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下馬評を覆し

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第一章

                下馬評を覆し
 この年の日本シリーズは多くの評論家が判を押した様にオリックスバファローズとやらが有利だと言っていた。
 何でも連勝し続けている山本とやらがいるかだという、彼等はこう思っていただろう。
「ヤクルト打線に山本が打てるのか」
「山本が投げた試合は絶対に勝てる」
「第一戦でいきなり山本が勝つ」
「山本は最強のエースだ」
「防御率は一点台だ」
「誰が山本を打てる」
「それだけでオリックスは有利だ」 
 その『絶対のエース』とやらがいるからだという、彼等はさらに言った。
「ラオウ杉本もいる」
「若手の紅林と宗もいる」
「頼りになる助っ人ジョーンズが精神的柱だ」
「吉田も戻って来た」
「パリーグを制覇した実力は伊達じゃない」
「今のオリックスは最強だ」
「最近毎年パリーグが日本一になっている」
 こうした意見も出ていた。
「最後に勝つのはオリックスだ」
「山本は絶対に打てない」
「山本は第一戦で勝つ」
「それからはオリックスが波に乗る」
「若しヤクルトが粘ってもまた山本が投げれば勝って二勝だ」
「宮城もいるぞ」
「この二人にヤクルトは勝てるか」
 山本だけではないというのだ。
「若手が躍進している今のオリックスは無敵だぞ」
「山本だけでも凄いのに宮城もいるんだぞ」
「この二人で二勝ずつは固い」
「これで四勝だ」
「どうあがいてもヤクルトは勝てない」
「最後に立っているのはオリックスだ」
 多くの者がこう言っていた、だが。
 ヤクルトスワローズの監督である高津臣吾は冷静であった、彼はナイン達にいつもと変わらない冷静な声で語った。
「シリーズは短い、その中でどう全力を尽くしてそして自分達の野球をするかが大事なんだ」
「それで勝てますか」
「オリックスに勝てますか」
「それが出来ますか」
「相手も最下位から優勝したがこっちも同じだ」
 高津は落ち着いたまま述べた。
「若手が出ているのもな」
「しかし相手は山本がいますよ」
「あいつは凄いですよ」
「宮城もいますし」
「打線も」
「飲まれるな」 
 高津は不安な空気を出した選手達のそれを止めた、この言葉で。
「絶対大丈夫だ」
「勝てますか、オリックスに」
「何かマスコミ大抵オリックス有利って言ってますけれど」
「四勝一敗とか四勝二敗でオリックスとか」
「色々言っていますけれど」
「あちらは最下位から優勝したな」
 それならというのだ。
「それはこちらもだろ」
「はい、確かに」
「そうですよね」
「俺達も最下位から優勝しました」
「オリックスと同じです」
「激しいペナントを制したのも同じだ」 
 高津はこのことも話した。
「全く同じだ、互角なんだ」
「互角ですか、オリックスと」
「あっちの方が有利と言っていますが」
「それでもですか」
「その実はですか」
「そうだ、互角だ。そして互角ならだ」
 高津はさらに言った、その目も声も動じてはいない。選手達をその目と声で正対しそのうえで語っていた。 
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