってるイッセーには言われたくないんだけど」
「うっ……」


 イッセーはリンにそう返されてうろたえた。


「そもそもいつから祐斗の事を……?」
「う~ん、正直最初は礼儀正しいイケメンな男の子でしかなかったのよね。だってすっごいスクープの方が魅力的だし。でも一緒に旅して何回も自分を守ろうと必死になってくれる男の子がいたら好きにならない?」
「あー……」


 確かに最初に興味がなくとも何回も自分のために体を張ってくれるイケメンで素直で礼儀も正しい上に向上心もある男の子がいたら好きになってしまう女性はいるのかもしれない。というか好きになるなとイッセーは思った。


「だからイッセー、祐斗君堕とすの手伝ってよ。あんないい子この先絶対現れないし」
「俺は別にいいけどよ……」
「……駄目だし」
「うん?リン姉?」
「駄目だし!祐斗君はあたしのだし!」


 リンはいきなり叫びだした。しかも涙目だ。


「おいおいリン、お前さっき祐斗に興味はないって言って……」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「お、応……」


 流石にサニーも鬼気迫る妹に睨まれたら黙ってしまった。


「さっきから黙って聞いてたら……祐斗君は絶対あたしの事が好きだし!香水の事熱心に聞いてくれるし甘いもの食べてるリンさん可愛いですって言ってくれるし!」
「そんなの社交辞令でしょう?祐斗君は私の事いつも必死で守ってくれるのよ?私の事が好きだから守ってくれるのよ!」
「それこそアンタが弱いからだし!イッセーの負担を減らす為に祐斗君が頑張ってるだけだし!」

 
 二人はそう言ってにらみ合う。彼女達の背後には龍と虎がにらみ合っているような残像が浮かんでいた。


「祐斗も罪な男だな……」
「てゆーかさ、下手したらユウが義理の弟になんの?まあ俺は別にいいんだけどさ」
「今占ってみたけど祐斗君もイッセーほどではないが女難の相が出ているね」


 イッセー、サニー、ココは離れた場所で二人を見ていた。巻き込まれたくなかったからだ。


「あの……」
「ん?」


 そこにイッセーに声をかけてきた人物が現れた。イッセーが振り向くと声をかけてきたのは何とボーノだった。


「ボーノさん、どうかしましたか?」
「いえ、失礼ですが貴方はイッセーさんですか?」
「そうですけど……」
「やっぱり!噂通り若いのですね!」


 ボーノはイッセーに本人かと質問した。イッセーがそうだと返すと何やら興奮した様子を見せた。


「お会いできて光栄です!まさかカリスマ美食屋のイッセーさんにお会いできるとは思ってもいませんでした!若くして4000種類もの食材を発見したイッセーさんは僕の憧れなんです!」
「いや俺は運が良かったんですよ。優れた師や相棒もいましたし体も丈夫だったので未開の地で生き残ることかできたから多くの食材を発見することが出来たんですよ。そもそも他の四天王たちがもっと積極的に食材を探していたらこうも上手くはいかなかったと思いますし……」
「でも実際に食材を発見したのはイッセーさんですよ!貴方のお蔭で多くの人が美味なる食材を味わうことが出来たんですから自信を持ってください!」
「あ、ありがとうございます。まさか今一番勢いに乗っているボーノさんにそう言って貰えるとは思ってもいませんでした。嬉しいです」


 イッセー本人としては一龍の存在や赤龍帝の籠手とグルメ細胞、そして他の四天王が事情や性格などもあってあまり積極的に食材を見つけようとしなかったから自分が多くの食材を見つけれたと思っている。


 だがボーノはそんなことはないと言ってイッセーも恥ずかしくなりながらも嬉しくなりお礼を言う。


「イッセーさんは大会には出ないのですか?」
「俺の代わりに仲間達が食材を確保しに行ってますよ!」
「そうなんですか!?イッセーさんが選んだ食材ならクリスもきっと食べてくれますよね!」



 ボーノはイッセーは大会に参加しないのかと聞くと、イッセーは自分が選んだ食材を仲間達が捕獲しに向かっていると答える。するとボーノは期待を込めたように話す。


「……クリスの事が大切なんですね」
「はい、クリスは僕にとって唯一の家族なんです」


 ボーノはポツリと語り始めた。自分はもともと貧困な街で生まれで両親は早くに亡くしてしまった、生きていくために危険な森や草原に行って比較的安全に取れるグルメ食材を取ってそれを売り生活していたらしい。


 そんな中、森で偶然怪我をした幼少期のクリスと出会いボーノはクリスを保護したらしい。その後は常に二人一緒に生きてきたそうで何でも二人で分け合って生きてきたと語る。


「あの頃はお金を稼ぐのにも苦労してたまにしか食べられないパフェだけが唯一の贅沢でした。二人で一緒に食べると量は少ないけど凄く美味しかったのを覚えています」
「素敵な話ですね。そこから今の地位に至るまでさぞや苦労したんでしょう」
「ええ、大変でした。必死で勉強してがむしゃらに働いて辛い日々でした。でもクリスがいてくれたから諦めずに頑張ることが出来たんです」


 ボーノはそう言うとステージの上で力なくうなだれているクリスを見る。


「今ならなんだってクリスにあげることが出来ます。美味しい食事も豪華な寝床も……でもクリスはまったく食べてくれなくなったんです。医者を何人も呼んでもどうにもならなくて……このままじゃクリスが死んでしまう……」


 ボーノは泣きながらそう話す。イッセーは彼の肩に手を置いた。


「ボーノさん、大丈夫ですよ。クリスはまた食事をしてくれますよ」
「そうでしょうか?」
「俺を……そして食材を取りに行っている仲間達を信じてください。必ずクリスに食べさせて見せますから」
「……はい!」


 ボーノは希望を込めた目をイッセーに向ける。それにイッセーも頷いた。


「小猫ちゃん、皆……頼んだぞ」



―――――――――

――――――

―――


「イッセー先輩?」
「どうしたんですか、小猫ちゃん?」
「いえ、何だかイッセー先輩に名前を呼ばれたような気がして……」
「あはは、師匠の幻聴が聞こえるくらい寂しくなってしまったんですか?仲が良いのは良いですけど程々にしておかないと駄目ですよー」
「本当に聞こえたんです!私とイッセー先輩は魂までつながっているんですから!」


 笑うルフェイに小猫は可愛らしく怒った。そんな二人をテリーは何をやっているんだか……と言いたそうに見ていた。


 三人は現在『メガモリ島』と呼ばれる絶海の孤島に来ていた。ここにお目当てのグランドベリーがあるらしい。


「でもこの島色んな生物がいるんですね。ガララワニやトロルコングもいましたし」
「この島には様々な猛獣が集まるらしいですよ。もっと島の奥にいけばリーガルマンモスやツンドラドラゴンなどもいそうですね」
「まあ今回の目的はグランドベリーですけどね……テリー?」


 すると先頭を歩いていたテリーが足を止める。視線の先には綺麗な色彩をした蝶が飛んでいた。


「綺麗な蝶ですね、まるで異次元七色蝶みたいです」


 すると蝶が鱗粉を出し始めた。イッセーほどではないが比較的鼻が利く小猫はうっとりとした表情になる。


「この鱗粉、美味しいスパイスです!ん~、お腹が空いてきちゃいますぅ……」


 小猫はそう言うとフラフラとその蝶に付いていこうとする。 


「ちょっとちょっと!小猫ちゃん駄目ですよ!」


 ルフェイは慌てて小猫を止めようとしたがそれよりも先に小猫が何かに躓いてこけてしまった。


「痛いです……」
「もー、何をやってるんですか!あれは美味しい調味料のような鱗粉や綺麗な見た目で猛獣を惑わす『蝶魅料』ですよ!あのままついていったら危ない場所に連れて行かれますよ。あの蝶は危険な場所に生物を連れ込んで殺してその死体から体液を吸うんですから」
「申し訳ありません……」


 鼻の利く小猫には効果抜群なようでつい罠にはまってしまったようだ。


「ところで何に足を引っかけたんですか?」
「ツルみたいですね」


 小猫が足を引っかけたのは植物のツルだった。何となくそのツルを引っ張ってみると地中からさつまいもが現れた。


「おおっ!運が良いですね!これは『まさつまいも』ですよ!中々発見するのが大変なんですよね。流石は小猫ちゃん、見事な食運ですね!」
「あはは、結果オーライですね」


 小猫とルフェイとテリーは思わぬ食材をゲットして三人で分け合った。まさつまいもは摩擦に弱く包丁で切ると摩擦で黒焦げになってしまうらしいが小猫は普通に切ってルフェイに渡した。


「凄いです!どうして黒焦げにならないんですか?」
「えっとここなら切っていいよって食材が教えてくれたとしか……」
「なるほど、切っていい場所があるんですね。これは新発見ですよ!食材の声を聴く力、おそるべしです!」


 小猫は何となくやったようだがまさつまいもを包丁で切って黒焦げにならなかったのは初めてだったらしくルフェイは興奮した様子を見せた。


「まあまあルフェイさん、こんなの知れ渡っていないだけで節乃さんや姉さまなら余裕で出来ますよ。そんなことよりも早くまさつまいもを食べましょうよ」
「えぇ……小猫ちゃん凄い人たちに囲まれているせいか自分のやった事の凄さを自覚していないんじゃ……まあいいや、私も食べよっと」


 小猫達はまさつまいもをパクリと食べる。


「お芋なのふわっとしていて砂糖みたいに溶けちゃいました!実もとっても甘くて美味しいです!」
「はい!まさつまいも最高ですね!」
「ワォ!」
「あはは、テリーもすっかり人間界の食べ物に慣れちゃったんですね」


 三人はまさつまいもを堪能すると先に進みだした。


―――――――――

――――――

―――


「そういえばルフェイさんってグルメ細胞を持っているんですか?」
「持っていますよ。私は摂取型ですね」
「意外です。イッセー先輩は反対しなかったんですか?」
「勿論しましたよ。でも私が何度もお願いして89回目に土下座して許可を得ることが出来たんです」
「随分と粘ったんですね……」


 小猫は道中にルフェイにグルメ細胞を持っているのか聞いてみた。するとルフェイはイッセーに何度もお願いして許可を貰ったと語る。


「そのとき師匠は『もしお前に何かあったら俺も責任を取って死んでやる』と言ってくれたんです。不謹慎ですがとっても嬉しかったんですよ」
「そういえば前に私達に豪水をくれた時に似たような事を言ってくれましたね。もしかして……」
「はい、師匠の受け売りです!」


 小猫とルフェイは年も近いためかなり仲良くなっていた。テリーはそんな二人を『危機感無いな』と『でも仲良さそうでほっこりする』という風に見ていた。


「ん……?」
「地震ですか?」


 すると何やら地響きが起こり大きな音が小猫達に近づいているのを三人は感じた。小猫が背後を見て見ると巨大な物体がこちらに転がってきていた。


「んにゃ~!?なんなんですか!」
「とにかく走ってください!」


 小猫達は必至になって逃げだした。だがこの物体は急な曲がり角や坂道も平然と進みながら追いかけてくる。


「なんで曲り道はカーブしてくるし上り坂は平然と登ってくるんですか!これ絶対猛獣ですよね!?」
「多分『クリマジロ』ですよ!相手をするのも面倒ですし倒しても美味しくないので逃げるが幸です!」
「ひゃう!?棘まで飛ばしてきました!」


 小猫達はクリマジロが飛ばしてくる棘をかわしながら高台に逃げ込んだ。クリマジロは岩にぶつかるとこちらを睨んでくるが直ぐに諦めて何処かへと去っていった。


「どうやら高台は登れないみたいですね」
「グランドベリーはもうすぐですよ。頑張りましょう!」
「そうですね……ってテリー?」


 小猫は警戒するように唸るテリーを見て何かが来ると察した。すると次の瞬間地中から何かが飛び出してきて小猫達に襲い掛かってきた。


 小猫達はジャンプして逃げると土煙を見る。するとそこから猛獣が出てきた。


「何ですか、あの猛獣は?まるでサメと亀が合体したみたいな姿ですね」
「わ、私も初めて見ました!あれって捕獲レベル32の『シャークハコガメ』ですよ!」


 シャークハコガメは地中に潜ると背ビレを出してこちらに向かってきた。小猫は右に跳んで回避するが近くにあった岩が背ビレで真っ二つになってしまった。


「凄い威力ですね!まともに喰らったらひとたまりもないでしょう。でも当たらなければ問題はありません!」


 ルフェイは魔法を構えてシャークハコガメに目掛けて放った。


「イオラ!」


 放たれた魔法はシャークハコガメのいる地面に吸い込まれていき大きな爆発を生みだした。だがシャークハコガメは平然としながらこちらに向かってくる。


「ええっ!?効いていないんですか!?」
「このっ!?」
「ガオッ!」


 小猫とテリーはシャークハコガメに攻撃を仕掛けたが硬い甲羅に阻まれて大したダメージは与えられなかった。


「硬い!?二重の極みを当てたいけどああも早く動かれては……」


 硬い甲羅に有効そうな二重の極みを使いたいと小猫は思ったが、あれは精密な動作が必要で今の小猫の練度では素早く動きまわるシャークハコガメには当てれても本来の威力を発揮するのは難しいようだ。


 シャークハコガメは一旦地面に潜るとルフェイの背後から攻撃を仕掛けてきた。


「メラミ!」


 素早く反撃をするルフェイだがその巨体に似合わない俊敏な動きでメラミをかわすシャークハコガメ、ルフェイに攻撃が当たりそうになるがテリーが割って入り彼女を背に乗せて逃げた。


「ありがとうございます、テリー!」


 ルフェイを乗せたテリーは小猫の横に着地する。獲物を見失ったシャークハコガメは止まらずに辺りを動き回っていた。


「あの硬い甲羅が厄介ですね。物理攻撃は効きません」
「でもイオナズンやベギラゴンだと速度も遅いから多分当たらないし、早く落ちるギガデインは溜めるのに時間がかかります。ピオリムなどの補助呪文はできればどうしようもなくならない限りは使いたくないんですよね。修行にならないから」


 ルフェイは出来れば補助系の魔法には頼りたくないと言う。自身へのバフや敵へのデバフは確かに便利だがそれに頼ってしまうようになると体が強くならないからだ。


 勿論どうしようもない相手が出た場合は使うが今回は使う程の相手ではないだろう。


「えっ?でも前にコカビエルとの戦いで凄い強力な魔法を連発していませんでしたか?そのギガデインって奴も使っていたような気がするんですが?」
「あれは師匠を殺されたと思ってすごく怒ったから……いわゆる火事場のクソ力ですよ。今はとてもじゃないけど出来ません」


 小猫は前にコカビエルとの戦いで強力な魔法を連発していなかったかと質問する。それに対してルフェイはイッセーを殺されたと思って出た火事場のクソ力で今は出来ないと返した。


「そういえばシャークハコガメって何で止まらないのでしょうか?疲れないのでしょうか?」
「本当にそうですね、あの体力が羨ましいです」


 小猫はどうしてこちらが離れていても常に動き続けているのか疑問に思った。いったん止まってこちらの状況を確認してから攻撃しても良いと思うのだがシャークハコガメは常に動き続けていた。


「もしかして……ルフェイさん!ここは私に任せてくれませんか!貴方は魔法の準備を!」
「小猫ちゃん?」


 小猫は何かに気が付いたようでルフェイに指示を出して一人シャークハコガメに向かっていった。獲物を見つけたシャークハコガメは地中に潜ると背ビレを出して向かってきた。


「『肉のカーテン』!!」


 小猫は姿勢を丸めて両手で体をブロックするように防御の姿勢に入った。そしてシャークハコガメの背ビレと激突した。


「小猫ちゃん!?」
「ぐうっ……!」


 小猫の腕にシャークハコガメの背ビレが食い込んだが切断されることはなく食い止める事に成功した。


「一本釣りです!!」


 そして背ビレを掴んでシャークハコガメの体を地中から引き釣り出した。


「ルフェイさん、今です!」
「ギガデイン!」


 小猫は上空に向かってシャークハコガメを投げ飛ばしそこにルフェイが巨大な雷を落とした。


 如何に俊敏なシャークハコガメでも真上に投げ飛ばされ、そこに真っ直ぐ落ちてくる雷をかわす事は出来ずまともに雷を受けてしまう。


「テリー!斜めから体当たりをお願いします!」
「ワゥッ!」


 小猫はテリーに体当たりをしてほしいと指示をするとテリーはシャークハコガメの甲羅の斜め下に体当たりを喰らわせた。


 大きな衝撃と雷による痺れで体制を崩したシャークハコガメは背中から地面に落ちてしまい身動きが取れなくなってしまった。


「やりました!」
「でもあれじゃ直に起き上がってしまうんじゃないのですか?」
「大丈夫です。ほら、見てください」


 ルフェイが心配するが小猫は大丈夫だと言う。シャークハコガメはじたばたとしていたが直ぐに力を失ったように苦しそうに口をパクパクしていた。


「鮫の中には泳いでいるときに水から酸素を取り込む個体もいるんです。だから泳いでいないと呼吸が出来ません」
「なるほど、シャークハコガメも地中を泳いで呼吸をしていたんですね。でもひっくりかえってしまって動けなくなったから呼吸が出来なくなって弱ってしまったという事ですか」


 小猫は鮫の特性を話すとルフェイは何故シャークハコガメが弱ってしまったのか理解した。


「さて、そろそろ起こしてあげないと死んじゃいますね。よっと」


 小猫はシャークハコガメを掴むとポイっと投げて起き上がらせた。


「ごめんね、痛くなかった?」


 小猫はシャークハコガメに謝るが直ぐに逃げてしまった。


「あれ、逃げちゃった……」
「まあ死にかけたんですからしょうがないですよ。あっ、小猫ちゃん!あそこを見てください!」


 ルフェイが指を刺した方向にはまるで龍の長い首のような茎に実った巨大な果実があった。


「あれがグランドベリーですよ!」
「おお、本当に龍の首みたいな形をしていますね。実が頭に見えます」


 三人はグランドベリーに近づいて匂いを嗅ぐ。濃厚な甘酸っぱい果汁の匂いが小猫達の食欲を刺激する。


「じゅる……とっても美味しそうですね」
「ちょっとくらいなら食べてもいいんじゃないですか」
「そうですね、ほんの少しだけなら……」


 小猫は包丁でグランドベリーを少し切り取ってルフェイとテリーに渡した。


「では頂きます……んんっ!?甘くて酸っぱくて濃厚な風味が口いっぱいに広がりました。ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリーなどのいろんなベリーの味が楽しめちゃいます!」
「果汁も柔らかくてプリンみたいです!でも噛めば噛むほどいっぱい果汁が出てジュースを飲んでるみたいです!」
「ワンッ!」


 小猫達はグランドベリーを堪能すると急いで会場に戻っていった。果たしてどの食材をクリスは食べるのだろうか。



―――――――――

――――――

―――


「せんぱーい!持ってきましたよー!」
「イッセー君、ただいま!」
「ふふっ、今帰りましたわ」
「おおっ、みんな帰ったか!」


 会場に戻ってきた小猫達はそれぞれの無事を喜びながら捕獲してきた食材を見せあった。


「こ、これがグランドべりー……凄い大きさね」
「わぁ……!ミルクジラのミルク!いっぱいありますね!」
「ハニードラゴンの蜂蜜……凄くキラキラしていて綺麗ですね!」


 リアス、ギャスパー、ルフェイは違うチームが取ってきた食材を見て目を輝かせていた。


「大丈夫だったか?」
「うん、僕達はなんとかうまく行ったよ」
「私達もです」
「わたくし達は黒歌さんのアドバイスやフォローがあったからなんとかなりましたわ。多分わたくしとギャスパー君だけでは無理でした」
「そんなことないにゃ。朱乃とギャスパーなら案外すぐにハニードラゴンの特性に気が付いて対処できたと思うよ」
「黒歌もありがとうな」
「どういたしまして……にゃん♪」


 イッセーは問題は無かったかと聞くと祐斗と小猫は上手くいったと答えるが、朱乃は黒歌のフォローが無ければ無理だったと答える。


 それに対して黒歌は自分がいなくても大丈夫だったと励ましてイッセーが彼女にお礼を言った。


「祐斗君、お疲れ様。疲れてない?パフェ食べる?」
「リンさん?」
「祐斗君、大丈夫だった?怪我とかしていない?」
「ティナさん?どうしたんですか?」


 するとリンとティナが祐斗に駆け寄って彼をねぎらった。


「ちょっと!アンタはもう司会の仕事に戻るし!」
「煩いわね!声をかけるくらいいいじゃない!」
「あ、あの……」
「祐斗君はあたしが相手をするから問題ないし!」
「私だって彼をねぎらうわよ!」


 祐斗は二人に挟まれてタジタジしていた。


「どうしたの、あれ?」
「まあ色々ありまして……」


 リアスはイッセーに何があったのか聞くがイッセーはどう説明すればいいかと思いながら頬を掻いていた。


「イッセーさん!これが貴方たち四天王が進める食材ですか!?」
「ん?……ああっボーノさん。はい、これが俺達がクリスに食べてもらえると思った食材です」
「凄い!ミルクジラのミルクにハニードラゴンの蜂蜜!それにグランドベリー!どれもこれも手に入れるのが難しい超高級食材ばかり!これなら絶対にクリスも食べてくれるぞ!」


 ボーノは小猫達が持ってきた食材を見て希望を抱いた。これなら必ずクリスも食べてくれると信じているようだ。


「イッセー、貴方ボーノさんと仲良くなったの?」
「ええ、休憩中に話をする機会がありまして……よし、それじゃ早速どの食材をクリスが選ぶのか試してみようぜ!」


 イッセーはそう言うと全員が頷き観客席に向かう。ティナとボーノもステージに戻り再び食材をクリスに見せる流れに移った。


「よう、イッセー。お前もこの大会に出ていたのか?」
「ゾンゲか……ってなんて恰好をしているんだ!?」


 偶然隣にいた人物がゾンゲだったらしくイッセーに声をかけてきたが、なぜかゾンゲはお姫様のような恰好をしていた。凄く悍ましい姿にイッセー達は鳥肌が立った。


「ゲームに出てくるドラゴンと言ったら綺麗なお姫様が付き物だろう?だから食材と一緒に用意したのさ。どう、似・合・う?うっふん♡」
「おげェ……!?お前のどこが姫だ……悲鳴しか出ねぇよ……!」
「うぷっ……気持ち悪いです……」


 イッセーはゾンゲに力無く怒鳴って小猫は口を押えていた。


 その後三つの食材がステージの上に運ばれた。周りの美食屋達も四天王が選んだ食材と聞いて優勝は間違いなくイッセー、ココ、サニーの誰かだろうと期待する。


「絶対に俺が選んだグランドベリーを食べるに決まってる。小猫ちゃんとルフェイ、そしてテリーが頑張ったんだからな」
「なに言ってんだ、イッセー?クリスはリーア達が俺の代わりに取ってきたミルクジラのミルクを絶対に飲むし。なにせお肌スベスベになるからな」
「ハニードラゴンの蜂蜜は古代に生息していた七色ネッシーの先祖も食べていた食材だ。一番食べやすい食材のはずだ」


 イッセー達は自分の選んだ食材をクリスが食べると言い合った。リアス達もそれぞれが捕獲してきた食材を食べてほしいと願う。


「さあクリス、イッセーさん達が選んだ極上の食材だ。君もきっと気に入るはずだよ」


 ボーノはそう言うがクリスはどの食材にも興味を示さなかった。会場の美食屋達は四天王の選んだ食材すら食べないなんてもう優勝は無理だろうと思ってしまった。


「そんな……俺達が選んだ食材も駄目なのか!?」
「おかしい、クリスは間違いなく食材に興味を持っているはずだ。現に電磁波も活性化している、食欲がわいている証拠だ」
「現に口からパネェ量のよだれ出てるしな。だがそれでも食おうとしねぇなんてどうなってんだ?なんか食べたくないというよりは食べるわけにはいかないって意志を感じるぞ」


 イッセーはクリスが三つの食材を食べないことに驚きココは間違いなくクリスは食材に興味を持ったはずだと話す。サニーは頑なに食べようとしないクリスに何か強い意志のようなものを感じると話した。


「……」
「ボーノさん」
「……が」
「えっ?」
「何が四天王だ!ふざけないでください!」


 イッセーはボーノに声をかけようとしたが、ボーノはイッセー達に涙を流しながら怒鳴りつけた。


「さんざん期待させておいて全然食べないじゃないですか!何が俺を信じろだ!こんな事なら……こんな事なら変な期待をさせないで欲しかった!」
「……すまない」


 ボーノはそう怒りイッセー達は何も言えなかった。美食屋として食材を捕獲しても食べてもらえなければ意味が無いからだ。


「ちょっと……いくら何でも言い過ぎよ!皆一生懸命頑張って捕獲してきたのよ?」
「一生懸命やったら良いなんてことはないんですよ!クリスが食べてくれなければ意味がないんです!」


 ティナは言い過ぎじゃないかとボーノを咎めるが感情の高ぶったボーノはその言葉を一瞥した。


「クリス、どうしてなんだ?なんで食べてくれないんだ!このままじゃ本当に死んじゃうんだぞ!」
「グウウッ……」


 ボーノはクリスに訴えるがクリスは悲しそうな顔をしながらボーノを見つめていた。


「……ッ!!」


 するとクリスは何かを見つけて立ち上がった、そしてステージを移動し始める。突然動き出したクリスに会場内は困惑に包まれた。


「どうしたんだ、クリス!」


 ボーノはクリスを止めようとしたがクリスは止まらなかった。そして真っ直ぐに祐斗の方に向かっていった。


「えっ!僕の方に来ている!?」


 祐斗は驚くが周りに人が多くて逃げられなかった。クリスは首を伸ばして祐斗に襲い掛かった。


「祐斗!?」
「祐斗君!」


 イッセーとリンが叫ぶがクリスは祐斗の前で首を止める、そして祐斗がリンから貰い食べていたパフェの容器を咥えた。それをボーノに渡すと雄たけびを上げた。


「クリス……一体どうしちゃったんだ……」


 ボーノはクリスが何を伝えないのか分からずに困惑していた。


「クリスは何がしたいのかしら……?」
「パフェの容器……」


 リアスはクリスの行動に首を傾げたがイッセーはパフェの容器を見て何かが頭に引っかかった。


(あの頃はお金を稼ぐのにも苦労してたまにしか食べられないパフェだけが唯一の贅沢でした)


「そうか、クリスは……」


 イッセーは先程聞いたボーノの過去からクリスが何を望んでいるのか察した。


「小猫ちゃん、頼みがある。パフェを作れないか?それもとびっきり美味い奴を!」
「パフェですか?材料があれば作れますけど……」
「材料ならここにあるじゃないか」


 イッセーは小猫にパフェを作ってほしいと頼んだ。小猫は材料があればできると言いイッセーはグランドベリー、ミルクジラのミルク、ハニードラゴンの蜂蜜を指差した。


「ココ兄、サニ―兄、悪いが材料をくれないか?俺に考えがあるんだ」
「何か思いついたんだね、イッセー。僕は構わないよ」
「えっ、でも俺このミルクでミルク風呂に入る予定なんだけど……」
「サニーさん……」
「……まっ、しょーがねぇか。猫になら俺の食材調理させてやるよ。その代わり美しく調和させろよ」
「はい、任せてください!」


 イッセーはココとサニーに食材をくれと頼んだ。ココはすぐに了承してくれたがサニーが少しぐずった。だが小猫の上目遣いに仕方ないといった様子で食材をくれた。


 材料を得た小猫はステージ裏の厨房を借りて調理に入った。


「イッセーさん、何を……」
「ボーノさん、確か幼いころにクリスとよく食べていたのはパフェって言っていましたよね?」
「はい、確かに言いましたが……!っもしかしてその為にパフェを?」
「俺は貴方の期待を裏切った。だから今度はあの子を信じてください」
「あの女の子をですか……?」
「ええ、彼女はいずれ人間国宝である節乃すら超える料理人になると俺は確信しています。その才能と食材に愛される力を信じてください」
「……」


 イッセーはボーノに自分ではなく小猫の調理の腕と食材に好かれる力を信じてほしいと答える。ボーノは小猫のいるステージ裏の厨房をジッと見ていた。


 そして暫くすると小猫は大きな器に綺麗に盛り付けた見事なパフェを運んできた。


「す、凄い大きさね!?それに色とりどりで凄く綺麗だわ!」
「凄く食欲の支配される甘美な匂いがするね。匂いだけで涎が出てきた、僕もお腹が空いてきたよ」
「あの三つの究極に甘い食材が一つになったパフェ……絶対に美味しいですわ」


 リアス、祐斗、朱乃も豪華なパフェを見て目を輝かせていた。


「これが究極のパフェ……これならクリスも……」
「いや、まずは貴方が食べてください。ボーノさん」
「えっ……」


 ボーノは早速クリスに食べさせようとするがイッセーはそれを止めた。そしてまずはボーノにパフェを食べるように言う。


「でもこれはクリスの為に作ったんじゃ……」
「必要なことなんです。これだけの量なら一口食ったくらいじゃ全然問題ないですよ。それにちょっとは食べてみたいって思ったんじゃないんですか?」
「うっ……」


 ボーノはイッセーにそう指摘されて言葉を詰まらせてしまった。


「じゃあ一口だけ……」


 ボーノはそう言うとスプーンでパフェを掬い口の中に入れる。すると圧倒的な甘みが彼の口に広がった。


「美味しい!ミルクジラのミルクでクリームが優しく舌を包んでハニードラゴンの蜂蜜が濃厚なコクを出している!そこにグランドベリーの甘酸っぱさが加わってより美味しくなった!3つの甘みが完璧に調和して……こんな美味しいパフェは初めてだ!」


 一口と言っていたボーノは夢中でパフェを食べていた。それを見たイッセーと小猫は笑みを浮かべる。


「ははっ、随分と気にいったみたいだな」
「作った甲斐がありますね」


 イッセーと小猫はそう言うとボーノは我に返り顔を赤くする。


「えっと、その……」
「ほら、これはクリスのスプーンだ」


 恥ずかしがるボーノにイッセーは大きなスプーンを持たせた。


「これでクリスに食べさせてあげるんだ。ボーノさんが自分の手で」
「僕が……」


 クリスはイッセーに頷くとクリスにパフェを差し出した。


「クリス……」


 クリスはスプーンに顔を近づけると匂いを嗅いだ。そして迷うことなくパフェを食べた。


「ク、クリスが食べた!?」


 クリスはそのまま起き上がるとパフェを嬉しそうに食べ始めた。それを見たボーノは涙を流した。


「クリス……ようやく食べてくれたんだね」
「クリスはボーノさんと一緒に食事をしたかったんだ」


 イッセーはボーノにクリスは彼と一緒に食事がしたかったんだと話す。


「僕と?」
「最近クリスと一緒に食事はしたんですか?」
「えっ、いや最近は忙しくて一緒には食事が出来ていませんでしたが……!っまさかクリスは!?」
「ええ、貴方と一緒に食事がしたかったんでしょう。理由は分からないがクリスは貴方と一緒に食事がしたかった、それも思い出にあったパフェが食べたかったんでしょう」
「その為に断食までして……クリス……」


 クリスはボーノと一緒に思い出のパフェを食べたかったが、忙しくて一緒にいられない彼に伝えることが出来なかった。


 だから断食までしてボーノに伝えたかったのだろう。


「でもよく分かりましたね、クリスがパフェを食べたがっているなんて」
「ボーノさんの過去話と祐斗が持っていたパフェの容器を取ったのを見てピンと来たんだ。でもあんな素晴らしいパフェを作ってくれたのは小猫ちゃんだ。ありがとうな」
「えへへ……」


 イッセーは小猫にお礼を言うと彼女を抱きしめた。


「さあ、クリスとの食事を楽しんできてください。あの子も待っていますよ」
「はい……!」


 イッセーにそう言われたボーノはクリスと一緒にパフェを堪能した。美味しそうに分け合う二人を見て会場は暖かい雰囲気に包まれた。


「大切な人と食べる食事はどんな高級品よりも美味しいんだろうな……」
「そうですね」


 イッセーは小猫の肩に片手を乗せて幸せそうにパフェを食べる二人を見てそう呟いた。小猫もそれを見て頷いた。


「ふう……ご馳走様でした」


 ボーノとクリスはあれだけあったパフェをあっという間に食べてしまった。


「良かったですね、ボーノさん」
「イッセーさん、ありがとうございます。それとごめんなさい、先ほどは皆さんに失礼なことを言ってしまって……」
「気にしてませんよ。なあ、皆」


 イッセーがそう言うとリアス達は首を縦に振った。


「美食王決定戦の優勝者はイッセーさん達です!どうか、クリスと僕の恩人たちに惜しみない拍手を!」


 ボーノが美食王決定戦の優勝者はイッセー達だと言う。すると会場から大きな声援と拍手が鳴り響いた。


「イッセーさん、こちら賞金10億円です。どうか受け取ってください」
「いや、俺達はお金よりも……ん?」
「クリス?」


 ボーノは優勝賞金である10億円をイッセーたちに渡そうとする。だがその時クリスに異変が起きた、なんと体が輝き始めたのである。


 そして光が収まるとクリスの体が一気に大きくなり頭に角が、背中には立派な翼が生えていた。


「ク、クリス……その姿は一体?」
「これは……十分に栄養を得た七色ネッシーは成人すると翼を生やして巣立ちをすると言われている。クリスは巣立とうとしているんだ」
「巣立ち……そうか、だからクリスは断食してまでボーノさんとパフェを食べようとしたのか。最後に思い出の一品を彼と食べたかった、それが叶ったから……」
「そ、そんな……!」


 ココの説明とイッセーの呟きを聞いたボーノは顔色を青くしてクリスに詰め寄った。


「クリス!行かないでくれ!僕達はずっと一緒だって約束したじゃないか!」
「ウゥ……」
「嫌だ!クリスがいなくなったら僕はまた一人ぼっちになっちゃうじゃないか!行かないで……お願いだから……」


 ボーノはそうお願いするがクリスは悲しそうな顔を浮かべるが頷こうとはしなかった。クリスの意志は固いようだ。


「ボーノさん」
「イッセーさん……」
「クリスは大人になったんです、だから旅立たなければいけない。俺もバトルウルフの子供が家族にいます。今は一緒に入れますがいつかはテリーも巣立ちして厳しい自然界を生きていかなければならない。そうしないと子孫を残せないからです。その時が来たら俺は笑ってテリーを送り出します」
「……」
「判断は貴方に任せます。どうか悔いのない判断を……」


 イッセーはボーノにそう話した。ボーノはジッとクリスを見つめていたが儚い笑みを浮かべた。


「そうだよね、クリス。君も僕も大人になったんだ。いつまでも一緒にはいられない……分かっていたのに最後の最後まで君に迷惑をかけちゃったね」
「オゥ……」


 ボーノはごめんとクリスに謝るがクリスはボーノを優しく舐めた。


「ありがとう、クリス。もう泣かないよ、僕も頑張るから。君に誇れる経営者になって見せる。だからクリスも元気でね」


 ボーノはそう言ってクリスの頭を撫でた。クリスも頷くと体を起こして翼をはばたかせる。そして力強く空に舞い上がった。


「さようなら!クリス!今まで本当にありがとう!さようなら――――っ!クリス―――――ッ!!」


 ボーノは遠ざかっていくクリスに向かって精一杯の感謝の気持ちと別れの言葉を叫んだ。



「大丈夫ですよ、ボーノさん。クリスは立派にやっていけます。貴方から沢山の愛情を貰ったクリスなら……」
「はい……」


 イッセーの言葉にボーノも涙を流しながら頷いた。


「イッセー、あれを見て!?」
「あれは……」


 飛び去っていくクリスから赤い光があふれだしてそれが果実の形に変化した。そして会場目掛けて落ちてきた。


「ヘアネット!」


 サニーの触手に絡めとられた果実はゆっくりとステージに降ろされ圧倒的な存在感を出していた。


「これはグロウアップル!七色ネッシーの体内で熟成された甘みが凝縮した果実だ。大人に成長した証として生み出されるこの実は食べたものを幸せにするという伝説がある」
「これが伝説の果実……」
「グロウアップルは食べた者を幸せにすると言われている。この実ならゼノヴィア君やイリナ君を救えるかもしれない」
「よし、早速この実を二人に食べさせてみよう」


 ココの話を聞いたイッセーは小猫に頼んでグロウアップルを切り分けてもらった。


「ゼノヴィア、イリナ、お前達が幸せになれる食材を見つけてきたぞ。食べてくれ」


 イッセーは二人にグロウアップルを食べさせようとしたが二人は反応しなかった。


「頼む!俺はまた二人と一緒に食事がしたいんだ!アホ面で幸せそうに美味しそうに食べていた二人が見たいんだ!だから戻ってきてくれ!ゼノヴィア!イリナ!」


 イッセーは必至でそう叫んだ。するとゼノヴィアが僅かに反応を示した。


「ゼノヴィア?」


 するとイリナもわずかに反応して二人は恐る恐るグロウアップルを一口齧った。


「……!?ッう、美味い!!サクサクした心地のいい歯ごたえに凝縮された甘みが一気に口の中に溢れてきた!?」
「蜜たっぷりですっごく甘いわ!リンゴやサフラン、完熟マンゴー……色んな甘いフルーツを一辺に味わってるみたい!?」


 二人は先程まで死んだ目をしていたというのに今では輝いていた。そして勢いよくグロウアップルを食べ始めた。


「ふ、二人とも……」
「……ん?イッセー?そういえばここは……」
「私達、何をしていたんだっけ……確か……」
「うおおぉぉぉぉぉ!?やったあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 イッセーは目に涙を溜めながら二人を抱きしめた。


「やりましたね、イッセー先輩!」
「本当に良かったわ……」


 小猫とリアスは手を取り合って喜んでいた。祐斗はギャスパーを抱っこして笑みを浮かべ、黒歌はルフェイや朱乃とハイタッチをした。ココやサニー達も笑みを浮かべている。


「イッセー君、私達……」
「いいんだ。今は何も言うな……お帰り。ゼノヴィア、イリナ……」
「……ただいま、イッセー」


 イリナは状況を理解して自分たちがどういう状態にあったのか思い出したようだ。謝罪の言葉を言おうとしたがイッセーはより強く抱きしめて言葉を封じた。


 そんなイッセーに感謝の気持ちを込めてゼノヴィアはただいまと言った。


 するとイリナとゼノヴィアのお腹から大きな音が鳴った。それを聞いたイッセーは笑みを浮かべる。


「なんだ、二人とも腹が減ったのか?」
「ああ、凄くお腹が空いてきたんだ」
「何日も食べていなくて胃が荒れているはずとにかくいっぱい食べたくて仕方ないの!」


 二人を笑みを浮かべてお腹が空いたと答えた。


「ふんふん……」
「どうした、黒歌?」
「胃の辺りの気の流れは乱れていない……つまり正常な状態にゃ。これなら固形物を食べても大丈夫だね」
「何日も食べていないのにか?」
「うん、多分グロウアップルの力だと思うにゃん」


 普通何日も食べていないと胃が荒れて固形物を食べるのは危険だが、黒歌に仙術で見てもらうと胃は荒れておらず正常になっていると話した。


 グロウアップルには体も幸せな状態、つまり正常に戻す効果もあったのだ。


「そういう事なら話は早い!ボーノさん、賞金入りませんからレストランボーノの料理を食べさせてもらえませんか?」
「えっと……話の流れは分かりませんがイッセーさんがそう言うなら勿論喜んで料理を提供させていただきますよ。お題は結構です」
「いいのか?」
「はい、僕の気持ちです。会場にいる皆様もどうか楽しんでいってください!」


 ボーノがそう言うと会場から溢れんばかりの喜びの声が上がった。そしてイッセー達は夜が深くなるまでゼノヴィアとイリナの復活した祝いを楽しみ続けたのだった。


 
 

 
後書き
 次回は漸く参観日です。 
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