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死に目に会うこと

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第一章

                死に目に会うこと
 徳永久弥は大阪のある企業の総務課で働いている、面長で茶色の髪の毛を奇麗に整えていて涼し気な顔立ちをしていてすらりとした長身にスーツがよく似合っている。
 今は独身であり会社の近くのマンションで暮らしているが愛知の実家に祖父母と両親がいる。それに曾祖母も。
 曾祖母はもう百歳近くかなり弱っている、それでだった。
「もう何時どうなるか」
「百歳近いとな」 
 同僚の北川護法も言った、黒髪を短くしていて明るい顔立ちで背は徳永より数センチ低いが一七〇は普通にある。
「もうな」
「うん、身体も弱ってるからね」
「どうなるかわからないか」
「そうなんだよね、ただひいお祖母ちゃんが言うには」
 徳永はその曾祖母の言葉も話した。
「充分生きたからね」
「満足だっていうんだな」
「百歳近くまでだから」
 そこまで生きられたからだというのだ。
「そう言ってるよ」
「まあそれだけ生きられたらな」
 それならとだ、北川も言った。
「そう思うかもな」
「百歳近くなら」
「そう、もうね」
 それこそというのだ。
「思い残すことはないって言ってるよ」
「そうか、けれどお前としてはか」
「もっと長生きして欲しいし」
 出来るだけというのだ。
「頑張って欲しいよ」
「曾孫としてか」
「うん、本当にね」
 こんなことを言った、そうしてだった。
 大阪で働き続けていたがある日。
 仕事中母から電話が来た、仕事中だと言ったが。
 ここで彼は母に言われた。
「えっ、ひいお祖母ちゃんが」
「ええ、もうね」
「危ないんだ」
「だから戻ってきてくれる?」
 母は息子に言った。
「すぐにね」
「うん、上司に言うよ」
 徳永は即答した、そしてだった。
 課長の柊通鋭い目でやや小柄で皺の多い顔の固太りの中年男性に事情を話した、そのうえでこう言った。
「三日程度休暇を取りたいですが」
「おい、一週間でもいいから向こうにいろ」
 課長はこう徳永に返した。
「そんな時はな」
「一週間ですか」
「親御さんじゃなくてもな」 
 それでもというのだ。
「大事な人は看取れ」
「そうしないと駄目ですか」
「俺が新入りの時の話だ」
 課長は徳永に鋭い目で話した。
「その時の課長はこうした時も部下に仕事をさせたんだ」
「そうだったんですか」
「それで自分の奥さんの親父さんが危ない時にな」 
「自分は、ですか」
「休み取ろうとしたら仕事させられた部下達に言われてな」
 親の死に目に会わせなかったことをというのだ。 
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