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癖になる魚

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第一章

               癖になる魚
 アメリカのヒューストンから日本に観光で来たトシハル=ミシマは名前からわかる通りに日系人である。大学で法律を教えている。
 黒井髪の毛をセットしていて黒い目と彫のあまりない顔も日系人のものである。一八〇近い背と均整の取れたスタイルである。
 その彼は今日本の下関に来ていた、それで一緒に来ている妻のワカコに言われた。彼女は元は日本人でその時の名前を山崎和香子といった。はっきりとした目で黒髪を短くしてセットしており背は一七〇近くありレスリング選手だったこともありかなりの筋肉質だ。
 その彼女が夫に笑顔で言ってきた。
「下関名物の河豚を食べましょう」
「えっ、河豚!?」
「そう、河豚をね」
 街の中を歩きつつ言ってきた。
「折角だから」
「待ってくれ」
 ミシマは妻の提案に必死の顔になって言った。
「河豚なんて」
「毒があるっていうのね」
「それこそ当たったら死ぬじゃないか」
「猛毒があるからね」
「あんなもの食べられないよ」
 妻に必死の顔で言った。
「前から思っていたけれど日本人はどうして食べるんだい?」
「河豚をなの」
「そうだよ、猛毒があるじゃないか」
 このことを言うのだった。
「それこそ」
「そうよね」
「そうよねじゃないよ、あんなもの食べられるのかい」
「けれど私達は食べるわよ」
「日本人はね」
「そう言うあなたもルーツは日本じゃない」
「それでも生まれはアメリカだよ」
 この国だと力説した。
「父の代からのね」
「三世だから」
「もう完全にだよ」
 それこそというのだ。
「僕はアメリカ人だ」
「完全にね」
「だからね」
「河豚もなのね」
「食べたことなんてないよ」
 妻に強い声で言った。
「ずっとアメリカの食べものに親しんできたんだ」
「シーフードもね」
「お寿司やお刺身は食べるよ」
 そうしたものはというのだ。
「好きだよ、和食全体がね」
「おうどんも食べるしね」
「そう、しかしね」
「河豚については」
「あんなものを食べるなんて」
 それこそというのだ。
「信じられないよ」
「今じゃアメリカにも河豚料理はあるのに」
「それでも僕は食べたことないよ」
「そうよね」
「そう、そして」
 それでというのだ。
「ここで食べることも」
「嫌なのね」
「絶対にだよ」
 それこそというのだ。
「想像も出来ないよ」
「そうなのね、けれどね」
「美味しいっていうんだね」
「それもかなりね、しかもね」
 ワカコはさらに言った、夫とはアメリカに留学した時に知り合いそこから交際をはじめ結婚に至ったのだ。共にレスリングをしているのでそこから出来た絆だ。 
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