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ジェルマ王国の末っ子は海軍大将

作者:蒼たん
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第二章 青年期
  第百五話

 チャルロス聖は跪いている人達の顔を見ながら35番区画のメインストリートを体格の良い男の奴隷の背に乗って馬のように両手と膝を突かせて歩かせながら、跪いている人達の顔をジロジロと覗きながら好みの女性2人を指差した。


「そこの黒髪の女とあそこの金髪の女を妻にするんだえ〜。あァ…1番と2番は飽きたから下々民(しもじみん)に戻すぞえ〜」

「はっ…!チャルロス聖様、それでは“第5夫人”、“第6夫人”としてお迎えする手続きを開始します。」
 

 チャルロス聖が手に持つ首輪の紐の内2本を護衛として付き従う別の黒服に手渡すと、彼が引き連れていた女性達の内2人が突然首輪の紐を引っ張られて足をもつれさせているので、彼女達が“第1夫人”と“第2夫人”であろう。

 彼女達は1年程前にサイファーポールを通じてヒューマンショップという人身売買を生業とする店で買い、チャルロス聖の妻となった女性達だった。


「貴様たち、邪魔だえ!?」

「「すっ.......すみません!!」」


 元第1夫人と元第2夫人は首輪を外されて妻という名の奴隷の身から解放されて自由の身になったにも関わらず、その目には生気がなかった。

 見知らぬ土地で身一つで捨てられた元世界貴族の奴隷であった彼女達がどうなるか等、チャルロス聖には興味すらない。

 世界貴族達は人を人とも思わないような「教育」により、世界中の全ての地域において殺傷行為や奴隷所有等の傍若無人の限りを尽くす極悪非道を当たり前のように行う外道である。

 彼等にとって「妻」と言えども、人間を家畜としてしか見ていないので、飽きたら捨てる可愛いペット程度の認識しかないのだ。


「ふふっ.......やはり定期的に下界に降りないといい拾い物はないぞえ〜。父上様も他の者もありもしない病原菌を警戒して下界に降りようとせん。わちしが大丈夫だと証明してやるぞえ!」


 チャルロス聖に見初められた女性達はこの世の終わりのような顔で泣くのを堪えている。

 世界貴族の妻になれるのは名誉なこととされているので、泣き悲しむなどあってはならないからである。


「「うぅぅ.......。」」

「そうか!そうか!わちしの妻になれるのが泣くほど嬉しいかえ〜!」


 チャルロス聖は黒服に連れていかれた元妻達には一切興味なく、自分の見初めた新しい妻達に夢中で人の機微を理解しようともしない彼は悲しみを堪える女性達の目に溜まる涙を嬉し涙と勘違いして御満悦であった。
 

「拾い()?人を何だと思ってるんだ!?ボニー、俺を元に戻せ!」


 ゴジはチャルロス聖の人を物呼ばわりする言葉にブチ切れていた。今にも殴り殺しそうなゴジの怒りを感じ取ったボニーはゴジを宥めようとする。


「おい?ゴジ、何をする気なんだ?確かにアイツはクズだけどよ。相手は天竜人だぞ?」

「手遅れになる前に早く戻せ!!」

「っ.......!?」


 ボニーはゴジの覇王色の覇気による命令に逆らうことが出来ずにゴジに触れて元の姿に戻した。

 SP達によりチャルロス聖の前に連れて来られた女性2人は俯いたまま悲しみを押し殺しているが、そんな事にはお構いなく新しい妻達の体に無遠慮に触ろうとするチャルロス聖の前に一人の男が進み出てきた。


「チャルロス聖様、私達は先月結婚したところでどうか…ご慈悲を…」

「あなた……うぅぅ…」

 
 先程チャルロス聖が見初めた美女の一人、黒髪の美女の夫である若い男が立ち上がって慈悲を求めようと進み出てくるが、楽しみを邪魔されたチャルロス聖は彼に対して腰に差した銃を抜いて構えた。
 

「誰が…わちしの前で立ち上がっていいと言ったえ〜?」


 チャルロス聖は跪いてこうべを垂れるべき│下々民《しもじみん》である目の前の男が無断で立ち上がった事が許せなかったのだ。

 更に世界貴族が気分を害したという理由で一般人を殺しても一切罪に問われることはないので、チャルロス聖の暴挙は何ら問題にすらならないのがこの世界である。
 

「俺の前で何人も命を奪うのは許さねぇ!聖地に還れクズ!!」


 ゴジは誰にも気付かれないように覇王色の覇気をチャルロス聖にのみ全力でぶつけると、彼は一瞬で意識を刈り取られて泡を吹いてその場にバタッと音を立てて倒れた。


「チャルロス聖ーーっ!?」

「チャルロス聖!大丈夫ですか!?いかん気を失われている!?噂の病原菌だ!!だから下界に降りるのは危険だと言ったのに、大至急チャルロス聖をマリージョアまでお運びしろぉ!」


 突然倒れたチャルロス聖を心配し、黒服は元妻達の首輪を外してその場に放置し、新しい妻達の首輪を嵌める暇もなくその場に放置して黒服総出で倒れたチャルロス聖を抱えて連れて行った。


「ゴジ君、天竜人に何したの?」

「ナミ、最近、下界に高貴な天竜人にのみ感染する病原菌に広がってるってニュース見た事ない?」


 ナミはゴジが天竜人に向けて「還れ」と言った直後にチャルロス聖が気絶したのをハッキリと見て、ゴジがチャルロス聖を何らかの方法で気絶させた事に気付いて唖然とするのでコアラが説明する。


「確か何年か前に泡を吹いて倒れてしまった天竜人がいたのよね?あれ?そういえばあの天竜人も泡を吹いて倒れたわ。」

「あたしも聞いた事あるよ。まさかあの噂の真相はゴジの覇王色なのか?」


 覇気使いとして訓練中のボニーはあっさりと答えに辿り着いて、黒服達に抱えられて去りゆくチャルロス聖を睨んでいるゴジを見る。


「覇王色?」


 覇気の知らないナミにイスカが説明する。


「ゴジ君には命じただけで命令に従わせたり、意思の弱い者を気絶させたりする数百万人に一人、王の器を持つ者しか持てないとされる覇王色の覇気という力があるの。」

「天竜人が下界に降りる時に海軍の護衛が付くことはよくあるわ。当然海軍のエースとよばれるゴジ君を護衛として指名する天竜人は後を絶たない。ゴジ君は基本的に断ってきたんだけど、3年前に一度だけセンゴクさんに押し切られて天竜人の護衛の任に付いた事があったの。」


 コアラは初めてゴジが天竜人を気絶させた日の事を思い返す。

 そう。ゴジとコアラは3年前に先程のチャルロス聖と会った事があったのだ。


 ◇


 14歳のゴジが中佐として、カリファ、コアラと共に天竜人の護衛の任に付いた日のことである。

 彼ら三人はマリージョアから来る世界貴族を待つ為に今赤い港(レッドポート)のボンドラ乗り場の前にいた。


「なんで俺がクズ共の護衛なんてしなきゃいけないんだよ。」

「ゴジ君、相手は天竜人ですよ。口を慎みなさい。」

「まぁ.......正直あたしも乗り気じゃないよ。」


 コアラは過去、天竜人の奴隷だった経験から表には出さずとも実はひどく怯えていた。

 今回の護衛任務はこれから護衛することになる三人の天竜人が名指してこの三人を指名してきたのだ。

 そうこうしている内に天竜人を載せたボンドラがマリージョアから下に降ってきた。


「ようこそおいでくださいました。ロズワード・エドワード聖、ロズワード・チャルロス聖、ロズワード・シャルリア宮。護衛の任に付かせていただきますゴジです。」


 ゴジは失礼のないように務めて丁寧な言葉使いを心掛けて話していく。


「“麒麟児”!!ようやく会えたアマス!!」


 ゴジの名前と容姿は天竜人にも伝わっているらしくゴジを見たシャルリア宮は大喜びでゴジの手を握っていた。

 流石のゴジもこれには面食らう。

 まず容姿であるが、チャルロス聖、エドワード聖はずんぐりむっくりした体型に分厚い唇におたふく風邪をこじらせたような顔の醜い容姿だが、シャルリア宮はスラリとした体型に気の強そうな目鼻立ち、茶色の長い髪を頭で結っており有り体にいえば血の繋がりを疑う程の美人だったからである。


「シャルリア、止めるぞえ。海兵とはいえ下々民(しもじみん)に触れてはどんな病気を持ってるかも分からん。」

「お父上様!!“麒麟児”への無礼はいくらお父上様でも許さないアマス!!」


 ゴジは父であるエドワード聖に叱られてもなお、自分の手を離さない所か腕に抱き着いているシャルリア宮の要望で自分がここに居ることを悟った。


「もしかして私を指名してくださったのはシャルリア宮ですか?」

「そうアマス!」


 ゴジはシャルリア宮の回答に余計な事をしてくれたと思いながらもカリファとコアラの二人を下卑た目で見ているエドワード聖とチャルロス聖をチラリと見た。

 ゴジを指名したのがシャルリア宮ならば、カリファとコアラを指名したのは誰か.......答えは一つだろう。


「エドワード聖、護衛の任に付くに当たり日程と行先、護衛方法の確認をしたいのですが?」


 ゴジは自分の嫌な予感が外れる事を願ってエドワード聖に鎌を掛けると、エドワード聖はつまらそうに答えた。


「予定は三日、“麒麟児”、貴様はこの三日シャルリアと二人で好きにしろ。わしはこの“秘書”と好きにさせてもらうぞえ!チェルロスは“海拳”がお気に入りだったはずだ。」


 エドワード聖が提案したのはゴジの最悪の予想通りだった。

 護衛任務を各々対象と二人きりで行うということは三日全てにおいて寝食のその全てを共にするということ。

 さらにエドワード聖達のカリファ達を見る視線を見るに何を目的としているかは想像に容易いが、カリファはあからさまなセクハラ発言にも動じることなく微笑んだままである。


「父上、決めた。わちしは決めた“海拳”を妻にするぞえ!!」

「チャルロス!その女は海兵だ。3日間は好きにしていいが、マリージョアには連れては帰れん。我慢しろ!」


 それは違う。

 自分の大切な女性達を好き勝手にしようとする世界貴族に対して穏便に事を納めようと考え、暴れないように我慢しているのはゴジである。


「父上様、分かったえ。なら早速“海拳”を連れてホテルに行くえ、ぶへへへっ.......。」


 エドワード聖はカリファの肩を抱き寄せながら答えると、チャルロス聖はコアラの体を舐めるように見ながら手をワキワキとさせて近付いていく。


「いや.......いやいやいや.......来ないで!?」

「コアラ!コアラ!しっかりしなさい!」

「いやいやいや.......ごめんなさい。泣きませんから酷いことしないでください。ごめんなさい。何でもします。許してください.......」


 コアラは突如、引き攣った笑顔を浮かべながらうわ言のように謝り続けるので、カリファが血相を変える。

 コアラは奴隷時代、泣くと酷い拷問を受けた事で感情を殺して何をされても泣かずに笑い続ける子供になった。
 
 タイヨウの海賊団と過ごしたことでコアラを感情を取り戻して今のようによく感情を出して笑う娘になったが、今の彼女はかつての奴隷だった彼女に戻ってしまったようだ。
 

「カリファ、コアラに何があったんだ?何か知ってるなら教えろ!」


 しかし、ゴジはコアラの過去を知らないので、コアラの様子に心当たりのあるカリファが慌てるゴジにそっと耳打ちをする。


「中佐、コアラの知られたくない過去と思い、今までお話してなかったんですが、実はコアラは過去に天竜人の奴隷でした。」

「なんだと!?ということはこれはPTSDか!?」


 PTSDとは心的外傷後ストレス障害のことで死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする状態であり、コアラはまさに奴隷時代の記憶が蘇り、PDSDの症状が起きているところである。


「恐らく.......」


 ゴジはコアラの異変の原因を悟り、コアラを怯えさせたチャルロス聖をキツく睨み付ける。

そのすぐにゴジは視線をエドワード聖に移して、エドワード聖を睨みつけると、ゴジの凶悪な視線にエドワード聖がキレる。


「“麒麟児”、貴様なんだその目は!?」


 ゴジはエドワード聖に気にする事もなく、淡々と言葉を紡いでいく。


「エドワード聖、シャルリア宮.......実はこの下界には高貴な天竜人にのみ感染する病原菌が発生したいう噂はご存知でしょうか?」


 ゴジはなおも怒りを押し殺しながら、ゆっくりと言葉を紡いでいく。


「知らんな。」

「聞いたことないアマス。」


 エドワード聖、シャルリア宮は顔を見合わせた後、初耳な話に頭を捻るが仕方ない。

 これはこれから世界貴族の間で広まる予定の噂であり、ゴジが今、でっち上げたデタラメという名の予言である。


「何でも感染した方達は突如泡を倒れてしまわれ、24時間以内に病原菌の生きられない雲の上にあるマリージョアに帰らないと死に至るそうです。」

「そんな話聞いたことも.......」

「きゃあああああああ!!お兄様ああああ!?」


 エドワード聖がゴジの話に驚いている中、コアラに近付いていたチャルロス聖がゴジの予言通りに突如意識を失い、泡を吹いて仰向けに倒れてしまったことにシャルリア宮が悲鳴を上げた。


「ぶくぶく.......」

「チャルロス!?」

「大変です。チャルロス聖をお早くマリージョアまで運ばねば死んでしまうかもしれません。エドワード聖、シャルリア宮も感染する前にお早くお戻りください。他の世界貴族の方々にも注意を促すように連絡願います。」


 ゴジは矢継ぎ早に捲し立てるとマリージョアの警備を担当するサイファーポールが動き出してチャルロス聖を抱えあげて、エドワード聖とシャルリア宮を誘ってボンドラに乗り込む。


「お前達早くしろ!チャルロスが死んでしまうえ!!急いで帰るぞえ!」

「「「はっ!」」」


 こうしてボンドラが上に上がり、エドワード聖達は何もすること無くマリージョアに引き返していく中、ゴジはコアラに近付いて未だに放心状態の彼女の頭を優しく撫でる。


「ごめんなさい。私、泣いてません。だから叩かないで下さい。」


 コアラは頭を触られたことで叩かれると勘違いしているようで、ゴジの顔を見ながらなおも引き攣った笑顔を浮かべて笑っていた。


「コアラ、謝るのは俺だ!君が世界貴族に会うのをこんなにも恐れていた事に気づかなかった。」


 ゴジは自分の覇気をコアラの内側に優しく流し込みながら、彼女の体を優しく抱き締めると、コアラの目に生気が宿る。


「ご.......ゴジ.......君?」

「コアラ、ごめんな!世界貴族は追い返した。もう会わなくていい。本当にごめん!!」

「うわあああぁぁぁーん!怖かったよぉぉぉぉぉ!!」


 コアラは恐怖から開放された安堵感でゴジを抱き締め返しながら泣きじゃくるので、ゴジは落ち着いてコアラが寝てしまうまで抱き締め続けていた。


「中佐、コアラは寝ましたか?」

「あぁ。」

「コアラに免じて、今日あったことは見なかったことにします。病原菌ですか.......良くもまぁ咄嗟にあんなハッタリが思い付きましたね。」

「殴らなかっただけ褒めてくれよ。」

「殴っていたら流石に擁護出来ません。」


 カリファはゴジが覇王色の覇気でチャルロス聖を気絶させた事を見抜いた上で胸にしまう事にして軽口を言い合っている。


 ──ゴジ君、ありがとう。


 コアラはゴジに抱き着いて泣いてしまった事が途中で恥ずかしくなって寝たフリしており、意識はしっかり残っているのでカリファとの話を全て聞こえていた。


 ◇


 数時間後、カリファの姿は一人で聖地マリージョアのパンゲア城にあった。


「──ということがありました。」


 ゴジには見なかった事にすると言ったが、カリファは“闇の正義”を執行する│CP-9《シーピーナイン》の一人。ゴジに動きあらば即座に報告するのが彼女がゴジのそばに居る理由である。


「なるほどロズワード家の倅が気絶した真相は“麒麟児”の覇王色か?」

「原因不明の病原菌とは、よくこんなデタラメを思い付いたものだ。」

「覇王色の覇気ならば証拠も残らんだろう。捨ておけ。」

「ロズワード家の連中は世界貴族の品位を貶めすぎる。いい薬になるだろう。」

「あれと似た連中は多い。この病原菌のことをマリージョアで広めて釘を指しておけ。」


 世界貴族による下界に住む人に対しての非道な行いにより、世界貴族への敬意が年々失われ始めている事を危惧した五老星はゴジをお咎めなしにするどころか、ゴジのでっちあげた噂を世界貴族に広める事とした。


「カリファ、引き続きゴジの監視を任せたぞ。」

「はっ!」


 五老星の指示にカリファは敬礼とともに了承の意を示した。

 五老星の思惑通りにチャルロス聖が下界で病原菌に侵されたという話はマリージョア中に広がり、この日を境として一部の世界貴族を除いて、彼等は謎の病原菌に恐怖して下界に降りる事がほとんど無くなった。 
 

 
後書き
次回更新は16日12時です。

次回は天竜人がいなくなったあとのシャボンディ諸島の様子です。 
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