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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第百八話

 ゴジとボニーは意を決してそう書かれた店のウエスタンドアを開けて中に入ると、一般的な作りのバーカウンターの中には店主と思われる黒髪のボブカットと、官能的な厚い唇が特徴のTシャツとジーパンというラフな格好をした女性がいる。

 彼女は見た目だけでいうと40歳前後の年という実齢を感じさせない若々しい風貌と整ったプロポーションを維持する美魔女であるが、こう見えて御歳60歳になる。
 

「あら、レイさん?美人なお嬢さんの肩に乗ってる子供が本当に“黒麒麟”なの?幼すぎない?」


 店主の女性とカウンターの客席には白いコートを着た白色の長髪に白い髭面のガタイがいい「レイさん」と呼ばれた70歳位の老人が座っていた。

 この男こそ覇気を使ってゴジをここに呼んだ張本人である。


「ああ。間違いない。大方、そのお嬢さんの悪魔の実の能力で幼くなっているのだろう。」

「正解だよ。ボニー、能力を解いてくれ。」


 店内にいる2人はゴジの正体にも気づいているようなので、ゴジはボニーの肩から降りると、彼の体が徐々に元の姿に戻っていく。


「俺の自己紹介はいらないみたいだな。元ロジャー海賊団副船長“冥王”シルバーズ・レイリー。」


 インナーの服やズボン、ブーツは体が縮むと脱げてしまうので着ておらず、元のサイズの着流しに大人サイズの草鞋を履いていた。

 そのため、大人に戻ると体にピッタリ合うススキ柄の薄灰色着流しと草鞋をいつものように着崩す事無く着ているので、その出で立ちは見る人が見れば生前の剣豪リューマそのものと見間違うほどである。


「えええぇぇぇぇぇ!!!?シルバー・レイリーぃぃぃぃいい!!?」


 ボニーは目の前の老人の正体を知って目が飛び出でるほどに驚いていた。

 偉大なる航路(グランドライン)の完全制覇を成し遂げた“海賊王”ゴール・D・ロジャーの船で副船長を務めた男、“冥王”シルバーズ・レイリーであり、この海で生きる者であれば一度は聞く名前である。


「ワッハッハッハ!お互い自己紹介は必要ないようだな海軍の若きエース“黒麒麟”ゴジ中将。」


 ゴジの目の前で高笑いしている男こそ生きる“伝説”。

 
「私はここの店主のシャクヤク。皆からはシャッキーって呼ばれてるわ。初めましてゴジ中将と可愛い海兵さん。ゴジ中将、サインをお願いしていいかしら?店に飾りたいのよ。」

 
 ゴジはシャッキーが差し出した色紙に名前を書いてから、色紙を返した。


「元海賊の人魚のお姉さん、色紙どうぞ!」

「あら…私が足を洗ったのはずいぶん前なのに分かるの?それに私が人魚って話したかしら?」


 シャッキーはゴジに正体がバレたことで色紙を受け取ると同時に身構える。

 ゴジは色紙を返す際にシャッキーの身体構造を観察して美脚だと思っていた足が実は二股に分かれた尾ヒレだと見抜いた。

 女性の人魚は30歳になると尾ヒレが二つに分かれ、地上での生活が可能となる神秘の生き物である。


「貴女は人と違って少し重心の位置がおかしいから二股に別れた尾だと推察した。それに細くとも鍛えられた濃密な筋肉量、覇気ただのBARのマスターではないから鎌を掛けただけだよ。」


 さらに足運びや重心の位置から推察する彼女の強さに驚き、ゴジの見立てでは仲間では一番強いステューシーやヒナでもシャッキーには勝てないほどである。

 ゴジはシャッキーが海賊とは知らなかったが、シャッキーの億超海賊と比較しても渡り合える身体能力とレイリーと一緒に居ることから推察してカマを掛けた。
 

「なるほど。一目でそこまで見抜くなんて可愛い顔して食えない人ね…。」

「でも、何よりもシャッキーさんは美し.......」

 
 シャッキーはタバコを口に咥えたままゴジに微笑む。営業スマイルというやつであるも、ゴジはそれに食い付いて彼女の手を握ろうと手を伸ばすが、隣から発せられる覇王色の覇気に気付いて手を止める。


「あれだけ多くの美女を侍らせておいて、人の女にも手を出そうとするとは噂に違わぬ“女好き”のようだな?」

「へぇー。二人はそういう関係でしゅか……ん?……ぼにーなにちゅんだ!?さっきよりもちびになってりゅ?」
 

 ゴジはレイリーをからかっている途中に突然舌が回らなくなり、舌っ足らずになる自分に気付いて状況を悟り、ボニーを睨む。

 5歳児のゴジは舌っ足らずにならなかったので、さらに幼くなったことにも気付いてきた。


「うっせぇ!女とみりゃ誰彼構わずに口説きやがって。ガキになってじっとしてろ!」


 ボニーは3歳位に縮んだゴジを小脇に抱えた。

 ゴジがレイリーの覇気に気を取られている間にボニーはゴジに触れたのだ。


「おや?“黒麒麟”も人の事言えんだろう?彼女はいいお嫁さんになりそうだ。」

「ほんとね!初々しいわ」


 レイリーはニヤニヤしながらボニーとゴジを見てからかう。


「てめぇら勘違いすんなよ!あたしらはそんなんじゃねぇよ!!」

「れいりー、ぼにーをからかうな。しゅなおなんだ。」


 顔を真っ赤にして店内で怒鳴り散らすボニーを見上げながら、小脇に抱えられたゴジはレイリーを睨み手を上げて制するが、舌っ足らずなゴジにさ行は難しすぎる。


「“黒麒麟”ともあろう者が私を捕えないのかね?」
 
「おれは、あちをあらったかいじょくにきょうみない。」


 レイリーは海賊家業は一切せずにこの島でコーティング職人として働いているので、ゴジは名声のみを求めてレイリーを捕らえる気はサラサラない。


「ワッハッハッハ!実は私も大した用はないんだ。わざわざ覇王色の覇気を使って天竜人を気絶させた奇特な海兵と話をしたかっただけさ。」


 レイリーはゴジの回答に満足したようで大きく口を開けて笑っている。


「まぁ、覇王色の覇気使いならゴジがやった事に当然気づくよな。」

「おれはあいつらきらいなんだ。おれがやったとせいふにばらしゅか?」


 ボニーが危機感を持ち、今度はゴジがレイリーに試すような視線を向けると、3歳児になっても変わらないゴジの迫力に満足したように微笑む。


「いや、私も世界貴族は好きになれんのでな。君の覇気で倒れる世界貴族を見て笑いを堪えるのに必死だったよ。」
 

 レイリーが楽しそうに話しているのを見ながら、シャッキーがミルクとエールをレイリーの横の席に置いた。


「おっ!?おばさん気が利くな!」


 ボニーが嬉しそうに席に座るとすぐにエール片手に飲み始めるので、ボニーの膝の上に座らされたゴジは目の前のミルクを睨んだ。

 シャッキーはおばさんを超えてお婆さんと呼ばれる年齢なので、ボニーにおばさんと呼ばれた事についても微笑んだままである。


「みるくはおれのかよ....。」


 3歳児となったゴジに酒は出せないかもしれないが、ミルクとはあからさま過ぎると思いながらもミルクの入ったコップを両手で持って美味しそうにごくごくと飲み始めた。


「「ぷはぁぁぁぁ.......うまい!」」

「うふふ.......2人ともお代わりあるから言ってね!」
 
「おばさん!飯も頼んでいいのか!?」


 ボニーは目を輝かせてシャッキーを見つめると、シャッキーは笑顔で首を縦に振る。


「もちろんよ!ゴジ中将にサイン貰ったから、今日は特別にタダでいいわ♪」

「おっしゃ♪ならメニューの上から下まで全部くれ!」

「えっ!?全部?」

「うんうん♪全部だ!おばさん早くしろよ♪」

「こりゃ赤字どころじゃないわ.......はい。ゴジ中将にはミルクのお代わりよ。」


 シャッキーは気に入らない客からは有り金全て持っていくほどぼったくるが、逆に気に入った客からは金を取らない。

 大赤字確定のボニーの笑顔を見て失言だったと後悔しながら、諦めて料理を作り始めた。

 ゴジはお代わりのミルクの入ったコップを両手で持つとボニーの膝の上から降りてレイリーの元へいき、レイリーのスボンの裾を引っ張る。


「ん?かかえればいいのか?」

「いしゅだとつくえがたかしゅぎるんだ。れいりーのひじゃかちてくれよ。」


 レイリーは苦笑しながらも椅子では机が高すぎると文句を言う70cm程の身長しかないゴジを抱えて自分の膝に置いた。


「私よりもあのお嬢さんの膝の方がいいと思うが?」

「みてればわかる。」

「お代わり!!」


 レイリーは料理を物凄い勢いで平らげて満面の笑顔でお代わりを催促するボニーの周りの様子を見て、ゴジが逃げてきた理由を悟る。

 ボニーの食べ方は汚すぎるので、彼女の周りにはソースや食べカスが散らかっており、彼女の上にゴジがいれば頭の上は食べカスやソースでベトベトだっただろう。


「私の元へ避難してきた理由はよく分かった。“黒麒麟”、あのお嬢さんの腹が満足するまで老いぼれの昔話に付き合ってくれるか?退屈はさせんさ。話すのは私達が冒険の果てに知ったこの世界の真の歴史についてだ。」

「せいふのにんげんであるおれに、はなちゅのか?」

「世界貴族を“悪”と思う君だからこそ知っていて欲しい。この真実を知った私達は口を噤んだ。世界が知るにはまだ早いと思ったからだ。ぜひ君の見解も聞いてみたいのだ。」
 
「わかった。きこう。」

 レイリーは偉大なる航路(グランドライン)最果ての地ラフテルで知った世界の真の歴史をゴジに語っていく。


 ◇


 数時間後、ゴジはミルクを飲みながらレイリーの話を聞いていると聞き終わるとほぼ同時に、とうとうボニーの腹が満たされた。


「ごちそうさま!!」

「はぁ.......はぁ.......お粗末さま.......。ほんと疲れたわ。ふぅ〜。」

 
 数時間ずっと料理を作り続けていたシャッキーは息を切らせながら、カウンターで一服している。


「ぼにーのはらがいっぱいになったから、そろそろかえるよ。しゃっきーしゃん、みるくありがとう。」
 
「私も君と話せてよかった。さて、真の歴史を知った君はこれからどうする?」


 レイリーの問いにゴジは笑って答える。


「おれにはやることがあるからな。れきちをちりたがってるぶかのひとりにつたえておわりだ。じょいぼーいとはあってみたかったな!それにしてもラフテル(笑い話)か。ぴったりのなまえだ。」


 ゴジはレイリーの話をロビンへの土産話程度にしか考えておらず、隠蔽されるべき真の歴史を後世に残した800年前の冒険家ジョイボーイと笑うという意味の“Laugh(ラフ)”と物語を意味する“Tale(テル)”を合わせてラフテルとと名付けたロジャーに思いを馳せた。

 
「ワッハッハッハ!!そうか。そうだな。」

「どうした?」

「いや、なんでもない。くくっ……!!」


 レイリーは真実を知ったゴジの感想に笑いが堪えきれずに膝の上に抱えたゴジの頭を乱暴に撫でながら、ロジャーを思い出した。


「がきじゃねぇんだからあたまをなでるなよ!」
 
「ワッハッハッハ!!」


 世界の真の歴史を知ったゴジの感想がロジャーと全く同じものだったからだ。


『ジョイボーイと同じ時代に生まれたかった。』


 レイリーはロジャーが海軍へ出頭する前にまさにこの席で船長の最後の言葉を聞いていた。


『俺は死なねぇぜ!相棒!!』


 その数年後に映像電伝虫越しに処刑台に登ったロジャーの最期を看取り、誰もが知るあの言葉を聞いてた。


『俺の財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ。探してみろよ。この世のすべてをそこに置いてきた。』


 レイリーはこの言葉を聞いた時にロジャーが別れ際に自分に言った意味を理解した。

 ロジャーの存在は海賊たちの心の中に生き続け、その意思は新しい世代に引き継がれて大海賊時代の幕開けとなったのだ。


「私はロジャーの最期をここで看取った。あの日ほど笑った夜はない…!!あの日ほど泣いた夜も…酒を飲んだ夜もない……!!我が船長ながら見事な人生だった。」

「れいりー?」

 
 レイリーはひとしきり笑った後で悲しいような、友を誇るような色々な感情が混じった複雑な表情をしながら、一度言葉を区切ってゴジの顔を見る。


「ロジャーは残り数秒僅かに灯った火を世界に広がる業火に変えた。次の世代の中心にいるのは間違いなく君だから私はその業火を次の世代である君に託した。」


 レイリーはゴジに真の歴史を告げることで、次世代の中心に立つゴジの中にもロジャーを生き続けさせようと考えたのかもしれない。


「あぁ。れいりーとかいじょくおうのおもいはちっかりうけついだよ!ぼにー!しょろしょろかえるぞ?」


 ゴジはレイリーの膝から飛び降りてボニーの元へ行くと、彼女はゴジの身体にタッチする。


「ほいタッチ。うっぷ.......ゴジ、あたしは動けねぇから連れて帰ってくれ。」

 
 ボニーはお腹いっぱいで動けないので、長い足を伸ばすことでゴジに触れて能力を解除した。

 元の姿に戻ったゴジはボニーを背負うと、店主であるシャーリーに頭を下げる。


「全くどこまでも自分勝手な奴だ。シャーリーさん、ほんとに奢ってもらっていいのかい?」

「あら?ようやく男前のゴジ中将に戻ったわね。いいのよ。また適当な奴からぼったくるから気にしないで。」


 “ぼったりBAR”の店名は伊達ではない。

 恐らくゴジ達が帰った後にボニーの食べた赤字分を取り戻す為に来店する客はケツの毛まで毟り取られるに違いない。


「くくっ。商魂逞しいね。レイリー、俺はこの時代を終わらせて誰もが安心して暮らせる海を作るぜ!」

「ゴジ、君はこの強固な海を支配できるか?」

「支配なんかしねぇよ。俺はただ守るだけさ。海賊にとっての宝がひとつなぎの大秘宝(ワンピース)なら俺にとっての宝はこの世界に住む人達の笑顔だ。たとえ真の歴史を知ってもそれだけは変わらない。いや、変えちゃいけない。俺はこの海を守り続けるさ。絶対的正義の名のもとにな!」


 笑顔で決意を語るゴジは海軍コートは着ていないが、レイリーとシャーリーには確かに彼の背に背負う正義の二文字が見えて目を見開く。
 

「そうか。」

「やっぱり私、ゴジちゃんのファンだわ♪」


 レイリーとシャッキーは何を知っても己を曲げることなく、人々を守ると語った“黒麒麟”はその名に恥じぬ人徳と実力の持ち主だと納得して笑顔になった。
 

「シャッキーさんご馳走様。レイリー、為になる話をありがとう。」

「達者でな!」

「また来てね♪ 歓迎するわ!」


 レイリーとシャッキーは笑顔でゴジに手を振るので、ゴジも手を振り返しながら店を出る。


「じゃ、また来るよ♪」

 
 ゴジは店を出て、まっすぐに自分の船に戻ると元奴隷の女性達はなく、既にステューシー達に引き渡されて出港していた。


 ◇


 ゴジがいない間は階級上位者である海軍本部大佐のコアラが部隊指揮を執っていた。


「ゴジ君どこ行ってたの?既にステューシー達はここに着いたからあの娘達を連れて故郷まで送り届ける為に出港したわよ。」

「たまたま出会った爺さんの話を聞いてたら長引いたんだ。ボニーは飯屋で腹いっぱいで眠ってるだけだよ。コアラ、彼女達は大丈夫そうだったかい?」


 本当はボニーの腹が膨れるまで待っていたが、ゴジがレイリーの話を急かして話が長引いたことも原因の一つである。

 ゴジは酷く脅えた顔をしていた奴隷から解放された二人の状態をコアラに尋ねた。


「えぇ。色々話してくれたわ。あの娘達なら故郷に帰っても立派にやっていけるわ!」


 生きる気力を取り戻した彼女達なら大丈夫だとコアラは太鼓判を押す。
 

「皆、ご苦労さま。ステューシー達には後でお礼を言っておくよ…俺たちは急いで魚人島へ向けて出港だ!」

「「「はっ!」」」


 こうしてシャボンディ諸島での騒動を経てゴジ達はようやく魚人島へ向けて出発した。 
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