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戦姫絶唱シンフォギアGX~騎士と学士と伴装者~

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第2楽章~白衣の学士と四色の騎士~
  第16節「翔のいない日々」

 
前書き
いい夫婦の日に新章突入!
いつもより少しだけ長くなりました。ちょっとだけお得な気持ちで、お楽しみください。

それから、後書きにお知らせがあります。
本編をご堪能頂いた後、ご確認の程お願いいたします。 

 
平日のリディアン校舎。陽光が優しく射し込む音楽室では、来週に控えた実技試験に向けて、ピアノの練習が行われていた。

流れるように美しい旋律を奏でながらも、奏者の顔はどこか沈痛で曇りがある。
それは、未だ目覚めぬ親友の身を案じる、小日向未来の姿であった。

(…………あれから5日。ずっと眠ったままの響……。目が覚めて……胸の歌が壊されたことを……そして翔くんが居なくなっちゃった事を知ったら……、……どう思うのだろう?)

鍵盤を流れる手が止まり、演奏が中断される。
他の生徒達は困惑しているが、未来は全く気付いていないようであった。

「……心、ここに在らず、といったところですね」
「あ、いえ……。……すみません」

音楽教師に言われて気付いた未来は、鍵盤から手を離す。

「小日向さんは、試験の日までに悩み事を解決しておくように」
「……はい」

自分の席へと戻っていく未来を、クラスメイト達は心配そうに見つめている。

それほどまでに、ここ暫くの未来は、授業に身が入らない日々が続いていた。

「ヒナ……」
「どうしちゃったのよ。アンタと言い、四バカといい……あの王子様まで、暗い雰囲気出しちゃってさ」
「立花さんと風鳴くんがお休みしている事と、何か関係があるのですか?」
「…………ごめんね……規則で、言えない事になってて……」

言い淀む未来に、創世、弓美、詩織は口を噤む。
響と翔に何かがあった、という事だけは察したからだ。

3人はそれ以上何も聞かなかった。
だが……



「翔が……行方不明……!?」

予想だにしなかった答えに、紅介は瞠目していた。

「言えないっていった理由、これで分かったよね?」
「……悪ぃ」
「ううん。どのみち、話す事になったと思う。紅介はこういうの、言わない方が大変だし」
「「「わかる……」」」
「口揃えて頷くなよ!?分かってても傷つくだろ!!」

見舞いに行くから病院教えろ、とまで言い出した紅介を止めるには、正直に言ってしまうのが一番だったのだ。それに恭一郎や飛鳥、流星らは装者達の事情を知らぬ間柄でもない。
そこで、他人に一切口外しない事を条件に、純は先日の戦いの事を打ち明けたのである。

「……って事は今、相当ヤバいんだな」
「純のものを含め、シンフォギアはほぼ全領が破損し現在修復中。そして翔が行方不明……戦力が殆ど残っていないぞ……」
「五日経ったんだよね?手がかりさえ無かったの?」
「ああ。現場の瓦礫はかなり撤去されてるんだけど、プロテクターの一部さえ見つかっていないらしい。何処行ったんだろう……」

あれから純や未来は、何度か現場に足を運んでいた。姉である翼は毎日のように顔を出し、捜索を手伝っているようだ。
それでも未だに翔は見つかっていない。まるで、突如として現場から消えたように。

「手がかり、意外と近くにあったりして。灯台デモクラシーって言うし」
「それを言うなら“灯台もと暗し”、だ。大正デモクラシーと混ざっているぞ」
「もう瓦礫は殆ど撤去されてるんだよ。でも、まだ何か見落としてる可能性はゼロじゃない、か……」

流星の言葉に、飛鳥はすかさずツッコミを入れる。
しかし、その言葉があながち間違ってもいない事は、誰も知らない。

「よぉし決めたぜ!」

突然、紅介が声を張り上げ、一同は驚きながら彼の方を見る。

「あいつが戻ってくるまで、俺達があいつの分まで皆を守らねぇとな!」
「でも、どうやって?」
「決まってんだろ~。特訓すんだよ!あいつが戻ってくるまでに身体鍛えときゃ、そのうちS.O.N.G.にスカウトしてもらえるかもしれねぇだろ!」

なんとも紅介らしい、愚直で突拍子もない提案だった。
飛鳥は呆れて他の面々がツッコミを入れるのを想像し、溜息を吐く。

しかし──

「僕は賛成。何もしないより、できる事をしたい」
「なら、僕も」
「恭一郎!?流星まで!?」
「調ちゃんが頑張ってるのに、守られてるだけなんて納得できないよ」

流星が兄へと向けるその眼差しは、いつになく真剣なものだった。



それまで僕は、何処か納得出来なかった。こんなにも優しくて、他人を思いやれる娘が戦っているのに、どうして僕にはその資格がないんだろうって。
もしも、僕にもギアを纏う資格があるのなら、君を守るため、惜しまずこの身を差し出すのに……って。

でも……チャリティーライブの夜。調ちゃんと切歌ちゃんが装者であり続ける理由を知った時、それが思い違いだった事に気付いた。

2人は誰かに言われたからとか、使命感だとかでシンフォギアを纏っているんじゃない。
自分の意思で、守りたい人達を想って戦っているんだって。

それを知って、少しだけ考えが変わった。

大切な人達のために戦う調ちゃん。そんな彼女を守れる男になりたい、って。
その為には、今のままじゃ足りない。出来る事がある筈だ。

「翔や純、それにツェルトさんもきっと、この気持ちを噛みしめて踏み出したはず。だから、僕は……」
「流星……」

兄さんの瞳が揺れる。反論するだけの理屈は無いようだ。
他の皆もきっと、僕と同じ考えでいる。

しばらく唸った末、やがて兄さんは溜息を吐いた。

「お前の言う通りだよ、流星。せめて、女の子1人抱えて逃げられるくらいには、鍛えてても損はなさそうだ」
「兄さんそんな事考えてたの?」
「あ、あくまでものの喩えだッ!」

慌てて訂正する兄さん。お堅い顔してるけど、何だかんだで気はあるみたいだ。

「そこまで言うなら、僕の方から風鳴司令にかけ合ってみるよ」
「おう!頼むぜ純!」
「でも、覚悟はして欲しい。町内ボランティアとはワケが違うんだ」

メガネの奥で純の瞳が鋭く光る。

対して紅介は不敵に──或いは何も考えていないのかもしれないけど……──笑って、僕達全員を見回した。

「俺達を誰だと思ってやがる?月とリディアンが吹っ飛んだあの日を一緒に潜り抜けた仲だろ?んなこたぁ今更言われるまでもねぇッ!」

兄さんも、恭一郎も、そして僕も頷く。
今更覚悟を問われるまでもない。

「分かった。なら、今からアポ取って来るよ」

そう言って純は、通信端末を取り出す。

昼休みの終わりを告げる鐘が鳴る頃、通信を終えた純は僕達の方を振り返り──

ff

「はい、これ」
「ん……ああ、マリアか」

頬に押し付けられた冷たい缶。
渡されたスポーツドリンクを受け取ると、翼は再び倒壊したビルへと視線を向ける。

「見つからないわね……あなたの弟」
「これだけ探しても見つからないとは……何処に行ったのだ……」

マリアは翼の横顔を眺め、眉を下げた。
翼の気持ちが、彼女には痛いほど分かるからだ。

7年前、セレナが業火と瓦礫の中へ消えたあの日。それを見ている事しか出来なかった、無力な自分。
今の翼の憂いを帯びた横顔が、自分と重なった。

「でも、やっぱりおかしいわ。これだけ瓦礫を退かして、痕跡が一切見つからないなんて」
「ああ。ここまで何も見つからないと、実は倒壊寸前に脱出したのではないか……という希望が浮かんでしまう程だ。だが……ならば何故、何の連絡も寄越さないのだ……」
「翼……」

唇を噛み締め現場を見つめる翼の目尻には、溢れかけている雫が見えていた。

「……春谷さんは、とても後悔していた。置いて行くべきでは無かった、と」
「でも、あの場ではそれが最前だったんでしょう?」
「その通りだ。皆が最善を尽くし、無辜の人々を傷つけさせることも無く、奴らを退けた。だが……その上で翔は……翔は……くっ……!」

奥歯を噛み締める翼の背中に、ふと腕が回される。
気が付くと、翼はマリアに抱きしめられていた。

「マリア……?」
「大丈夫よ。きっと見つかるわ。だって、翔はあなたの弟なんでしょ?それともあの子は、たった1人の姉を残して、こんな所で命果てるような姉不孝な子なの?」

諭す様なマリアの言葉に、翼はハッとする。
そしてゆっくりと、その口から応えを捻り出した。

「いいや……翔は……私の弟は、強い男だ。叔父様に鍛えられた身体に、緒川さんから磨かれた技。それに頭も回る方だ。そして何より……立花の事になると我武者羅で、どんな事があろうと泣かせたりしない。自慢の弟だ」
「ふふっ……そこまで言えるなら、心配要らないじゃないの」
「ああ。お陰で弱気も吹き飛んだ。ありがとう、マリア」

マリアが離れると、翼は目元を指で拭い、スポーツドリンクを一気に飲み干す。

「私が信じず、誰が信じるのだ。翔は無事だ。必ず戻る!」
「そうこなくっちゃね。さあ、捜索を続けましょう」

そう言ってビルの方へと向かおうとした時だった。
向こうの方から、ツェルトがこちらへと向かって来るではないか。

それも、何やら慌てた様子だ。翼とマリアは顔を見合わせる。

「2人とも、大変だ!!」
「どうしたのツェルト?」
「何か見つかったのか!?」
「そ、それが……にわかには信じられないようなものが見つかってな……」

首を傾げる2人を連れて、ツェルトは現場の中心地へと向かった。



「こ、これは……?」
「春谷さんが見つけたんだ。ここだけ、地面のコンクリートが他と違う色になっているらしい。しかも、綺麗な円形を描いてな」
「どういう事なの?」
「考え難い事ではありますが──」

首を傾げるマリアに、春谷は息を飲みながら応える。

「コンクリートを破って、地面に大きな穴を空けた後、それを綺麗に埋め直した……としか考えられません」
「まさか、これを翔が!?」
「いえ。コンクリートは綺麗に固まっています。生弓矢で突貫したにしては不自然です。……ですが、色が変わっているのはおそらく、コンクリートの下にある土や砂が混ざっているからではないかと」

春谷の言葉に、翼のみならずマリアとツェルトも困惑する。

オートスコアラー達は、例のアンプルのようなもの──エルフナイン曰く、テレポートジェム──を使用して撤退する姿が、映像が途切れる直前のカメラに映っている。
果たして、一体何故このような跡が出来ているのだろうか?

疑問ばかりが浮かぶ中、調査部の一人がタブレット端末を手に、春谷の方へと向かってきた。

「春谷さん、ここの地下には下水道が通っているようです」
「下水道……?という事は、つまり……」
「翔は地下に逃げた……そういう事ですか!?」
「不明な点は多いですが、現状、それが一番可能性として大きいかと」
「そうか……。やはり、翔は生きている……ッ!」

翼の表情に、完全に光が戻る。
少なくとも弟が、ビルの倒壊に巻き込まれる前に離脱していた事が分かった。それだけでも大きな進展だ。

「すぐにこの付近一帯の下水道をマップ化してくださいッ!私は捜索チームを編成しますッ!」
「了解ッ!」

春谷の支持を受け、調査部のエージェント達がテキパキと動き始める。

マリアとツェルトは、希望を取り戻した翼を見ながら、コツンと拳を合わせるのだった。

ff

調と切歌はトレーニングルームのシミュレータを使い、訓練に励んでいた。

「……シミュレータでの連携は上手くいったけど……」
「結局LiNKERが無いと出撃はさせてもらえないのデスよね……」

戦力外なら戦力外なりに、自分たちに出来る事を探した彼女達の答え。それは訓練を重ね、少しでも強くなる事だった。

フロンティア事変の最終局面、フロンティア脱出の際に鹵獲したエアーキャリアーから得たデータにより、トレーニングルームの立体映像投射装置がより高性能になっていた。
F.I.S.時代の訓練と同じように、立体映像でありながら、攻撃を受ければ衝撃が伝わる。より実戦に近い訓練が可能となった事は、装者たちの戦力を格段とランクアップさせている。

しかし、それでも切歌と調には足りない。
いくら訓練を重ねても、それはあくまでバックファイアが出ない範囲の運用が前提だ。必殺技は使えず、アラームが鳴ればギアを解除し訓練を終えなければならない。

やはり2人の適合係数では、戦場に立つことを許されない。それを誰より知っているからこそ、やるせない気持ちが募っていく。

「LiNKERさえあれば……。なんとかできないデスかッ!」
「でも、ここにはドクターがいない……」
「……あんな奴でも、役に立ってたんデスね」

LiNKERの開発者、ウェル博士はフロンティア事変の収束と共に、日本政府により捕縛、連行されてしまった。

生物学に精通していたウェル博士による改良型のLiNKERは、発明者である了子の手のよるものを遥かに凌駕しており、彼が居ない今、切歌と調のために調整されたLiNKERは用意出来ない状態なのである。

「……ねぇ切ちゃん。LiNKERってわたしたち以外に使ってる人はいないのかな?」
「今いる先輩たちは皆LiNKERなしで適合してるデスよ」

厳密には奏がそうなのだが、切歌も調も、奏がギアを纏う姿を一度しか見ていないため、知る由はない。

そして、この会話を立ち聞きしている人影がある事にも……。

「うん……でも、わたし達用に調整されたものじゃなくても、誰か使ってる人がいれば、分けてもらえるかもって──」
「そうデスね……。なら後で聞いてみるデスッ!もしかしたら訓練中の誰かとかいるかもしれないデスしッ!」
「……うん、そうだね」

「……ったく、ヤンチャな後輩が出来ちゃったねぇ」

そこまで聞くと、奏はこっそりとトレーニングルームを後にする。

(今、残っているLiNKERね……。薬害洗浄の技術は上がったみたいだけど、薬そのものはまだ副作用が残ったまま……か。さて、どうしたもんかね)

トレーニングマシンを使い始めた切歌と調の声を背に、奏は何やら考え始めるのであった。

ff

S.O.N.G.本部の研究室。ここ数日、櫻井了子は殆ど籠りっきりでシンフォギアの修復を続けていた。

「ふぅ……やる事がまだまだ山積みね。もー、天才使いが荒いんだからッ!」
「失礼しま~す。了子さん、お疲れ様です~」
「あら、姫須ちゃん。どうしたの?」

そこへ現れたのは、姫須晶(ひめす あきら)。二課の頃から所属している古株の職員だ。
彼女は手にしたお盆を示して、屈託のない笑みを了子へと向ける。

「お疲れかな~と思いまして。いい時間ですし、一緒にお茶しませんか?」

お盆の上には珈琲の入ったマグカップと、小洒落たクッキーが小皿に積まれている。

「あら~、気が利くじゃない。そろそろ糖分が欲しいと思ってたところなのよね~♪」

了子はすぐさま道具を置くと、デスクの空いてるスペースに姫須を誘う。

やがて、大人の女2人による静かなティータイムが始まった。

「シンフォギア、直せそうですか?」
「あったり前でしょ~。私を誰だと思ってるのよっ!」
「いや~、了子さんの天才っぷりを疑ってるわけじゃないんですけどね。ただ……」
「ただ……どうしたの?」
「アルカ・ノイズ。あんなに強力な分解能力を持ってるのに、シンフォギアのコアはよく無事だったなって思いまして……」

姫須のその言葉に、了子の眉が一瞬ピクッと動いた。

「まあ、皆からはただの思い過ごしだって言われましたし、私も気の所為だと思ってるんですけどね!あまり気にしないでくださ──」
「姫須さん、あなた結構鋭いわね」
「……え?」

了子は足を組み、マグカップに淹れられたコーヒーの水面を見つめながら呟いた。

「実はね、私も妙だと思ってたのよ。な~んか、わざとらしい壊し方してるな~って……」
「え?いや、でも、シンフォギアはノイズの位相差からの攻撃に対して、ほぼ絶対的な防御力を誇ってるんですよね?コアとなる聖遺物が収められたコンバーターは、特に頑丈に造られているはずでは……?」
「あのアルカ・ノイズの攻撃を受けた瞬間、シンフォギアの各種防御シールドは殆ど突破されていたわ」

了子の言葉に、姫須の背筋が凍りつく。
それは、開発者の口から語られるには、あまりにも恐ろしい言葉だったからだ。

姫須の表情が強ばっていく中、了子は続ける。

「シンフォギアの防御を貫通した上で、修復が可能であり、尚且つ装者が無傷で済む程度の加減をさせた上で破壊した。状況的に、あれはそう見るしかないのよ」
「ノイズにそんな細かい加減が効くわけ……」
「一つだけ、方法があるわ。あなたも見た事あるんじゃないかしら?」
「あ……ソロモンの……杖……」
「これは推測だけど、アルカ・ノイズを造ったキャロルって娘は、おそらくノイズの設計を知っている。それに錬金術によるアレンジを加えたのがアルカ・ノイズだとするなら、彼女達はソロモンの杖にあたるコマンド端末を量産している可能性があるわ」
「そんな事が出来るんですか!?」
「オリジナルのソロモンの杖に比べれば、性能は多少劣化しているでしょうけどね」

了子の推測に姫須は目を剥いた。
これまでに対峙したどの敵勢力よりも遥かに強大な力を持つキャロル一味。綿密な計画の上に、それを実行する技術力を兼ね備えているなど、相手する側からしてみれば、たまったものではない。

「でも……それじゃあ……敵は何のためにシンフォギアを……!?」
「現状だと、そこがちょ~っとハッキリしないのよね。答えが見えるまであと一歩、って所なんだけど……。あ、この話、皆にはしちゃダメよ?」
「どうしてですか!?早めに言っておいた方が良いんじゃ……」

了子は珈琲を一口味わうと、人差し指を唇の方へと持っていく。

「確証が持てないうちから言っても、皆を困らせるだけだもの。最後の謎が解けたら、ちゃんと皆にも伝えるわ」
「なるほど……。つまり、『今はまだ、その時では無い』ってやつですね。シャーロック・ホームズ的な!」
「そうそう。謎解きパートはもう少しだけおあずけよっ♪」
「じゃあ、この辺で話題を変えますね。実はこの前、レクリエーションルームに来た藤尭さんがですね──」
「え~、そんな事あったの~?この目で見たかったわね~♪」

2人だけの秘密ね、と言われれば姫須も口を閉ざすしかない。
これ以上の追求はやめにして、姫須は了子とのティータイムを楽しむ事にするのだった。

(……まあ、『何の為か』は分からないけど、『何故こんな事をしたか』は何となく見えてるのよね~)

姫須とたわいも無い話をしながら、了子は脳内で思考する。

(シンフォギアの破損と同時に、私達の方へ転がり込んできたエルフナインちゃん。手土産に盗んできたダインスレイフ。話がどうも出来すぎてるわよね~……)

シンフォギアに関する技術は、S.O.N.G.が有する機密の中でも最重要の機密事項。
その為、本来ならばその改修には、了子が1人で当たる筈だった。

しかし、Project IGNITEの発案者であり、錬金術の知識を有しているのはエルフナインだ。
更に、先日の襲撃で純のRN式アキレウスも破損しており、了子1人では人手が足りなくなってしまったのだ。

その状況に、了子にとって何かしらの作為を感じずには居られなかった。
一連の流れの裏にあるキャロルの目的に、シンフォギアへの細工という意図が見える気がしてならないのだ。

(念の為、コンバーターの改修作業は私も隣で見張ってるけど、今のところ怪しい動きは見られない……。でも、間違いなく何か裏があるはず。エルフナインちゃん自身の意図か、それともそうではないのか……どちらにせよね)

了子としても、本当はエルフナインを疑いたくはない。
だが、懸念を抱いている以上は、自分がその役を引き受けなければならない。

司令である弦十郎や装者達が、他者を信じることで信頼を築くなら、了子は敢えて疑いを抱く事で信頼を証明する。
彼女は自分自身の役割をそう定義付けていた。

(でも、それが分かったところで、戦力が全然足りてない。シンフォギアの改修と並行して、RN式の修復にLiNKERの調整……タスクが多過ぎるわ!それ以外で望める戦力があるとするなら……)

了子はチラッと、部屋の隅にあるケースに目を向ける。

ケースに取り付けられたネームプレートには、『RN_Model-GEED』と刻印されていた。 
 

 
後書き
翔くんが居ない日々、如何だったでしょうか?
主人公のうち1人は行方不明で、1人は昏睡状態。果たして物語をちゃんと動かせるのか?と作者自身が不安になってますが、昨今の少年漫画やラノベには、3巻以上も主人公の出番がない状態で物語が進行するものも珍しくないようなので、伴装者もなんとかなるでしょう。いや、作者として何とかしてみせます!こういうのも、作者としての腕の見せ所ですからね!

さて、ここでお知らせです。
実は、今月から新しい職場に就いたので、慣れるまで暫く更新が不定期になるかもしれません。最近、更新時間が遅れてしまうのはそれが理由の一端となっているのです。
毎週火曜日、同じ時間帯に更新される筆の速さを好んでくださっている読者さん達には申し訳ありませんが、職場に慣れるまでの間ですので、気長に待っていただければなと思います。

とか何とか言いつつ、ペース落ちなかったら落ちなかったで笑ってください(笑)
それでは、また次回。お楽しみに! 
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