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展覧会の絵

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第一話 キュクロプスその二

「流石にそれはね」
「無理なんだね」
「この世で本物は一つしかないものだから」
 だからだとだ。十字はその少年に述べる。
「だからイミテーションだよ。それでもね」
「それでもなんだ」
「そこにあるものはそのまま出ているよ」
 そうなっているとだ。彼は少年に話すのだった。
「絵にあるものはね」
「それはなんだ」
「絵に描かれている人間の心は」
 それがだ。出ているというのだ。
「ちゃんとね」
「絵にある人の心」
「絵は鏡でもあるからね」
 こうも言う十字だった。
「だからイミテーションであってもね」
「人の心が出るんだ」
「それは違うかな」
「ううん、その通りだよ。それにしてもこの絵を描いたのは」
「僕だよ」
 他ならぬ十字だというのだ。そしてだった。
 彼はだ。こうも言うのだった。
「この絵を描くことは教会からも許されているから」
「だから描いてもいいんだね」
「むしろ。こうして人の心を描くことは」
「それは?」
「僕の務めなんだよ」
 そうだとだ。彼は言うのだった。
 そしてだ。そのうえでだった。その中の一枚の絵に顔を向けてだ。そして言うのだった。
「この絵だけれど」
「ええと。この絵は」
「どう思うかな」
 それは一つ目の巨人の絵だった。その巨人が山から顔を出してだ。
 そのうえでうたた寝をしている美女を覗き込んでいる。絵は中間色が目立ち全体的にぼやけている。その絵を観てだ。少年はこう言うのだった。
「ルドンだね」
「そうだよ。ルドンだよ」
「ルドンのキュクロプス」
 その絵だというのだ。その観ただけで不安になる絵はだ。
 その絵を観ながらだ。少年は表情を暗くさせて言うのだった。
「本当にね。この絵は観ているだけでね」
「不安になってくるね」
「無気味な絵だと思うよ。けれど」
「これも人間の心だからね」
 そうだとだ。十字は彼に話すのだった。
「だから描いたんだ」
「人の心を」
「そう、人の不安定で無気味な心をね」
「この絵にはそういう意味も入っていたんだ」
「僕はそう見るよ。それにね」
 さらにだとだ。十字はだ。
 今度はそのキュクロプスの隣にあるだ。別の画家の絵に顔を向けた。
 それはルドンの不安定なものとは違いだ。剥き出しの醜さがあった。
 それは描かれている者、それに使われている色彩もだ。異様にグロテスクだった。その中にいる女、やけに骨ばった顔をしていてくぼんだ目の醜女が王妃の服を着ている。
 その女を観てだ。十字は少年に話した。
「この絵は誰のかわかるかな」
「ゴヤかな」
「そうだよ。ゴヤだよ」
 十九世紀のスペインに活躍した画家だ。祖国スペインとナポレオンの戦いを描いたことでも知られている。
 その彼が当時のスペイン王室を描いた絵だ。その絵にその女がいたのだ。
 つまり彼女こそスペイン王妃だ。その両手にそれぞれ手を握っている子達はというと。 
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