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Fate/WizarDragonknight

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廃工場

「コヒメ!」

 加州清光に触れることで、美炎はその力を体に纏っている。
 見滝原に立ち並ぶ屋根を伝い、どんどん加速していく。

「美炎ちゃん! 待って!」

 可奈美もまた、同じく写シの力で加速し、呼びかける。
 だが、冷静さを完全に欠いている美炎は耳を貸さない。それどころか、ぐんぐんとその速度を増していく。

「美炎ちゃん! ……迅位!」

 一時的な異次元の速度。それで可奈美は、美炎の前に回り込んだ。

「美炎ちゃん! 落ち着いて!」

 可奈美は、美炎の肩を掴んで無理矢理静止させる。
 だが。

「熱っ!」

 美炎の体に、思わず可奈美は声を尖らせた。
 火に直接触ったような手応えに、思わずその感覚を疑う。

「美炎……ちゃん?」

 目が。
 赤い。

「ああああああああああああっ!」

 よく見れば、美炎の写シそのものも、あたかも灼熱のごとく赤い。
 目も髪も真っ赤に染まった美炎は、そのまま可奈美へ牙を剥く。

「美炎ちゃん! どうしたの!?」

 だが、それに対する美炎の返答は、一閃。
 可奈美はそれを千鳥で受け止め、その動きを食い止めた。

「美炎ちゃん!」

 再三の呼びかけ。
 それにより、ようやく美炎は正気に戻った。

「あ……可奈美……」
「よかった……落ち着いた?」
「あ、うん。ごめん、可奈美。取り乱してた」
「気持ちは分かるけど、落ち着いて。この広い見滝原で、あてもなく探してもトレギアなんて見つからないよ」
「うん……」

 美炎は、俯いて周囲を見渡した。
 数メートルの屋根の上からでも、見滝原の広大な土地は尽きることはない。

「可奈美、そのトレギアって奴、どこにいるのか知らないの!?」
「……ごめん、私にも心当たりがないかな」

 可奈美がトレギアと接触したのは、一回だけ。
 それも、ほんの少し言葉を交わしたのみにとどまる。
 ハルトたちから、トレギアの凶悪性については聞き及んでいるが、それ以上の情報は何一つ持ち合わせていない。

「でも、探す方法もないの!?」
「それは……」

 そもそも、彼はサーヴァントを召喚していないマスター、氷川紗夜を狙っていた。
 その魔力を奪おうとしていたと、ハルトは語っていた。ならば、自分たちを狙う可能性もないのだろうかと逡巡するが、サーヴァントがいて一人でも戦闘能力を持つ自分たちの令呪を狙う可能性はないだろうという結論に達する。
 可奈美の沈黙を、美炎は回答と受け取ったのだろう。可奈美に背を向け、再び足を急ぐ。

「美炎ちゃん!」

 だが、美炎が離れていくよりも早く、可奈美の手が彼女の腕を掴む。
 熱さが残るその腕だが、可奈美が掴めないほどではない。

「何!?」
「やっぱり……美炎ちゃんは、六角さんと一緒にいて待ってて」
「え?」

 その言葉に、美炎は目を丸くした。

「待っててって……どういうこと!?」

 美炎の言葉に、可奈美は唇を噛んだ。

「ここから先は……私たちで」
「私たちって何!?」

 再び美炎の目が赤くなる。

「わたしは違うの!? わたしだって、可奈美と同じ刀使だよ! 参加者だよ! なんで……」
「危険すぎるからだよ!」

 可奈美はハッキリと告げた。

「私も、そんなにトレギアと戦った回数が多いわけじゃないけど……」

 可奈美は、紗夜のことを思い出した。
 聞けば、トレギアは紗夜の令呪、およびその魔力を狙い、彼女自身を自らの肉体に乗っ取ったと聞く。
 さらに、その状態が続けば、紗夜の命さえも危険だった。

「トレギアは、美炎ちゃんが今まで戦ってきた相手とは違う。友達がそんな危険を、おめおめと……」
「またわたしを置いていくの?」

 美炎のその言葉で、可奈美は押し黙った。
 美炎は続ける。

「御前試合の時、可奈美は勝手に十条さんを助けて、そのままいなくなった。あの時も、(ゆかり)様のことを相談してくれれば、わたしだって助けになれたかもしれない! そうすれば、そもそも十条さんがいなくなったりしなかったかも……!」
「あれは、咄嗟のことだったし……それに!」
「今回だって!」

 美炎は、可奈美の腕を掴む。

「わたしだって戦える! 何で可奈美は、わたしを頼ってくれないの!? わたしだって、可奈美と舞衣(まい)にも負けてないよ!」
「でも……! そもそもこれは、聖杯に祈ってしまったわたしが……姫和ちゃんを助けたいって……」
「わたしだって、コヒメを助けたいって祈っちゃったんだよ!」
「でも……そもそも、トレギアがどこにいるのか……」

 可奈美は、その言葉に美炎を諦めさせようとした。
 だが。

「……っ!」

 赤い目を大きく見開きながら、美炎は周囲を見渡す。
 やがて美炎は、見滝原、その一点。南の方角を見つめた。

「……」
「美炎ちゃん?」
「いた……! コヒメ!」
「いたって……? 美炎ちゃん!」

 すでに、美炎は移動を開始している。
 迷いなく一か所へ進んでいく美炎へ、後ろから可奈美は声を投げ続ける。

「いたって、どういうこと!?」
「分かんないけど……あっち! あっちの方に、美炎がいる気配がする!」
「気配って何!? 美炎ちゃん、そんな特技あったっけ?」

 だが、美炎は聞く耳を持たない。
 やがて、彼女は足に力を込める。それによって、跳ね上がった筋肉がバネとなり、よりその速度が上がっていく。
 すでに意識を定めた地点に向け、飛び去って行った。

「美炎ちゃん! ……ああもうっ! ハルトさん!」

 可奈美は、美炎の後を駆けながら、スマホを取り出したのだった。



 ソロを見失った。
 そう判断したころには、すでに日が暮れていた。
 ソロを追いかけることを諦めたハルトは、改めて可奈美から聞きだした、美炎が向かった場所へ向かった。
 それは、見滝原南。工業団地が栄える、その一角だった。現在は使われていない廃工場へ、美炎は姿を消したらしい。

「可奈美ちゃん!」

 そこで待つ可奈美へ、ハルトは呼びかけた。

「ハルトさん!」
「可奈美ちゃん、美炎ちゃんは?」
「それが……見失っちゃって」

 可奈美は、廃工場を指差しながら言った。

「この工場に入っていったんだけど、ここかなり広くて……それに、本当にトレギアとコヒメちゃんがここにいるのかも分からないし……」
「少し落ち着いて」

 可奈美の肩を抑えながら、ハルトは彼女を落ち着かせる。

「そもそも、なんで美炎ちゃんはここに来たの?」
「それは……」

 可奈美は言葉を失ったようだった。

「私も分かんないんだけど……なんか、目が赤くなったような……?」
「何それ。刀使って、そんな能力あるの?」
「ううん……私も初めて見たよ。それより、本当にここに、トレギアがいるのかな?」
「そんなこと言っても、他に手がかりもないしなあ……」

 ハルトはそう言いながら、指輪を取り出す。

『ガルーダ プリーズ』

 赤い魔法陣によって作り上げられる、鳳凰の形をした使い魔。
 鳥の形をしたプラモンスター、レッドガルーダは、ハルトが付けた指輪によって産声を上げた。

「ガルーダ。ここに、多分トレギアがいるかもしれないんだ。探してみてくれない?」

 だがガルーダは、ハルトの命令よりも可奈美の頭上に移動することを選択した。
 キーキーと声を上げながら、可奈美の頭に乗る。

「ガルーダ……」

 だが、索敵を主任務としている赤き使い魔は、「いやいや」と言わんばかりに体を振る。

「ガルちゃん。お願い。一緒にトレギアを探そう?」

 ところが可奈美がお願いすると、ガルーダは一鳴きで飛んで行く。

「ああ、おい! ……アイツ……」

 主であるはずのハルト以上に、可奈美へ忠実になっているガルーダを、ハルトは細めた目で見送った。

「はあ……まあ、いいや。それじゃあいっそのこと、可奈美ちゃんはガルーダと一緒に回ってみて。連絡はなるべく小まめにやってね」
「分かった」

 可奈美は頷いて、ジャンプ。ガルーダの後に続いて、二階のフロアへ消えていった。

「可奈美ちゃんは上か……じゃあ、俺は下からか」

 可奈美と別れてから、ハルトはただ廃工場の中を彷徨っていた。

「探すと言っても、どこから探すかな……?」

 広大な土地であるこの工場。
 すでに使われなくなって久しく、歩いているだけで埃に咳き込んでしまう。

「ゲホッ……コヒメちゃん! いる!?」

 ハルトの声が暗がりのなかに響いていく。だが、返って来るのは自身のエコーばかり。

「コヒメちゃん! ……そうそう見つからないか」

 時間も時間であるため、ただでさえ暗い室内が、より一層闇に包まれていく。
 さらに、ここは勝手も分からない工場。少し歩くだけで足は機械に蹴りあたり、頭は機材に衝突する。

「痛っ……!」

 頭にできたたんこぶをさすりながら、ハルトは頭上を恨めしそうに見上げる。

「何だよもう……」

 口を尖らせたハルトは、この状況に対応した指輪を取り出した。
 数多あるハルトの指輪の中で、この状況に適した指輪。それは。

『ライト プリーズ』
「前も思ったけど、やっぱりこれ便利だな」

 室内が、頭上の魔法陣から迸る光によって明るくなる。

「さてと……」

 誰もいない廃工場。
 春なのに、幽霊でも出てきそうだなと勘繰ってしまう。
 その時。
 ガシャン。

「うおっ!」

 その音に、ハルトは跳び上がる。
 やがて、暗闇からコロコロと転がってきた機械のパーツに、ハルトは胸をなでおろす。

「何だ……ただ落ちてきただけか……」

 普段亡霊(ファントム)と呼ばれる怪物と戦っておいて何を怖がっているんだと思いながら、ハルトはさらに進む。
 だんだん天井が高くなっていく。
 そこは、巨大な稼働機械が設置されている部屋だった。

「デカっ……!」

 思わずハルトが感想を漏らすと同時に、ライトの魔法の効力が切れる。

「あ、切れた……」

 暗闇の中、また物音が聞こえる。

『ライト プリーズ』

 再びの光。見上げる大きさと、その複雑な構造を持つ重機が、再びハルトの目に飛び込んできた。

「ようこそ。ハルト君」

 そして。
 重機の前には、ハルトが探していた人物、二人のうちできれば会いたくない方がいた。

「……霧崎!」

 フェイカーのサーヴァント、トレギア。
 その人間態である、霧崎が、両手を広げてハルトを迎え入れていたのだった。 
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