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下馬評を覆し

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第九章

 だがここでも高津はわかっていた、第二戦であえて彼をベンチに入れずそのうえで第三戦にベンチに入れた時に彼に言っていた。
「最後はお前しかいないからな」
「だからですか」
「そうだ、このシリーズも任せる」 
 九回、最後の一回はというのだ。
「いいな、やってくれ」
「わかりました、監督」
 マクガフは持ち前の謙虚さを以て応えた、そのうえで第一戦の雪辱を果たさんとしていた。その彼がマウンドに立ったのだ。
 最早誰も打てるものではなかった、ツーアウト一塁三塁の危機となりバッターボックスにはオリックスファンが自称する世紀末覇者が仇名のある男が入った。
 ここでオリックス側のボルテージは最高潮となった。
「逆転逆転!」
「逆転のオリックスここにあり!」
「マクガフ負けてくれて有り難う!」
「これで二勝目だ!」 
 もう勝利を確信していた、しかしマクガフの目は死んでいなかった。
 この男を見事ファーストゴロに打ち取った、こうして勝手に最高潮となっていたボルテージも『確信していた』勝利もなくなった。ヤクルトは抑えるべき男が抑えて二勝目を手に入れた。
 ここで中嶋は奇妙なことを言った。
「先発は山崎だ」
「山崎って二人いるけれど」
「どっちの山崎だ?」
「攪乱か?」
「先に二勝されたからか?」
 多くの者はここでそうするのかとどうにも王者らしくないものを感じた、しかし高津はこのことを見てもだった。
 全く動じず予告先発なぞ行わず静かにグラウンドを後にした。笑わず表情を変えず淡々とさえしていた。
「いいな、明日も俺達の野球をする」
「オリックスが何か言ってますが」
「それでもですね」
「それを気にしないで、ですね」
「俺達の野球をしていけばいいですね」
「そうだ、俺達は俺達だ」
 高津はナイン達に表情を変えずに述べた。
「それでいくぞ」
「わかりました」
「明日も俺達の野球をします」
「そうしていきます」
 ナインも応えた、そうしてだった。
 翌日ヤクルトは先発は長年チームを引っ張ってきた不惑を超えたエース石川雅規だった、対するオリックスは山崎とやらだった。
「山崎か」
「そっちの山崎か」
「そうだと思っていたけれどな」
「采配としてはありでもな」
「そうした意味ではわかるけれどな」
「攪乱とかな」
「ここにきてこすいことしてないか?」
 中嶋の行動に疑問に感じる声も出ていた、しかしだった。
 ここでもオリックスファンの中にはまるでソ連や北朝鮮が何をしても醜い擁護を続けてきた戦後日本の左翼勢力の様に言っていた。
「石川みたいなロートルが何になるんだ」
「こんな奴出て来ても何でもない」
「オリックス打線にロートルとか馬鹿だろ」
「今日こそは勝ったな」
「これで互角だ」
「互角になったオリックスに負けはないぞ」
 まるで車田正美先生の漫画の主人公の様に言う輩までいた、だがマウンドの石川は至って冷静であった。
 ベテランならではの熟練した投球で勝利を確信しているオリックスファン達の前で自慢らしい打線を封じていく、ヤクルトは二回にサンタナが二試合連続となるソロアーチを放って先制点を奪った。そうして。 
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