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Fate/WizarDragonknight

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暴走

 ヤマタノオロチの咆哮とともに、八つの口からそれぞれの攻撃が発射される。
 赤黒青黄紫緑茶白。
 それぞれの奔流が、マグマが溜まった岩場をどんどん破壊していく。

「可奈美ちゃん! こっちに!」

 ウィザードは急いでマシンウィンガーに跨り、可奈美に手を伸ばす。
 だが可奈美は、漆黒に染まった美炎を見て、

「ごめんハルトさん! 私、美炎ちゃんを止めなきゃ!」
「分かるけど……」

 可奈美はヤマタノオロチと美炎を見比べる。太古の怪物は、ウィザードがやってきた地上へ通じる道を目指しており、このまま夜の見滝原に出てしまえば、大惨事は免れない。
 かといって、漆黒の甲冑を纏う美炎を放置することもできない。
 ましてや今は、ブライが足止めをしているとはいえトレギアもいる。

「まずは、ヤマタノオロチから……!」
「行くよ可奈美!」
「美炎ちゃん!」

 ウィザードの提案も聞かず、可奈美と美炎の立ち合いが展開されていく。それぞれは目にも止まらぬ剣技を披露しあい、やがてヤマタノオロチの光線の合間で剣の交差を繰り広げていく。

「ちょっとちょっと……」

 落石に注意してマシンウィンガーのアクセルを踏みながら、ウィザードはヤマタノオロチを見上げる。
 後ろではブライとトレギアが蒼と紫の攻撃を打ち合っており、余計に被害を酷くしている。

「これ、俺一人でヤマタノオロチを止めろと……? 取り込まれているコヒメちゃんを助けた上で?」

 ウィザードはコピーの指輪でもう一本のウィザーソードガンを出現させる。二本のソードガンを左手に持ちながら、右手だけで運転を開始する。

「俺だけ負担、大きいってことないよね?」

 ウィザードはそう言って、ヤマタノオロチへただ一人立ち向かっていった。



「迅位斬!」

 可奈美のその速度は、刀使の中でも他の追随を許さない。その中で放たれる斬撃が、美炎を狙う。
 無論、美炎もまた、可奈美に匹敵する速度を誇る。同じく漆黒の動きが可奈美の迅位斬と互角に火花を散らす。

「これが、本当に美炎ちゃんの剣!?」
「そうだよ! これが、わたしの本当の剣だよ!」

 美炎の炎が、紅蓮より黒く染まっていく。彼女の髪から生える荒魂の目が、ギョロギョロと可奈美を捉える。
 その姿は。
 かつて可奈美が戦った大荒魂、タギツヒメ。現代最強の刀使に乗り移った戦闘形態を思い出させた。

「こんなの……っ! 剣から何も伝わってこない!」
「伝わってこない? 何のこと?」

 漆黒の甲冑を纏う美炎は首を傾げた。

「わたしは、斬りたいから斬るんだよ? 人間なんて、皆わたしたちにとって危ないからね」
「……っ!」

 可奈美は、千鳥を振るう。
 銃弾にも匹敵する速度の斬撃。それは、美炎に見切れるかは分からない。
 だが。

「無駄だよ可奈美」

 美炎、その髪から生えている眼がその全てを打ち落とす。可奈美にアイアンクローをした上で、美炎は加州清光を虚空へ振るった。

「ブライナックル!」

 その時、紫の拳の流星群が地下に降り注ぐ。
 紫の拳は加州清光によって切り払われるが、その拍子に可奈美は解放され、尻餅を着く。

「何? 邪魔だなあ……」

 口を尖らせる美炎。
 だが、空中でトレギアと戦うブライに美炎の苦言は通らない。トレギアの上を取ったブライが、ラプラスソードを振り回し、トレギア、そしてその斜線上の可奈美たちまで切り裂く。

「邪魔だって、言ってんの!」

 美炎は加州清光を振る。すると、その剣先の軌道が炎の斬撃となり、ブライへ飛ぶ。
 一方ブライも、即座に美炎の攻撃へ対応。ラプラスソードの紫の波動が、炎と相殺された。

「おやおや? お構いなしだね」

 ブライの攻撃を避けながら、トレギアは可奈美たちを見下ろした。

「中々に危険な味方じゃないか。なあ?」

 さらに、この場にはヤマタノオロチもいる。ウィザードがマシンウィンガーの上から銃撃を繰り返しているが、それでも数本の首はウィザードではなく、こちらに攻撃を放ってくる。

「危ない荒魂だなあ」

 美炎はそう言いながら、ヤマタノオロチの炎を叩き切る。可奈美もまた、水流を切り裂きながらトレギアを見上げる。

「もうちょっと私の想い通りに動いてもいいんじゃないか? まあ、勝手に暴れてもらってもいいんだけどね」
「あなたがやったんでしょ! うっ!」

 さらに、千鳥を構えなおす可奈美へ、土砂と雷鳴が降り注ぐ。可奈美は慌てて回避し、ヤマタノオロチの頭上へ飛び上がる。

「可奈美ちゃん!」

 二丁のウィザーソードガンで応戦しているウィザードを見下ろしながら、可奈美は体を回転させた。

太阿(たいあ)……」
神居(かむい)!」

 突然の美炎の声に、可奈美は慌てて防御態勢を取る。すると、炎を持つ斬撃に、可奈美は押されていった。
 だが可奈美は、美炎の剣を受け止めながら目を見張る。

「美炎ちゃん、写シは!?」
「いらないよ?」

 美炎は、炎のような勢いで可奈美へ攻め立てる。その動きは、可奈美が知る如何なる剣術とも異なるもの。見知らぬ剣術は、可奈美にとっては望むところだが、今回に限れば笑顔になれない。

「そんなものなくても、本気で斬り合えるじゃん! ほら、可奈美も!」
「っ!」

 着地と同時に上から振り下ろされる斬撃を、千鳥で地面に受け流す。
 細い岩場にめり込んだ加州清光は、轟音とともにマグマを弾き飛ばした。

「熱っ!」

 降りかかるマグマに、可奈美の動きが鈍る。写シがなければ危なかったと感じながら、可奈美はさらに後ずさる。

「まだまだ行くよ!」

 美炎の剣の動きに合わせて、マグマが唸り声を上げる。あたかもマグマそのものが可奈美の命を飲み込もうと動いているように思えた。
 もはや、千鳥が受け止めているのは剣ではない。美炎の体内より霧散していくノロがマグマと混じり合い、蛇のように可奈美を襲う。

「この動き……剣から、凄い禍々しさを感じる……!」
「禍々しさ?」

 目を大きく見開いたままの美炎が、さらに動きに激しさを増していく。黒い兜の下ながら、その勢いは止まることをしらない。
 可奈美は加州清光を受け止め、そのまま足元へ流し落とす。そのまま加州清光を蹴り上げ。

「太阿之剣!」

 悪あがきに近い、可奈美の主力技。左足を大きく引き伸ばし、赤い写シが刀身に至り、そのまま伸びていく。
 今なら、まだ加州清光を防御に回すことはできないはず。
 だが。

火之炫毘古(ひのかがびこのかみ)!」

 それは、暴走した美炎の技。
 同時に、兜の下で彼女の目が紅蓮に燃え上がる。左手で可奈美の腕からガードしたと同時に放たれる、一つ一つが彼女の主力技である神居を上回る威力のそれ。
 可奈美の太阿之剣、その長大な刀身を事細かに切り刻み、さらに可奈美の体にまでその刃が及ぶ。

「ぐっ!」

 最後に加州清光を可奈美の頭上に突き立てる。その高威力の斬撃は、可奈美の体から写シを剥がし、マグマへ投げ捨てた。

「っ……!」

 生身のままマグマに落ちれば命はない。マグマの海に接触する寸前で、可奈美はもう一度写シを張る。
 可奈美の体が地球の血液の中に沈むと、焦げるような熱さが全身を突き刺していく。

「ぐあああああああっ! 写シを剥がしたら、間違いなく死ぬ……! っ!?」

 だが、精神を摩耗し続ける可奈美が自らの状況以上に驚くことがあった。
 迷いなく溶岩の中に潜ってきた美炎。変わらず写シもなく、荒魂と化した体で溶岩の中を滑っていく。

「今度は水中戦……いや、溶岩戦だね!」

 縦横無尽に動く美炎。その動きは、あたかも溶岩の中を泳ぎ慣れているかのように、どんどん可奈美を追い詰めていく。

「っ!」

 下から切り上げてくる美炎。可奈美の防御さえも貫通し、可奈美はマグマの中から放り出された。

「がはっ!」

 空気に触れると同時に、その写シが剥がれる。全身を襲う熱さも相まって、口から息を全て吐きつくした可奈美。だが、そんな可奈美の腹を、美炎が踏みつけた。

「ぐっ!」
「あれ? どうしたの可奈美」

 美炎の加州清光が、可奈美の首元へ突き付けられる。欠けた切っ先が、今にも可奈美の首を掻っ切ろうとしている。

「美炎ちゃん……こんなの……っ!」

 可奈美は体に走る痛みを堪えながら、言い張る。

「こんなの、美炎ちゃんじゃないよ! いつもの美炎ちゃんの方が、ずっと強いよ!」
「変なこと言わないでよ、可奈美?」

 振り上げられた加州清光。

「今のわたしのほうが、ずっと強いよ!」

 漆黒に染まる加州清光。それが可奈美の命を奪おうと振り下ろされた瞬間。
 その黒い炎を、深紅の炎が突き飛ばした。

「っ!?」

 その突然の乱入に、可奈美のみならず美炎も驚く。美炎の漆黒の甲冑ごと弾き飛ばしたのは。

「ふむ。足止めされている間にこのような事態になっているとは」

 灼熱のマグマが支配する世界。それをさらに熱く感じさせる炎の模様。白い布地に描かれたそれは、地下熱による気流でふわりと浮かび上がり、その下に着用されている時代錯誤の学ランが可奈美の目に映った。

「よもやよもやだ」

 可奈美の前に立つその人物。金髪と、その毛先が深紅の。

「柱として不甲斐なし」
「……邪魔しないでよ?」

 美炎は、()へ加州清光を向ける。
 だが、それに対し、彼はすでにその剣を構えていた。

「穴が合ったら、入りたい!」

 そして。
 振るったその剣から放たれた炎は、美炎、トレギア、そしてヤマタノオロチを吹き飛ばす。

「痛いなあ……煉獄さん」
「……フン」
「煉獄さん!」
「セイバー……!?」

 その姿に、美炎は怪訝、トレギアは驚きを。ブライは無関心を。そして可奈美とウィザードは、喜びを示した。
 セイバーのサーヴァント、煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)
 日輪刀を振り抜いた彼は、ヤマタノオロチと美炎、そしてトレギアを見定めた。 
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