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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第百十九話

 海獣を操るハモンドが魚人島を覆うシャボンを突き抜けたと同時にゴジはバブリーサンゴを強く握り、シャボンを生み出して自分の首から上を空気の膜で覆う。


「なるほど……これは便利だな。海獣や人魚達が魚人島の空を飛べるのもこれで生み出したシャボンに乗ってるからだな?」


 ゴジは手に持つ手軽にシャボンを生み出せるバブリーサンゴを見ながら感心する。

 人魚達は下半身が魚の尾びれなので陸上では歩けない為、浮き輪のようなシャボンを作り出すことで宙にぷかぷかと浮いて移動することが出来るのだ。


「その通りだが、人間ってのは呑気なもんだな。俺がそのバブリーサンゴを奪い、頭のシャボンを叩き割って、てめぇをここで蹴落とせばそれでてめぇは仕舞いなんだぞ?」


 シャボンは多少の穴や衝撃には耐えられるが、激しい広範囲の衝撃を受けたら割れてしまう。


「そうすると、俺を連れて来られなかった君はホーディから罰を受ける?違うか?」

「ちっ!脅しも効きゃしねぇ……」


 こうして何事もなく、ゴジはハモンドに連れられて魚人島から魚人街に到着した。

 陽樹イブの光のほとんど届かぬ暗闇の支配する魚人街は一言で表すなら不気味であり、ゴジは街に降り立った瞬間に突き差すような数多の視線を感じる。


「ここに居る魚人達は噂通り、人間が嫌いらしいな。」

「あぁ。ここにいる奴らは皆そうさ。俺達はフィッシャー・タイガー、オトヒメ王妃の二人を死に追いやった人間を決して許さねぇ。ホーディ船長はこっちだ。さっさと着いて来い!」


 ゴジは姿を隠して自分に殺気を向ける魚人達の視線、見聞色の覇気による怒りと憎悪の念をその身に感じながら、先を歩くハモンドの後に続いて歩いていくと、魚人街と深海を隔てるシャボンを背にした魚人街の最奥にある一件の大きな建物に辿り着く。


「ここは?」

「元々は高齢になった魚人達の福祉施設かなんかって話だが、今はホーディ船長率いる新魚人海賊団のアジトさ。俺の案内はここまでだ。攫ってきた人魚の人質と船長、幹部達は中にいる。さっさと入れ!」


 この建物はシャボンを背に建てられたことで表口は魚人街、裏口はそのまま深海に抜けられる構造になっており、“新世界”を夢見てにコーティング船で潜ってきた海賊相手を迎え撃つにはこれ以上ないアジトと言える。

 ハモンドは入口に立って門を開けて脇に立つと、薄ら笑いながらゴジを誘う。


「ハモンド、案内ありがとう。」

「けっ……ありがとうだと。全く調子狂うぜ。ここが罠って事くらい気付いてんだろう?ホーディ船長はマジだ。ここはおまえの墓場になるんだぞ!」


 ハモンドは魚人街で生まれ、ほとんどの人生をこの街で暮らし、ゴロツキの集まるこの街において強さこそ1番であるが、ハモンドはその強さにおいてはこの街でも真ん中くらいの強さである。

 彼は力が全てのこの街での地位を築けたのは大型の海獣を手懐けたことが評価されているからであり、新魚人海賊団の準幹部に数えられるが、これまでの人生で礼を言われたのは初めてであった。

 しかもそれを言ったのは死地へ運んだ相手からであり、作戦を漏らすような事を言ってしまったと後悔したが、ゴジはそんなハモンドに笑いかける。


「わっはっはっは!それは言ったらダメじゃないのか?ハモンド、ここは荒れるから少し離れているといい。君は根っからの悪人じゃない。俺は君もここいる魚人街の人達も皆、地上に行くべきだと思うんだ。」

「なっ……!?」


 ハモンドはそう言って笑いながらアジトに入っていくゴジを見つめながら、乱暴に頭を掻いてボヤく。

 ゴジが自分達を見る目には恐怖や差別的な負の感情が全くないので、ハモンド自身も悪になり切れず制止を促してしまった。


「あれがオトヒメ王妃の言っていた海賊とは違う人間ってやつか……。あんな笑顔で魚人族を人だと言いやがる。万が一アイツがホーディ船長に勝ったら俺達を地上に連れてってくれるのか?」


 魚人街の魚人達の多くは敬愛するタイガー、オトヒメという二人の英雄を人間に殺されて幼い頃より海賊や人攫いという悪い人間を見すぎた結果、人間に恐怖を抱き、ホーディの理想に従っているだけでかつては魚人島に住む魚人族同様にかつては太陽と地上に憧れを抱いていた。

 ハモンド達がこの暗闇の支配する魚人街暮しを選んだのはやはり人間との共存は無理だという諦めからである。

 しかし、そんな彼にもたった数分ゴジと言葉を交わしただけで今まで会ってきたどの人間とも違う事が分かり、希望の灯が胸に灯っていた。


 ◇


 ハモンドが促されて建物に入ったゴジはしばらく真っ直ぐに進むと6人の魚人族に出迎えられた。


「ようこそ、人間の英雄様。俺が新魚人海賊団ホーディ・ジョーンズだ。」

「お前がホーディか……。ケイミーちゃんは無事だろうな?」


 その中心にいる腹の出た小太り体型のホオジロザメの魚人、ホーディが名乗るとゴジはホーディをキツく睨みつけた。


「あぁ。あのガキの人魚なら扉の向こうさ。」


 ドスンがホーディの指し示す扉を開けるとそこは魚人街と深海を仕切るシャボンの膜があった。

 この先にはかつての福祉施設の名残“アクアリウム”と呼ばれる無数の証明で照らされ、色とりどりの海藻やサンゴの中を魚たちが泳ぎ回る人魚の入江を模して作られた海中の憩いの場だった。


「やはり海の中か……?」

「不服か人間?」

「いや、予想通りだよ。」


 魚人族が深海で自分に挑むならば海中以外有り得ないと思っていたゴジはバブリーサンゴで自分の首から上を覆うシャボンを作り出すと、扉の先にあるシャボンを抜けて“アクアリウム”に足を踏み入れた。

 かつての幻想的な空間はどこへやら長年手入れされずに人工照明による光を失い、枯れ果てたサンゴが無惨に広がる暗闇の海中だが、微かに残る光で照らされた先に後ろ手に拘束されたケイミーが見えた。


「ケイミーちゃん!?」

「おっと……動くなよ。人間!!」


 ゴジがケイミー助けに動こうとしたその時、自分の後から入ってきたホーディ達が海中を高速で泳ぐとゴジとケイミーの間に立ち塞がった。


「うっ……」


 さらにホーディは気を失っているケイミーの首を右手で鷲掴みにする。


「おい……そのうす汚ぇ手を離せよ。」

「条件次第だ。人間、そこを一歩も動くな!動いたらこの人魚の首を握り潰す。ゼオ、今すぐにギョンコルド広場に映像を繋げろ!!」

「御意。」


 ゼオは映像電伝虫を取り出すとケイミーの首を鷲掴みにしたホーディを撮影して、その映像をギョンコルド広場のモニターに繋げるとギョンコルド広場は騒然となる。


「あれは魚人街の荒くれ者ホーディ・ジョーンズ!?」

「手に持っているのは子供の人魚だ!?それに“黒麒麟”もいるぞ!!」

「「「ケイミーぃぃぃ!?」」」


 突然ギョンコルド広場の映像電伝虫がハッキングされたと思ったら、ケイミーを鷲掴みにしたホーディとそれに対峙するゴジが映し出され、この状況から魚人島の人達は彼らのおかれた状況を察する。

 ホーディと共にいる5人の魚人族もホーディといつも一緒にいるリュウグウ王国で有名な荒くれ者であり、人間と魚人が対峙しているこの場面でもホーディに襲われているケイミーをゴジが助けに来たのだと誰もが理解した。


「まさかゴジ様はケイミーを助けに行ったのに、ケイミーを人質に取られて動けないんじゃないかしら…」

「“黒麒麟”はあの人魚を助ける為にホーディ・ジョーンズと戦うつもりなのか?無茶だ。陸ならまだしもあそこは海の中だぞ。」


 ギョンコルド広場に映し出された映像を見た魚人島の人々はバンダー・デッケンを捕まえてしらほし姫を助けたようにゴジがホーディ・ジョーンズからケイミーを助けに来たと分かるも、ゴジの首から上を覆うシャボンを見て彼らのいる場所が海の中だと分かると騒然となる。

 人間は海の中では本来の力が発揮できずに子供の魚人にすら歯が立たないというのは常識だからである。


「魚人島に住む種族恥さらし共!俺は新魚人海賊団船長ホーディ・ジョーンズ。早速だが、今からこの島の太陽だとほざくこの人間の公開処刑を行う!!」


 ゼオはホーディの言葉を聞き、映像電伝虫をホーディからゴジとその周りを各々の獲物を構えた4人の魚人族に向けると、彼等は全員が赤と緑のツートンカラー錠剤を一粒口に含んで飲み込んだ。


「「「(うお)おおおお!!」」」


 その錠剤を口に含んだ彼ら達は筋肉が膨れ上がり、その目が真っ赤に血走り、薬の影響で力が有り余って自慢の牙で岩を噛み砕く者、ハンマーで地面を粉々に砕く者、刀でサイコロステーキのように細切れにする者、槍で岩を突き刺す者等、薬の力で人外の力を手にした。


「紹介しよう。この4人とこの映像を配信しているゼオを入れた5人が新魚人海賊団の幹部。奴らが口にしたのは一粒飲めば力が倍になると言われるE.S(エネルギー・ステロイド)。リュウグウ王国の秘宝である玉手箱に納められていたものだ。」


 ホーディは強化された頼もしい仲間達を見ながら雄弁と語ると、平気で岩や地面を砕く新魚人海賊団の幹部達の姿を見たギョンコルド広場は騒然となった。


「魚人街を統べるホーディ一味の猛者達の力が二倍だって……“黒麒麟”が本当に殺されてしまう!?」

「種族主義のアイツらならやりかねない……。」

「逃げろ!“黒麒麟”!?」


 ギョンコルド広場のモニター越しに魚人島に住む人々の叫び等聞こえるはずもないゴジは体の力を抜いてその場で棒立ちである。


「分かった。俺はこれから何をされようとも一歩も動かねぇ。けど、ケイミーちゃんに手を出すならその腕斬り飛ばすぞ?」


 無駄な抵抗の諦めたゴジの様子にホーディはさらに浮かれて饒舌になる。


「口だけは達者だな。水の中じゃ能力が落ちる人間に対して、魚人族の俺には本来の力が発揮出来る絶好の場所。さらにE.S(エネルギー・ステロイド)により強化された魚人族こそ、この海で最強の存在だ。この力で今から貴様を惨たらしく殺した後、魚人島へ乗り込んで魚人島を乗っ取る!!」


 魚人島の乗っ取りを企てているホーディの言葉を聞いた魚人島にいる人々は騒然となる。


「ホーディはネプチューン王とフカボシ王子のいない今を狙っていたのか!?」

「ようやくオトヒメ王妃の悲願が達成されようとしているのにあんまりだ……。」


 リュウグウ王国軍最強は誰かという質問に対し、国民は揃ってネプチューンとリュウグウ王国三強と呼ばれる三人の王子の名をあげる。

 次に三人の王子の中でも最強はという質問には長男フカボシの名をあげるのだ。


「人間、最後に言い残す言葉があれば聞こうか?」

「じゃ……ひとつだけ教えて欲しいんだ。オトヒメ王妃を殺したのは誰なんだ?」


 ゴジの最期の言葉にホーディは目を見開き、ホーディに恐怖していた魚人島に住む人々もオトヒメの名を聞いてモニターに釘付けになった。

 そしてこの後、ゴジから語られる真実に魚人島は衝撃を受けることになる。 
 

 
後書き
次の更新は11日です。 
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