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下馬評を覆し

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第十二章

 自身の誕生日での胴上げがならなかったことはいいとして神戸に赴いた、そこで選手達に練習をさせた。
「この球場を知ることだ」
「ここで練習してですね」
「そうすることですね」
「明日の試合に備えて」
「俺達はここで試合をするんだ」
 高津は選手達に告げた。
「それならこの球場を知らないと駄目だろ」
「ええ、ここで試合するなんて滅多にないですからね」
「ここはオリックスの球場でも準ですから」
 選手達も神戸のこの球場の話をした、本来の本拠地である京セラドームはコンサートで今は使えないのだ。その為この球場で試合が行われることになったのだ。事情は違えど神宮球場が使えなかったことと理由は同じである。
「その全く知らない球場で試合をするなら」
「それならですね」
「今この球場で練習をして」
「そうして知ることですね」
「そうだ、相手は山本を出してくる」
 絶対のエースと彼等が主観で決め付けている彼がというのだ。
「それでどう勝つかだな」
「はい、その為にはですね」
「この球場で練習して」
「それで少しでも知ることですね」
「そうだ、ここで練習してこの球場のことを知るんだ」
 高津はただ選手達に練習をさせるだけでなく球場のことも知る様にさせた、そのうえで明日の試合に挑むのだった。
 翌日その第六戦の幕が開いた、オリックスはやはり山本を出した。
「よし、勝った!」
「これで三勝目だ!」
「山本出して負ける筈がない!」
「完封だ!」
「それで明日勝って日本一だ!」  
 日本シリーズで二勝することがどれだけ難しいか、そんなことはもうオリックス側の頭にはなかった。山本で確実に一勝すると確信もっと言えば妄信していた。そしてその後も勝つのだと既に頭で描いていたのだ。
 だが高津はマウンドの山本を見て冷静に言った。
「絶対に勝つピッチャーはこの一人も存在しない」
「それこそが絶対ですよね」
「絶対の勝つピッチャーがいない」
「そのことこそが絶対のことですね」
「それが今日わかる、第一戦でも山本は勝っていないだろ」 
 オリックスは勝った、だがそれでもというのだ。
「そういうことだ、それがこの試合でわかる」
「そうですね」
「俺達が勝ってですね」
「そのことが証明されますね」
「そうだ、なら行くんだ」
 高津はナインをグラウンドに送った、敵地に彼等の打順とポジションが次々に雄姿と共に出される。
 ピッチャーは高梨裕稔だった、彼は四回まで毎回出塁を許したがそれでも得点は許さなかった。
「一点もやるか!」
「そうだ、何がオリックス有利だ!」
「俺達の意地を見せてやれ!」
「こっちだってセリーグを制覇したんだ!」
「山本が何だ!」
 高梨だけでなく他の者達も奮い立った、まるで死ぬ前のゴキブリの様に粘るオリックス打線を寄せ付けなかった。
 ヤクルト打線は三回四回と得点圏まで攻めたが一点が遠かった、だが山本を見据える彼等の目は輝いていた。
「打てるぞ」
「こいつは打てる」
「無敵じゃない」
「やっぱり絶対に勝つピッチャーはいない」
「それが絶対のことだ」
「それなら打ってやる」
 マウンドの山本を見据えて燃え上っていた、そして五回表遂にだった。 
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