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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第百六話

 ボニーが逃げ去っていくチャルロス聖と黒服達の背中を見ながら、ゴジに疑問をぶつける。


「でもよ。あのクズ野郎は世界会議(レヴェリー)中になんでこの島にいたんだ?」


 ゴジはボニーの問いにさらりと答える。


「大方、ヒューマンショップで新しい商品奴隷を探しに来たんだろう。」
 

 世界貴族達は世界会議(レヴェリー)を傍聴することが出来るので、病原菌の噂がなくともこの時期はあまり下界に降りて来ないが、チャルロス聖はヒューマンショップに新しい商品を見に来たついでに、市井を練り歩いて新しい奴隷妻を物色していたのだ。


「ヒューマンショップってまさか、人を売っている店なの?」


 ナミが嫌悪感を隠そうとせずにゴジに聞く。


「そうだ。人攫いと呼ばれる闇の仕事人達が攫ってきた人間を奴隷として売っている店だ。シャボンディ諸島以外にも世界各国にある。」

「なんで海軍はそんな組織を取り締まらないの?」

「それは.......」


 ナミが怒ったようにゴジに食ってかかると、ゴジは悔しそうに俯いて言い淀む。

 ゴジの性格上、こういう組織や店を野放しにするとは思えないのに何故野放しにしているのかと疑問に思っている。


「ナミちゃん、それはヒューマンショップが世界貴族御用達だからよ。」


 世界貴族御用達とは世界貴族お墨付きの店であり、この御用達の印があれば税金はかかること無く、海軍の取締りの対象となることもない。


「えっ…!?」


 ナミの問いにイスカが悔しそうに答えると、それに合わせてコアラがゴジを擁護する。


「ゴジ君も指をくわえて見てるわけじゃないのよ。ヒューマンショップは取り締まれないけど、人攫いは取り締まる事が出来るから、これまでにも数多くの人攫い組織を壊滅させているわ。」

「ごめんなさい。あたし.......」


 ナミがゴジに失礼な事を言ったことに気づいてゴジに謝ろうとすると、ゴジはナミの頭に軽く手を乗せて言葉を遮る。


「いや、ナミちゃんの言う通り、根本的な解決になってない事は分かってるんだ。俺達海軍は世界貴族が主導する世界政府に属する組織だ。“黒麒麟”だなんだ言われても基本的にあの世界貴族(クズ共)の“狗”なんだよ。どんな悪法でも世界貴族(クズ共)が白と言えば、黒も白くなるのさ。」
 

 自嘲気味に話すゴジの様子にボニーが不躾に思った事を口に出す。
 

「ゴジはそれを知って何で海兵を続けているんだ?」
 

 ボニーの疑問はゴジはと長らく同じ部隊にいるコアラですら知りえないことで、イスカやナミも同じ疑問を抱いていた。

 世界貴族を語るゴジは殺気を帯びており、世界貴族の有り様はゴジの世界の人達を守るという“絶対的正義“の対極にあるからだ。


「俺は世界貴族(クズ共)の懐にいるからこそ守れる命もあると思って戦ってるんだ。“絶対的正義”の名のもとにな───。これを知った君達がどうするかは自分で決めるといい。俺は君達の意思を尊重するよ。」


 ゴジは屋根の上から見える海を見ながら、世界中の誰よりも優しさの欠片も無い世界貴族に従うことで“正義”を背負いながら人々を守ることを誓った男の決意の中に憂いを帯びた寂しそうな笑顔を見せられて、誰も何も言えなかった。

 誰よりもゴジ自身が悩みながら戦っているのがよく分かったからである。


「そんな事よりも、早く彼女達を保護するぞ。駐屯地に案内して、故郷に送り返す手続きをする。」

 
 ゴジは本当なら先程のチャルロス聖をぶっ飛ばして他の奴隷を解放し、マリージョアに乗り込んで世界貴族を全て滅ぼしたいが、この大海賊時代において世界政府という組織があるからこそ、“悪”に対抗出来る海軍やサイファーポールが存在して世界中の人々が安心して生活出来ている。

 だから、自分を押し殺してチャルロス聖の残る奴隷妻や馬のような非人道的な扱いを受けている男性奴隷を見捨てた(・・・・)

 そしてゴジはこれからも見捨て続ける。

 ゴジはもはや子供では無い。全ての人を救いたくても救えない事は理解しているので、可能な限り多くの人を救うと決めているので、今は目の前にいる世界貴族の意思で奴隷から解放された2人を無事に保護しなくてはならない。


「「「は…はい!」」」


 ゴジが下に飛び降りて、チャルロス聖の奴隷から解放された2人の女性に近付いて行くので、また出遅れたイスカ達も慌てて後を追った。

 ちなみにチャルロス聖に見初められて連れて行かれそうになった2人の女性は騒ぎに乗じてすでに逃げ出していた。


「まずは海賊時代を終わらせることが先決。あれの対処はそれからだな。」


 ゴジは自分の立ち位置を理解している。海軍本部中将“黒麒麟”ゴジは世界中で海賊に苦しめられてる者や平和を願う者達にとっては希望の象徴であると同時に海賊にとっては畏怖の象徴である。現に王下七武海をも諸共しないゴジに捕まるのが怖いという理由で海賊から足を洗う者も少なくない。

 ゴジは海賊時代を終わらせる決意を新たにし、彼の呟きは風に掻き消えた。


 ◇


 ゴジ元の姿に戻ると群衆達を掻き分けて、奴隷から解放され、裸同然の格好させられている女性達の盾になるように立ちはだかる。


「「貴方は!?」」

「失礼!俺は海軍本部中将ゴジだ。彼女達の身柄は俺が預かる。皆は気にせずに元の生活に帰ってくれ。」


 この島の人達に限らず、誰も元世界貴族の所有物に近付きたくないので彼女達は見世物のように周りの注目を集めていたが、ゴジが姿を現したことで注目の的がゴジに変わる。


「“黒麒麟”!?」

「マリンフォードに帰ってきたって聞いてたけど、この島にきてたのね!?」

「“黒麒麟”だけじゃねぇ!?よくみたら“釘打ち”や“海拳”もいる。」

「彼等に任せておけばあの子達も大丈夫だ。」


 ゴジと共に変装を解いてゴジの後に続くイスカとコアラの姿を見た人々は一人、また一人と日常に戻っていく。


「すごい。ザワついていた街の人達を一言で黙らせた。」

「まったく。普段からそんな感じなら少しは見直すのにな。」

「なるほど……これがいつもコアラ達が見ている世界なのね。」


 ナミとボニーはたった一言で民衆を安心させた上で黙らせたゴジの存在感に改めて自分達を率いる男の偉大さを知り、第一部隊に所属するイスカはゴジと共に任務に出るのは初めてでゴジがいる事を知った途端に民衆達から向けられる畏敬の眼差しを受けてこそばゆくなる。


「「“麒麟児”さん…?」」


 好奇の目に晒されていた彼女達はゴジの名を聞き、彼の顔を見てすぐに彼の正体に気付いたが奴隷であった彼女達の時は人攫いに攫われた数年前で止まったままであり、アラバスタ王国を救い“黒麒麟”という二つ名に変わった事は知らない。

 ゴジは瞬時をそれを悟り、息を飲んで柔和な笑みを浮かべながらゆっくりと話し掛ける。


「はい。この“麒麟児”の名において貴女方を故郷に帰す事をお約束します。」


 ゴジは敢えて二つ名を訂正しなかった。そして、彼女達がこれまで味わってきた苦悩を想像も出来ずに涙が溢れそうになるのを堪えながら、笑顔を絶やさずに2人に手を伸ばす。


「ひぃぃ…こ…来ないで……!?」

「いや…ぶたないで…!?」


 彼女達はゴジ()を恐れて、泣きながら二人で抱き締め合い、ガタガタと震え出したのを見て、ゴジは心に深い傷トラウマを負った彼女達に無闇に近付いた自分を恥じた。

 チャルロス聖()に酷い仕打ちを受け続けていた彼女達がゴジ()を受け入れられるはずないと少し考えたら分かるが、それでも何処かで自分が頭を撫でてあげれば、多少彼女達も安心するのではと安易に考えていたのだ。


「ごめん…軽率だった。俺は何もしないから安心して欲しい。皆、彼女達を頼むよ。俺は婆さんに連絡してくる。」

「「はっ…!」」


 ゴジは頭を下げながら彼女達に怖がらせた事を謝罪し、自分を追ってきたコアラ達に彼女達を任せて目頭を押さえてその場から離れた。

 自分が見捨てると決めた世界貴族の元奴隷である彼女達のために、ゴジに出来るのは帰りの船の手配と彼女達に近付かない事だけであり、彼女達を見捨てた自分が彼女達の為に涙を流す資格なんてない。


「彼女達は見た目以上に深い傷を負っている。彼女達を頼む。俺はこの日ほどジェガートの海兵で良かったと思った事はないかもしれないな。」


 奴隷から解放された彼女達は靴を履いておらず、裸足で足の皮はめくれて血が出ており、踊り子のような薄着越しに見える肌には多くの青あざが見て取れた。

 男を恐れる彼女達にとってゴジですら恐怖の対象であり、男所帯の駐屯地に保護するわけにはいかないが、同性であるジェガートの女海兵達なら彼女達の心のケアを取りながら故郷に送り届けるまでの護衛も出来ると判断したゴジは部隊を手配する為に電伝虫を取り出して早速つるに連絡を取った。


『もしもし、婆さん。頼みがある。』

『何だい…ゴジ?あんた達はそろそろシャボンディ諸島に到着した頃だろう?早速問題を起こしたのかい?』
 

 マリンフォードとシャボンディ諸島は目と鼻の先にあるので、ゴジ達がマリンフォードを出てからまだ数時間しか経っていない
 

『あぁ…実は───。』 


 ゴジは先程の出来事を手短に伝えた。

 
『はぁ…分かったよ。ステューシー達をすぐに向かわせるよ。』


 世界会議(レヴェリー)の真っ最中で部隊の一つを警備から外すのは正直骨が折れるのだが、切羽詰まったゴジの様子から緊急事態だから仕方ないと派遣を決めた。


『助かるよ。婆さん…本当にありがとう…。』

『ゴジ。男が一度決めたことだろ? 俯いてる暇はない。しっかり前を向きな。あんたにはこれからやるべき事があるんだろう?』


 つるは世界貴族と出会い、彼らの奴隷を目の当たりにして“正義”に悩むゴジの心中を見抜いて叱咤激励した。


『あぁ…そうだな。婆さん、いつもありがとう!』


 ゴジは自分の頬をパンパンと両手で挟み込むように2回程叩いて気合いを入れ直してから電伝虫の受話器を置いた。


「ゴジ君!」

「コアラ、すぐにステューシー達が来るから、それまで彼女達を直ちにうちの船で保護してくれ。」

 
 ゴジの戻りが遅いことに心配したコアラがゴジの様子を見に来たので、コアラに気付いたゴジは指示を出した。


「え…ええ。分かったわ!ゴジ君はどうするの?」
 

 コアラいつもの様子のゴジに戻っている事にホッとしている。


「ステューシー達が彼女達の故郷まで送り届ける。全員船に戻り次第、ステューシーが来るまで船上で彼女達の護衛に当たれ!」

「分かったわ!」

「俺がいると彼女達の気が滅入るだろうから、少し散策してくよ。」

「なら、変装しないと目立つわよ。あそこの物陰からこっちを覗いているボニーを連れて行きなさい。こっちはイスカさんとあたしとナミちゃんで大丈夫よ。」
 

 ボニーはコアラの声を聞いてビクッとしてから物陰から姿を現して近付いてきた。


「し.......心配なんかしてねぇぞ。ゴジがそんな調子だと、こっちの調子が狂うだけだ。」


 ボニーはゴジを追い掛けて来たことがコアラにバレていた事が恥ずかしかったので、顔を赤らめてゴジから目線を逸らして頭を後ろを掻いている。


「ボニー、ありがとう。」

「ちっ.......さっさと行くぞ!」
 

 ボニーは照れ隠し混じりにゴジの背中をバシッと叩いて能力を発動して、5歳児の子供の姿に縮んだゴジを後ろから抱っこして持ち上げて肩に乗せる。


「ありがとう。コアラ、彼女達を任せたぞ。ステューシー達にもよろしく伝えてくれ!」

「えぇ。分かったわ。」


 ゴジはボニーの肩に揺られながら、ゆっくりとこの場を離れた。 
 

 
後書き
次回更新は18日12時です。

次回は奴隷から解放されても尚心に深い傷を負う彼女達に向けてコアラが自分の過去を語り聞かせる話です。 
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