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癖になる魚

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第四章

「これからね」
「さらに食べられるんだね」
「そう、だからどんどん食べましょう」
「わかったよ」
 夫は妻の言葉に満面の笑顔で頷いた、そうしてだった。
 日本酒も楽しみつつだった、河豚の刺身に唐揚げ白子に酢のものも口にして鍋も食べた。最後は雑炊であり。
 デザートのメロンまで食べた、夫はそうしてから言った。
「こんなに美味しいお魚だからだね」
「皆食べるのよ」
「日本ではそうなんだね」
「そうよ、毒があっても」
 それでもというのだ。
「皆ね」
「食べるんだね」
「ちなみに明日の朝生きていたら」
「大丈夫なんだ」
「そう、あたっていないわよ」
「それならいいけれどね、しかし」
 夫は妻に笑いながら述べた。
「毒があってもこの味なら」
「わかるでしょ」
「君の言う通りにね」
 まさにというのだ。
「皆食べるよ、では明日の朝生きていたら」
「また食べるのね」
「そうしたいよ」
「そう思ってくれるならいいわ」
 妻は夫の言葉に笑顔で頷いた、そうしてだった。
 二人は自分達の旅館に戻り風呂を楽しみ寝た。その翌朝夫は言った。
「生きてるね、僕達」
「だからね」
 妻は夫に言った。
「大丈夫よ」
「毒があっても」
「そう、あたると確かに死ぬけれど」
 そこまでの猛毒だがというのだ。
「それでもね」
「ちゃんと毒のある部分は取り除かれているから」
「だからね」
 それでというのだ。
「私も食べようと言ったのよ」
「そうなんだね」
「そしてね」
 ワカコは夫にさらに言った。
「一度食べた感想は」
「昨日言った通りだよ」
 夫は妻に笑顔で答えた。
「あんな美味しいお魚はないよ」
「そうでしょ」
「一度あの味を知ったら」
 それこそというのだ。
「もう癖になってね」
「また食べたくなるわね」
「そうなるよ、だからまた日本に来たら」
 その時はというのだ。
「そしてアメリカでも機会があれば」
「食べたいわね」
「そうしたくなったよ」
「それが河豚よ、食べたら癖になるし」 
 ワカコは笑顔でさらに話した。
「他のお魚は食べられなくなるっていうのよ」
「ああ、あまりにも美味しくて」
 夫は妻の言いたいことをすぐに察して言った。
「他のお魚じゃ物足りなくなるね、そして」
「わかるわね」
「毒があるから」
 だからだというのだ。
「それでだね」
「そうよ、そうした意味でもね」
「他のお魚はね」
「食べられないのよ」
「そうしたことだね」
「それが河豚なのよ」
「そうだね、最初は怖くて仕方なかったけれど」
 言うまでもなく毒があるからだ。
「けれど今は」
「そうじゃないわね」
「また食べたいよ、癖になったから」
「じゃあまたね」
「一緒に食べようね」
「子供達が出来たら」
「子供達とも一緒にね」
「河豚を食べましょう」
 妻も言った、そしてだった。
 二人はこの日の朝は鰯を中心とした和食を楽しんだ、鰯もまた美味かった。だがミシマはまた河豚を食べたいと思った、毒があってもあまりにも美味くて癖になったからだ。それが河豚という魚だと彼はわかったのだ。


癖になる魚   完


                   2021・7・14 
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