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小さな足跡

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第三章

「うちの子や家に来た小さな子が誰もいない筈の場所を見たり」
「そうしたことがですね」
「ありますね」
「それは」
「はい、座敷童はですね」
「子供にしか見えないです」
「そう言われていますね」
「座敷童が見えるのは子供だけです」
 僧侶は言い切った。
「大人にはです」
「見えないですね」
「貴方も見えたのなら」
 子供の頃の荷風がというのだ。
「間違いなくです」
「うちに座敷童がいて」
「キクさんがお亡くなりになることも」
「知らせてくれたんですね」
「そうかと。見えていなくても」 
 大人にはそうであってもというのだ。
「ですが」
「それでもですね」
「確かにいて」
 それでというのだ。
「そうしたこともです」
「知らせてくれるんですね」
「はい」
 そうだというのだ。
「そうしてくれます」
「そうでしたか」
「大事にされて下さい」 
 僧侶は荷風にこうも言った。
「座敷童は」
「家に幸せをもたらしてくれるからですね」
「そうした妖怪ですので」
 それ故にというのだ。
「ご家族と同じ様に」
「見えなくともですね」
「仏壇にそうしてくれるなら」
「仏壇に来ていますね」
「ですから」
 だからこそというのだ。
「くれぐれもです」
「大事にですね」
「されて下さい」
「わかりました」
 荷風は確かな声で頷いた、そうしてだった。
 座敷童が小豆が好きだということも僧侶に言われるとご飯だけでなくそちらも供える様になった、そうしていくと。
 それからも仏壇に小さな足跡が出ると家族の誰かが亡くなった。それは今でも続いていて荷風は令和になって暫くしてだった。
 父の大往生を迎えたがここで父に死の床で言われた。
「わしにも見えた」
「仏壇でだね」
「そしてもうすぐ行くからな」
「ああ、ひい祖母ちゃんと同じだな」
「そうだな、じゃあこれでな」
「心おきなく行ってくれ」 
 父にこう言って見送った、そうしてこのことを家族に話した。家の仏壇のそのことを。


小さな足跡   完


                     2021・8・12 
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