下馬評を覆し

「させるか！」
　塩見泰隆が打った、そうして一塁二塁となりチャンスを作った。ここでバッターボックスには青木宣親長い間ヤクルトが低迷していた時も支えていた彼が入った。
　宮城が投げたそのボールをセンターに詰まり気味であったがそれでも弾き返した、それを受けて二塁にいた西浦が風の様に走った。
「走れ！」
「西浦走れ！」
「ホームまで走れ！」
　ヤクルトファン達は心から祈った、西浦はその祈りを背に走り。
　ホームに駆け込んだ、ヤクルトは二試合連続で先制点をもぎ取った。
「まずは一点！」
「山本も無敵じゃないし宮城も同じだ！」
「負けていないぞ俺達は！」
「オリックスに勝つんだ！」
　ファン達もナイン達も叫んだ。
　だがオリックスファン達もナイン達もせせら笑っていた。
「昨日も先制点は取られた」
「けれどうちが勝ったよな」
「うちはペナント何度も逆転してきたんだ」
「九回でも諦めないぞ」
「そのうちが負けるか」
「精々今のうちに喜んでおけ」
　余裕の笑みさえ浮かんでいた、そしてベンチで喜ぶヤクルトナインの中にいる高橋を見た。
「結構投げさせている」
「しかもこれまで何度も得点圏までランナーをやっている」
「そのうち打ち崩してやる」
「その時を楽しみにしていろ」
　高橋は敵ではない、そう確信していた。そのうえでその時を待った。
　しかしヤクルトは攻撃の手を緩めなかった、九回ワンアウト一塁の状況でだった。
　高津は送りバントを命じた、これにはヤクルトファン達も驚いた。
「えっ、得点圏にまでランナーを進めても」
「ツーアウトだぞ」
「それで一点は難しくないか？」
「一点取れたら嬉しいが」
「無理じゃないのか」
　望みは薄い、そう思っていたが。
　高津は冷静に二塁ランナーに代走として俊足の元山飛優を送っていた、そのうえでバッターボックスに向かうＪ＝オスナに対して言った。
「落ち着いていくんだ、そして相手の弱点を見るんだ」
「相手の弱点を」
「杉本を見るんだ」
　ライトにいるラオウと言われている者をというのだ、それにしてもラオウとは随分と大きな通称である。この様な荒唐無稽な通称を付けるのは北朝鮮や巨人に限ったことではないらしい。
「バッターのあいつは凄いかも知れないがな」
「守備はどうか」
「そういうことだ、いいな」
「オーケー、ボス」
　オスナは高津のその杉本を見たうえでの言葉に頷いた、そうしてだった。
　バッターボックスに入りバルガスのボールをライトに打ち返した、すると杉本はそのボールをファンブルし。
　元山はその隙を衝きホームに飛び込んだ、これにヤクルトは一点目以上に喜んだ。
「やった！」
「追加点だ！」
「これは大きいぞ！」
　九回にそれが入った、そのことでも喜び。
　流れも感じた、しかしまだだった。
「あと一回」
「あと一回ある」
「その一回をどう凌ぐかだな」
「九回裏を」
「昨日のことがある」　
　守護神マグガフがワンアウトも取れず三点奪われ敗れてしまったことがというのだ。