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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth27世界の行方は2人の女の決着に委ねられる~PreludE~


――エテメンアンキ・玉座の間

天地統治塔エテメンアンキの最上層部に位置する、エテメンアンキの管制室でもある玉座の間。天井・壁・床、そのすべてが真っ白で、しかも直径が800mほどある円形状という事もあって実際の大きさを錯覚してしまいそうになる、そんな空間だ。
玉座の間が在る位置は高度21kmの成層圏。地上を見下ろし天上に座す、その言葉に相応しい場所だ。玉座の間の中央、背もたれが高い純白の肘掛け椅子――玉座に腰掛ける女性が1人。
肩に掛かる灰色の髪、若干吊り上っている双眸は翠色。名をテウタ・フリーディッヒローゼンバッハ・フォン・レーベンヴェルト。
ベルカへと名が変わる前の世界レーベンヴェルトを統治していた王族の子孫であり、イリュリアの女王であり、このエテメンアンキを起動させて管理する天界王を名乗る者だ。


「っ・・・本当に、このような異常な戦力を持った者が列挙した時代があったのですか・・・!?」

そんな彼女は今、指を組んだ両手に額を当てて俯き、心底悲嘆に暮れているかのように呻いた。テウタの面前に展開されている空間モニターには、オーディンがミュール・エグリゴリを撃破したシーンが映されていた。それだけではない。彼女の、イリュリアの奥の手たるエテメンアンキの砲撃カレドヴルフを単独で防ぎきっている光景。
自信が、いや確信があった。カレドヴルフでなら必ずオーディンに苦汁を舐めさせる事が出来ると。しかし結果は、見るも無残。オーディンは七美徳の天使アンゲルスや巨大戦闘帆船アースガルド艦隊と言った反則を使い、世界の半球をすべて防御圏内としている。

「ガーデンベルグ様たちは一体どうしたのですか!?」

肘掛けに何度も拳を振り下ろしながら、“堕天使エグリゴリ”達が姿を見せない事に苛立ちを見せる彼女は、融合騎・マラークに問う。マラークの容姿は、真紅の長髪はポニーテール、瞳は翠色、服装は白のシャツとテイルコートにスラックスと言う男装。スタイルは、お世辞にも良いとは言えない起伏が乏しい。戦闘者にとっては問題ないかもしれないが。

「何かしらの御用があるとの事で、開戦と同時に皆様は姿を晦ましました」

「このような時に限って! 神器王を討伐するだけの実力を持ち得ながら、どうして!」

テウタはついに本気で願った。オーディン――いやルシリオンを殺してほしいと。その願いが実行された時、テウタにもたらされる結果は大きく分けて2つだ。1つは“堕天使エグリゴリ”を失う。もう1つはイリュリアがこの戦争に勝利する。
前者は、現状のルシリオンはセフィロトの樹から動けないという制限は有るが、記憶に関する制限が限りなく無いに近い。それはつまり遥か過去、中遠距離射砲撃戦において最強と謳われた神器王ルシリオンそのものだ。
セフィロトの樹の魔力を全て“エグリゴリ”攻略に必要な魔道に使えば、ルシリオンは“エグリゴリ”に辛くもだが勝利を収めるだろう。

後者は、“エグリゴリ”攻略によってセフィロトの樹を失う事になり、ルシリオンの指令でシュトゥラを防衛するアースガルド艦隊はただ浮かぶ船へと成り下がり、カレドヴルフを防御できなくなる。そして“エグリゴリ”との戦いが終わればルシリオンは消滅し、他国を護るアンゲルスもまた消滅する。
そうなればカレドヴルフの射程圏内の国々は、カレドヴルフの脅威に対して丸裸同然となり、果てに撃ち込まれて滅亡するだろう。態勢を立て直す事すら出来ず、イリュリアの独り勝ちという結果になる。

テウタが失うモノはただの協力者、得るモノは新世界レーベンヴェルト創造の切符。彼女にとっては最高の結末だ。しかし肝心の“エグリゴリ”が姿を晦ませて行方不明。だからこそ「どうにか連絡をつけなさい!」マラークに怒鳴る。
マラークは一礼をして玉座の間から階下へと降りて行った。玉座の間に残ろうが残るまいがマラークに出来る事は限られる。懸命に“エグリゴリ”と念話の回線を繋ごうと努力する。当然そんな事が出来るわけもなく、マラークはひとり頑張り続けるのみだ。その姿は無様を通り越して哀れだ。

「アウストラシア勢には、キメラ達やネウストリア騎士団を向かわせ、オリヴィエ王女殿下以外を足止めしましょう。ネウストリア騎士団に構っているアウストラシア騎士団ごとキメラ達を自爆させれば上手くいくはず」

玉座の前に仮想のチェス台が現れる。テウタはイリュリアの現状を現したチェス台を眺め、駒を動かしていく。

「ダールグリュン帝とガレアの元へはグレゴールを、マクシミリアン艦隊には対艦装備の空戦騎士団を。討伐できずとも、誘き出したオリヴィエ王女殿下をこの手で討ち取るまでの時間稼ぎをしていただければ結構。オーディンに関しては・・・あ!」

テウタは何かを閃いたように表情を輝かせて、「そうです! カレドヴルフの集中砲火で消し飛ばしてあげます!」モニターに映るオーディンを見る。映っている彼は、シュリエルリートの頭を撫で、ザフィーラと拳を突き合わせて勝利を喜んでいた。

「エテメンアンキ! カレドヴルフの標的を変更! 目標、シュトゥラはノイヴェート丘陵中央部、オーディ・・・いいえ! ルシリオン・セインテスト・アースガルド!」

『目標変更完了。カレドヴルフ、発射します』

――カレドヴルフ――

「・・・・っ!?」

エテメンアンキの上部より放射状に広がる柱6基の先端の砲門から、深紅の砲撃カレドヴルフが曲線を描き、ルシリオンの居るノイヴェート丘陵へと突き進む。その時、テウタは見た。モニターに映るルシリオンの表情を。テウタにしてみれば焦りに染まった表情を見たかった。しかしルシリオンの表情に焦りの色は無く、それどころか、待ってました、と言った風だ。

『セフィロトの樹、数は3、意は理解、色は黒、宝石は真珠、神名はエロヒム、守護天使はザフキエル。我が内より来たれ、貴き英雄よ』

モニター越しから漏れ聞こえるルシリオンの詠唱。セフィロトの樹の第3セフィラ・ビナーの円陣に浮いていた宝石サファイアの如き魔力塊が全て消費されて砕け散る。

『誇り高き騎士王・・・・アルトリア・ペンドラゴン(セイバー)ッ!』

着弾まであと僅かとなったところで、青いドレス調の服にブレストプレートや籠手・具足の部分甲冑を装着した金髪の少女がどこからともなく現れ、ルシリオンらの前に躍り出た。

全て遠き理想郷(アヴァロン)!!』

少女のその言葉の直後に6本のカレドヴルフがルシリオン、ザフィーラ、シュリエルリート、そして少女の居る地点に着弾した――かに思えたが・・・「うそでしょう・・・!」テウタが目を見開く。モニターに映っているのは、着弾したかに思えたカレドヴルフが一斉に弾き返され戻ってきた光景だ。

『警告! 第五、第七砲門に――』

エテメンアンキの緊急を知らせる報告の最中、弾き返された6本のカレドヴルフの内2本が砲門2門に直撃した。その衝撃に「きゃぁぁぁああああああああッ!」テウタが玉座より悲鳴を上げながら転げ落ちる。エテメンアンキより第五・第七の砲門が損壊したという報告が、ノイズが紛れながらも全区画に流された。

「・・・・・・」

床に伏せたままのテウタはしばらく黙りこみ、そして突然「ふざけるなッ!」床に頭突きを一発。そう叫んでしまうのもまた当然かもしれない。あまりに理不尽、あまりに不条理。世界を滅亡させるだけの兵器エテメンアンキを用いても打倒する事が叶わず、それどころか単独で攻略されそうになっている。

「・・・ルシリオンには・・・どうやっても勝てないのですか・・・?」

両の拳を力の限り握り、何度も床を叩く。床にポタポタ落ちるのは水滴――テウタの悔し涙だ。彼女の面前に新しく展開されたモニターには、満足そうな、してやったりといった風な笑みを見せるルシリオンが映っていた。
そしてカレドヴルフを反射したと思われる少女の姿はもうない。ルシリオンが“英雄の居館ヴァルハラ”より召喚したのは、何万と居る“異界英雄エインヘリヤル”の中でも上位の存在・英霊に位置する者。現状のルシリオンでも長い時間召喚する事は出来ないため、早々に召喚を解いたのだ。

「第三が完全に使用不可、第五、第七砲門は修復さえすれば使用可・・・。ですが、すぐにとはいかない。・・・残り四門、最早役に立つかも判りませんね」

テウタは再び玉座に腰掛け、努めて冷静になって現状を確認。最早彼女に残されている道は、イリュリアに進軍した勢力全てを討伐すること。ルシリオンへのアプローチは完全に見切りをつける。ただこのまま負けるつもりはない。ここからはルシリオンに勝利する条件を徹底的にクリアするつもりだ。
そう、彼が護るべき進撃軍を根絶やしにすれば、彼は護衛対象を守りきれなかったという敗北感でいっぱいになる。実質的な勝利は望めなくとも精神的に叩き潰す。それがテウタの精神を繋ぎ止める最後の砦だ。それすら失敗すればテウタは確実に精神を病んで、悲しい結末一直線だろう。

『マラーク、もういいから戻って来なさい。融合の調整をしておきます。オリヴィエ王女殿下がここへ訪れるその時まで』

『・・・畏まりました。すぐに参ります』

テウタは必ずここへと訪れると信じているオリヴィエを迎え撃つために、マラークとの融合形態の調性を行うことを決める。

†††Sideヴィータ†††

シュトゥラの戦船の艦隊――マクシミリアン艦隊の旗艦・ローリンゲンに乗ったあたしとアイリ。あたしらの将オーディンが率いる信念の騎士団グラオベン・オルデンは、シュトゥラにとってもう特別で大切な戦力だって事で、クラウス王子の計らいで艦橋に入る事が許されてる。

「よっしゃッ!」

艦橋からエテメンアンキのテッペン付近で爆発が起きたのが見て判る。カレドヴルフっつう砲撃が一斉にシュトゥラ――オーディンの居る所へ落ちて来た時はちょい焦ったけど。でも完璧に跳ね返されたカレドヴルフはそのままの軌道で空に戻って行って、エテメンアンキのどっかを破壊した。
艦橋に居るローリンゲンの管制を担ってる連中も「さすが騎士オーディン」「反射させるとは素晴らしい手だ!」とか歓声を挙げてる。一時的にあたしの融合騎になったアイリも「やっぱりマイスターはすごいよねっ♪」って艦橋内を飛び回る。

「殿下! 4時の方角よりイリュリア所属の艦隊の熱源を確認!」

索敵担当から報告が上がる。だけど艦橋には焦りも何もない。少し遅れてから、さっきの索敵担当が「イリュリア艦隊が、げ、撃沈されました!」ちょっと前と同じ報告をした。オーディンだ。正確にはオーディンがどこからか用意した戦船(帆船つうのが驚きだけどな)の艦隊からの援護砲撃が放たれて、イリュリア艦隊を次々と撃沈していく。もう何でもあり過ぎて逆に笑えてくる。クラウス王子も「労せず王都へ向かえるのは喜ばしい事だが・・・」ちょっと呆れて苦笑してる。

「艦隊下方より空戦敵騎! イリュリアからの奇襲です!」

「隠れていたのか・・・! 艦砲射撃!」

「ダメです! 艦隊間を飛行されているため撃てません!」

「マクシミリアン三番艦ビスマルクに取り付かれました!」

地上から真っ直ぐ飛んできたイリュリアの騎士団が艦隊の1隻――ビスマルクっつうのに取り付いたらしい。頭がいいな。艦隊が頭上を通るまで隠れて、死角の船底から奇襲を仕掛ける。艦砲を受けないために艦隊間を飛んで張り付いて、「奴ら、対艦武装を装備しています!」戦船の装甲を破壊しようとしてるってわけだ。

「アイリ」

「だね」

踵を返して艦橋の入り口に向かう。クラウス王子が「すみません」そう一言謝ってきた。あたしは「これがあたしらの仕事だからな。気にしないでくれ」それだけ言って艦橋から出る。向かうは艦上に出るための上部ハッチ。艦砲が使えないんなら直接ブッ叩くまでだ。通路を突き進む中、「特訓の成果を見せてやっか。な? アイリ」隣を飛んでついて来るアイリに振り向く。

「マイスターの期待にも応えたいしね。やっちゃおう♪」

辿り着いたハッチを開けて艦上に立つ。風で靡く髪を片手で押さえつつ、あたしは他艦を襲っている騎士団を見る。風に吹き飛ばされているアイリを胸に抱え「そんじゃ始めるか」そう言うと、アイリも「始めよう、マイスターの敵を全部・・・斃す」強く頷いた。おいおい、お前、イリュリアを潰すまでの間、オーディンを利用するとか言っていたクセに、もう完全にグラオベン・オルデンの一員じゃん。

「「融合!」」

アイリと融合を果たす。あたしの騎士甲冑がちょっとだけ変わる。色は全体的に青色になってる。赤い生地部分は青、それ以外は水色だ。髪色はオーディンやシュリエルの銀に近い蒼。んでもって全身から放たれる冷気。自分の意思じゃねぇのに出るんだよな。しかも上着と帽子が無くなってんのに寒くないし。アイリとの融合で一番嬉しい事は、背中から氷の剣翼が3対、計6枚が展開されたこと。数は違ぇけどオーディンとお揃いの剣翼だ。それがなんだかムチャクチャ嬉しいんだよなぁ~。

「行くぜッ!」

艦上から飛び立つ。携えるは長年の相棒、鉄の伯爵・“グラーフアイゼン”。あたしの内に居るアイリが『氷結圏!』そう言うと、“アイゼン”全体に冷気が纏わりついてヘッド部分が凍った事で、“アイゼン”は星球武器(モルゲンシュテルン)形態になる。

「まずはテメェらだぁぁぁあああああああッッ!!」

――クリスタレス・ハンマー――

ビスマルクに取り付いている奴らをブン殴って吹っ飛ばす。ブッ叩いている途中で気づく。コイツら、飛べるだけで空戦は玄人じゃねぇ。空戦の戦い方を知っちゃいるが、学んだだけで実戦経験が少ないのが見りゃ判る。コイツらの動きは決して悪かねぇけどそれだけだ。あたしの敵じゃねぇよ。まぁなんだ、「まともに戦えねぇ奴はすっこんでろッ!」あたしの動きについてこれねぇ3人を次々にブッ飛ばす。

「第三・第四小隊はその小娘を迎撃! 第一・第二小隊はこのまま戦船の装甲を破壊、中に進入せよ!」

役割分担を決めやがったな。あたしを包囲するのは14人の筋肉騎士。残りの30数人かがビスマルクや別の戦船に取り付いて、装甲を破城鎚で殴り始める。止めねぇと。とりあえず「たった1人に負けてなるものか!」そう叫びながら向かって来る敵を、1人、2人、3人とクリスタレス・ハンマーでブッ叩く。

『ヴィータ。クリスタレス・ハンマーの維持限界だよっ』

『かなり堅いな、コイツら・・・。よし、コイツをぶっ叩いて終わりだ・・・!』

4人目が持ってる対艦武装の破城鎚ごとソイツの甲冑を粉砕したら、ヘッドを覆っていた氷が砕け散る。それと同時にその場で旋回して、“アイゼン”をソイツの顔面に叩き込んで撃墜してやる。っつうところで「貴様ぁぁぁぁああああああッ!」あたしに向かって破城鎚を振り降ろしてきた5人目と6人目の筋肉騎士。高速移動のフェアーテが無けりゃ避ける事も出来ない速さと正確さだ。

「(でもな・・・)融合形態(いま)のあたしはこの場じゃ最速だぜッ!」

冷気の帯を引きながら横に移動。遅れて破城鎚があたしの傍を通り過ぎる。全身を重甲冑で覆い隠して、そのうえ大振りだった事もあって、一度避けちまえばあとは簡単に反撃が出来るんだぜ、おっさん。

「あらよっと・・・!」

――テートリヒ・シュラーク――

2人の顔面に叩き込む。“アイゼン”から伝わって来る肉を潰して骨を砕いた感触。顔を砕かれたソイツらもまた地面に向かって落下していった。アイリが『次は?』って訊いてきたから、『次はフリーゲン、そっからフリーレンで行くぞ』即答してやる。あたしとアイリで組み上げたいくつかの魔導(つまる、つまらんだとかで何度か衝突したけどな)を、テメェらで試させてもらうぜっ♪

「アイゼン!」

まずはカートリッジを1発ロード。

「『シュワルベフリーゲン・アイス!!』」

鉄球や魔力弾を繰り出すフリーゲンの応用版――冷気の魔力弾を8発打ち出す。元はオーディンと一緒に組み上げた共同魔導だけど、氷の融合騎アイリの力で単独でも扱える事になった。誘導操作に着弾時炸裂って効果はそのままだ。
くそ重い破城鎚を手に必死に避けようとするけど、追尾してくる所為で大慌てだ。回避も難しいって判断したらしいアイツらは、ついに障壁で防御しようとしやがった。それが狙いだっつうの。障壁に着弾した瞬間にフリーゲンが炸裂、ボフッて音と一緒に冷気が爆散。

『うん、狙い通りだね』

『見りゃ判んだろうにな』

冷気をまともに受けて体が凍りついた何人かが真っ逆さまに地面に墜落してく。んで、「懐に潜り込むなんて余計に自殺行為だっつうの!」旋回して、あたしの背後に最接近してきた奴の胸部装甲に向かって、

――フリーレンシュラーク――

冷気を纏ったテートリヒ・シュラーク――フリーレンシュラークを打ち込む。打撃に凍結、2つの効果の一撃だ。打撃で体内外をぶっ壊し、その上で凍結させる。やばい、こいつはやばい。アイリとの融合形態、ここまでハマるなんて思ってもみなかった。
なんつうかシグナムが羨ましい。オーディンに頼んで、アイリをあたしの融合騎にしてもらえねぇかなぁ~。シグナムとアギト、オーディンとシュリエル、そんでもってあたしとアイリ。これでいいんじゃね?
オーディンを説得して“闇の書”を完成させて、シュリエルを融合騎にしちまおう。

『ヴィータ! なにボケッとしてるのっ?』

「『――っとと、悪ぃ』・・・おっと、ほらよ・・!」

――フリーレンシュラーク――

「うごぉ・・・体が凍っ――!?」

頭上から急降下して来た奴が振り落してきた破城鎚を、ちょい後退して避ける。位置が逆になる。あたしが上で敵が下。冷気を纏う“アイゼン”を振り下ろしてソイツの右肩(ド頭に打ち下ろすつもりだったんだけどな)に一撃与える。
骨を砕いたのは手応えで判った。どっちにしろ凍結して真っ逆さま。地面に落ちた瞬間に砕けて終わりだ。悪く思わないでくれよな。こっちだって勝つのに必死なんだ。

「さてと。凍りてぇ奴からかかって来いよ。グラオベン・オルデンの鉄槌の騎士ヴィータと――」

『氷の融合騎アイリが――』

「ブッ潰すッ!」『ブッ倒すからねっ!』

“アイゼン”を残り、えっと・・・3人の騎士に向ける。

†††Sideヴィータ⇒リサ†††

「はぁはぁはぁ・・・・」

「ぅく・・・存外にしぶといな、シャルロッテ」

シャルロッテ様の助言や時折の身体操作のおかげで首の皮一枚繋がってる。イリュリア騎士団第二位のヨハンの強さは本物だった。“キルシュブリューテ”に宿ってるというシャルロッテ様のご意思の御力が無ければ、私はもう死んでいる。

『リサ、やっぱり代わろうか?』

『いえ。シャルロッテ様の御手を煩わせるわけにはいきません・・・!』

――炎牙月閃刃(フランメ・モーントズィッヒェル)――

魔剣、“断刀キルシュブリューテ”の刀身に桃色の火炎を付加。私の十八番の魔導だ。シャルロッテ様が瞬間的ではなくて持続的に私の体を操作して戦えば、おそらくヨハンに快勝できるはず。でもそれでは意味がない。それは私の勝利ではなくシャルロッテ様の勝利だ。

――風刃烈火――

暴風が長槍全体に巻きつくように発生する。まるで馬鹿の一つ覚えのようにその魔導だけしか使ってこない。けどそれで充分だとも言える。暴風は攻防一体。触れたモノを砕く。障壁を突破されての直撃は、肉をごっそり削り取られるだろう。その暴風は、私の炎を一瞬で散らし無力化してきた。やっぱりもう炎熱系の魔導は通用しないと見切りをつけた方がいいか。

「早々にこの世より退場させてくれるわ!」

「っ、それはこちらの台詞だッ!」

――光牙月閃刃(シャイン・モーントズィッヒェル)――

桃色に光り輝く攻撃魔力を刀身に纏わせる。中遠距離の魔導は通用しない、というか避けられる。だから接近戦――斬り合い限定にする。魔力で身体強化して身動きを限界にまで高め、

「「ああああああああああああッッ!!」」

ヨハンが繰り出す刺突の連続を“キルシュブリューテ”で弾き続ける。“キルシュブリューテ”が長刀で良かった。普通の長さの武器だったら、長槍を弾いた瞬間に暴風から漏れる小さな風の刃の射程圏内に入ってズタズタにされる。
最初はそうとは知らずに近付き過ぎた所為で全身なます切りにされるところだった。シャルロッテ様が咄嗟に私の体を操った(何でも出来て驚きだ)ことで、難を逃れる事が出来た。

『コイツ、思っていた以上にやるわ。この槍捌きで第二位って、第一位はどんな怪物なのかしらね~』

「『そんな呑気な・・・』危な――っ!」

刺突をギリギリで弾く。あと少し反応が遅れていたら心臓を貫かれてた。長槍が引かれたその一瞬を狙って、高速移動歩法・閃駆で大きく距離を取る。ヨハンは私を追撃をする事なく「武装解除して投降するなら、命だけは見逃そう」と言ってきた。

「・・・・フライハイト家(わたし)の返答、聞くまででもないでしょ・・・?」

「そうだな。・・・十騎士公家の主格オメガ・シュプリンガー家当主として、フライハイト家を十騎士公家から除名する」

「今さら過ぎて気にもならない。レーベンヴェルト王家に残っているのは、オメガ・シュプリンガー家、ブラッディア家、ヴォルクステッド家、ダーツェ家だけじゃないの。フライハイト家とアルファリオ家はアウストラシアに、ヒルベルト家とノワール家、プリマベラ家もそれぞれ別の国だし、ストラトス家に至っては今ではシュトゥラの王族だし」

すでにオーディンさん達の手によって、ブラッディアとヴォルクステッドの騎士は戦死している状況だし。ヨハンの顔が怒りに歪む。シャルロッテ様も『哀れなものよね~。歴代最強だった当時のシュテルン・リッターも時が経てば瓦解か』と怒り・・ううん、寂しそうに言う。
“星騎士シュテルン・リッター”。レーベンヴェルトを護っていた騎士団、その最強の10人の騎士たちの総称。なのに今ではレーベンヴェルト――イリュリアに弓を引く者ばかり。シャルロッテ様にとってはやっぱり複雑なのかもしれない。

『(下手に長引かせても状況が悪くなるだけだ、こうなったら・・・)シャルロッテ様』

『どうしたの?』

『シャルロッテ様の最強剣技・・・真技なるものの本当のやり方を後で教えてください。今はただ、私がシャルロッテ様の記した魔導書から推測して組み上げた私の真技を・・・ヨハンに打ちます』

『おお! それは楽しみだ♪ 必要な魔力はキルシュブリューテから取り込むことが出来るから!』

シャルロッテ様が楽しげに笑う。私としては笑っていられる状況じゃないのですけど。とりあえず魔力に関しては先ほどから“キルシュブリューテ”から送られてくるため、枯渇する心配はない。だから「参りますッ!」私の最強の剣技を全力で最強格の騎士ヨハンに打ち込める。まずは相手を宙に浮かせないといけない。

――閃駆・光牙月閃刃(シャイン・モーントズィッヒェル)――

移動速度でなら私が勝っているのはシャルロッテ様からも認められている。刀身に閃光を纏わせ、閃駆でヨハンへと接近を試みる。彼我の距離20m。その距離をたった一歩で1にする。直面に現れた私に対してヨハンは焦らずに刺突を繰り出そうと腕を引いた。

「せぇぇぇえええええいッ!」

その前に、地面に“キルシュブリューテ”を叩き込んで、刀身に纏わせていた閃光を爆発させる。爆発で起こった砂塵による視覚封じ。間髪入れずに膝下の高さ辺りを薙ぎ払う。砂煙の微細な動きを見逃さない。
ヨハンが跳んだ動きに合わせて砂煙に変化。後退されていたら少し面倒だったけど、“キルシュブリューテ”の長さがまた役に立った。後退より上に跳んだ方が回避しやすい。予定通りの行動をヨハンは採ってくれた。

――風牙烈風刃(ヴィント・シュトゥース)――

砂煙の合間に見えた、降下しつつの刺突体勢に入ったヨハンへと風圧の壁を放つ。砂煙を吹き飛ばしながら迫る烈風刃を、ヨハンは風乗りという魔導で射線上より離脱。風乗りの効果は飛行ではなく浮遊。風の足場に乗っての移動という事はもう判っている。ゆえに空戦は私と同じで自由自在とはいかない。けど、

――法陣結界――

ヨハンを中心として半径10m圏にいくつもの魔法陣を展開。ヨハンにとっては球体上の檻。私にとっては全方位の足場。

「これは・・・!」

「もう逃げ場はない。覚悟しろ、ヨハン!!」

――閃駆――

風乗りは確実な足場にはなりえない。効果がそう長く持続しないからだ。でも私の法陣結界は、私が解かない限り、そして破壊されない限りは消えない。一番重要なのは、一度展開すればあとは維持するだけの魔力が必要な私とは違い、ヨハンは常に魔力消費や発動時機、効果範囲などにいちいち気を割かないといけないという事だ。その差が必ず私に好機をもたらす。現にヨハンは、法陣結界内を閃駆で駆け回る私が繰り出す斬撃を避けるのに必死だ。

「づっ・・・! このような結界など破壊してくれるわッ!」

――風刃烈火――

風乗りを連続で発動して“キルシュブリューテ”の斬撃を避け続けていたヨハンが叫んだ。長槍に暴風が纏わりつく。けど法陣結界を破壊するつもりなんて端から無いでしょ。目が口ほどにものを言う。結界破壊阻止に焦った私を討つ、それがあなたの策だ。
それに、破壊したいなら破壊すればいい。すぐさま修復して、再び檻に叩き込んでくれる。穂先を私に向けるヨハン。すでに私はヨハンの頭上の魔法陣に足をつけ、閃駆を行おうとしてる瞬間。

(本音を言えば、真技の前に少しでも損害を与えておきたかったけど、粘って殺されるヘマだけはしたくないし・・・仕方ない)

私がシャルロッテ様の魔導書から読み取れた、真技という最強の剣技の数小節。同時数太刀斬撃。数は読み取れなかったけど、複数の斬撃を同時に対象に打ち込むってどうやればいいのか。それをひたすら考え、私が出した答え。おそらくシャルロッテ様とは違うだろうけど、これが私の・・・

「風刃烈火!!」

刺突が繰り出される。私はヨハンの真後ろの魔法陣へと移動。長槍から暴風が放たれて法陣結界の上5枚の魔法陣を砕いたけど、すぐさま修復される。足場としている魔法陣に、起動した私の“キルシュブリューテ”を刺して、真技に必要な魔導を発動する鍵とする。

「真技!!」

魔法陣1枚につき障壁破壊効果を付与してある魔力の剣が一振り現れる。形状は、この魔導を発動する鍵である“キルシュブリューテ”と同じで長刀。その数は計32本で、すべての魔力長刀の柄頭がヨハンに向く事になる。魔剣“キルシュブリューテ”を鞘に納めて背中に担ぐ。自分の魔導と“キルシュブリューテ”を使って、ヨハンを討ちたいから。

「うおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

閃駆でその魔法陣へと移動した時にそこの魔力長刀を抜き放ち、また別の魔法陣へと閃駆で移動している最中に高速で相手を斬り続ける。魔力長刀は脆い。すべてを交差時の一撃に懸けているために維持する魔力は無いから一回で砕ける。だけどその分、攻撃力は高い。
障壁破壊効果に特化した魔力の連続斬撃は、敵の騎士甲冑を少しずつでも削り取って行く。障壁や騎士甲冑が砕けたその時、私の真技が・・・・完成する。抜いても抜いても新たに魔力の長刀は生まれ続ける。決して切れる事はない。斬り続けること39回。ようやくヨハンの甲冑を砕いて生身――脇腹に一撃入れると、

「ぐあぁあぁあぁあああぁああああああッ!!」

彼は苦痛の叫び声を上げた。

「牢刃・弧舞斬閃!」

32枚の魔法陣からひとりでに抜けた魔力長刀32本による同時32太刀斬撃。ヨハンは長槍や魔導で防ぐ事も叶わず、全方位から飛来するすべての斬撃を余すことなくその身に受けた。32本の魔力長刀はヨハンを斬った直後に消滅――したと同時に私は武装“キルシュブリューテ”を魔法陣から抜く。私の手による直接のトドメの一閃として使用するために。真上の魔法陣から閃駆で急降下、ヨハンを縦一文字に斬りつける。

「っづ・・・はぁはぁはぁはぁはぁ・・・・っ!」

私が着地し、全身に斬傷を刻まれたヨハンの体を受け止めた一番下の魔法陣が砕けると、連鎖的に法陣結界が砕けていく。ドサッと力なく地面に落ちたヨハンは身じろぎ1つ、呻き声すらも出さない。私も声が出せないほどに疲労。なんとか地面に着地できたけど、すぐに足がフラついてその場に座り込む。
全身が悲鳴を上げている。牢刃・弧舞斬閃は魔力も肉体も酷使するから、連戦の可能性がある場合はなかなか使わない。魔剣“キルシュブリューテ”の魔力を運用してもこのザマだ。もう少し魔力消費については改良しないといけないかな。

『お疲れ様、リサ。あなたの真技――牢刃・弧舞斬閃。確かに観せてもらったよ。なかなか面白い。私はこれで良いと思うよ。もっと昇華させていけば汎用性も出ると思うし。私の真技――牢刃・弧舞八閃なんかよりずっと良い。アレは純粋で確実な斬殺剣技だから』

上がらない腕を必死に動かして魔剣”キルシュブリューテ”を鞘から抜く。でもそれだけ。思念通話で応えようとも思っても思考が乱れてしまって、思念通話なんて簡単な魔導すら発動できない。とにかく何故かシャルロッテ様はとても悲しそう。斬殺剣技がダメ? 剣技は敵を斬り捨てるためのものなのに。言葉は交わさなくても思っている事は魔剣“キルシュブリューテ”を通して繋がってしまうようで。

『力はね、ただ殺す――害するだけのものじゃないんだよ。あなたも解ってるでしょ。力は――』

『何かを守るためのもの・・・ですよね・・・?』

『そうゆうこと♪・・・さて、シグナム達の方も終わったようね』

首だけを動かして周囲を見回す。私とヨハンの決闘を邪魔させないように敵騎士団と交戦してくれていた騎士シグナムやアウストラシア騎士団のみんな。騎士シグナムは体や騎士甲冑のあちこちに斬傷を作っていて、左足を庇うようにヨロヨロと私の方へと歩いてくる。
歩いているだけで辛そうだけど、それでも「素晴らしい戦いだった」そう笑みを浮かべて褒めてくれた。“キルシュブリューテ”を待機形態の首飾りに戻した私は深呼吸を何度も繰り返して息を整え、

「ありがとう、ございます・・・!」

フラフラでボロボロな騎士シグナムが差し伸べてくれた手を迷いながらも取って立ち上り、こちらも笑みで応じた。立ち上る事で状況がさらに克明に理解できた。戻って来てくれたアウストラシア騎士団の数は30人弱だった。なのに今、立っているのは・・・8人。他はみんな地面に倒れ伏している。そしてブルーティガー・ハーゼ・オルデンの騎士は・・・80人弱が倒れている。戦闘開始前は確か100人くらい居たはずだ。残りの20人は・・・・?

「お前がヨハンを討った時に連中は撤退した。正直助かったよ。さすがは第二位が率いる騎士団だ。構成騎士の実力は誰も彼も高かった。こちらにはまだ余力があると思わせていたが、そんなものは演技にすぎん。あと少しお前がヨハンを討つのが遅れれば、アウストラシアの騎士は全滅、私としても危うかった」

「ごめんなさい。みんなも・・・」

私や騎士シグナム以上にボロボロであるみんなに謝る。騎士シグナムは「勘違いしているようだな。私は責めていない、感謝していると言ったぞ?」と苦笑。

「そうですよ。謝らないでください、騎士リサ。結果的に、ヨハンを討つ事が出来ました」

「無傷で彼のブルーティガー・ハーゼ・オルデンに勝利できるなど誰も思っていませんでしたし」

「斃れた仲間たちは、決して騎士リサを恨んでなんかいません」

「それどころかきっと褒め称えていますよ。強敵にして難敵の第二位ヨハンを、単独で討てたのですから」

他の騎士も私を称えるような事を言ってくれた。イリュリアに勝つための礎になる事は、打倒イリュリアを心がける者たちにとっては本望だと。それでも死んでほしくなかった。たぶんそう思うのは私だけじゃないはずなのに。でも、だからこそ斃れて逝った仲間たちのために、私たちはここで立ち止まるわけにはいかない。

『リサ。キルシュブリューテの魔力を使って私が治癒術式を発動するから、掲げて見せて』

『あ、はい。お願いします』

力の入らない両腕を精一杯上げて、“キルシュブリューテ”を掲げた。治癒が終わったら、私ひとりでも王都へ向かわないと。待っていてください、オリヴィエ様。

◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦

イリュリア騎士団、その序列第二位である騎士ヨハン・オメガ・シュプリンガー敗れる。そんな最悪な報告がイリュリア各地に散っているイリュリア騎士団へと拡がった。そして同じように彼を討伐した騎士の名もイリュリア全土に知れ渡る事になった。
アウストラシアの近衛騎士団の一個小隊ズィルバーン・ローゼの将にして、元十騎士公家の1つたるフライハイト家の次期当主、リサ・ド・シャルロッテ・フライハイト。
イリュリアの騎士ならば誰もが憧れ慕い、他国にすらその名を轟かせたヨハンが戦死。この事実が、イリュリア騎士の士気に大きく影響する。ヨハンの死は、彼を慕っていた騎士たちの士気を大いに下げていた

「騎士ヨハンが敗れた・・・? そんな馬鹿な!!」

「あのヨハン様が負けるなど嘘だ!」

それはここイリュリア南東部を防衛している騎士団も例に漏れず。ベルカ全土に名を馳せる大帝――雷帝バルトロメーウス・ダールグリュンを前にして、彼らはその事実を認めようとはせずに叫ぶのみ。ダールグリュンは「戦場にそのような感情など持ち込むではないわッ!」怒声と共に黄金の戦斧――銘をクロケア・モルス、意を黄橙色の死――を薙ぎ、その騎士たちの体を粉砕して一瞬のうちに絶命させた。

「温い! ヨハンとやらが討たれたと知るや否や足並みを崩すとは! これがイリュリア騎士団だと? 笑わせるでないわッ。我らは今までこのような雑魚の集まりに阻まれていたと言うのかッ!」

ダールグリュンは怒声を上げ、クロケア・モルスの石突をズンッと地面に打つ。それだけで彼の周囲に震動が起こり、敵味方関係なくフラついた。

「彼らを冒涜しないでもらおう。騎士ヨハンは、イリュリア騎士の誰もが敬意を表す男だったのだ。そのような偉大な男が討たれた。取り乱すのもまた仕方ない事だと思うのだがな」

ダールグリュンに異を唱える1人の男。ダールグリュンは「出たな。グレゴール」と嬉しそうに顔を破顔させた。ダールグリュンの視線の先には、白銀の甲冑を着込だ老齢の男――グレゴール・ベッケンバウアーが佇んでいた。
シュトゥラ・ラキシュ領はアムルを襲撃し、アンナを連れ去った時とは違い、今のグレゴールは完全武装だ。甲冑はもちろん左手に携えるは飾りっ気のない大剣。形状は片刃、峰は櫛状となっていて、所謂ソードブレイカーと呼ばれる短剣を巨大化させたものだ。

「我が戦いたいと思っていた男が今、こうして目の前に現れた。これは僥倖よ」

「小童めが。雷帝と謳われ、鼻が高くなっているのではないか?」

三連国バルトはウラルを統治する王ダールグリュンと、イリュリア騎士団総長にして第一位の実力者グレゴールが邂逅した。2人の周囲に居る者たちが一斉に散って行く。2人の決闘の近くに居る事、それ即ち死に直結すると理解しているからだ。そんな散って行ったダールグリュンの配下の騎士団の元に、1人の成人男が立ち塞がる。

「アインス。我とダールグリュンの決闘が終わるまでに、その者たちを一掃しておけ」

「ヤヴォール。ロード・グレゴール」

グレゴールにそう応じた男の名はアインス。融合騎プロトタイプ・一番騎アインス。全ての融合騎の兄であり、シュリエルリートと同じように単独戦力としても強大だ。アインスは雷撃で大鎌を創り出し、「それでは皆さん、死ぬお時間です」そう言いながら、ウラル騎士団や何百体と居るマリアージュへと突撃、次々と薙ぎ払っていった。

「・・・決闘が終わるまでに、か。面白い。決闘の後、どちらが立っているか、確かめようではないか!」

「一国の王が戦闘狂とは。ウラルもそう長くはないかもしれんな」

ダールグリュンは戦斧クロケア・モルスを前に掲げ、グレゴールもまた刀剣破壊剣――銘をシュチェルビェツ、意を刻みの(ギザギザの)在る剣――を前に掲げ、互いの武装の先を当てた。

「バルトはウラルの王、雷帝バルトローメウス・ダールグリュン」

「イリュリア騎士団・序列第一位、総長グレゴール・ベッケンバウアー」

「「いざッ!」」

イリュリアと対イリュリア同盟、二大勢力における最強格の騎士が衝突した。




ヨハンの死。それがキッカケとなったかのようにイリュリア戦争は熾烈を極め始める。
イリュリア南部。リサとシグナム・アギト、アウストラシア騎士団一個小隊を置いて先に進軍していたアウストラシア騎士団は、テウタの狙い通りの事態へと陥っていた。故ウルリケ・デュッセルドルフ・フォン・ブラッディアが率いた、狂いたる災禍騎士団プリュンダラー・オルデン所属のキメラ達が、ネウストリア騎士団・アウストラシア騎士団に取り付いて自爆する事で、2つの騎士団に壊滅的被害を与えていた。

ヨハンと、彼の率いていた戦兎騎士団ブルーティガー・ハーゼン・オルデンと戦い傷ついたリサ、シグナム・アギト、そして小隊は、負ったダメージの治癒の為、その場から動けずにいる。

イリュリア西部。トゥルム海沖にて行われていたイリュリア艦隊とヘルウェティア・ヴィンランド・シュヴァーベンの同盟艦隊による戦闘は、無人とした戦船を同盟艦隊に衝突させるという荒業にて、共に壊滅状態となっていた。

イリュリア北部。シュトゥラのマクシミリアン艦隊は、アースガルド艦隊の援護も空しくイリュリア艦隊との艦隊戦によって1隻、また1隻と沈んだ。クラウス率いる騎士団は艦隊より地上に降下、馬を駆り王都へと進軍を開始。イリュリア騎士団の序列六位・七位・十位の騎士が率いる高位の三個騎士団と、下位の四個騎士団の計七個騎士団と戦闘を開始。
ヴィータとアイリ、そしてルシリオンの護衛を解かれてシュトゥラ騎士団と合流したザフィーラとシュリエルリートの協力もあって、辛くも勝利した。しかしヴィータ達グラオベン・オルデンやクラウスも含めてこの戦で大ダメージを負い、進軍を中断する他なくなった。

イリュリア南東部。雷帝ダールグリュンと総長グレゴールの決闘。
ダールグリュンは「人間を辞めたのだな・・!」と戦斧クロケア・モルスに雷撃を纏わせての刺突――雷帝式・四式・瞬光でグレゴールの脇腹をごっそり穿っていた。しかしグレゴールは血反吐を吐きながらも「老体に鞭打つには必要なのだよ」と笑みを漏らすと、穿たれた部分が急速に再生され元通りとなった。グレゴールは確かに人間を辞めていた。キメラ達のような生体兵器化を自らに施し、不死の肉体を手に入れていたのだ。2人の決闘に終わりは見えない。
融合騎・一番騎アインスは単独でウラル騎士団を壊滅状態にしたが、屍兵器マリアージュの連続自爆で大ダメージを被った。しかしそれでもなお雷撃の大鎌を振るい続ける。散って逝った妹たちの名誉の為に。

シュトゥラはノイヴェート丘陵。ルシリオンは6つのセフィラを完全消費しつつも各戦場に援護射砲撃を撃ち込み続けていた。だが、徐々に苛烈を極めていくイリュリアの攻勢について行けなくなったため、味方に損害が出始める結果となる。それでもエテメンアンキの砲撃カレドヴルフだけは確実に防御しているのは称賛に値する。

そしてイリュリア王都スコドラ・森林地区コースフェルド。天地統治塔エテメンアンキが在るその地に、1人の少女が森を抜けて姿を現した。
金色の髪は後頭部辺りで団子――シニヨンという髪型にされ、双眸は虹彩異色で、片方は紅、片方は翠。聖王家の王女、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトだ。普段は温厚で柔らかな表情を浮かべている彼女だが、今はもう憤怒一色に染まっている。
彼女の頬や髪、騎士甲冑は血に染まっている。もちろんその血は彼女の物ではない。すべて返り血だ。自爆したキメラ、自爆に巻き込まれて死んだネウストリア騎士、自分を庇って死んだアウストラシア騎士たちの。

「テウタ・・・!」

ギリッと歯噛みをし、目の前にそびえ立つエテメンアンキを睨み付けた。そして「待っていてください」テウタに告げるようにポツリと漏らし、彼女の全身から虹色の魔力が噴き出る。

――精神一到――

魔力を体の1ヵ所に集束させる魔導を発動し、オリヴィエから噴き出す魔力は右拳へと集束していく。その拳はさながら虹色に輝く星。「今すぐそちらへ行きますッ!」エテメンアンキの入り口である両開き扉を殴りつけた。
高さ3m、幅1m、厚さ50cmという鋼鉄の扉が、見た目は非力そうな少女オリヴィエに一発殴られただけでグシャッと潰れ、内部へと吹き飛んで行った。彼女は冷静になるよう努めるために一度深呼吸をし、エテメンアンキの入り口を潜って行った。



 
 

 
後書き
フジャムボ。
ようやくここまで来れましたね。後半は結構手を抜いてしまいました。
一人称視点で書いていくと、コロコロ視点が変わって読み辛いと判断したための処置です。
一番の理由としては、ダールグリュンの魔導はVividのヴィクトーリアから取って来たいのですが、彼女の出番が少ないので判っている魔導が少ない。

「雷帝式・百式ってどんだけぇ~。ANSUR一の魔道持ちであるルシルより多いよ!」

じゃあグレゴールとの戦闘は省略ということで・・という結果に。
クラウスも同様ですね。覇王流は、オリヴィエの死後に確立される物ですし、もちろん原型はこの頃よりあるでしょう。
断空拳や旋衝破くらいは使いそうですけど、どちらにしても少なすぎです。
ちなみにリサの真技、牢刃・弧舞斬閃のオリジナルは、FFⅦアドベントチルドレンの超究武神覇斬ver.5です。

 
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