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DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~ 

作者:山神
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夏合宿

 
前書き
最近パレオにハマりすぎてバンドリ始めるか迷い中。 

 
「「「「「ハァ……ハァ……ハァ……」」」」」

真っ青な顔で膝に手を置いている少女たち。中でも一年生たちは特に苦しそうな表情を浮かべている。

「どうしたの!?声聞こえないよ!!」
「元気出して!!陽香!!」
「はい!!」

時は夏の大会の一ヶ月前。明宝学園は卒業生たちの協力のもと、大会に向けた合宿を行っていた。

「チビッ子!!動けないなら外れてな!!」
「だ……大丈夫です……」

今は午後の二時。日も高く昇り気温も上がっている中、彼女たちはポジションごとに別れノックを受け続けている。

「よし!!ならすぐ構えて!!」
「はい!!」

ポジションごとに別れているが内容はどのポジションも変わらない。10mほどの距離を取りノッカーは左右に選手たちを走らせるように打球を打つ。それも代わる代わる行うのではなく、一人ずつ受け続けていくため足も次第に動かなくなり、息も上がっていく。

「優愛!!いつもの元気はどうしたの!?」
「葉月!!全然足動いてないじゃん!!」
「ほらほら!!もっとボールに食いついて明里!!」

まだ入部して数ヶ月の一年生たちはもちろんだが、昨年もこの合宿を経験している二年生たちも普段の騒がしさを失うほど追い込まれていた。

「よし、じゃあ一回休憩しようか」

ほとんどの選手たちが動けないほどの極限状態。そのタイミングで見ていた真田がそう言うと、フラフラの少女たちはその場に倒れるように横たわった。

「大丈夫か?」
「だ……大丈夫です……」

大量の汗の流しながら、倒れている後輩へと声をかける莉子。倒れている少女はそれに答えることも苦しいようで、その場から起き上がることができずにいた。

「莉子まだ余裕そうだね」
「いえ……かなりキツいですよ」

先輩からの言葉に首を振ってそう答える。毎年恒例だからなのか、三年生たちは苦しそうにはしているものの、下級生たちとは違い水分補給に向かうなどどこか余力を感じさせる。

「ほら!!君も水分摂ってきなさい」
「は……はい……」

言われるがままにベンチへと向かう莉愛。ベンチで待っていた卒業生からスポーツドリンクを渡されるが、なかなか口を付けられない。

「「「「「……」」」」」

他の一年生たちも同様でベンチにたどり着いたまではいいが、一度座ってしまったが最後立ち上がることも動くこともできず飲み物とにらめっこしている状態。

「飲む?」
「飲んだら吐きそう」

莉愛は隣にいた瑞姫に飲み物を向けてみるが、彼女も同じような状況になっており、何も喉を通らない。

「しっかり水分摂らないと倒れるよ」
「さすが、経験者は違うね」
「うるさい!!」

卒業生たちもお互いが久々の再会の者も多くテンションが高いよう。既に疲労困憊の一年生たちにも楽しそうにアドバイスしている。

「なんで高校野球ってこんなことするんだろ……」

いつも初めてのことに心踊らせていた莉愛の口からポロリと出た本音。それがこの合宿がどれだけ険しいものかを物語っていた。
















「高校野球はなぜここまで過酷なのか」

時を同じくして、同様に合宿を行っている東英学園。そんな彼女たちをグラウンドの外から見ていた町田は隣にいる部長にそんなことを話しかける。

「高校野球は夏の風物詩ですからね。夏のあの暑さの中を戦い抜くには並大抵の体力では持たないからじゃないですか?」

今年から野球部の部長になった彼女の答えに何度か頷いてみせる町田。その反応は正解のそれとは違うように感じた彼女は首を傾げる。

「あれ?何か間違ってました?」
「正解でもある。でももうそれだけが理由じゃない」
「細かいところがってこと?」

その問いに首を振る町田。彼は次第に動きが鈍くなっていく選手たちの方を指さしながら答える。

「細かいことなんてこういう合宿じゃ気にしないよ。夏の大会前の合宿の目的は大きく三つ。一つ目はさっき君が言った体力の強化だね」
「じゃあ残り二つは?」

説明しようとしたところを横槍を入れられたため睨み付ける町田。彼の本性を少しずつ把握してきた彼女は何もなかったかのように耳を傾ける。

「二つ目はピークを作ることだな」
「ピーク?」
「そう。うちみたいなシード校は初戦や二回戦で強いところと当たることはほとんどない。だからここでは多少疲労が蓄積してても大した問題はないが、上に上がるに連れてレベルが上がってくるからな。そこに本来の実力を発揮できるように一度肉体の限界を作っておくんだ」
「でも一ヶ月もあれば体力は回復できるんじゃ?」

夏の大会まで一ヶ月。確かに合宿での疲労はしばらく残るが、ここを乗り越えれば少しずつ練習量を調整して疲労を取っていくのがセオリー。そのことはわかっているようで、彼女はタイミングが早いのではないかと疑問を抱いていた。

「その通りだよ。ただ、ピークをギリギリに作ってしまうと初戦で強いところと当たってしまった時に対策できなくなってしまう。特に今年は翼星がシード落ちしてるからな」
「翼星さんと初戦はイヤですね……」

くじ運悪くシードを取れなかった強豪校や実力はあるもののなかなか勝ちきれなかった高校と早々に当たるとコンディション不良で負けてしまうことが多々ある。三年生にとって最後の大会というプレッシャーも相まって本来の力を出せずに破れてしまう高校は多い。それを避けるために早めに疲労を限界まで高め、組み合わせに応じて疲労を抜くのか、再度追い込みをかけるのかを判断するのだ。

「じゃあ三つ目はなんですか?」

残る最後の一つ。他の二つを聞けばわかるかもと思っていた彼女だったが、検討もつかないようで町田の顔を覗き込むように問いかける。それに対し、彼は不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「蓄積だよ」
「??疲労の話ですか?」

意味深な笑みを浮かべていた割に、はぐらかすような言葉を出され困惑する部長。その直後、彼が満足げな笑みを浮かべたのを見て自分をからかっているのだということに気がついた。

「なんですか!?早く教えてくださいよ!!」
「はいはい」
「マッチー」

それを語り始めようとしたところでグラウンドから自身を呼ぶ声が聞こえそちらを向く。彼女の方を向くと、活気良く練習していたはずの面々がいつの間にか一ヶ所に集まっている様子が目に入る。

「どうした?」
真帆(マホ)が足つった」
「あらま」

過酷な練習で疲労がピークに達しつつあったためこのようなアクシデントは当然起こりうる。町田は慌てた様子もなく立ち上がるとすぐにグラウンドへと掛けていく。

「じゃあ一回休憩しよう。真帆は俺が運ぶわ」
「やったー!!休憩だぁ!!」

彼を呼びに来ていた笠井はそれを聞いて大喜びでベンチへと掛けていく。他の少女たちはそれを呆れた目で見つめながら、町田に負傷した少女を任せてベンチへと向かう。

「どっち?」
「右です」

倒れていた少女の足をストレッチした後、お姫様抱っこでベンチへと運ぶ町田。それを見ていた他の少女たちは思わず歓声をあげていた。

「あれを自然にできるのはカッコいいんだけどなぁ……」

大きなタメ息をつきながら飲み物を準備する彼女。彼女は疲労感を漂わせている少女たちにそれを手渡していた。

















「よし、これで全日程終了だ」

最後のランメニューを終え吹き出る汗を拭う陽香。その周囲ではほとんどのメンバーが屍のように倒れていた。

「陽香、クールダウンさせたらミーティングするからな」
「はい!!ほら、少し歩かないと後で苦しくなるぞ」

動いていた状態から急に止まると体に乳酸が溜まりやすくなると言われている。それを避けるために倒れてる仲間たちを立たせ軽くウォーキングした後、彼女たちはクールダウンへと入る。

「いよいよだね」
「何が?」

体のダルさを感じながら行うクールダウン。その最中、隣にいた若菜が話しかけてくる。彼女が何を言おうとしているのかわからなかった莉愛は首を傾げると、彼女は苦笑いを浮かべていた。

「夏の背番号。今日が発表の日だよ」
「あ!!そっか!!」

本番の舞台となる夏の選手権大会。そのベンチ入りメンバーがこの日のミーティングで知らされるとあり、ほとんどの少女が……特に三年生たちは今までの全てを試される大会となるため、この合宿は全員死力を尽くして取り組んでいた。

「私もベンチ入れてたらいいなぁ」
「楽しみだね!!ワクワクしてきた!!」

今までの疲労が吹き飛ぶほどの興奮している莉愛。運命の夏はすぐそこまで迫っていた。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
本当はもっとやりたいことはありましたが試合がメインなので端所りました。
次から夏の大会を開始していこうと思います。
一試合がとんでもなく長くなる可能性もありますがそこはご愛敬ということで( ̄▽ ̄;) 
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