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再び贈られたプレゼント

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第三章

「そうなのだよ、だからだ」
「私は懲戒免職ですか」
「そうだ、そして退職金は出ないが」
 部長はさらに言った。
「君には餞別がある」
「何ですか?」
「君達はあのワンちゃんが動画で人気が出たらまた家族にしたいと言った」
 このことをにこりともせず話した。
「だから家族を贈ろう」
「何ですか家族って」
「これだ」
 こう言ってだ、部長は。
 一つのぬいぐるみを出した、そのぬいぐるみはというと。
 ダークブラウンの毛の足が短いトイプードルのぬいぐるみだった、見ればふわりそっくりである。そのぬいぐるみの背中にはボタンがあったが。
 部長はそのボタンを押した、するとぬいぐるみから小さな女の子の声がしてきた。
「私ふわりパパママおはよう」
「毎日お散歩に連れて行ってね、ご飯も頂戴」
「無視しないでね、私パパとママ大好きだからね」
「私はここだよ、声聞こえたら笑顔向けてね」
「捨てないで、保健所はとても寒くて寂しいの」
「保健所はガスで殺処分されるんだよ、娘を殺さないで」
「さあ、受け取り給え」
 部長の声は絶対零度にまで冷えていた。
「新しい家族だ、ぬいぐるみだから捨てても誰も文句は言わない」
「・・・・・・・・・っ!!」
 彼は何も言わなかった、だが顔を憤怒のものにさせて。
 全身が真っ赤になった、そうして踵を返して部屋を飛び出た、その彼を。
 会社にいた者は嘲笑し帰れ二度と来るなと嗤いながら声をかけて送り出した、そして部長は置いたままのぬいぐるみを見ながら言った。
「折角の家族だったのだがな」
「受け取りませんでしたね」
「残念ですね」
「二人目の娘の出産祝いにも出しましたけれど」
「あの時も受け取らなかったし」
「今もでしたね」
 社内の者達も言ってきた、皆彼のかつての同僚達だ。
「折角のプレゼントだったのに」
「もう二人しかいないのに迎えたらいいのに」
「今度は捨てても誰も怒らないのに」
「出て行きましたね」
「そうだな、だがこれで奴の姿を見ることはない」
 部長は氷の声で述べた。
「それはいいことだな」
「ええ、そうですね」
「腐った奴が会社からいなくなりました」
「あの顔を見なくて済みます」
「本当によかったです」
 誰もがこのことを喜んだ、そしてこの夜は彼がいなくなったことを心から喜んだ。それが百田家の夫が仕事を失った時の話だった。


再び贈られたプレゼント   完


                    2022・1・26 
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