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Fate/WizarDragonknight

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刀使VS鬼殺隊

「それじゃあ、改めてルール確認」

 美炎は、向かい合う二人に告げた。
 可奈美と煉獄。
 可奈美の実力は、美炎も良く知っている。これまでも何度も戦い、美炎が一度も勝つことが出来なかった最強のライバル。生粋の剣術マニアで、剣を交えるたびに強くなっていくと美炎も実感する。
 一方の煉獄。
 鬼と呼ばれる人喰いの怪物が闊歩する世界で、人々を守るために戦う鬼殺隊と呼ばれる戦士らしい。その中でも、特に上位の能力を持つ柱、その一角である炎柱という身分らしい。
 場所は、見滝原公園の奥。あまり人がよりつかない芝生であり、可奈美によればこの近辺を寝床にしている参加者もいるらしい。今は留守だが。
 ちなみに、真司と友奈もそれぞれ用事があるとのことで、結局この場には美炎と可奈美、煉獄の三人だけだった。

「可奈美は写シの解除、煉獄さんは剣が手から離れたら……で、いいの?」

 美炎は改めて確認する。
 煉獄は「うむ!」と頷き。

「それで構わん! 君たち刀使は、その写シとやらで、体への破損を肩代わりできるのだろう!」
「そうだけど……だけど、煉獄さんは生身でしょ?」
「気にするな!」

 煉獄ははっきりと言い切った。

「衛藤少女が、この日輪刀を俺の手から離せば、それで衛藤少女の勝ちだ!」
「大丈夫だよ! 美炎ちゃん!」

 心配する美炎を、可奈美が呼び止めた。

「まだ一回だけしか、煉獄さんの技を見てないけど……煉獄さんは強いよ」
「そこまで買ってくれるとは、光栄だ!」

 煉獄は目を大きく見開いた。
 彼のその眼差しは、見るだけでも眩しささえも感じてしまう。

「煉獄さんがいいなら……それじゃあ……二人とも行くよ!」

 美炎の号令に、可奈美と煉獄はそれぞれ見合う。
 美炎は、刀使の試合、その審判と同じように、号令をかける。

「両者 構え」

 美炎の声に、可奈美と煉獄は、それぞれの剣を構えた。

「写シ」

 可奈美の体を、千鳥が霊体にした。
 同時に、煉獄の目の光が増す。
 そして。

「じゃあ行くよ! 両者……始め!」

 美炎が手を振り下ろす。
 それが、合図。
 可奈美と煉獄は、それぞれ地を蹴り、互いへ迫っていった。



「速い!」

 煉獄の動きは、写シのような異能の力ではない。自らの生身の身体能力だけで可奈美の迅位(スピード)に追いついている。

「炎の呼吸 (いち)ノ型 不知火(しらぬい)!」

 猛烈なスピードの煉獄。彼は、一気に可奈美に肉薄し、横へ袈裟斬りを放つ。
 炎を放つその技。可奈美は、その中心に千鳥を差し向け、受け止めた。

「っ! この剣……重い……その上、熱い!」

 千鳥を伝って可奈美の手に伝わって来る振動。

「でも……私も、負けないよ!」

 可奈美は、中心へ千鳥を斬り込み、炎を断ち切る。
 飛び散る火花の中、可奈美はさらに踏み込んだ。
 だが、煉獄は開いた目を動かすことなく切り結んだ。

「……っ!」

 可奈美は、息を吸い込む。
 肺を焼き焦がすような熱さが可奈美を襲うが、それよりも興奮が勝っていた。

「やっぱりすごい……! もっと……もっと見せて! 煉獄さんの剣術!」
「よかろう! ならば俺の剣、どこまで受けられるか試してみようか!」

 刀身に炎を走らせたまま、煉獄の剣は続く。
 これまで可奈美が受けてきた、如何なる剣。それよりも強く、真っ直ぐな剣筋。
 それを受けながらも、可奈美もまた剣を打ち込む。

「せいやっ!」

 見つけた隙に、可奈美の両断。だが、全て正確に見切った煉獄には通じない。
 可奈美の横薙ぎを避けた煉獄は、またしても炎を纏う。

「次の技が……来る!」
「炎の呼吸 ()ノ型」

 煉獄の日輪刀、その剣先が煉獄の背後まで振り抜かれる。
 そのまま、彼の剣が孤を描くように昇っていく。

(のぼ)炎天(えんてん)!」
「っ!」

 可奈美は、千鳥でそれをガード。だが、千鳥を貫通してきた炎の斬撃が、可奈美を襲う。

「うわっ!」

 可奈美が悲鳴を上げている間にも、煉獄は移動している。
 すでに可奈美の頭上に移動していた煉獄。

「炎の呼吸 (さん)ノ型」
「もう次っ!?」

 次の煉獄の技。剣筋によれば、今しがた放った技とは真逆に、上から下へ斬り降ろすものらしい。
 可奈美は、空中で千鳥を構えなおす。その体を纏う白い写シに、赤みが増していく。

迅位斬(じんいざん)!」
気炎万象(きえんばんしょう)!」

 孤を上から下へ描く日輪刀が、神速のスピードを持つ千鳥と激突する。
 赤を赤が塗りつぶし、さらにそれを赤が上書きしていく。
 空気を震わす衝撃とともに、二人は同時に地面に落ちた。

「互角……!」
「よもやよもやだ。衛藤少女!」

 煉獄は起き上がり、再び日輪刀を構える。

「その年でここまで食い下がるとは。中々の力だ!」
「ありがとう! でも、私もまだまだ煉獄さんの力、見せてもらってないよ!」

 次は、蜻蛉の構え。
 腰を落とした可奈美へ、煉獄が撃ち込む。
 剣の音が、可奈美の心を震わせていく。

「そこっ!」

 ある程度剣を受けたところに光明を見出した。可奈美は足を払い、煉獄をジャンプさせる。

「でりゃあああああああああっ!」

 振り抜くと同時に、簡易的に放たれる太阿之剣。
 赤く放たれた斬撃は、空中で身動きが取れない煉獄へ真っすぐ進んでいく。
 だが。

「炎の呼吸 ()ノ型」

 煉獄は空中であるにも関わらず、体を回転させる。
 日輪刀から炎を迸らせ、それはあたかも繭のように煉獄を包んでいった。

盛炎(せいえん)のうねり!」

 煉獄が作り上げた炎の壁は、やがて攻撃に転じる。
 可奈美へ放たれた炎の壁。
 だが、可奈美はそれを見て、こう断じた。

「私も……やってみる!」

 深紅に染まった写シ。それを回転させ、赤い壁を作り上げた。

「行くよ……私版! 盛炎(せいえん)のうねり!」

 炎と赤は、互いに激突して消滅。
 可奈美と煉獄は、そのまま着地した。

「うむ! なかなかの模倣だった! まあ、いろいろと足りない部分はあるが!」
「へへ! それじゃあ、行くよ……!」

 可奈美と煉獄は、どんどん速度を増していく。
 やがてそれは、同じ刀使である美炎でさえも見切れないほどになっていく。

「すごい……! 煉獄さん、本当に……! 受けていたい……! もっと……いつまでも戦っていたい!」
「ならば、君も全力を出したまえ!」

 煉獄は鍔迫り合いになりながらも、ぐいっと可奈美に顔を近づける。

「全力? 私はいつだって全力の剣術だよ?」
「そんなごまかしは私には通用しないぞ! 君の実力は、すでに測れている! これ程度ではないことも!」
「じゃあ……」

 可奈美の笑顔は、やがて食いしばり顔に。

「ホントのホントに本気だよ!」

 可奈美の体が深紅に燃え上がる。
 迅位のより高みへ。
 一方、煉獄もまた笑みを浮かべる。
 可奈美の動きを察知したのか、彼もまた技を繰り出す。

「炎の呼吸 ()ノ型」

 煉獄の技。
 彼の体を包む炎の量が、それまでと比にならない。
 大技が来る。
 笑みを浮かべた可奈美は、「行くよ!」と意気込んだ。
 赤く染まっていく体とともに、千鳥の刀身が赤い光とともに長く伸びる。
 そして。

太阿之剣(たいあのつるぎ)!」
炎虎(えんこ)!」

 可奈美が放つ、赤い斬撃。多くの敵を薙ぎ払い、聖杯戦争でも可奈美とともに戦ってきた技。
 それに対し、煉獄の技は大きい。
 炎は渦を巻き、形となり、まさに技名の通り虎になる。
 虎は吠え、そのまま可奈美を飲み込むように食らいついていく。

「だあああああああああああっ!」

 可奈美の全身を焼き尽くす炎を受けながらも、千鳥の斬撃が炎虎を切り裂いていく。
 爆発と同時に、虎は掻き消されていく。
 そして、それぞれが平常スピードの世界に戻っていく。
 可奈美と煉獄。
 二人はそれぞれ、互いに背中を見せたまま剣技を撃った姿で静止している。
 美炎が固唾をのんで見守る中。

「うむ……強いな。衛藤少女。とにかく、勝敗を決めることより、俺の剣とぶつかりたいという想いが伝わってきた」
「やっぱり、煉獄さんも剣での対話、できるんだね!」
「あまり得意ではない。だが、できないわけではない。俺も柱の仲間たちと、よく剣の鍛錬を積んでいたものだ」
「煉獄さんも……鍛錬を」
「衛藤少女。君の実力は、俺と共に戦ってきた柱にも引けを取らない。それは俺が保証しよう!」
「それじゃあ……!」
「何より……俺も……楽しかった!」

 「だが!」と、煉獄は付け加える。

「どうやら、今回はこれで終わりのようだ」
「え? それってどういう……? うっ!」

 可奈美が口走るよりも先に、可奈美の全身に痛みが走る。
 炎の斬撃が、可奈美の体をあちこち走っていく。その度に、可奈美の体はどんどん写シが剝がれていった。

「う……そ……っ!?」

 可奈美の悲鳴。
 最後に、体に残ったほんの僅かな写シが切り払われ。
 美濃関学院最強、千鳥の刀使は。
 その場に崩れ落ちた。



「……」

 仰向けになると、目に入る青空。
雲。
 春先の空気が、可奈美の鼻腔をくすぐる。
 今回は、公園の芝生の上なのも相まって、草の匂いが溢れていた。

「可奈美が……負けた……!?」

 審判である美炎の言葉に、その事実がようやく可奈美に実感されていった。
 思わず、千鳥を持った手が芝生を握る。

「うむ! いい勝負だったぞ! 衛藤少女!」

 視界に入り、しゃがんで顔を覗き込む煉獄。
 立っている煉獄と、倒れている自分。
 その対比が、改めて可奈美にのしかかる。
 可奈美は、煉獄の顔と青空を両方目に入れながら、静かに瞼の上に腕を重ねた。

「……うん。いい勝負だった。すっごい楽しかった……!」
「そうか!」
「あの剣術! ……始めて見た……。何より、私……圧倒されてた……!」
「うむ! なかなかの腕前だったぞ! まさか、刀使というものはここまでの強さだったとは! ぜひとも鬼殺隊にも勧誘したいものだ!」
「うん。……考えておく」

 自分の腕で隠れた視界。
 それだけで、可奈美にはもう何も見えなくなっていた。

「うむ! そろそろらびっとはうす(・・・・・・・)に戻ろうか!」
「ごめん、煉獄さん。ちょっと、このまま放っておいてもらってもいい?」

 可奈美の言葉に、煉獄は立ち上がる。その気配の後、可奈美には沈黙が訪れた。
 太陽の微かな光だけが差し込んでくる瞼の底。

「何だろう……楽しかった……すっごく楽しかったのに、とっても……。悔しいなあ……負けちゃったの……すっごい久しぶりかも……」

 その声は、後になればなるほど震えていった。 
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