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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第百十八話

 ここは魚人島の荒くれ者が住む町“魚人街”。

 魚人島の外に位置し、陽樹イブの光の届かない深海の地底にあるここはかつては孤児院を中心とした巨大福祉施設だったが、次第に荒廃して管理者達の手にも負えなくなり、魚人島のはみ出し者達が集まる無法地帯となってしまった。


『竜宮城からリュウグウ王国全国民にお知らせします。たった今、海軍本部“黒麒麟”ゴジ中将によりしらほし姫様を付け狙っていたバンダー・デッケンが拿捕されましたぁぁぁ!!』

世界会議(レヴェリー)におけるリュウグウ王国の地上移設に対してジェルマ王国、アラバスタ王国の同意により可決しました。ジェルマ王国から手付かずの自然の残る無人島を提供するとのことです。オトヒメ王妃の願いが届いたのです!!』


 ここに住む荒くれ者の魚人族約5万人を統べるホオジロザメの魚人、ホーディ・ジョーンズはこの二つの国営放送を聞いて苛立っていた。

 さらに苛立たせるのは魚人島でゴジ達を見張らせていた部下からの報告である。


「ホーディ船長!マダム・シャーリーの占いにより、魚人島を太陽の下へ導くのは海軍本部中将の“黒麒麟”であると!!魚人島は先の国営放送も相まって“黒麒麟”コールがなり止みません!」

「「「“黒麒麟”!“黒麒麟”!!」」」


 部下の報告が間違いのは電伝虫の受話器越しに鳴り止まぬ歓声が聞こえてくることから間違いなくイライラが限界を迎える。

 魚人族こそ最上の種族という種族主義者であるホーディは魚人族が下等種族である人間を英雄視する事に我慢できない。


「下等種族の英雄“黒麒麟”ゴジか.......忌々しい.......。」


 ホーディはアジトのソファに座りその報告を聞きながら、怒りのあまり手に持ったガラスのコップをバリンッと握り潰した。


「デッケンは使えなかった!今度会ったら喰いちぎってやる……!キャッキャッ!」

「あぁ。厄介な能力を持つしらほしを殺してくれることを期待していたが、とんだ期待外れだ。」


 岩をも容易く噛み砕く強靭な顎と歯を持つダルマザメの魚人、ダルマの苛立ちにホーディも同意し、眉間にシワを寄せる。

 王国軍兵士だったホーディ・ジョーンズはかつて幼いしらほしが海王類を呼んだ現場を目撃して、海王類を自在に操ることの出来るしらほしの力を危険視していた。

 ホーディは魚人街の5万人の兵力があれば魚人島を制圧できると踏んでいるが、せっかく魚人島を制圧してもしらほしに海王類を呼ばれてしまえば元も子もないので、魚人島を制圧するクーデターを起こすのはしらほしが死んでからと決めていたのだ。


「船長、“海侠”のジンベエは“黒麒麟”をわざわざ港で出迎えて、地面に頭が付くほどに頭を下げていたと報告も来ているドスン!」


 港でゴジ達に謝罪と感謝を述べたジンベエを目撃したホーディの部下がシュモクザメの魚人、ドスンに事前に報告を上げていた。


「この街で尖っていた頃のジンベエはアーロンと並んで憧れだったが、時の流れは残酷だ。人間ごときにヘコヘコ頭を下げる種族の恥さらしとはな。」

「船長どうするッヒ?世界会議(レヴェリー)で決定されたら打つ手がねぇんじゃ?」


 ホーディがかつて力で魚人街を統べていたジンベエを思い出して肩を落としていると、ダイオウイカの魚人、イカロス・ムッヒが焦った様子でホーディに指示を仰ぐ。


「ふん、簡単なことだ。シャーリーの占いを思い出せ。ここは海底一万メートルの深海だ。ここで“黒麒麟”さえ殺せばあの女の占いは叶わねぇってことだ!今、ゼオが餌を取りに行ってるところさ。」

「ヒック…餌だって…ヒック。」


 魚人島一番の剣士と呼ばれるヒョウモンダコの人魚、ヒョウゾウは酒を飲み、酔っ払ってフラフラの状態である。


「船長、今戻った。言われた通りシャーリーの占いを触れ回っていたマーメイドカフェの人魚を捕まえて、適当な奴に“黒麒麟”宛の手紙を持たせておいた。」

「すぅ…すぅー…」


 皮膚の色を変えることで周りの風景に同化させる能力を持つにオオセの魚人、ゼオがマーメイドカフェでウェイトレスとして働いてるケイミーを秘密裏に攫って睡眠薬を嗅がせて寝かせた状態で小脇に抱えてアジトに入ってきた。


「ゼオ、よくやったジャハハハ!!」

「しかし、船長。“女好き”と言われる“黒麒麟”の餌として女を人質にするのはよく分かるが、餌ならば一緒に連れている女海兵の方が良かったのではないか?弱そうな女もいたぞ?」


 ゼオは海軍本部将校であり、二つ名轟くイスカとコアラ以外のボニーとナミの顔を思い浮かべてホーディに尋ねた。

 しかし、ホーディは魚人至上の種族主義を掲げながらも思慮深い男であり、アーロンを倒したという“釘打ち”のイスカと同じ海兵を警戒して手を出す事を禁じ、ターゲットをマーメイドカフェの人魚を選んだのだ。


「いや、問題ねぇ。“黒麒麟”はカフェの人魚共に鼻の下を伸ばしていたらしい。女ならば魚人だろうと人魚だろうとホイホイ腰を振るマヌケ野郎さ。そして海中戦ならばいくら陸上で強かろうとE.S(エネルギー・ステロイド)を持つ俺達に敗北はない。ジャハハハハハ!!」


 ホーディはゴジを誘う餌として、種族特性により周りの景色に自分の体の色を同化させる能力を持つゼオにマーメイドカフェにいる人魚の捕獲を命じて、魚人街へ来るように手紙を持たせていた。

 魚人族は海中では浮力等により運動性能が落ちる人間と違って陸上よりも海中の方が運動性能は高くなる上、切り札として一粒飲めば力を倍にすると言われる凶薬E.S(エネルギー・ステロイド)を量産している。


 ◇


 こうして魚人街にホーディ・ジョーンズの笑い声が響き渡る中、件の手紙がゴジの元に届けられた。


「はぁ……はぁ……ここに“黒麒麟”さんいるのか!?」


 マーメイドカフェに1人の魚人の男が息を切らせて入ってきた。


「俺が“黒麒麟”だが、君は誰だ?」

「大変なんだ!?マーメイドカフェで働いてる緑髪の人魚の子供が魚人街の奴らに捕まって、これをあんたに渡してくれって!?」

「まさか…ケイミーかい!?あいつら……私の店の子にちょっかい掛けようなんていい度胸してるね…」


 ゴジはその男から手紙を受け取って中身を読み始める中、ジンベエは魚人街と聞いて表情を険しくし、従業員を攫われたシャーリーの怒りは頂点にきていた。


「魚人街じゃと!?」

「魚人街って何?」


 ナミの質問にジンベエが答えていく。


「この魚人島は裕福な者ほど陽の当たる上層部に暮らせる。魚人街とはこの島の外の海底にある街じゃ、陸上で言うならばスラム街と言ったらわかりやすいかの?」

「私もジンベエもそこの出身でね。今では魚人至上の種族主義者共の溜まり場だよ。私ちょっと行ってくるよ!」

「シャーリー、ワシも行こう。」

「二人とも待て!これを読むといい。」


 シャーリーとジンベエが立ち上がって魚人街に向かおうとするのをゴジが制して預かった手紙をジンベエに手渡した。


「なんじゃと!?」

「えっ…!?」


 手紙にはこう書かれていた。


『ご機嫌麗しゅう。くだらねぇ人間の英雄様。カフェの人魚を返して欲しくば迎えの海獣に乗って一人で魚人街に来い。約束を違えれば人魚の生命はねぇ。新魚人海賊団船長ホーディ・ジョーンズ』


 ゴジは一人立ち上がってゆっくりと店の出口に歩いていくと扉に手を掛けた所で立ち止まり、ジンベエにある質問をする。


「ジンベエ、一つだけ教えて欲しい。オトヒメ王妃を殺した人間を捕まえたのはホーディ・ジョーンズじゃなかったか?」

「ん?確かにホーディじゃったが……なんでそれを……」


 ジンベエはリュウグウ王国の歴史の話の中でホーディ・ジョーンズの話はしていなかったのに、確信を持って断言したゴジに目を見開いた。


「やっぱりか……よし、ケイミーちゃんを助けてくるよ。」


 ゴジは自分の読みが当たったことを喜ぶことなく、落胆した様子で肩を落としながら店の外に出ようと動き出す。


「麒麟のボーヤ、無茶はおやめ!!魚人街はアイツらの庭…確実に罠だよ。ジンベエ、それにイスカ少佐達はなんで黙ってるんだい!?」


 シャーリーが声を荒らげて死地へ向かおうとするゴジを止めようとするが、ジンベエやイスカ達が黙ったまま、ゴジを見送っていることに不審感を抱く。

 この場にいる誰もが罠である事には気付いている。


「ゴジ君、私達はどうしたらいいの?」

「イスカさん達はシャーリーちゃんとマーメイドカフェの人魚達を保護して守ってくれ。攫われたのがケイミーちゃんだけとは限らない。」

「「「はっ!」」」

「ジンベエはコアラ、タイヨウの海賊団と合流して魚人街周辺で待機して戦闘準備を整えといてくれ。俺がケイミーちゃんを救出したら彼女をすぐに船で保護してくれ。」

「任せい!」


 シャーリーはゴジが矢継ぎ早に指示を出していく姿と、その指示を疑いなく受諾するイスカ達の姿に唖然となる。

 何故ならイスカ達はこれから圧倒的な不利な状況での戦いを強いられることとなるゴジの心配を全くしていないのだ。


「シャーリーの気持ちも分からんではないが、ゴジは何処でバンダー・デッケンを捕まえたと思うとる?」


 ジンベエはの硬殻塔に斧が飛んでくるなり、竜宮城から飛び出したゴジを思い出しながら、苦笑する。


「えっ!?それは……」


 シャーリーは言葉に詰まる。

 バンダー・デッケンが捕まったことを心から祝福していたため、深海を彷徨う魚人を人間がどうやって捕まえたのかは疑問視していなかったが、改めて聞かれると疑問しかないのだ。


「どうやったかは知らんが、ゴジは竜宮城から深海に飛び出してバンダー・デッケンを捕えて竜宮城に戻ってきた。ゴジは何らかの方法を使って水中で戦う術を持っとるんじゃ。シャーリーは店に残ってイスカ少佐達が保護してくる人魚達を安心させてやるんじゃ!」


 シャーリーは人間でありながら水中で戦えるというゴジを見て目を見開いて驚く。


「シャーリーちゃん、ジンベエの言う通り俺は大丈夫だ。ケイミーちゃんを無事に連れて帰るよ。」

「麒麟のボーヤ、頼んだよ!」

「どんな手を使ってもな…」

「ん?ゴジ??」


 ジンベエはゴジがバンダー・デッケンを捕らえた手段を秘密にした事から、彼が水中で戦う術を持ちながら、それを隠していることに気付いていたが、切り札は隠してこその切り札。

 そんな当たり前の事を追及する気はさらさらなかったが、ジンベエはゴジがあまりその切り札を使いたがっていない事に気付いた。


「人質を取るって手段が気に入らねぇ。使い物にならない力を使うつもりはなかったが、もしもの時は躊躇しない。」


 ゴジはポケットに手を入れ、その中にある金色の缶を強く握りながら店の外に出ると、ちょうど迎えが到着した。


「街中に海獣だと!?」

「魚人街の奴らだ。」

「逃げろぉ!?」


 リュウグウ王国の国民達が虎のような顔を持つ体長10メートルはある海獣に怯えて逃げ惑う中、それはゴジの待つマーメイドカフェの入口に降り立った。

 その背に乗ったハモの魚人、ハモンドが顔を出してゴジに声を掛ける。


「“黒麒麟”、手紙は読んだな?迎えに来てやったぜ!」

「あぁ。」


 ゴジは躊躇いなくハモンドの後ろに飛び乗ると、ハモンドはその胆力にニヤける。


「その余裕がいつまで持つか楽しみだ。ハモハモハモ!」

「ゴジ!」

「おいおい……ジンベエ、魚人街に行くのは“黒麒麟”一人って約束だぞ?」

「知っとるわい!しかし、これから魚人島から魚人街に行くのにどうせゴジのバブリーサンゴなぞ用意しとらんじゃろ!?これを持っていけ!!」


 ゴジはジンベエの投げた掌程の大きさの桃色の珊瑚を受け取る。

 魚人街は魚人島の外にあるという事は、すなわち深海を通る必要があるので、普通の人間ならばその時点で命取りである。


「バブリーサンゴ?」

「それは強く握ることでシャボンを生み出すサンゴじゃ、頭に覆うことで水中でも空気を確保出来るようになる。ポケットに入っとるそれを使いたくないならこれを使うといい。」


 ゴジは自分の葛藤がジンベエにバレていた事に動揺しながらも、レイドスーツを使わなくても呼吸が確保出来る手段が手に入ったことに対し、素直に頭を下げた。


「助かるぜ!ジンベエ。」

「チッ!ほら“黒麒麟”、さっさと背中に乗れ!出発するぞ!!」

「あぁ。」


 ゴジは聞きなれない名前の珊瑚を見つめながら、ジンベエの話を聞いて、一か八かのレイドスーツに頼らなくて良くなったことに素直に感謝を述べると海獣に跨るハモンドの背に乗ると、海獣はそのまま魚人街へ向けて出発した。 
 

 
後書き
次回更新は9日です

次話はゴジ君の公開処刑です。 
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