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ウルトラマンカイナ

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特別編 ウルトラカイナファイト part13


 かつてウルトラマンが初めてその姿を現し、宇宙怪獣ベムラーと戦った場所として知られている竜ヶ森湖。
 豊かな森と広大な湖に彩られた絶景ということもあり、現代においては多々良島と同様に観光スポットとして人気を博していたのだが。

「こ、こいつ俺達を食う気だぞ! に、逃げろおぉおっ!」
「いやあぁあっ! こ、来ないでぇえっ!」

 人肉すら喰らう獰猛さを持つバードンが襲来したことにより、この地は一転して悲鳴が飛び交う修羅場と化していた。ギョロリと蠢く怪鳥の双眸は、逃げ惑う人々という「餌」の動向を追い続けている。

『てめぇの相手は……俺だって言ってんだろうがさっきからよぉおッ!』

 彼の相手を務めているウルトラマンジェムは、背後からその巨躯を羽交い締めにして、真後ろに放り投げたのだが。バードンは両翼を羽ばたかせ、容易く体勢を立て直してしまう。
 旅行客達を庇うように一気に間合いを詰めたジェムは、甲殻を纏う肩部でのタックルを仕掛けたのだが。バードンの巨体には、まるで通じていない。矢継ぎ早に拳やチョップを叩き込んでも、巨大な怪鳥は平然としていた。

『こいつ……タフだなんてレベルじゃねぇ。生物としての「格」が……違い過ぎるッ!』

 ジェムの方からは何度パンチを打ち込んでもびくともしないのに、バードンが翼を一振りするだけで、ジェムの身体は容易くよろけてしまうのだ。
 小細工で解決できる差ではない。1年間に渡り死線を潜り抜けてきたジェムでさえ通用しないほどの力を、この個体は秘めている。

 首魁に次ぐ戦闘力を誇る、事実上のNo.2。テンペラー軍団最強の怪獣兵器。それがこの、火山怪鳥バードンなのだから。

『くそッ、なんて耐久力なんだッ……! こうなったらァ……!』

 甲殻の重量や硬度を利用したパンチですら通用していないのだ。もはや、通常の肉弾戦では勝ち目などないことは明白。ならば、次の手を打つしかない。
 翼を広げ、頭上を取るように天高く飛び上がったバードンを狙い――ジェムは両腕を大きく開くと、必殺光線を放つべく腕を十字に組む。

『ジェムナイト……光線ッ!』

 形成逆転を狙い、発射された眩い閃光。手の宝石を輝かせて放たれた、その一撃は――確実にバードンの胴体を捉えていた。
 その、はずであった。

『な、にッ……!?』

 避けられたわけではない。バードンはその胴体で、ジェムナイト光線を受け切ってしまったのである。
 特別なバリヤーの類を使われたわけでもない。単純な耐久力だけで、ジェムナイト光線が破られたのだ。

『ジェムナイト光線が、通じない……!?』

 勝負を急ぐあまり、敵を弱らせないままジェムナイト光線を使った結果、避けられてしまい窮地に陥ったことならある。だが、外したわけでもないのにこの光線が全く通用しなかったのは、今回が初めてだったのだ。
 これまで戦って来た怪獣達とは、明らかに「格」が違う。それを改めて肌で実感させている相手を前に、ジェムはただ息を飲むしかなかった。

 だが今は、慄いている場合ではない。反撃を開始したバードンは、ジェムの全身を飲み込むような凄まじい火炎放射を放って来たのである。

『うぉあぁあッ!? ……あちゃちゃちゃちゃッ!』

 咄嗟に身を屈めることで、直撃だけは回避したのだが。頭頂部には猛炎が掠っていたのか、その部分だけが激しく燃え上がっている。
 慌てて燃えている頭を湖に突っ込んだジェムは、なんとか鎮火に成功したのだが。水面から顔を上げた時にはすでに、着陸したバードンが鋭い嘴を振り上げていたのである。

『ぐぁ……あぁッ!?』

 ジェムも咄嗟に、甲殻を盾に防御姿勢を取ったのだが。嘴による刺突の嵐は、その甲殻すらも破壊してしまう。
 圧倒的な貫通力により、ジェムの身を守っていた甲殻は全て打ち砕かれてしまうのだった。その衝撃に倒れたジェムの巨体が、水飛沫を上げて湖に倒れて行く。

 だが、まだ勝負が決したわけではない。バードンはジェムにとどめを刺すべく、点滅するカラータイマー目掛けて、最後の一突きを繰り出そうとしていた。

 その絶望的状況の最中、固唾を飲んで戦局を見守っていた旅行客の1人が、声を上げる。

「……!? おい、あそこ!」

 彼の視界に映り込んでいたのは――空の彼方から飛来して来た、大型のジェット輸送機だった。過去の防衛チーム「HEART(ハート)」で運用されていた、ハートワーマーをベースとする「BURKワーマー」だ。
 その機首部に搭載されているレーザー砲が火を噴いた瞬間、ジェムにとどめを刺そうとしていたバードンは頭部に熱線を受け、大きく怯んでしまう。B-52「ストラトフォートレス」のものを想起させるレドームが、バードンの位置を正確に捕捉していたのだ。

『命中を確認、これより本機は着陸体勢に入るわ! エレーヌ隊は直ちに突入準備! 人類の底力というものを、あの鳥野郎に教えてあげなさい!』
『了解しました! アリア機長、お願いしますッ!』

 30過ぎの女性とは思えない幼い容姿を持ち、「合法ロリ」とも呼ばれているアリア・リュージュ機長。そんな彼女の指揮により運用されているBURKワーマーは、近くの草原にゆっくりと垂直に着陸して行く。
 それから間も無く、そのハッチから矢継ぎ早にBURKの歩兵部隊が駆け出して来た。その腕章には、トリコロールの国旗が描かれている。

 光線銃を手にこの場に駆け付けて来た彼らは、BURKのフランス支部から派遣された精鋭部隊なのだ。だが、彼らの参戦を目撃した人々からは、不安の声が上がっている。

「BURKの……フランス支部!? 生身でやり合う気かよ、あいつらっ!」
「あんた達、戻れっ! ウルトラマンジェムでも敵わない相手なんだぞ!? 殺されちまうっ!」

 それでもフランス支部の歩兵部隊は、旅行客達の声に耳を貸すことなく、光線銃の引き金を引く。外野の下馬評など知ったことか、と言わんばかりに。
 そして、バードンの片目にのみ照準を合わせていた彼らの銃撃は、寸分の狂いもなく命中していた。1丁だけでは大した威力にはならない光線銃でも、数十人掛かりで脆弱な部位に撃ち込めば、十分な効果を発揮できるのだ。

「す、すげぇ! あいつら、怪獣の片目を潰しやがった!」
「あぁ、でもダメだ……! あの怪獣、ますます怒っちまった!」

 片目を潰されたバードンは甲高い悲鳴を上げ、横転してしまう。だが、残されたもう一つの目は激しい怒りと殺意を宿して、歩兵部隊を射抜いていた。
 すぐさま立ち上がったバードンは、光線銃の狙いを安定させられないように、両翼をはためかせて猛風を起こしていく。その風圧に次々と転倒していく歩兵達を冷酷に見下ろしながら、怪鳥は嘴を大きく開いていた。

 貴様らなど餌にも値しない。この場で消し炭にしてやる。その意思を込めた、火炎放射を放とうとしているのだ。

『させ……るかぁああッ!』

 だが、それを許すウルトラマンジェムではない。水飛沫を上げて立ち上がったジェムは、背後からバードンの嘴を掴むと、力任せに閉じて火炎放射を逆流させてしまった。
 ウルトラマンリッパーと、ウルトラマンルプス。荒々しく野性的な戦法を得手とする師匠達の教えが、この強引な力技に顕れているのだ。

 自身の火炎で体内を焼かれたバードンは苦しみにのたうち、ジェムから距離を取るように湖から這い出て行く。その時すでにジェムは、「最後の切り札」である最強形態へと進化していたのだ。

 全ての甲殻を捨て、細く引き締まった体格へと変貌したジェムの肉体。その差し色は茶色から、鮮やかな虹色へと変わっていた。
 まるでダイヤの原石が磨き上げられ、眩い宝石へと生まれ変わったかのように。ジェムの身体は、「ブリリアントモード」へと強化されていたのである。

『……へっ。カイナ兄さんは鎧を着てからが本番なんだけどな。俺の方は、脱いでからが本番なんだよッ!』

 甲殻を失い、身軽になったというのに。中腰の姿勢から、一気に間合いを詰めて放たれたジェムのパンチは、以前よりも遥かに強力になっていた。
 先程までとは比べ物にならない速さで飛ぶジェムの拳に、バードンは悲鳴を上げる暇もなく吹っ飛ばされてしまったのである。単に身軽になっただけではない。パワーまで大きく向上しているのだ。

 生物としての「格」が違い過ぎる。
 優秀な怪獣兵器であるが故に、その事実を本能で察知したバードンは、両翼を広げて素早く上空へと飛び立ってしまう。
 頭上から攻撃するつもり、というわけではない。このまま逃げるつもりなのだ。

『――逃すかよ』

 先程は容易く防がれたが、今度はそうはいかない。そう言わんばかりに、ジェムは再び両腕を大きく開き、十字に組む。

『ブリリアントッ! 光ッ線ッ!』

 そこから放たれる、虹色の巨大な閃光は――空の彼方へ逃げ去ろうとしていたバードンの背に突き刺さり。痛みを感じる暇すらも与えず、一瞬のうちに爆散させてしまう。
 この一撃を以て、ジェムの勝利は確実なものとなり。テンペラー星人が従えていた怪獣軍団は、ついに全滅の時を迎えたのだった。

「か……勝ったのか!? 勝ったんだ、ウルトラマンジェムが勝ったんだぁあ!」
「おい、ニュース見ろよ! 他のウルトラマン達も、全部の怪獣を倒しちまったらしいぜ!?」

 その瞬間と爆炎を仰ぐ人々は、さらなる吉報を耳にして歓声を上げている。バードンの最期を見届けていたフランス支部の歩兵部隊も、安堵の息を吐き出していた。

「……あれがウルトラマンジェムの真の力、ということですか。ふふっ……私達フランス支部も、負けてはいられませんねっ!」

 現代に蘇ったジャンヌ・ダルクの如く、歩兵部隊を率いていた金髪の巨乳美少女――エレーヌも。虹色の光線を以て、地球に勝利を齎したジェムの巨躯を仰ぎ、華やかな笑みを咲かせていた。
 戦闘の終結を見届けたアリア機長も、仲間達の生還に安堵の息を漏らしている。

『……皆、ありがとうな。この調子で必ず、カイナ兄さんも助けて見せるぜ。……タアァーッ!』

 そんな隊長の笑顔と、喜びの声を上げる人々に親指を立てた後。両手を広げて地を蹴ったジェムは、東京を目指して全速力で飛び去って行く。
 ブリリアントモードに変身したことで、マッハ7もの加速を得たジェムの身体は、瞬きする暇もなく人々の視界から消え去るのだった。

 ――そして、全ての怪獣を撃破した5人のウルトラマン達は。ついに決戦の地へと、足を踏み入れるのである。
 6年間にも渡る死闘の連鎖に終止符を打ち、この地球に真の平和を取り戻すために。

 今こそ。その手を、繋ぐ時が来たのだ。
 
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