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猫の宮

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第一章

                猫の宮
 この時白河帝は非常に悩んでおられた、それで傍の者達に言われた。
「朕としては頼豪の話は聞きたいが」
「相手は比叡山です」
「その比叡山がそれだけはと言っております」
「天台宗の戒壇は比叡山のみ」
「僧に戒を授けることは」
「左様、天台宗は今比叡山と頼豪の園城寺に分かれておるが」
 それでもというのだ。
「戒壇のことはな」
「全て比叡山です」
「やはり伝教大師からのことであり」
「他の寺にとうのは難しいです」
「どうしても」
「だから頼豪にも望みは思いのままと言って皇子が打生まれる祈願をしてもらったがな」 
 帝はこのことも言われた。
「それで皇子が生まれれば望みは何でもと言った」
「そして皇子がお生まれになりました」
「このことはよいことですな」
「実に」
「しかし戒壇はな」
 園城寺にそれを授けることはというのだ。
「頼豪にとっては心からの望みでも」
「流石にこれはですな」
「あの者もわかっていると思っていましたが」
「それだけはと」
「しかし言ってきた」 
 その望みにというのだ。
「だから他のことならと伝えるか」
「それしかないですな」
「比叡山もそれは許しません」
「園城寺の者でも戒壇は許すと言っていますし」
「荘園も財宝も経典も何でも渡す」
「頼豪にはそう伝えますか」
「それしかない、ではその様にしよう」 
 帝は苦い顔で言われた、そうしてだった。
 帝は近江の園城寺の頼豪にそのことを伝えられた、頼豪は細面で色の黒いきっとした目を持つ吊り上がった眉の男であった。
 彼は帝の使者から戒壇以外のことをと伝えた、だが頼豪はその使者に怒った顔で返した。
「帝は褒美は何でもと言われましたな」
「ですが出来ぬこともあり申す」
「だからだというのですか」
「それだけはです」 
 戒壇だけはというのだ。
「諦めて下され、比叡山ですぞ」
「それでもです、戒壇が授かれることこそです」 
 頼豪はあくまで食い下がって言った。
「拙僧の願いなので」
「あくまでそう言われますか」
「何とも」
「出来ぬことは出来ぬので」
「どうしてもですか」
「はい、そこは」 
 使者もこればかりはと言う、園城寺の他の僧侶達も流石にこれはと思っていたので強く言わなかった。だが。
 頼豪は諦めなかった、それでだった。
 寺の持仏堂という堂に籠りだした、そうしてその中から言うのだった。 
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