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Fate/WizarDragonknight

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限られた命

「すごいなあ」

 パチ、パチ、とトレギアは拍手を送った。

「すごいすごい。君たち」

 だが、トレギアの賞賛に、煉獄は表情一つ変えることはなかった。

「折角のマスターの贈り物を、そんな風に壊されちゃうとなあ。ちょっと落ち込んじゃうよ」
「全然そんな風には見えないけど」

 ウィザードはソードガンをトレギアへ向けた。
 トレギアはクスクスと肩を震わせながら、次は煉獄へ目線を映した。

「おいおい……私のような細腕に、随分と強そうな助っ人じゃないか」
「ふむ。見るからに物の怪(もののけ)のようだが。君を貧相だとは到底思えないな」
「ふ……お手柔らかに頼むよ」

 トレギアはそう言って、両手を腰に回す。
 一方の煉獄は、腰を低く落とし、日輪刀を構えた。

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」

 それは、神速の斬撃。
 瞬時にトレギアへ肉薄して放つ斬撃が、トレギアを斬りつける。

「ぐっ……!」

 さらに、続けざまの剣技。
 トレギアは爪の刃で応戦するものの、その速度は煉獄に軍配が上がる。

「これがセイバーのサーヴァントか。流石、最良のサーヴァントと呼ばれるだけのことはあるじゃないか」
「うむ! あまり自分ではそうは思えんが! だが、そのような評価をされているのならば、それに相応しい戦いをしなければいかん!」

 組み合い、やがてそのまま二人は移動する。

「煉獄さん!」
「俺のことはいい!」

 追いかけるウィザードへ、煉獄が呼び止める。

「彼の近くに、荒魂の少女がいるのだろう! ならば、君は彼女を探したまえ! このサーヴァントは、俺が抑えておく!」
「あ、ああ!」

 ウィザードは頷いた。
 そのまま、コヒメの姿を求めていこうとするものの、トレギアがそれを見逃すはずがない。

「逃がさないよ」

 煉獄の剣が振るわれると同時に、彼は闇となり消失。
 一転して、その姿はウィザードを立ちはだかるように立つ。

「邪魔っ!」

 現れたトレギアへ、ウィザーソードガンを振るう。
 だがトレギアは、腰で腕を組みながら、その斬撃を避ける。

「おやおや。随分焦っているようで」
「誰のせいだと思ってる!?」

 トレギアの蹴りが、ウィザードの蹴りと衝突。
 お互いに怯んだ間に、煉獄がトレギアの背後から斬りかかって来る。

「不意打ちかい?」

 死角のはずの斬撃から、トレギアは首を動かして避ける。

「炎の呼吸 参ノ型」

 振り上げた煉獄の日輪刀。

「昇り炎天!」

 炎が、トレギアの爪と斬り合い、互いに距離を置いた。

「面白いな……セイバー」

 トレギアは、体に付いた埃を掃いながらほほ笑む。

「いいじゃないか。なあ、セイバー。少し話をしないか?」
「話?」

 トレギアの言葉に、煉獄が顔をしかめた。

「君と俺が何の話をする? 初対面だが、俺はすでに君のことが嫌いだ」
「へえ……それは悲しいねえ」

 トレギアは頭を振った。

「私も私が嫌いだよ。この仮面を付ける前の私がね……」
「どうやら、俺と君とでは物事の価値基準が違うようだ」

 トレギアは首を振る。

「セイバー。君の力は、この聖杯戦争でも比類なき力だろう。そして、自慢ではないが私もそれなりの力を持つ」

 トレギアは肩の高さに右手を挙げた。

「私と君が組めば、もうこの聖杯戦争で、私達を止められる者はいない。君の願いさえも叶うだろう」
「願い?」
「あるのだろう? 君にも願いが」
「……ないな」

 煉獄は首を振った。

「俺は死す時、すでに願いを叶えた。常に鬼を倒したいと願っていたから、それを聖杯が聞き届けてしまったのだろう」
「へえ……鬼か……よほど過酷な戦いをしてきたんだろう?」
「それがどうした?」

 煉獄は、日輪刀に込めた敵意を隠すことなく吐き捨てた。

「いやあ、中々の技の練度だと思ってね」
「君には関係ないだろう」
「いやいや。まあ、そう言うな。見たところ、君は人間としても最盛期ではない。これから、まだ強くなる。いやはや、才能とは恐ろしいものだ」

 トレギアは「ふう……」と深く息を吐いた。

「だが、君は、地球人……人間だろう?」

 トレギアの目が赤く光る。

「所詮、人間の力など限界がある。だが君ほどの能力は、ただの人間の数十年の寿命にしておくには惜しい。だが、闇の力は別だ。永遠の命、永遠の力……」

 その言葉と共に、トレギアの背後に別の影が浮かび上がる。
 顔のような胴体と、一つ目の怪物。全体的に青い体色をしており、長く赤い髪が棘のように背中から突き出ている。

「あれは……!?」
「邪神魔獣グリムド。まあ、私の力の根源、とでも言おうか」
「……」

 グリムドと呼ばれた怪物へ、煉獄は怪訝な顔を向けた。
 トレギアは続ける。

「闇はいいぞ、セイバー。無限の力、永遠の命。それこそ、この聖杯戦争で誰もが求める力を与えてくれる。もう一体くらい、こういう闇の怪物はいるんだよ。君にあげるよ、セイバー」

 すると、トレギアの前に、闇が再び形となる。
 巨大なアンモナイトを背負った怪物。その左右から伸びる甲殻の腕と、その足元に蠢く無数の触手。一本一本が人の腕ほども太く、それが絹のようにしなやかに動き回っている。
 そして、何よりもその顔。目の上に口と、あたかも真下の生命を見下すような顔をしている。

「何だ? その物の怪は」
「邪神ガタノゾーア」

 煉獄の問いに、トレギアは答えた。

「人類の文明程度なら、一体で壊すことさえ可能な、最強の闇。君にあげるよ」

 トレギアの言葉とともに、異形の化け物、ガタノゾーアが吠えた。

「俺に? その化け物を?」
「ああ。コイツがいれば、聖杯戦争を勝ち抜くなど容易い。永遠の命とともに、人類を、世界を手にできる……」
「永遠の命か……」

 永遠の命。
 それは、古今東西、様々な人々が求めて止まない魅惑の響き。
 まだウィザードの前に現れていないだけで、きっとその願いをもって聖杯戦争に臨んでいる参加者もいるのだろう。
 トレギアは続ける。

「そうすれば、永遠に強くなり続ける。それどころか、この力でこの世界を手に入れることだってできる。百年でも二百年でも……それこそ、神の力と言ってもいい」
「興味ないな」

 だが、トレギアの提案を煉獄はバッサリと切り捨てた。

「老いることも死ぬことも、人間という儚い生き物の美しさだ」
「……へえ?」
「老いるからこそ……死ぬからこそ。堪らなく愛おしく、尊いのだ」

 ウィザードは一瞬、煉獄から目を背ける。

「君は、永遠の命を捨てるのかい?」

 トレギアの言葉と時を同じくして、ガタノゾーアも吠える。
 だが煉獄は、眉一つ動かすことなく断言した。

「もう一度言う」

 冷たく吐き捨てる煉獄は、日輪刀を横に構え。

「限りある命を、必死に生きることもまた、人の美しさだ。人の強さだ」
「強さ……ねえ」

 その言葉に、トレギアは薄気味悪い笑みを浮かべた。

「なら……その、儚く散るであろう人の美しさを、永遠のものにしてあげよう。私がね」

 そして、ガタノゾーアが動く。
 ガタノゾーアの武器は、その太く長く多い触手。
 鞭のようにしなるそれを飛び越え、煉獄はトレギアへ接近していく。

「炎の呼吸 壱ノ型 不知火!」

 無数の触手が壁となり、ガタノゾーアへの道を阻む。
 だが、可奈美の迅位斬に匹敵する即断技である不知火は、一気にガタノゾーアへ肉薄。その硬い体を切り裂いた。
 ガタノゾーアの甲殻より、火花が散る。
 だが、ガタノゾーア本体にはさほどのダメージになっていないのであろう。衰えない動きで、触手が煉獄を払いのける。

「むっ!」

 煉獄は着地と同時に後ずさる。
 だが、そんな煉獄へガタノゾーアが手を緩める理由はない。

「煉獄さん!」

 迎撃の反応が遅れた煉獄の前に、ウィザードが立つ。

「松菜青年!」

 ウィザードはそう言って、ソードガンと蹴りで触手を弾き飛ばす。

「合わせよう!」
「うむ!」

 煉獄の剣、その動きには炎が残光として残る。
 それをウィザーソードガンが余すことなく掠め取り、その威力を引き上げていく。
 やがてガタノゾーアの甲殻さえも、一か所。ほんの一か所だけ、ヒビを入れた。

「通った!」
「うむ! 確かに硬いが、倒せない相手ではない!」

 煉獄の言葉を合図に、ウィザードはともに飛び上がる。

『フレイム スラッシュストライク』
「炎の呼吸」

 二人の炎が、それぞれの刃に走る。
 だが。

 ガタノゾーアは、その危険性をすでに理解していた。
 太い触手を操り、空中の二人を打ち落とす。

「さあ、今だ。ガタノゾーア!」

 トレギアの合図に、ガタノゾーアがウィザードを睨む。

「……やばい!」

 だが、すでに遅い。
 ガタノゾーア、その逆さまな顔で、起き上がる途中のウィザードへ光線を放つ。
 頭の、少し上の部分に起こる紫の発光。
 それは、ウィザードへ真っすぐと伸びていった。

「いかん!」

 それは、煉獄の叫び声。
 倒れているウィザードを掴み、即座に投げ飛ばす。

「なっ……!?」

 唖然とする暇などない。
 ウィザードの盾となった煉獄へ、紫の光線が貫く。

「っ!」

 その一撃に、煉獄は大きく目を見開いた。

「煉獄さん!」

 すでに、ウィザードの悲鳴は役に立たない。
 闇が煉獄の体、それを包む炎が、どんどん消えていく。
 炎柱の姿は、やがて。

「何……っ!?」

 煉獄の炎が、一瞬で消滅していく。
 その腕が、血の通わぬ灰となり。
 その顔が、驚愕のまま浸食され。

「あっはははははは! はははは!」

 その一部始終を、腹を抱えて見届けるトレギア。
 やがて煉獄の姿は、灰色一色___まさに、石像となってしまった。

「これなら、永遠に今のままだ。君が言う、人間の脆さはない、今の美しさだけでいられる。人間の強さは素晴らしいね。他を狙えば自分から来てくれるんだから」 
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