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茶器茶器娘

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第一章

               茶器茶器娘
 古田亜久里は茶道の家の娘である、元々大地主であり京都に広い土地で様々なビルを貸していてかつ茶道の家元であるという家で生まれ育っている。
 幼い頃から茶道だけでなく様々な習いごとをしていて京都の誰もが名前を知っているキリスト教系の有名大学に通っている。
 いつも上品な服を着ていて黒髪をロングにしていて睫毛の長い切れ長の奥二重の黒いきらきらとした目を持っている。やや面長で色白で顎の先が尖っている。唇は小さく紅で眉は細く見事なカーブを描いている。背は一六〇位で楚々とした気品のある外見だ。
 成績は普通だが様々な習いごとに通じている、その中でも家のことであるので茶道はかなりのものだ。それで。
 いつも茶道を嗜んでいるが茶道ならではの趣味があった、それは何かというと。
「お兄様、この茶器は」
「またそれの話か?」
 兄の彗士は呆れた声で応えた、色白でやや面長の顔で眉はしっかりとした太い黒いもので奥二重の目である。大きな耳で黒髪を短くして上だけ伸ばし一七八程の背の引き締まった体格をしている。
「茶器のことかいな」
「はい、この茶器は」
 茶道の道具を売っているその店で言うのだった。
「非常にいいので」
「欲しいんやな」
「家にあれば」
 その茶釜を見て言った。
「いいかと」
「安いやないか」
 彗士はその茶釜の値段を確認して言った。
「別にな」
「うちで持ってもですか」
「価値ないやろ、職人さんが造ってくれたもんやが」 
 大量生産の品ではないがというのだ。
「これは」
「ですがかなりかと」
「ええ茶器やからか」
「はい、買いたいのですが」
「お前がそう言うんやったらな」 
 彗士は妹のその言葉に応えた、彼女が茶器を集めることが趣味である以上に茶道の家なのでやはり茶器が必要だからだ。
 それでだ、妹の言葉に頷いてだった。
 その茶釜を買って家に帰った、すると家長であり家元である祖父の源五郎、厳めしい顔立ちだが目の光が穏やかな白髪の老人である彼が言った。
「ほんま亜久里の目は凄いわ」
「そうですか」
「この茶器値段の何十倍いや百倍の価値があるわ」
 そこまでのものだというのだ。
「ええものを見付けてきた」
「素敵な茶器なので」
 それでとだ、亜久里は祖父に答えた。和風の屋敷の奇麗な部屋の中で兄と共にいてそうして話している。
「ですから」
「買うたか」
「はい」 
「そうか、その歳でこんなもん見付けるとは」
「そんなにええ茶器ですか」
 彗士は祖父の言葉に驚いて言った、三人共見事な着物姿である。
「この茶釜は」
「そや、買うた値段の百倍のな」
「それだけの価値がありますか」
「その他のもんもや」
 他の茶器もというのだ。
「全部な」
「実際の値段より価値のある」
「そうしたもんばかりや」
 亜久里がこれはと言って買った茶器はというのだ。
「どれもな」
「ほなうちは亜久里の目利きで、ですか」
「恐ろしい安さでええ茶器を買うてる」
 そうだというのだ。
「ほんまにな」
「そこまでとは」
「茶道の腕前とか他の習いごとはお前は亜久里より遥かに上や」
 彗士の方がというのだ。 
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