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英雄伝説~西風の絶剣~

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第68話 白い影の調査

 
前書き
 原作のストーリーだけだと物足りないのでイース8の出来事の一部を話に組み込んでみましたのでお願いします。 

 
side:リィン


 俺達は飛行船に乗ってルーアンに向かうことにした。長い空の航海の後無事にルーアンに付いた俺達は飛行船を降りてギルドに向かい責任者のジャンさんに挨拶をした。


「久しぶりだねぇ!君たちが来てくれて本当に助かるよ!」
「あはは……もしかして仕事が溜まってるの?」


 出会って早々にテンションを上げたジャンさんにエステルが苦笑しながらそう聞いた。


「なにせカルナさんが留守だから掲示板が堪っていてね、幸い市長選挙は軍が取り仕切ってるからこっちにはあまり仕事は降られていないのが救いかな。もしそちらもギルドに仕事の要請が来ていたら本当に回らなくなるところだったよ」
「選挙ですか?」


 ジャンさんの話に出てきた選挙という言葉に姉弟子が反応した。そういえば何やら町が騒がしかったけど選挙があるのか。


「前の市長だったダルモアが捕まってから市長は不在だったのね。誰が立候補してるの?」
「観光事業を推奨しているノーマン氏と港湾事業を推奨しているポルトス氏だね。今町は丁度この二人を指示する人間で半々に分かれているんだ。それだけ注目を浴びているって事だね」


 まあルーアンの人たちからすれば今後のこの町の未来につながっていく事だから白熱もするよな。


「ねえリィン、選挙って何?」
「まあ俺達にはあまりなじみのない言葉だよな」


 猟兵は一定の場所に留まらない流れ者である為俺達は選挙という出来事自体に慣れていない、だからフィーが選挙について説明を求めてきた。


「簡単に言えば市長などの偉い立場にある役職に立候補した人を町の人たちが票を出し合って決める事さ。一番票が多かった方が選ばれるんだ」
「わたし達も票を入れるの?」
「俺たちは未成年だから投票する資格はないよ、18歳以上から資格があるんだ。そもそも住民として登録されていないと投票はできないけどね」
「ふーん、そういうのがあるんだ」


 俺は簡単に説明するとフィーは納得してくれた。


「それでジャンさん、何か怪しい物を見たとかっていう情報は無いの?あたし達結社を追っているんだけど」
「怪しい……というと一つあるけど正直眉唾物だよ」
「何でもいいんです。教えてください」
「分かった。その怪しい物というのは亡霊なんだ」
「へっ……?」


 エステルはジャンさんに怪しい人や物の目撃情報がないか聞くとジャンさんは亡霊と答えた。


「亡霊……ですか?」
「うん、そうなんだ。ここ1~2週間の間に『夜に白い影を見た』っていう報告がルーアン各地から何件もギルドに寄せられたんだ」
「ルーアン各地で亡霊を見たってことですか。それだけ目撃者がいるのなら悪戯の可能性は低そうですね」


 姉弟子が亡霊?と首を傾げて聞くとジャンさんはルーアン各地から目撃情報があったと話す。俺はそれを聞いてソレだけ目撃者がいるなら悪戯の線は低いと考えた。


「じゃ、じゃあ本当に幽霊がいるってこと!?」
「本当に幽霊なのかは分からないけどこれだけ目撃情報があったらさすがに無視はできないよ。今は幸い何も起こっていないけどもし犠牲者が出たら取り返しがつかないからね」
「そ、そうね……直に解決しないとね……」
「後亡霊だけでなく『幽霊船』も見たって話が出てるんだ。この情報はマリノア村の方から送られてきたね」
「ゆ、ゆ、幽霊船~!?」


 更に幽霊船の目撃情報もあったらしくエステルは凄く驚いていた。


「それで依頼をこなす合間にこれらの事も調べてくれないかい?」
「えっ、でも……安受けはあんまりできないしあたし達も忙しいっていうか……」


 いつもなら二つ返事で承諾するはずのエステルが何故か嫌そうにしている。


「エステル、もしかしてお化けとか駄目なタイプなの?」
「え、やだ、違うわよ!全然そんなことないんだからね!」


 フィーがそう聞くとエステルは慌てながらそう言う、でも皆の視線を受け続けて笑みを消してしまった。


「……ごめんなさい、実はちょっと苦手です」
「あはは、ちょっとって感じじゃなかったけど……でもそれなら幽霊の調査は私達がやるからエステルちゃんは依頼をこなしてもらっていてもいいよ」
「ん、わたしも一緒に行動するよ。リィンもそれでいいよね?」
「ああ、単独行動は危険だしな。それに俺とフィーだけだと他の遊撃士に警戒される恐れもある」


 エステルを気遣って姉弟子が調査は自分達がすると話す。エステルにはフィーが付いていれば問題無いだろう。


「……ううん、やっぱりあたしも行くわ。怖いけどヨシュアがいなくなった時の事を想えば全然マシだもの」
「エステルちゃん……うん、分かったよ」


 こうして俺達は白い影と幽霊船の調査に当たる事になった。既に目撃証言は纏めているらしいが新たに3件の目撃情報があったためにそれを順番に回る事になったんだ。


 最初はルーアンの不良グループ『レイヴン』の元に向かう事になった。レイヴンといえば武術大会で見た事のある子達だったな。


「あいつらに会うのも久しぶりね~」
「確か港の倉庫を根城にしてるんだったよね」
「武術大会で見かけたけど中々やる子達だったね。対戦相手が違っていたら本戦に出てたかも」
「そういえばフィーが言い寄られたんだっけ……なんだかいい気分はしないな」
「リィン君、顔が怖いわよ」


 エステルにひきつった顔でそう言われるが……うーん、我儘だと思うけどやっぱりいい気はしない。


「リィン、わたしが好きなのはリィンだから他の男の人に言い寄られても受けたりしないよ」
「お、おう……」


 フィーはハッキリと俺が好きだと言ってくれた、すると胸の不安が少しなくなっていった。


 こんないい子の告白を保留にしてるくせに他の男に言い寄られるのを知って不安になるなんて俺って本当に情けない男だよな……


「それにわたしが取られそうだって不安ならこうしてればだいじょーぶだよ」
「お、おいフィー……」


 フィーは俺の腕に自らの腕を絡めると更に指を恋人がするように絡めてきた。


「これならわたしたちがそう言う関係だって思いこむよ。ねっ、これなら安心でしょう」
「……そうだな」


 確かに何故か胸の不安はとれた。恥ずかしいが俺はフィーと手を繋いだまま行くことにした。


「あはは、フィーってば積極的ね。あたしも負けてらんないわね!」
「そうだね。ヨシュア君を連れ戻したら思いっきり甘えてあげるといいよ!」


 エステルと姉弟子の温かい眼差しを受けながら俺達はレイヴンのアジトへと向かうのだった。


―――――――――

――――――

―――


「ここがレイヴンのアジトよ。おじゃましまーす!」


 エステルはそう言ってまるで友達の家に入るかのように中に進んでいった。


「あん、一体誰だ?ここがレイヴンの……ってお前は!?」
「エステルちゃーん!フィルちゃんも!久しぶりだなぁ!」


 中にいたメンバーの内若い男の三人がエステルを見て反応する。確か彼らがレイヴンのリーダー格の三人だったな。


「久しぶりねアンタ達、相変わらず元気そうで何よりだわ」
「はっ、そりゃこっちのセリフだぜ。それで態々こんなところに何の用だ、態々顔を見せに来たって訳じゃないんだろう?」
「うん、あたし達今日はギルドの仕事できたの。実は……」


 エステルは彼らに白い影を見たメンバーがいる事を聞いてココに来た趣旨を話した。


「……なるほどな。確かにその白い影を見たって奴はウチにいる」
「なら……」
「だが条件がある。情報が欲しければ俺達と戦え」
「えっ?どうして」


 レイヴンのリーダー格の三人の一人であるロッコは俺達に勝負を挑んできた。何が目的なんだ?


「最近魔獣も強くなって俺達も苦戦しちまってるんだ。このままじゃレイヴンの名が廃っちまう」
「なるほど、それであたし達に稽古してほしいって事ね」
「まあな。だがこっちはマジで勝ちに行かせてもらうぜ。もし俺達が負けたら知ってる情報を全て教えてやるよ」
「あたしたちが負けたら?」
「そうだなぁ……」
「はいはーい!俺エステルちゃんかフィルちゃんとデートしたい!」


 ロッコがどうするか考えているとレイスという少年がそんな事を言い出してきた。


「デートだと?」
「そりゃいいな。俺あそこにいる茶髪の剣士の姉ちゃんすっげぇタイプなんだよな!」
「俺はエステルちゃん!もしくはフィルちゃんが良い!」


 それに便乗してディンという少年も賛成と言って手を上げる。


「お前らなぁ……まあ俺は興味ねえが一杯奢ってもらえばいいか。この条件で良いか?」
「いいんじゃないか?勝てればな」


 好き勝手に言う3人に俺は太刀を抜きながら前に出た。


「あん?なんだよお前は?」
「フィー……いやフィルの兄貴さ。この子とデートしたいなら俺を倒してみろ、3人まとめて相手をしてやる」
「はぁ?いきなり出てきて調子に乗んなよ!」
「いいじゃねえか、あのヨシュアって奴じゃないならイケるだろうぜ?」
「ああ、俺達を相手に一人でやるなんてほざく奴は気に入らねえ。やっちまうぞ!」


 3人は武器を抜き戦闘態勢に入った。


「行くぞ……!」


―――――――――

――――――

―――


「ぐっ……なんなんだよ、コイツ!」
「は、早ぇし分身しやがったぞ……!」
「剣から炎を出すし……アガットみてえな事しやがって……」
「いや強かったよ、3人共。少し本気になった、正直予想以上だったよ」


 勝負は俺が勝ったが意外にもやるのでクラフトも使った。真面目に鍛え込んでいけば将来遊撃士としてもやっていけそうだな。


 猟兵のくせに遊撃士を進めるのかって?だって猟兵なんて本来なるような仕事じゃないし遊撃士の方がよっぽどマシだろう。


「お疲れ様、リィン」
「意外と粘られたね、前よりも強くなっていたしあの子達もやるね」


 フィーと姉弟子にねぎらいの言葉を貰った。


「大丈夫?リィン君も無茶するわね。でもあんた達最初に会った頃と比べると本当に強くなったわね。不良なんてやってないで遊撃士でも目指したらどう?」
『えっ!?』


 エステルも同じことを思ったのか彼らに遊撃になったらどうかと言う。それを聞いた3人は驚いた顔をしていた。


「俺達が遊撃士?ありえねえって!」
「そう?十分にやっていけると思うわよ。少なくともあんた達だってずっと不良やってるつもりはないんでしょう?いい機会だと思うけど」
「……とりあえず約束は約束だ」


 三人はそれぞれ違う反応をしていたがロッコが話を進めた。そして彼らから情報を知っているというメンバーの事を聞いて俺達はそこに向かうことになった。


「それじゃあね。あっ、そうだ。さっきの話考えておいてよ、遊撃士って人手不足だからあんた達がなってくれたらあたしも嬉しいわ」
「はっ、気が向いたらな」
「また来てくれよなリィン、今度は俺達が勝つからな!」
「アネラスちゃんもフィルちゃんもまたね~♪」


 三人に見送られて俺達は倉庫を後にした。


――――――――

――――――

―――


 その後俺達はレイヴンのメンバーから情報を貰って残る二つの目撃情報を得る為に姉弟子と共にエア=レッテンの関所に向かっていた。


「えへへ、弟弟子君と二人だけで一緒に行動するのって初めてだね」
「そう言われるとそうですね」
「でもよかったの?フィーちゃんと一緒じゃなくて」
「俺達だけで行動すれば事情を知らない遊撃士たちが警戒するかもしれません」
「そう言う事じゃなくて……」


 エステルとフィーはもう一つの目撃情報のあったマーテル孤児院に向かっている。それぞれ反対の方向だから分かれた方が良いと判断した結果だ。


 フィーは孤児院でお世話になっていたから子供たちに会いたかったと思うしエステルもいれば問題は無いと思うんだけど……


「だってレイヴンの子達にあんなに嫉妬していたのにフィーちゃんと離れてもよかったの?」
「えっと……」


 どうやら俺は相当感情を丸出しにして戦っていたらしい。姉弟子はふざけてそう聞いたんじゃなくて本当に心配してくれているのだろうとは分かったが……


「そんなに顔に出てましたか?」
「うん、すっごく面白くないって顔してた」
「そうですか……」
「あのさ、お節介かもしれないけど聞いてもいい?どうして弟弟子君はフィーちゃんやラウラちゃんと付き合わないの?どう見ても両想いだし問題は無いと思うんだけど……」
「……俺が悪いんです。俺だって本当はもうわかっているのに、過去の出来事が頭によぎってどうしてもあと一歩が踏み出せないんです……」


 姉弟子は悪気なく純粋にそう思って質問したんだろう、でも俺はそう返す事しかできなかった。


 エレナが死んだあの日、俺は誰かを好きになるのが怖くなった。俺が好きになった子は死んでしまうんじゃないかと思ってしまうんだ。


「……ごめんね、弟弟子君にも色々あるのに興味本位でこんなこと聞いちゃって」
「気にしないでください。俺がいつまでも引きずっているのが悪いんです」


 何かを察した姉弟子は申し訳なさそうな顔をするが俺は気にしないでくれと言う。


「いつまでも過去に囚われている訳にも行きません。俺は必ず鬼の力を使いこなせるようになってフィーとラウラの想いに応えます」
「そっか……なら私は姉弟子として応援するよ!もし私にできる事があるなら遠慮なく言ってね、力になるから!」
「ありがとうございます、姉弟子。頼りにしていますね」


 姉弟子にお礼を言い俺達は街道を進んでエア=レッテンに向かった。


――――――――――

――――――

―――


「うわ~、すっごい滝だね」
「ここがエア=レッテンの関所か……来るのは初めてだな」


 関所に付いた俺達はまずそこの責任者に話をして幽霊を見たという人物に会わせてもらった。そして彼から幽霊の特徴や何をしていたのかを聞き取ることが出来た。


「話を聞くと本物としか思えないよね~」
「ええ、しかし幽霊は兎も角幽霊船の方は話はまだ聞けていませんね」
「マリノア村の方で見かけたって話だしエステルちゃん達が何か情報を得たかもしれないね」
「なら一度ルーアンに戻って合流しましょう」


 話を聞き終わった俺達はルーアンに帰ろうとした。すると何かの会話が聞こえてきた。


「わぁ~、すっごい眺めだね!パパ!ママ!」
「コラコラ、そんなに騒いだら他の人に迷惑だよ」


 どうやら旅行客のようで滝の眺めを見ているらしい。小さな赤い髪をした男の子が菫のような淡い紫色をした男性に注意されていた、そんな二人を見て奥さんらしき赤い髪の女性が笑顔を浮かべていた。


「あはは、仲のよさそうな家族だね」
「ええ、微笑ましいですね……」


 俺は男性の髪の色を見てレンを思い出してしまった。丁度あんな色の髪をしているんだよな、レンは……


「あっ、ねぇねぇそこのお兄ちゃん!」
「えっ?」


 すると滝を見ていた子が俺に声をかけてきた。


「この滝ってなんて名前の滝なの?」
「こらコリン……申し訳ありません」
「いえいえ大丈夫ですよ。この滝はね『エア=レッテン』っていうんだ」
「そうなんだー!エア=レッテン!エア=レッテンー!」


 きゃははと笑いながらジャンプする男の子を見てほっこりしてしまう。


「ありがとうございます。お二人も旅行中ですか?」
「いえ俺達は遊撃士でして……」
「ああ、そうだったんですか。お忙しい所を申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。貴方方は旅行で?」
「ええ、普段忙しくてなかなか家族サービスをしてやれなくて……漸く時間が取れてこうして家族で旅行しに来たんです」
「いいお父さんですね、家族を大事にしていて素晴らしいと思います」


 俺は遊撃士じゃないが説明が面倒なので誤魔化した。男性は姉弟子の遊撃士の紋章を見て納得してくれたしね。


 どうやらこの家族はリベールを旅行中らしい。今は家族サービスの真っ最中のようだ。


 家族の為に時間を作ろうとする良いお父さんだな。団長もよく忙しいのに無理をしてまで俺達との時間を作ってくれたのを思い出した。


「お兄ちゃん、教えてくれてありがとうね。僕の名前はコリンって言うの!」
「そっか、ならお兄ちゃんも名乗らないとな。俺はリィンっていうんだ。よろしくね、コリン君」
「うん!」


 コリン君か、元気で素直ないい子だな。


「そろそろ私達は行きますね。ほらコリン、お兄さんたちに挨拶しなさい」
「うん!バイバイお兄ちゃん!」


 彼らはそう言って行ってしまった。


「あはは、弟弟子君って小さい子に好かれやすいんだね。私なんて見向きもされなかったよ。ちっちゃくて可愛かったなぁ~、抱っこして見たかったよ」


 姉弟子はそう言って俺をからかってくる。俺は少し恥ずかしくなって顔を逸らした。


「そ、そういう事じゃないと思うんですが……でも本当に良い子でしたね」
「うん、リベールの旅行を楽しんでくれるといいね。その為二も私達で頑張らないとね」
「そうですね、俺達も頑張りましょう」


 俺達は新たに決意をしてルーアンに戻るのだった。


―――――――――

――――――

―――

side:フィー


 リィンとアネラスと別れた後、わたしはエステルと共に孤児院に向かっていた。


「皆元気にしてるかな……」
「そういえばフィーは孤児院でお世話になっていたんだっけ?ジャンさんの話だと新しい孤児院は完成しているらしいし会うのが楽しみね」
「うん、すっごく楽しみ。早くみんなに会いたいな……」


 わたしは期待を胸に込めてエステルにそう答えた。そして遂にマーシア孤児院に付いたんだけど……


「ああっ……!」
「驚いたわ、立派な孤児院に戻ってるじゃないの」


 そこにはあの焼け焦げた跡地があった場所とは思えないほど立派な建物が作られていた。


「良かった……無事に孤児院を立て直せたんだね……」
「フィー……」


 わたしは嬉しくなってしまいつ泣きそうになってしまった。エステルはそんなわたしを気遣って肩を叩いてくれた。


「あら、そこにいるのは……もしかしてフィーさんですか?」
「テレサ!」


 わたし達に声をかけたのはこの孤児院の責任者であるテレサだった。


「テレサ!」
「ふふっ、久しぶりですね。お元気そうで何よりです」


 わたしは感極まってテレサの胸の中に飛び込んでしまった。テレサはそんなわたしの頭を優しく撫でてくれた。


「ごめんね、会いに来ただけで泣いちゃって……」
「私だって嬉しくて仕方ないんです。だから気にしないでください」


 わたしは顔を赤くしながらテレサから離れた。


「ふふっ、フィーったらお母さんに甘える子供みたいだったわよ」
「むっ、エステルだってわたしの胸の中で泣いたくせに」
「あら、そうなんですか?」
「い、言わないでよぉー!」


 エステルがからかってきたのでお返しにと前に泣いてたことを話したらわたしの口をふさいできた。そんな私達を見てテレサは笑っていた。


―――――――――

――――――

―――


「なるほど、白い影の情報を聞くために来てくださったんですね」
「はい、テレサ先生が連絡をくれたってジャンさんから聞いたので」
「そうだったんですね。でもごめんなさい、見たのは私じゃなくてポーリィなんです」
「そういえば皆ここにはいないね。クローゼと一緒にマリノア村に行ってるの?」


 わたしは眩む太刀の姿が見えなかったからそう聞いた。クローゼもよくここに来ていたし一緒に行動してるんじゃないかと思ったの。


「子供たちは今マリノア村で行われている日曜学校に参加していますよ。最近こられた巡回神父さんが子供好きで皆も懐いたようで……」
「巡回神父?」


 前に神父と名乗ったケビンと出会った事を思い出した。もしかしたらって思ったけど流石に考えすぎかな?


「クローゼさんは最近は孤児院には来られていません。確か今の時期は学園の試験期間のはずですので忙しいのでしょうね」
「うわ~やっぱり学生って大変ね……」


 試験と聞いてエステルは顔をしかめていた。勉強ばっかりで学生って大変そうだね、お昼寝する間もなさそう。


「ならあたし達で迎えに行かない?ついでにここまで送ってあげれば一石二鳥だし」
「いいねそれ、グー」


 エステルの提案にわたしもサムズアップして答えた。


「そんな、ご迷惑じゃ……」
「いいのいいの、どのみち会いに行くんだからそんなの何ともないわ。ねっフィー?」
「ん、そう言う事だから遠慮しないで頼って、テレサ」
「分かりました。あの子達をお願いしますね」


 わたしとエステルは子供達を迎えにマリノア村に向かった。



―――――――――

――――――

―――


「マリノア村、いつ来てものんびりとした空気で居心地が良いわねぇ」
「ん、ここの潮風に身を委ねてするお昼寝は最高だった」
「あたしもお昼寝しちゃったのよね、あの時は……」
「エステル?」
「……ううん、何でもないわ。さあ行きましょう」


 わたしは急に落ち込んでしまったエステルを見て首を傾げた。何か嫌な事を思い出しちゃったのかな?


 でも深く聞くのは良くないと思ってそのままにしておいた。誰だって聞かれたくないことはあるもんね。


 日曜学校をしている場所を探していると不意にエステルがあるベンチを見て少し悲しげな顔をしていた。


「どうしたのエステル、あのベンチに何かあるの?」
「あたしが準遊撃士の頃にヨシュアと初めてこの村に来た時にあそこでお弁当を食べたの。その後にヨシュアに膝枕をしてもらって……あれからもうこんなにも立ったんだなって思っちゃったんだ」
「エステル……」


 あのベンチはエステルにとって思い出の場所なんだね。そりゃあんな顔もしちゃうよね……


「エステル、その……」
「大丈夫、涙はあの時いっぱい流したから……」


 わたしは何か言葉をかけようとしたが、エステルは笑顔で大丈夫だと話す。


「フィーが悲しい気持ちを受け止めてくれたからあたしはもう泣かないわ。ヨシュアを連れ戻すまで絶対ね」
「……ん、ならわたしも全力で支援するよ」


 わたしは絶対に最後までエステルの味方でいようと決意を新たに固くする。ヨシュア、覚悟しておいてよね。


「さてと、それじゃ日曜学校が行われている場所を探しましょう」
「きゃはは!先生の話面白いな!」
「あれ、今の声って……」
「ん、クラムの声だと思う」


 風車小屋から子供の笑い声が聞こえてきたね、よく見ると張り紙が張ってある。そこには『日曜学校、授業中』と書かれていた。


「あっ、ここだったんだ」
「どうやらまだ授業中みたいだね。でも日曜学校ってこんな感じなんだ」
「あれ、フィーは日曜学校に参加したことないの?」
「ないよ。猟兵って基本的に流れ者だからそういうのには参加してない。生きるのに必要なことは団の皆が教えてくれたから」
「へ~、フィーにとって西風の皆が先生なんだね」
「ん、そうだね」


 日曜学校には参加したことないけど大事なことは団長や皆から教わってきたからね。まあ勉強は苦手だけど……


「おっと、誰かがのぞき見しとるな。そこにいるお二人さん、授業はもう終わったから入っておいでや」
「えー!?本当!?」
「だれだれ?だれなのー?」
「やいやい!正体を表せ!」


 のぞき見してるのがバレちゃったね、しかも人数も出当てられたし。というかこの声って確か……


 わたしとエステルは風車小屋の中に入った。するとわたし達を見て子供たちと巡回神父が驚いた顔を見せた。


「あれ、確か君らは……」
「フィル!フィルじゃねーか!」
「わー!フィルお姉ちゃんだー!」
「エステルお姉ちゃんもいるー!」


 巡回神父は前に出会ったケビンだった。彼も驚いていたけど子供たちは一斉に笑みを浮かべてわたしの元に駆け寄ってきた。


「皆、久しぶりだね。元気にしてた?」
「あったりまえだろ!お前こそ元気にしてたのかよー!」
「クラムは相変わらずだね」


 わたしはクラムのやんちゃぶりに苦笑しながらも嬉しくて笑みを浮かべた。


 その後わたしとエステルは子供たちが落ち着くまでもみくちゃにされるのだった。


 
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