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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第百七話

 ゴジの指示でチェルロス聖の奴隷妻だった二人を保護したイスカ達だが、心に深い傷を負う彼女達の扱いに手を焼いていた。


「いやぁぁぁー!?」

「やめてぇぇぇ!?」

「大丈夫よ!私達がいるから危険はないわ!」


 彼女達は自由になったのに常にビクビクと怯えて小さな物音一つにも悲鳴をあげて二人で抱き合う始末で、何とか船まで連れてくる事が出来たももの船室に入るや否や二人で部屋の隅へ移動して体を抱き合いながら咽び泣き始めてしまう。


「「う”う”ぅぅ.......」」


 彼女達は奴隷から解放されたことは理解し始めているが、世界貴族への恐怖が消えることなく怯えている。


「私達にしてあげれることはないのかしら?」

「アーロンに支配されてたココヤシ村の人でもあそこまで怯えている人はいなかったわ……一体どんな酷いことされたら、あそこまで深い心の傷を負うのかしら……」


 イスカとナミの二人は彼女達がひどく怯えていることは分かるが、彼女達に何をしてあげればいいのか途方に暮れていた。


「私が彼女達と話してくるわ。」

「コアラ?」

「イスカさん、ここは私に任せてほしいの。あの人達の気持ちが理解出来るのは私しかいないから。」

「「えっ!?」」


 イスカとナミは悲しい笑みを残して船室に入っていくコアラを見送ることしか出来なかった。

 コアラが部屋に入るとそれだけで彼女達はビクッと体を震わせて入ってきたのが男ではなく、コアラ()だと分かると胸を撫で下ろした後、侮蔑を含んだ目でコアラを睨んだ。


「海兵さん?私達を故郷まで送ってくれるのは感謝しているけど、ごめんなさい。2人にして…お願い……。」

「美しいままの貴女達に私達の気持ちが分かるはずないもの……。」


 彼女達は故郷に送ってくれるというジェガートの海兵達に感謝すれども、チャルロス聖のオモチャ()にされ、体と心を穢されたのに美しい彼女達に嫉妬すらしていた。


「貴女達に見て欲しいモノがあるの…。」


 コアラはおずおずと上の服を脱ぎ出す。


「「っ…?」」
 

 彼女達は自分達を保護した海兵の一人が部屋に入って来て早々服を脱ぎ出したのことに理解が追い付かないが、コアラは上に着ている服を脱ぐと彼女達に背を向ける。


「これが何か分かる?」

「太陽?」

「でも、それって何処か天竜人の紋章に似てる気が……」


 彼女達はコアラの背に刻まれたタイヨウのシンボルを見て、自分達の背に刻まれた人間以下の烙印、天翔る竜の蹄と似ていることに気付いて目を丸くする。


「これはね。かつて赤い土の大陸(レッドライン)を素手でよじ登り、多くの奴隷を解放した冒険家フィッシャー・タイガーが奴隷だった魚人達と結成したタイヨウの海賊団のシンボルなのよ。フィッシャー・タイガーは仲間等の背に刻まれた天竜人の焼印の上からこの太陽の紋章を刻むことで、呪いを打ち消すようにタイヨウのシンボルに変えて上書きしてくれた。」

「えっ.......それじゃ貴女はもしかして……」


 コアラの話を聞いて、天竜人の紋章を上書きしたタイヨウのシンボルを持つコアラは自分達と同じ境遇だと彼女達は全てを理解して唖然とする。


「そう。私は貴女達と同じ奴隷だった。私は6歳の時に人攫いに攫われて世界貴族の奴隷になった。」


 コアラの告白を聞いて彼女達の目から涙が溢れてくる。
 
 コアラは6歳で人攫いに捕まって世界貴族の奴隷となった。奴隷となってからは世界貴族に殴られて泣き喚く度に、彼等はそれを面白がって彼女が気を失うまで激しく殴られ続けた過去を持つ。
 

「私はね──。」
 

 8歳でフィッシャー・タイガーのマリージョアの折に逃げ出したが、故郷に帰ることが出来ずに途方に暮れていたが、11歳の時にフィッシャー・タイガーと偶然に出会い、彼の好意で故郷まで送って貰うために船に乗せてもらったこと。

 故郷に帰るまで共に航海していたフィッシャー・タイガーやタイガー率いるタイヨウの海賊団の面々の力により、奴隷から人間に戻る事が出来たこと。

 コアラは服を着直しながら、時間をかけて辛い奴隷時代の思い出ではなく、奴隷だった自分を人間に戻してくれた自分の“大切な友達”の思い出を彼女達に話した。

 それはいつも陽気に自分を励まして遊んでくれた蛸の魚人、親分肌の義理人情に厚いジンベイザメの魚人、ぶっきらぼうだが海に落ちそうな自分を助けてくれたこともあるノコギリザメの魚人、何よりもマリージョアから自分を救って故郷まで送ってれたフィッシャー・タイガーとの思い出話である。


「魚人って怖い人だと思ってたわ…。」

「でも、肌の色が違って海で呼吸出来るだけで、話を聞く限り人間と変わらないのね?」


 コアラは彼女達が魚人という種族が怖いものではないと理解してくれたのが嬉しくて彼女達をしっかりと抱き締める。


「私は任務中だから貴女達に同行出来ないけど、貴女達は私の仲間が必ず故郷まで連れて帰るから貴女達は故郷でしっかり生きるのよ。いずれ私の友達を紹介する時までちゃんと待ってないと許さないからね。」

「「は…はい…うぅぅ……。」」
 

 上辺だけの言葉では彼女達には響かない。かつて自分達と同じ奴隷だったコアラの言葉だからこそ彼女達の心にも響いた。

 彼女達はこの世に残したたった一つの未練である両親に会うことが出来たら、辛い過去を忘れる為にこの世を去る覚悟を決めていた。


「たった8歳の子が前を向けたんだから、貴女達なら絶対大丈夫よ♪」
 
「「はい!」」


 しかし、自分と同じ境遇の当時8歳の少女が立ち上がって前を向き、現在は立派な海兵となっているのを知って、彼女との約束を果たすまでは何がなんでも生き抜く事を誓った。

 コアラは元奴隷だからこそ、彼女達の死の決意に気付いた上で生き抜くことを約束させた。


 ◇


 5歳児の姿となったゴジはイスカ達から離れてボニーの背に揺られながら街中に繰り出す。

 チャルロス聖が倒れたことで少し騒ぎにはなっているが、街の雰囲気が徐々に元に戻っていくのを見ながら歩いていると、突如背中から全身が総毛立つような圧倒的な威圧感を感じてボニーと共に後ろを振り向いた。

 
「っ…!?」

「ゴジ!?これはやばいぜ.......」

 
 それは商店街の裏道から発せられており、ゴジは目を見開いて、周りを見渡すと変わりなく日常を過ごす市民達がおり、自分とボニーにのみ向けられた覇王色の覇気(・・・・・・)の精度に驚愕する。


「ボニー、周りを見ろ。覇気を向けられているのは俺たちだけのようだ。覇王色の覇気を完全にコントロールしてる証拠だ。」

「ほんとだ。やっぱり敵なのか?」

「いや、どうやら俺達を呼んでるみたいだからボニー行ってみようぜ。」


 威圧する為に発する覇王色の覇気で『こちらに来い』と呼んでいるような威圧感よりも圧倒的な存在感を感じるまさに覇王が放つ堂々たる覇気なのだ。


「言われてみれば確かにそんな気がするな。ゴジの覇王色の覇気より怖くない。覇王色なんて持ってるやつがゴジの他にもこの島にいるのか?」


 ボニーは覇王色の覇気使いといえばゴジしか知らないので訝しむが、ゴジにはこの覇気使いに一人だけ心当たりがあった。

 ゴジはチャルロス聖を気絶させたように覇王色の覇気を一人に絞って放つ程にコントロールできるが、このように人を呼び寄せるような使い方は出来ないので驚嘆していた。


「なるほど“伝説”の男がこの島にいるって噂は本当のようだ。」


 この島には海軍本部から逃げ続けているある海賊団で副船長を務めていた海賊がいる。

 既に海賊は引退しているが、その首に賭けられた高額の懸賞金は消えることはない。


「伝説?」

「会ってみれば分かるよ。ほら、あっちだ!」


 ゴジはボニーの肩に揺られながら自分を呼ぶ男に会う為にゆっくりとその男の元に歩いて行くが、中々距離が縮まらないので、その男もゴジの歩幅に合わせて移動しているようである。
 

「やはり案内してるのか?本当に器用な奴だ…。」

「変な感じだな。声も聞こえねぇのに付いて来いって言葉が頭に響いてくるみたいだ。」
 

 覇王色の覇気を持つその男に導かれるように歩を進めたボニーは13番区画にある一件の『シャッキー'S ぼったくりBAR』という巨大な看板を掲げるこじんまりとした飲み屋に辿り着いた。


「ここだな。」

「入るのかゴジ?罠とかじゃないよな?」

「中にいるのは二人。罠ならもっと人数を揃える。さぁ、“伝説”の男に会いに行こうぜ。」


 ゴジは見聞色の覇気で店内にいる人数を把握してボニーに伝えると、緊張していたボニーはほっとする。


「おぅ!で、結局中いるのは誰なんだよ。ゴジは誰か知ってんだろう?」

「ヒントをやろうか?ある有名海賊団で副船長を勤めていた男さ。」

「ちっ……海賊団なんて腐るほどあるから分かるわけねぇだろう。まぁ入れば分かるか。」


 ボニーはこれから会う男の正体を話すことなく、勿体ぶるゴジにイライラしながらも入口の扉に手を掛けた。 
 

 
後書き
次回更新は20日の12時となります。

次回は皆さん想像どおりのあの男とゴジとの邂逅です。 
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