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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第百十一話

 ジンベエは魚人島の誰からも愛された“愛の人”と呼ばれた王妃を懐かしみながら話し始めた。


「一人は人間と共に暮らす事を島民に説き続けたオトヒメ王妃。リュウグウ王国“海神”ネプチューン王の亡きお后じゃ。今から遡ること約14年前、金魚の人魚であるオトヒメ王妃は魚人族に対する差別を政治的な面から解決して人間との共存を目指して魚人島民達にリュウグウ王国の海上移設に賛同する署名を求めておった。」

「なるほど。世界会議(レヴェリー)に提出して各国の王達の賛同を得るためだな?」


 世界会議(レヴェリー)で決定された事は絶対であり、一度決定されると、魚人族を“魚類”と見なす世界貴族でもその決定を覆すことは出来ない。


「ゴジの言う通りじゃ。しかし、魚人族が人間に対する恐怖は根深い。署名活動は難航したが、オトヒメ王妃は魚人島の誰からも愛される傑物。オトヒメ王妃の必死の訴えに少しずつ署名は集まっていった。」


 オトヒメ王妃は自己犠牲も厭わず他者を助けようとする精神から島民に非常に愛される人物で、人間を恐れる者もオトヒメ王妃がそこまで言うならばとしぶしぶ署名をする者も少なくなかった。


「そんな中でもう一人の人物が立ち上がった。その男こそ共存を望むオトヒメ王妃は違って人間との決別を叫び、世界のタブーを犯し、たった一人で聖地マリージョアを襲撃して奴隷達を救ったフィッシャー・タイガー。その後、元奴隷の魚人達を連れて”タイヨウの海賊団”を結成する男じゃ!!ワシもアーロンもそのタイガーを慕って”タイヨウの海賊団”に属することとなる!!」


 魚人のみで構成されたタイヨウの海賊団は海戦における驚異的な強さを見せながら、タイガーの方針から戦闘において敵への不殺を貫く異質の海賊団となりながらも、その名を世界に轟かせたが、政府に盾つく”魚人海賊団”が海にいる事は、人間との友好を望むオトヒメ王妃の首を絞める結果となった。今を耐え忍び、未来を変えようとするオトヒメ王妃に対し、未来を捨てて、今を苦しむ同属の奴隷達を救い出したフィッシャー・タイガー。


「そんな折、海軍による襲撃により瀕死の重症を負ったタイガーは奴隷であった過去を告白して人間の血による輸血を拒んだことで死んでしまった。しかし、タイガーは死ぬ間際に『自分は間違っている。オトヒメ王妃が正しかった』と人との和解と共存を望んでおった。」


 8年前にかつてマリージョアから解放した奴隷の当時11歳だったコアラを故郷の偉大なる航路(グランドライン)にあるフールシャウト島に送り届けた際、コアラの奴隷解放を条件に司法取引をしていたコアラの母を始めとする島人に裏切られ、海軍に通報されて不意の襲撃に遭ってタイガーは瀕死の重傷を負ってしまったが、治療の最中に元天竜人の奴隷であった事を告白したタイガーは人間の血液による輸血を拒んだことが原因で死んでしまう。


『本当に島を変えられるのはコアラの様な何も知らねェ“次の世代”だ!!だから頼む!お前らは(魚人島)に何も伝えるな!俺達に起きた“悲劇”を!人間達への“怒り”を!!俺は思うままに生き、結果オトヒメ王妃を邪魔しちまった。あの人は正しい!!誰もが平和がいいに決まっている!!』

『俺はもう人間を愛せねぇ!!』


 人間を忌み嫌いながらもタイガーの和平を望む心は本物であり、コアラのように何も知らない純粋な子供たちが次の世代を担い、魚人島を変えられるように願って『魚人島には何も伝えないこと』を仲間たちに願った。


「アーロンはタイガーの死に怒り、怒りのままに人間に報復して投獄された。海軍による取り調べでアーロンはタイガーの死を『人間がタイガーに輸血を拒んだことで死んでしまった。』と嘘を付き、タイガーの死を知った島民は人間との共存は出来ないと署名の取り消しを求めてオトヒメ王妃の署名活動はふりだしに戻ってしもうた。」

「なんでそんな嘘付いたんだ?」


 ボニーは何故アーロンが、嘘を付いたのか疑問でならないが、ゴジにはその時のアーロンの気持ちが何となく分かった。


「死に怒り、報復まで考えた尊敬するフィッシャー・タイガーの名誉を守る為に、彼の知られたくない過去を話したくなかったんだろう。」

「天竜人の奴隷だったという過去は本当なら誰にも知られたくないもの.......」


 ゴジの考えにタイガーと同じく奴隷だったコアラは力なく同意した。

 未来を捨てて今を苦しむ同族の奴隷達を救い出したフィッシャー・タイガーの影響で結果的に首をしめられ署名は集まらず、さらにアーロンによりもたらされた湾曲したタイガーの死の真相が広がったことで、5年以上かけて集まった署名も全て取り消された。


「ふむ。ワシらもそう考えたからアーロンの発言は間違っていると声をあげなかった。ワシはタイガーに変わってタイヨウの海賊団を率いて戦いに明け暮れておったある日、世界政府から王下七武海の打診がきた。ワシはタイガーの意志を継ぎ、オトヒメ王妃とリュウグウ王国の助けになればという思いから王下七武海入りを受諾した。その恩赦により投獄中のアーロンは釈放されたが、奴は政府に従うワシには従えぬと仲間を連れてタイヨウの海賊団を抜けた。」

 
 ジンベエが王下七武海となったことでタイヨウの海賊団はタイガーの想いを受け継ぐジンベエに付く者とタイガーを殺した人間への復讐を企むアーロン一味、さらに人攫いの稼業を営むマクロ一味の三つに分裂し、アーロンは自分に従う仲間たちと共に東の海(イーストブルー)へ渡り、足取りは途絶えた。
 

「ワシが王下七武海となってもオトヒメ王妃の署名活動は難航しておったが、そんな魚人島にも転機は訪れる。ある日、魚人島に大怪我をした天竜人が一人で流されてきた。海底では海軍の目は届かんから元奴隷だった者達はその天竜人を殺そうとしたが、身を呈して天竜人を庇ったオトヒメ王妃に説得されて折れた。オトヒメ王妃は天竜人を誠心誠意介抱して、地上まで送る過程でその天竜人を説き伏せ、署名が集まれば天竜人がリュウグウ王国の地上進出を後押しするという念書まで書かせたのじゃ。」


 世界貴族を地上まで送り届けたオトヒメが魚人島に持って帰った世界貴族からの書類には、こう記されていた。


『魚人族と人間との交友の為、提出された署名の意見に私も賛同する』


 オトヒメは世界会議(レヴェリー)で、魚人島から地上移住の要望の署名を提出した時、この世界貴族の賛同の書類を沿えることでより現実的な”力”を与えられることになると島民に訴えた。


「すごい人ね。オトヒメ王妃って……」

「全くだ。あのクズを説き伏せるとはな。」


 ゴジ達はジンベエの話に驚きを隠せないでいると、ジンベエは自分達の愛したオトヒメを誇って少し笑みを浮かべた後、再び表情を曇らせて続きを話す。


「その念書の効果は絶大じゃった。魚人と人間その差別の歴史にワシらは目を背けておった。しかし、オトヒメ王妃自ら一歩踏み出すことで希望が生まれ、署名が再び集まりオトヒメ王妃の苦労が身を結んだかに思われたが、事件はなんの前触れもなく起こる。その署名活動の最中、オトヒメ王妃は人間の海賊によって銃撃されて殺されてしまった。」

「「「なっ……!?」」」


 ゴジ達はジンベエの話に目を見開いて言葉が出なかった。


『犯人がどこの誰であれ、私のために怒らないでください。私の為に怒りや憎しみに取り込まれないで。』

『もう一息よ.......本物の“太陽”の元まで.......。』


 オトヒメは死の瀬戸際も自分を殺した者に対して怒りや憎しみを残さないで欲しいと願い、自分の想いを確かに受け継いだ最愛の子供達、3人の王子としらほし姫に看取られて笑顔でその人生に幕を閉じた。


「皮肉なモノじゃ……人間との共存を目指したオトヒメ王妃が人間に殺されてしまうなど.......この騒ぎにより署名を集めていた署名箱が燃えてしまった上、オトヒメ王妃の死で署名活動はまたふりだしに戻った。妻を殺されたネプチューン王の怒りは凄まじかったが、妻の想いを果たすためにその怒りを押し殺して今日の世界会議(レヴェリー)でも地上進出を訴えるはずじゃが、署名は未だ集めている最中で結果は見えとる。」


 それから7年、オトヒメ王妃の想いを確かに受け継いだフカボシ王子、リュウボシ王子、マンボシ王子、3人の王子を筆頭に、ネプチューン王やしらほし姫もモニターで呼びかけ、その努力で再び島民の署名が大きく集まっているが、それでも魚人島の全人口500万からすれば僅かなもので世界会議(レヴェリー)に提出する出来るほどではない。


「これがこの国の差別との戦いと”魚人海賊団”の成りたちじゃ。お前さんの故郷を苦しめたアーロンはつまりワシの弟分なんじゃ。責任を感じとる!!」


 ジンベエは全てを語り終わると再びナミに深く頭を下げた。


「アーロンはほんと馬鹿だよ。」

 
 コアラはジンベエを見つめながら、決して自分に心を開く事のなかったアーロンを思い出して不貞腐れる。

 アーロンが東の海(イーストブルー)で人間を奴隷のように扱った末、イスカに捕らえられたと聞いた時は悲しかったが、同時にアーロンならやりかねないかもしれないと納得もした。

 タイヨウの海賊団副船長イタチウオの人魚であるアラディンが近付いてジンベエの横に並んで両手を地面に付いて頭を下げる。


「頼む!ジンベエをあまり責めないでやってくれ。」

「アラディン!何も言うな!!」


 ジンベエはアラディンが何を言おうとしているのか気付いて、止めようと声を張り上げた。


「ぐっ……しかしっ!?」


 弟分が取り返しのつかない事態を引き起こした責任を取ろうとする謝罪の場において言い訳する事はジンベエの仁義に反すると思ったからである。


「そこの人魚。アラディンと言ったか?話してくれ。俺達は全てを聞くためにここに来たんだ。そうだろう?ナミちゃん。」

「うん。アラディンさん話して。」


 押し黙るアラディンに向けてゴジとナミが続きを話すように促すと、押し黙るジンベエをちらりと見た後に口を開く。


「ジンベエはアーロンが悪事を働けば、直ぐに連絡してくれるように海軍に頼んでいた。その時は自分の手でアーロンを殺してでも止めると話してたんだが、海軍からアーロンが悪事を働いたという連絡は一切なく、アーロンが拿捕されてからジンベエは全てを知って苦しんでいたんだ。」


 ゴジはジンベエがアーロンを放置していた理由がアラディンの話を聞いてアーロンが東の海(イーストブルー)の第16支部を買収していた最大の理由が分かって目を見開いた。
 

「あぁ.......そうか.......すまん。それはウチのクズ(ネズミ)のせいだ。ジンベエを一方的に責めて悪かったな。話が本当なら責められるべきは海賊に買収された俺達海軍も同じだ。」


 アーロンは海軍本部というよりはジンベエに情報が渡る事を恐れていたことに気付いたゴジは逆にジンベエ達に頭を下げた。

 ネズミ“元”大佐さえ買収されなければ、アーロンは早々にジンベエに捕らえられていた事が分かったからである。
 

「いや、話した通り元はと言えばアーロンを海底大監獄(インペルダウン)から解き放ったワシの罪じゃ。釈放したワシの言うことを聞かぬなら殺してでも止めるべきじゃった。本当に.......後悔しかない。」
 

 ジンベエは弟分であるアーロンを御して自らの右腕となる事を期待して海底大監獄(インペルダウン)から解放したが、彼は自分の説得に応じることなかった。


『アニキ、俺を止めたかったら殺せ!殺せないなら俺は自由だ。好きにさせてもらう。』


 ジンベエはそう言ったアーロンを殺す事も出来ずに中途半端に喧嘩別れしてしまった事をずっと悔いていた。

 全てを聞いたナミは勇気を出すために両手でゴジとイスカの手を握り、ジンベエを見据えてしっかりと言葉を紡いでいく。

 
「うん。分かった。私が嫌いなのはアーロン。コアラ大佐の友達のあんたがアーロン一味の黒幕でなくてよかった。確かにアーロンには酷い目に合わされたし、一生許すことなんて出来ないけど、そんな暗い渦の中でも光は確かに差した。まだ少し魚人は怖いけど、話を聞いて魚人全てが悪いわけじゃないって分かったから魚人だからって恨みはしないわ!!」


 ナミは自分に差した二つの光をしっかりと握り締めて、ジンベエに見えるように顔の前に出しながら、満面の笑顔を向けた。

 ジンベエはナミの笑顔を見て自分が許された事を知り、涙を流しながらもう一度深く頭を下げた。

 
「……っ!?かたじけない!!」
 

 ゴジは泣き震えるジンベエの肩を見ながら、彼に五老星より与えられた視察任務の結果を伝える。


「王下七武海“海侠”のジンベエ、これからも魚人島で王下七武海としての任に励んでくれ。近々王下七武海制度は廃止されるが、タイヨウの海賊団全員にこれまでと変わらない恩赦を与える事も約束しよう。」
 

 タイヨウの海賊団はは基本的に魚人島から出ることはなく、リュウグウ王国の正規軍と共に魚人島を守りながら島で暴れる海賊を捕らえて、海軍に引き渡すことで王下七武海としての仕事を果たしている。

 当然魚人島に来る海賊が落とす金は魚人島の大切な収入源なので、無闇やたらに全ての海賊を捕まえたりはしないが、それでいいと判断した。
 
 何よりもゴジは心からナミに謝罪した王下七武海ジンベエと彼を思い彼を庇うために声を挙げたタイヨウの海賊団の人となりが分かって満足したのだ。


「なんと……!?ありがたい.......。」


 ジンベエは一度頭上げて王下七武海制度の廃止に驚いたものの、それよりもあまりにも過分な恩赦に対してゴジに対して頭を下げた。


 ───アーロンを“悪魔”に変えたのは俺達人間か……。


 分かってみれば単純な話だった。人間が魚人を迫害して支配し続けた為、アーロンはそれを真似て魚人が人間を支配する島を作った。

 全てを知ったゴジは魚人島の未来の為に何かできることはないかと模索し始めた。 
 

 
後書き
次回の更新は27日です。

次回は視察を終えたゴジ君が向かう場所とは?そして、そこで知らされる人魚姫の存在と彼女を付け狙うストーカーの話です。 
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