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もう昔のこと

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第二章

「俺が士官か」
「そうなるとは思わなかったわよね」
「士官学校出ていないのにな」
「士官学校出た人はそのままなっていたわね」
「ああ、それで俺も徴兵で入っていないしな」
「それでなのね」
「士官にしてもらった」 
 そうなったというのだ。
「俺もな」
「よかったわね」
「夢みたいな話だ」
 穏やかな顔で白い肌と垂れ目が印象的な妻に話した、そして。
 自衛隊にいるとだった、それこそ次から次に。
「アメリカ軍の兵器が来るな」
「今ではアメリカは同盟国ですからね」
「条約も結んでますし」
「あちらが兵器をどんどん持って来てくれますね」
「安く売ってくれてるみたいですね」
「シャーマンなんかに乗ってあっちの大砲使うなんてな」
 山谷はかつてフィリピンで捕獲したその兵器達を今日本で見て感慨を込めて言った。
「まさかな」
「思わなかったですよね」
「戦争の時はとても」
「ですがそれでもですね」
「今はそうなっていますね」
「変われば変わるものだ」 
 山谷はこうも言った。
「本当にな、特にな」
「特に?」
「特にといいますと」
「トラックも山みたいに来てるし」
 今度はそのトラック達を見て話した。
「戦争前は少なくて輸送にも苦労したが」
「俺達の隊でここまであるんです」
「陸自全体で無茶苦茶ありますよ」
「変われば変わりますね」
「凄いことになってますね」
「もう馬は必要ない位だ」 
 かつての陸軍と違ってというのだ。
「ジープも来てるしな」
「そのジープですね」
「ジープもかなり来てますよ」
「うちの隊でも」
「そうなっていますよ」
「ああ、昔は車なんてなかったのにな」
 ジープも見つつ話した。
「こんなにな」
「そうですよね」
「それがこんなに変わるなんて」
「夢みたいですよ」
「変わりましたね」
「ああ、しかし普通に道を車を見ることなんてことはないな」
 山谷はそれはないとした。
「自衛隊はあくまでアメリカからのものがあるだけだからな」
「そうですね」
「それはないですね」
「日本に車がアメリカみたいにあるとか」
「あっちは凄いみたいですから」
「もう国中にとんでもない数の車が走っているそうですから」
「そんなことにはならないな、日本がそうなるなんてな」
 とてもというのだ。
「有り得ないな」
「そうですね」
「絶対にそうですよね」
「工業力が違いますよ」
「まして日本は戦争に負けてボロボロです」
「復興しましたけれど」
「それはないさ、ジープだってアメリカから送られないとな」
 それこそというのだ。
「ないさ」
「ですね、日本でこんなものを山程作るなんて」
「考えられないですね」
「とても」
「どう考えてもないさ」
 こう言うのだった、彼はその整然と並べられているジープ達を前にして言った。そうしてであった。 
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