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二日酔いで

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第一章

               二日酔いで
 この時阪急ブレーブスの若きエース山田久志は天気予報を確認していた、そして明日は雨ということを確認してだった。
 チームメイトで同期の福本豊と加藤秀治に笑って話した。
「ちょっと飲んで来るわ」
「いや、ちょっとやないやろ」
「朝までやろ」
 福本と加藤はその山田に笑って突っ込みを入れた。
「明日試合ないから」
「雨やからな」
「それで朝まで飲む」
「ヤマちゃんそうするつもりやろ」
「まあそうや、遠征に出てるけど」
 それでもというのだ。
「やっぱり明日試合ないとな」
「飲みたくなる」
「そういうことやな」
「もう今日は朝までや」
 実際にというのだ。
「試合もないさかいな」
「とことん飲む」
「二日酔いになるまで」
「そこまで飲むな」
「そうしてくるわ、ほなな」
 こう言ってだった。
 山田は宿泊先で酒をこれでもかと用意した、そうして実際に自分の部屋で朝まで飲んだ。だが朝になって。
 窓の外を見て彼は仰天した。
「晴れとるやないか!」
「ああ、ほんまや」
「今日は雨やて言うてたのにな」
 福本と加藤も窓の外を見た、そして山田に応えた。
「晴れてるな」
「奇麗なもんや」
「これは試合あるな」
「間違いないな」
「これはあかん」 
 山田はその快晴を見てまた言った。
「このままやと投げられん」
「ヤマちゃんもう完全に酔ってるやないか」
「その状況でどうして投げられるんや」
「今日先発やろ」
「ほんまどないするんや」
「とりあえず走る」
 そうするとだ、山田は二人に答えた。
「そうしてくるわ」
「それで酒抜くか」
「走って汗かいて」
「二日酔いで投げられんとか言うたらや」
 山田はその酔った顔で言った。
「それこそや」
「監督がどれだけ怒るか」
「あの人がな」
 二人も言った、阪急の監督の西本幸雄を非常によく知っているが故に。
「もうかんかんに怒ってな」
「拳が出るな」
「一体どれだけぶん殴られるか」
「ましてあの人飲まんしな」
 西本が酒が飲めないことも話した。
「尚更やな」
「実際酒での失敗にも滅茶苦茶怒るしな」
「二日酔いで投げられんとか言うたら」
「どうなるか考えただけで恐ろしいわ」
「そやからや」
 山田も西本のことを非常によく知っている、それで言うのだった。
「今からな」
「走ってやな」
「酒抜くな」
「そうしてくるわ」
 こう言ってだった。
 山田は慌てて走りに行った、そうして必死に酒を抜こうとした。だがここで下宿先のある部屋からだ。 
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