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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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廊下での邂逅



 入学式。そして自己紹介というある意味最大の難関を終えた後のアカデミーは、特にどうという事もなく時間が流れてた。
 勉強も忍術も既に父さんとかイタチとかカカシとか。その他色々な人から聞いてたから特に目新しいものもないし。
 そして当たり前だけど、子供が多い。大人といえば教師ぐらい。今も右を見ても左を見ても外を見ても、子供が遊んでる。
 こういう光景を見てると、普通の学校と何にも変わらないのかな、と思わなくもないかな。将来的にはここから下忍になる子供もいるわけだけど、このクラスから下忍になれるのはある一部の子供だけだろうし。
 なんていうか、それを考えると忍の世界って実力主義だよね。

「何を見てるんだ?」

 ぼけっとしながら忍の世界云々や子供ばっかだな、なんてどうでもいい事を考えてたんだけど、そしたらサスケが私の視線の先に目を向けながら聞いてきた。
 入学式の時から、サスケの定位置は何故か私の横。
 シカマルも前に座っているんだけど、今は机に突っ伏して目を閉じてるのかな。眠ってはいないみたいだから。

「無邪気だな、と思ってな」

 六歳児が無邪気に遊んでる光景が眼下に広がってるし。
 ネジやナルトやサスケを見慣れると、ここにいる子供たちが異様に子供っぽく見えてくる。本当は逆なんだけどね。

「そうだな」
 珍しくサスケも同感とばかりに頷いてくれる。
「で、他には?」
 そして、何でかジト目で続きを促された。
 サスケの眉間に皺は癖だよね。どう見ても癖になっちゃってるよね。
「他?」
 アカデミーに入学したばかりで、下忍になれる人たちの事を考えてたなんて言えるはずもなく、私は逆にサスケを見てみた。
 その途端、サスケの眉間の皺が濃くなる。
 だから将来的に本当にそれが癖になると思うんだけど、今のサスケに言った所で尚更濃くするだけだろうし。
「いつも誤魔化すんだな」
 サスケの将来の眉間を心配してたら、寂しげな光を宿したサスケと目が合った。つい最近まではツンばっかりだったのに、アカデミーに入学してからというものこういう視線が増えた気がする。
 まるで雨の日に捨てられた子犬のような……サスケの場合は猫かな。
 けど、考えてた事を正直に話せないから、一瞬だけサスケから視線を外しながら色々と取り繕う。
 そろそろアカデミーに慣れてきたし、ネジに会いに行くのもいいかもしれない。
 外では当たり前のように会っているんだけど、やっぱりお互いが学校に通い出してから会う時間が減ったんだよね。
 そして最近のネジはデレが多いから、ちょっとだけツンも見たいなぁ、なんて思うし。


「知り合いに会いに行こうか迷ってた」

 はじめはサスケに納得して貰う為だけだったんだけどね。暇だし本当に会いに行こうかな、なんて思ってたら急に服を引っ張られて転びそうになる。

「……サスケ」

 犯人は勿論サスケ。
 何故か私の服を掴んで歩き出してる。

「俺も行く」

「……ん?」

 俺も行くって…。

「俺も、その知り合いに会いに行く」

「……」

 今現在だけど、ネジと気が合うとは思わないんだけどなぁ。
 だけどサスケは会いに行く気満々らしく、無言の私を引きずるようにドンドンと歩いていく。どうやら本当に引く気はないらしい。
 誰か助けてくれないかなって教室を見てみたけど、いつの間にか顔を上げたシカマルに追い払うように右手を振られた。「気をつけて行けよー」というやる気のない声と共に。
 まったく助ける気がないのか、眠たそうに欠伸を噛み殺しながら再び机に突っ伏す。それと同時に聞こえる寝息。
 今回は本当に眠るつもりなのか、不自然じゃない寝息が辺りに響いた。
 ひょっとしたら、話し声が煩くて眠れなかったのかもしれないなぁ。まぁ、シカマルがサスケに言ってくれたとしても、サスケは引かないとは思うんだけど。

 ズルズルと引きずられながら歩いていたんだけど、いつも以上に注目を集めている事に気づいて慌ててサスケの手首を掴んだ。
「歩く」
 私に掴まれた手首を掴みながらサスケが目を見開く。
 痛くはないだろうけど突然掴まれて驚いたのか、サスケの足が完全に止まって私を見てきた。
 歩くだけじゃ言葉が足りなかったかな。
「重たいだろ」
 それに恥ずかしいしね。

「そうか?」
 
「……」

 なのに、サスケにとってみたら私ぐらい引きずるのは簡単なのか、本当に不思議そうに首を傾げられた。
「あぁ。取り合えず…」
 ネジのいる場所に向かおう。
 そう思ってたら、後ろから聞き馴染みの声が響いた。

「何をやってるんだ?」

「「………」」

 ネジの声。
 聞き間違えるわけがないから、間違いなくネジの声なんだけど、何処か呆れたような視線を向けられる。私が思っていたよりも目立ったらしい。
「…ネジも珍しいな」
 この流れでネジに会いに行こうとしてたなんて言いにくくて、つい誤魔化すような言葉をネジに向けてしまう。
 けど、ネジがここにいるのは珍しいというか、ここで会うのは初めてだよね。教室からさほど離れていない廊下だし。
「……」
 途端に無言になるネジ。
 ちなみに、一言も言葉を発しないサスケは人見知りを発揮してか、ネジを睨み付けてたりしてる。
 相変わらず初対面の人は睨むんだね。睨んでるんだけど、柄の悪いサスケの視線を見事にスルー出来るネジも凄いっていうか…。スルーされてる事に気づきながら尚更眉間の皺を濃くするサスケも懲りないっていうか。
 この空気を打破するのは私なのかな。嫌だなぁって思ってたら、ふいっとネジが視線を逸らした。何処となく頬が赤いような気もする。

「………随分と慣れたと聞いた」

「……?」


 私も言葉は少ないけど、ネジも少ないよね。


「だから、顔を見ようかと……」

「そうか……俺と同じだな」

 ツンなネジを見ようかと思ってたんだけど、学校で会ってもデレなネジは変わらないらしい。やっぱ一度友達になると漫画のような高圧的な態度は見せないのかな。それはそれで嬉しいんだけど、どうしてかサスケの表情が極悪に変化した。
 そしてネジまでそれを真っ向から受け止め、不機嫌そうにサスケを睨み返す。

「……」

 私が入り込めない独特の空間を作り上げて睨みあうサスケとネジ。どうしようと途方にくれながら肩を落とす私には気づかず、睨み合いが段々とエスカレートしていくんだけど、流石に刃物沙汰は止めた方がいいよね。
 手合わせなら兎も角、ここは学校内だし。

「それ以上は、力ずくで止めるぞ」

 溜息混じりに言えば、辛うじてクナイからは手を離してくれる。が、睨み合いをやめる気はまったくないらしい。

 予想通りといえば予想通りなんだけどね。
 ネジとサスケってやっぱり相性が悪いんだなぁ…。





 
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