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Fate/WizarDragonknight

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魔王 ヤマタノオロチ

 武神鎧武が消滅した。
 その事実は、間違いないだろう。
 あれだけ響いてきた音が止んだ。穴の中に、無音の去来が満ちていくと思うと、やがて中から何か金属のようなものが飛んできた。
 ウィザードは思わず、それをキャッチする。極限まで熱せられたそれは、武神鎧武の鎧の肩パーツだった。

「っ!」

 あまりの熱さに、思わずウィザードは手を放す。
 四隅が溶けかけていたそれは、音を立てながら落ちていく。

「使われるだけ使われて、最後は贄か……哀れだな」

 ブライは吐き捨てた。

「これ……どうなってるんだ?」
「言っただろ。奴が……蘇る」

 ブライが吐き捨て終えると同時に、地鳴りが響く。

「これって……!」

 やがて、地鳴りがどんどん大きくなっていく。
 立っていられなくなるほどのそれに、ウィザードもブライも膝を折った。
 やがて。

「地鳴りが……止んだ?」

 そして訪れる静寂。
 あれだけの地震だと言うのに、周囲の町に、騒ぎ立てる様子はない。
 それは、この見滝原公園の一角だけに起こったことなのだろうか。
 ウィザードがそう自問している間にも、ブライは一歩踏み出す。

「おい、どうするつもりだ?」
「オレは行く。この先に、ムーの敵がいるのだからな」

 ブライはその一言で、穴へ飛び降りる。

「皆……無事でいてくれ……!」
『コネクト プリーズ』

 ブライを見送ったウィザードは可奈美達の無事を祈りながら、魔法陣よりマシンウィンガーを取り出す。
 すぐさま跨り、アクセルを入れる。そのマシンウィンガーは、地面を蹴り、門より下って行った。



「何……あれ……?」

 煙の中の影を見た途端、可奈美の口から感嘆が漏れた。
 突如、大きな地震が地下を揺さぶった。
 すると、可奈美たちと戦っていた四本の首が、いきなり地上へ向かい伸びていった。かと思うと、地表にあったらしき大樹を引きずり込み、封印されていた場所へ落としていったのだ。
 そして、今。
 より大きな地震とともに地下から現れたのは、より大きな蛇。
 まるで天に昇る龍のような美しいフォルム。ただの蛇とは言えない、その背骨からは無数の棘が生えており、その頭もまた無限の棘が突き出ている。その赤い目は、血で作られた球体のようだった。
 そしてその数が一つ、また一つと増えていくと、美しさは転じて醜悪さとなる。八本の首は、より深い箇所から抜き出てくる胴体部分に集合していく。その左右には小さいながら足があり、移動の際もそれで動けるようだった。
 やがて、その龍たちの雄叫びが、地下全体を揺るがしていく。
 音が切り払う煙。そこから現れた異形の怪物に、可奈美は息を呑んだ。
 紅蓮の体を持つそれは、それぞれの口から炎を吐きながら起き上がった。

「あれが本当のヤマタノオロチ……! 今度は四本なんかじゃない、八本の完全体……!」

 ヤマタノオロチは、その八対の目で、二人の刀使を見下ろす。
 そして。

 灼熱の炎。
 黄昏の闇。
 怒涛の波。
 光来の雷。
 溶解の毒。
 暴圧の風。
 衝撃の地。
 閃烈の光。

 八つの属性が、それぞれの口から放たれる。
 それは、地下の土壌を次々に破壊していく。
 衝撃を受けた地下世界は、どんどん落石が酷くなっていく。

「美炎ちゃん! コヒメちゃんも助けなきゃだけど、ヤマタノオロチをここから出すわけにはいかない!」
「分かってる!」

 あくまで冷静。
 美炎は、自らにそう言い聞かせているようだった。
 彼女はことあるごとに首を振っており、ヤマタノオロチの猛攻を避けながら本体へ接近していく。

「だあああああああああっ!」

 烈火を纏う、刀一閃。だが、その巨大な肉体に、美炎が大きな火力を発揮したとしてもダメージは期待できない。

「返せ……」

 八本のうち一つの頭に飛び乗った美炎は、加州清光をその頭に突き立てる。

「返せ……!」

 だが、岩石のように反射するその皮膚に、美炎の目がどんどん赤くなっていった。

「コヒメを、返せ!」

 だが、ヤマタノオロチはその頭を振り、美炎を振り落とす。
 さらに、うち一つの口より吐かれた炎が、空中に投げ出された美炎を包み込んだ。

「があああああああああっ!」

 美炎が悲鳴とともに、岩盤まで打ち付けられる。

「がはっ!」
「美炎ちゃん!」

 吐血してぐったりと力が抜ける美炎。
 さらに、ヤマタノオロチの残り七つの口より、トドメを刺そうとそれぞれの攻撃が放たれる。
 可奈美は美炎の盾になるように立ちはだかる。さらに、その霊体の体を深紅に染め上げ、千鳥の刀身をより濃くしていく。

太阿之剣(たいあのつるぎ)!」

 可奈美にとっての最大の力を持つ技。
 だが、大荒魂たるヤマタノオロチ。その、七つの攻撃を同時に抑えることなど不可能だった。
 可奈美の全身を痛みが遅い、その姿は爆発に包まれていった。



 門をくぐって、しばらく時間が経過している。
 敵同士であるウィザードとブライは、一言も言葉を交わすことなく地下世界を進んでいた。
 ウィザードは進みながらも、様々な疑問が胸中に抱えていた。
 ヤマタノオロチは、結局何者なのか。
 この門は、ムーが作ったのか。
 だが、ブライは何一つ答えてくれることはないだろう。彼はあくまでブライの敵。今回協力してくれるのは、ヤマタノオロチという共通の敵がいるからに他ならない。
 そして。

「っ!」

 その時、ブライのマスクの下にある目を大きく見開いた。

「ラプラス!」
「ふえ?」

 ブライがラプラスソードを召喚するとともに、ウィザードを突き飛ばす。
 バイクに搭乗中の人物を突き飛ばせば、当然バランスを崩す上転倒する。

「な、何……!?」

 ブライを糾弾しようとしたウィザードは、その光景に目を疑った。
 青い体と赤いトサカを持つ獣。ずんずんとブライに掴みかかり、そのまま洞窟の壁に打ち付けた。

「ぐっ!」

 呻き声を上げるブライ。
 その壁の埋め込み具合が、その怪獣の剛力を物語っていた。
 超古代怪獣ゴルザ。
 その名を持つそれは、次にウィザードへヘッドブローを放ってくる。

「っ!」

 ウィザードは慌てて両手で防御態勢をとる。
 だが、ゴルザの力に、ウィザードはマシンウィンガーから叩き落とされた。
 また地面に転がったウィザードとマシンウィンガー。ウィザードはウィザーソードガンをゴルザに構えた。
 だが、ウィザードが立ち上がったのとほぼ間を置かず、背後に痛みが走る。
 振り返れば、赤い鳥の形をした怪物が、ウィザードへ背後から体当たりをしたところだった。

「今度は鳥……!? トレギアの奴、どんだけ足止め要因を置いて行ってるんだ……?」

 超古代竜メルバ。
 そんな名前など知る由もなく、ウィザードは並んだ二体の怪獣たちへ向き合う。

「ふざけるな……! フェイカーの手駒ごときに、このオレが遅れを取るはずがない!」

 復活したブライは、紫の拳を放つ。
 無数のブライナックルが二体の怪獣へ迫っていくが、それはどこからともなく飛んできた炎と氷の弾丸によって相殺された。

「何!?」
「ソロ! 下だ!」

 さらに、地面を突き破る物体。現れた巨大な鋏が、ブライの首を狙う。

「チッ」
「次はカニ!?」

 舌打ちをしたブライは、体を反転させる。その姿は、まさにカニと呼ぶほかがない。赤い体色を持ち、甲殻類の体と鋏を持つ怪物。赤い目のそれは、挨拶とばかりに口から炎を吐いた。

「ソロ!」

 ウィザードはソードガンで火球を切り落とす。
 すると、カニの目が赤から青に切り替わる。

「目の色が変わった!?」

 それに反応するよりも早く、カニの口からは冷気が放たれる。
 突如の逆転の属性に、ウィザードは大きく後退した。ウィザードがいた場所は凍り付いており、炎のウィザードには相性が悪いようにも見える。
 火と氷。二つの属性を操ることこそが、この宇宙海獣レイキュバスの特性だった。
 さらに、ウィザードの背後にはいつの間にか新たな怪獣が忍び寄っていた。

「しまっ……!」

 ウィザードが気付いた時にはもう遅い。
 甲高い唸り声が特徴の怪獣が、鎌のような腕でウィザードをホールドした。
 宇宙戦闘獣超ゴッヴ。
 青い体に金色の模様が刻まれたそれは、全力で拘束を振りほどいたウィザードへ、その鎌の手で切り裂いた。

「ぐっ!」

 体から火花を散らしながら、ウィザードはブライのところまで追い詰められていく。
 ブライと背中合わせになりながら、ウィザードはソードガンを構えなおす。

「ねえ、ソロ。もしかして結構俺たちピンチじゃない?」
「ふざけるな。所詮奴らなど烏合の衆。オレ一人で十分だ」
「俺も勝てない相手じゃないと思うけど、でもここで時間を取られるわけには……ん?」

 その時、ウィザードは違和感を覚える。
 その正体は、自らの足場。ブライも同じことに気付いたようで、自らの足場を見下ろしている。
 この地下。当然、上下左右全てが岩肌で出来ているはず。
 だが、今足元には岩肌などなかった。ウィザードとブライが立っているのは。
 巨大な眼球の上。

「何だこれ!?」
「チッ!」

 危険を察し、その場から飛び退くウィザードとブライ。
 すると、眼球はそのまま胎動し、地面から突き出ていく。それはやがて肉体を得、奇獣ガンQとして活動を開始した。

「さっきまでのはまだ怪物として理解できるけど、今度のコイツは何なんだ!?」

 ガンQに対してそう評しながら、ウィザードはウィザーソードガンにもう一度ルビーを読み込ませる。

『フレイム スラッシュストライク』

 炎の刃を、そのままガンQに飛ばす。
 だが、遠距離攻撃となった斬撃は、そのままガンQの目に吸収されていく。消失したウィザードの攻撃は、逆にガンQの目から放たれた。
 スラッシュストライクを回避したウィザードとブライは、合計五体の怪獣たちをぐるりと見渡す。
 剛腕のゴルザ。機動力のメルバ。
 二つの属性を併せ持つレイキュバス。
 戦闘能力の超ゴッヴ。意味不明のガンQ。
 それぞれ厄介な能力を持つ怪獣たちに対し、ウィザードはさらに腰を低くした。

「五体もいるのか……ここでコイツら相手にそんなに時間を取られたくないのに……!」
「なら、キサマは引っ込んでいろ。全員オレが倒す」

 ラプラスソードを構えなおすブライを横目で見ながら、ウィザードは次の手を考えていた。
 だが、その時。

『______________』

 突如として、新たな咆哮が響く。
 一瞬新手かと思ってしまったが、やがてその咆哮の正体を察すると、むしろ落ち着いた。

「この声……まさか!?」

 すると、即座にウィザードの視界にそれは入って来た。
 赤い体を持つ、長い存在。それはまさに、龍であり、五体の怪獣たちを弾き飛ばす。
 そして、ウィザードはその名前を知っていた。

「ドラグレッダー……? ということは……」

 宙を泳ぐ赤い龍。
 その姿とともに連想された要素が、即座に現実になった。

「ハルト!」

 その声と共にやってきた、ハルトの仲間たち。
 赤い鉄仮面を先頭にやってきた、勇者、奏者、そして金の魔法使い。

「みんな……!? どうしてここに!?」
「清香ちゃんから聞いた! コヒメちゃんが攫われたんだろ!」

 龍騎は、登場するや否や、ゴルザへタックルを仕掛ける。
 倒れたゴルザに対し、ドラグセイバーを召喚し、斬りかかっていった。

「大丈夫だ! ここは俺たちに任せて先に行け!」
「で、でもこいつら……」
「トレギアがいるんだろ! だったら、ここでお前が止まるわけにはいかねえ!」

 ゴルザの頭部より、黄色の光線が発射される。
 龍騎はドラグセイバーで光線を受け流し、再び斬りかかる。

「ハルト! いいからお前は行け!」

 そう言って、ウィザードの後ろから襲おうとしたメルバを蹴り飛ばしたのは、古の魔法使い、ビースト。

「そもそも、何でオレだけ今回の事件全然関わってねえんだよ! その荒魂ってのも、美炎ちゃんってのも、セイバーの存在も、さっき初めて聞いた! 後でしっかり紹介しろ!」
「コウスケ……」
「コヒメちゃんを助けたいのは、皆同じだよ! だから、私達だって戦う!」

 その声は、友奈。
 レイキュバスの冷気を避けながら、逆にその体へ突撃していく。

「勇者パンチ!」

 桃色の花を咲かせる拳。
 それは、レイキュバスの甲殻を殴り飛ばし、一気に岩壁に埋め込む。

「だから、行ってハルトさん! 可奈美ちゃんも美炎ちゃんも戦ってる! 今、ハルトさんが行かないと、きっとトレギアに負けちゃうよ!」
「友奈ちゃん……ありがとう……みんな!」

 ウィザードは礼を言いながら、倒れたマシンウィンガーを起こす。

「ソロ! 行くよ!」
「……フン」

 ブライは鼻を鳴らし、ウィザードに付いて移動する。
 だが。

「!」

 放たれる光線。
 バイクで避けながら、ウィザードはその正体が、前方に立ちはだかるガンQだと睨む。
 そのままガンQは連続で光弾を放ち、ウィザードはカーブを繰り返しながらもそれを避け続ける。

「っ!」

 マシンウィンガーの軌道よりも、ガンQの攻撃の方が素早い。ウィザーソードガンの銃撃で牽制するも、追いつかない。
 だが。

「ハルトさん、ソロ! 伏せて!」

 その言葉に従い、ウィザードは顔を下げる。
 すると、そのほんの頭上を掠める、響の蹴り。それは見事に、ウィザードを狙った光線を弾き飛ばした。

「我流・空槌脚!」

 伸びたジョッキで、一気にガンQを薙ぎ払う。進路上より消えたガンQ。突っ切ったウィザードは背後から来る響の声を聞いた。

「ランサー……! キサマ、なぜ助けた!」
「言ったでしょ? わたしは、あなたとも手を繋ぎたいッ! 今は、ハルトさんッ! ソロッ! 美炎ちゃんのこと、お願いしますッ!」 
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