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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第百三十五話

 ゴジは動かない身体を必死で動かしながら海楼石の手錠を自分の手首に嵌めようとするベビー5の姿を見ていられず、彼女から海楼石の手錠を奪って怒鳴る。


「もういい!止めろ!!」

「えっ!?何?そんなに怒ってどうしたの?私がモタモタしてるからダメなのね!?」


 ベビー5は怒られた理由が分からずに激昂するゴジの顔を見上げて絶望した顔を浮かべながら、必死で奪われた海楼石の手錠を取り戻そうと、ゴジに縋り付く。


「俺が何に怒っているのか本当に気付いてないんだな?君の他人の役に立つことのみに喜びを感じてしまうその生き方は人として矛盾しているんだ!!」


 ゴジはベビー5を諭すが、その言葉は彼女の耳にも心にも声は届かない。

 彼女の中にあるのはゴジに必要とされる為に急いで手錠を嵌めないといけないという義務感だけである。


「手錠を返して!私、必要な子になるから捨てないで!!」


 ゴジは海楼石の手錠を投げ捨てるとその場に膝を付き、ベビー5の両肩を持ち、彼女と目線を合わせて優しく語り掛ける。


「異常なまでに人に必要とされる事を求め、人に捨てられる事を恐れるのは過去に起因するんじゃないか?」

「えっ……なんでそれを……」


 ベビー5はゴジに図星を付かれて目線を逸らすが、ゴジは畳み掛ける。


「分かるさ……俺は医者でもある。だからその自己犠牲をも厭わぬ性格で多くの人に利用されて傷付いてきたことも分かる。」

「利用?違うわ……!!取り消しなさい!!私は必要とされてきたのよ!!」


 ゴジの言葉に先まで彼に縋り付いていたベビー5は怒りに顔を歪めながら両手を刃物に変えてゴジの喉元に突き付ける。

 しかし、これまで多くの人を見てきたゴジの観察眼と見聞色の覇気の前に嘘は通じない。


「いや、君は気付かないフリをしているだけで本当は気付いている!君はこれまで必要とされてるんじゃなくて利用されていただけだ!!」

「違う…私は……必要な…にんげ……ん…」


 怒りに歪んでいたベビー5の目からは涙が止めどなく溢れ、両手を力なく下ろした。


「その涙が何よりの証拠だ。君はまるで母に捨てられた幼い子供のようだな。」

「あ”…あ”あ”ぁぁぁ!!ママ…ママああぁぁぁ!!?」


 ベビー5は突如頭を抱えて蹲ってしまうので、母の治療の一環で医学に深く精通するゴジは彼女の容態から異常なまでに人の頼み事を引き受けてしまうのは過去の辛い過去に起因とするものだと確信した。


「やはり根幹にあるのはPTSDか…」


 心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったりする状態のことである。


『お前は必要のない人間なんだ!』


 彼女は貧しい村に生まれて口減らしのために実の母によって山に捨てられてしまった過去を持ち、母の最期の言葉がトラウマとなり、人に必要とされることに幸せを感じるようになってしまった。

 だから無茶苦茶な理由で借金を背負わせられようとも、読みもしない新聞を50社から取ろうとも誰かから必要とされれば幸福を感じてしまう。


「ママ…私はママにも必要ない子なの……?待ってよ……ママ!?」


 母に捨てられた過去を思い出し、錯乱状態のベビー5は地面を這いながら目の前に立つ母に縋り付いた。

 あの日、母に振り払われたベビー5の腕は振り払われることは無く、逆に身体を強く抱き締められた。


「大丈夫…少なくとも俺にとって君は必要のない人間じゃないよ。」


 ゴジは自分を母と間違えて幼児退行を起こしているベビー5に対して幼子をあやす様に優しく抱き締めながら頭を撫でる。

 対するベビー5は山に捨てられたあの日、母に言って欲しかった言葉をくれて、自分を抱き締めてくれるゴジの愛情に包まれて落ち着きを取り戻していく。


「お兄……ちゃん?」


 落ち着きを取り戻して顔を上げたベビー5が自分を兄と呼んだ事にゴジは一瞬驚いた後で笑顔で頷く。


「あぁ。そうだな。君が望むなら俺は君が本当に幸せを見つけられるまで、義兄としてそばに居るよ。」


 ベビー5にはPTSDの治療をする医師と適切な助言を与えて彼女の成長を見守る保護者となる者が必要である。

 ゴジは医師として彼女の治療に当たるつもりだったが、彼女が自分に対して医師の役目だけでなく、保護者としての役目も求めるならば彼女の願いを叶えてあげたいと思った。


「お兄ちゃん!!」


 兄が出来た事に喜びを顕にするベビー5はゴジに抱き着くので、ゴジはそんな彼女を優しく抱き締め返して頭を撫でながらある事に気付く。


「よしよし……ん?年上の義妹ってありなのか……?」


 ゴジは自分を兄と呼んだベビー5の願いを叶えるべく義妹としたが、自分を抱き締めてくる彼女の発育状態から考えても成人の女性であり、17歳の自分よりも年上だろうと悟る。


「えへへっ。お兄ちゃん♪」

「まぁ可愛い妹は全ての男の憧れだからな。良しとするか……。」


 ゴジは満面の笑みで自分に抱き着いて甘えてくる幼子のようなベビー5を見て、深く考えるのを止めて一番大事な事を尋ねた。


「そうだ…ベビー5ってのはドンキホーテファミリーのコードネームだろう?もう俺の家族になったんだから、君の本当の名前を教えてくれるかい?」

「えっ……名前?ないわよ♪ママには“お前”って呼ばれてたもの♪」


 ゴジに話し掛けられたのが嬉しいのか、笑顔で名前はないと答えるベビー5を見て、彼女は名前がないと事に疑問すら持っていなかった事実にゴジは唖然とする。


「そうか……なら、俺は義兄としてまず君に名前を送ろう。」

「えっ……?」


 ゴジはベビー5の両肩を持って本来ならこの世に生を受けたと同時に両親から送られるべきだった彼女に名前を与える。


「俺の名前と君のコードネームに共通する“五”を意味する言葉で“チンク”って名前はどうかな?」

「チンク。私の……名前……ありがとう!お兄ちゃん!!」


 ベビー5改めチンクはゴジを見ながら本当に嬉しそうな顔をするので、ゴジはそんな彼女の頭を撫でながら、身体の血統因子を作り替えていく。


「“生命帰還・ポイズンピンク”!」


 チンクは自分とお揃いのゴジの漆黒の髪が鮮やかな桃色に変わった事に驚き固まってしまう。


「お兄ちゃんの髪がピンクに……それに……ポイズンピンクって!?」


 ゴジはそんなチンクの様子を見てドンキホーテファミリーの幹部達が元世界貴族であるドフラミンゴを除くほぼ全員が『海の戦士ソラ』の舞台となる北の海(ノースブルー)出身であることを思い出して楽しそうに笑う。


「あぁ……チンクも北の海(ノースブルー)出身だったね。さぁ行こうか♪」

「これって……⸝⸝⸝お姫様抱っこぉぉ……⸝⸝⸝」


 ゴジは驚いて固まっているチンクの背中と両足の裏に両手を回してお姫様抱っこの容量で持ち上げると嬉しそうに顔を綻ばせるチンクを抱えてそのまま部屋を出た。


「なっ……黒麒麟!?ベビー5様を離せ!!」

「中にはピーカ様達もいたはず……」

「ベビー5様を人質にするとは卑怯な……誰か……若へ連絡を急げ……!!」


 廊下で警戒していたドンキホーテファミリーに見つかると、彼等にはゴジがベビー5を捕えているとしか思えずに狼狽えていると突如ゴジの背中から紫色をした大鷲のような翼が生える。


「ドフラミンゴへの種明かしはまだ先の予定だ。余計な事はするなよ…“睡魔(ピュプノス)”!!」

「お兄ちゃんの背中から翼!?いやぁぁん♪カッコいいィィィィ……⸝⸝⸝」


 ゴジはその翼を羽ばたかせて宙に浮き上がると紫色の羽根が地下一面に広がっていく。


「黒麒りっ……ぐぅ……ぐぅ……」

「おい、寝るな……ぐがー……ぐがー……」

「この羽根にふれ……すぅ……すぅ……」


 地下通路にいるドンキホーテファミリーや電伝虫の頭上に降り注ぐ紫色に輝く羽根に触れた瞬間に、彼等は一斉にバタバタと倒れて眠り始めた。


「「「ぐぅ……ぐぅ……」」」


 ピュプノスとはギリシャ神話において今のゴジのように翼のある青年の姿で描かれ、木の枝で人の額に触れて眠りに誘うと言われる睡眠を司る神である。


「今の俺はあらゆる毒を操るジェルマ66(ダブルシックス)のポイズンピンクと同じ力がある。俺の羽根に触れた者は半日の間、何があっても起きることはない深い眠りにつく。ピーカ達に撃ち込んだ“紫銃”にも同じ毒を使っているから死ぬことはないよ。」


 ゴジ特製の睡眠毒は触れただけで半日間の深い眠りにつく代わりに目覚めると体の疲れが完全に吹き飛ぶ為、日々疲労の溜まるセンゴク等には重宝されていたりする。


「ピーカ達は死んだんじゃないね。それよりも、せっかくお揃いの髪だったのに……」


 チンクはピーカ達の安否よりもゴジの髪色が自分とお揃いの黒髪で無くなったことに残念に思って少し悲しそうな表情を浮かべる。


「ははっ!これは一時的なものですぐに黒に戻るよ。」

「本当!?良かった。あっ……そこがマンシェリー姫のいる部屋よ。武器変貌(ブキモルフォーゼ)!!」


 既に門番としてマンシェリーの警備に当たっているドンキホーテファミリーはゴジの能力で眠っているので、ゴジの言葉で元気を取り戻したチンクはお姫様抱っこをされたまま一つの部屋を指差すとその指を銃に変えて施錠された鍵穴を撃ち抜いた。


「いい腕だ。流石は俺の義妹だな。」

「えへへっ♪」


 ゴジはマンシェリーのいる扉の前で降り立つと見聞色の覇気で中を探ると体長10cm程の小人の気配しかしない事を確かめて部屋に入る為にチンクを降ろそうとする。


「よし、中にはマンシェリー姫しかいないようだ。えっーと……チンク?」

「ん”ーん!!」


 チンクはゴジの首に回した腕に力を入れて降りる気が無いことをアピールすると、ゴジは首を振って諦める。


「分かったよ。じゃあ、チンクが扉をあけてくれるか?俺は両手が塞がってるんだ。」

「もう……仕方ないわねぇ♪」


 チンクは頼られた事が嬉しく、仕方ないといった感じでお姫様抱っこをされたまま扉に手を伸ばして開ける。


「あ……あなた達は誰れすか……?」


 部屋の隅でカタカタと震える10cm程の身長しかない長い金色の髪に白いドレスを着たマンシェリーは怯えたように自分の体を抱き締めながら、おずおずとゴジに尋ねた。


「驚かせてごめんね。俺はゴジ。この子は義妹のチンク。君がトンタッタ族のマンシェリー姫だね?君を助けに来たよ。」

「ほんとれすか!?ありがとうございます!!」


 素直で人の言うことに疑問を持たずに信じてしまうトンタッタ族はゴジの言うことをすぐに信じて、マンシェリーは礼儀正しくお辞儀をする。


「今、俺の仲間達がヴィオラ王女と共に“SMILE”工場にいる君の仲間達も解放している。皆でグリーンビットに帰るといい。」

「ヴィオラ様が……ゔゔぅぅぅ……それはほんとうなのれすか!?」


 ゴジは目を潤ませながら喜びを噛み締めるマンシェリーに笑顔で頷く。

 ドフラミンゴが来る前のリク王家はトンタッタ族が唯一顔を見せることの出来る関係で年齢も近く、同じ王女という間柄のヴィオラとマンシェリーはとても仲の良い友人だった。


「あぁ。チンク、マンシェリー姫を連れて地下の“SMILE”工場へ向かってくれ。ヒナとバカラがトレーボル達ドンキホーテファミリーを抑えているはずだから、その隙に“SMILE”工場に潜入してトンタッタ族と連携して工場を制圧してくれ。」


 ゴジに頼られた事が嬉しいチンクは笑顔で頷いてゴジの腕から降りるとマンシェリーに手を伸ばす。


「チンク様……よろしくお願いしますれす。」


 マンシェリーはチンクの掌に乗ってお辞儀をするのを見た後、ゴジが何処に行く気か分かって真剣な顔になる。


「任せて!お兄ちゃんは若の所へいくのよね?」

「あぁ。ドフラミンゴを捕まえて本当にこの国は解放されるんだ。俺を止めるかい?」


 チンクはドフラミンゴの強さを知っているからこそ、手を合わせてゴジの無事を祈る。


「違うの……若は凄く強いから心配なだけ……ちゃんと帰ってきてね!!」

「…っ!?ははっ……俺が誰か忘れたのか?俺はこの海で最強と呼ばれる男だぜ!」


 ゴジはあえてチンクに対してドフラミンゴを捕らえるつもりだと伝えて、未だにドンキホーテファミリーへの未練があるならば、この場でドンキホーテファミリーのベビー5として捕らえる気だった。


「うん!!」


 一切の嘘を看破するゴジの観察眼と見聞色の覇気の前で覗いたチンクの心にあったのは、強敵に挑むゴジを心配する気持ちだけだった。


「お義兄ちゃんとして可愛い義妹にカッコ良いとこ、見せないとな!!“生命帰還解除”。」


 ゴジは黒髪戻ると、地下へ向かうチンクとマンシェリーとは反対方向のドフラミンゴの待つ地上への階段へ歩を進めた。 
 

 
後書き
次の更新は12日です。

アンケートに御協力ありがとうございました。おかげでベビー5の名前がチンクに決定しました。 
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