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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第15話 楓と幻想郷式『水のともだち』:中編

 にとりの提案に賛同の意思が芽生える楓。だが、まだ彼女には少々懸念があったのだ。
「でもにとりさん、ここで弾幕ごっこしたらずぶ濡れになってはしまいませんか?」
 もっともな意見であろう。水辺で戦闘などをしたら跳ねる水飛沫により身に纏った衣服が水を浴びてしまうだろうという事である。
 だが、にとりはその事については既に考慮済みなのであった。
「安心してよ楓、そこでさっき使ったスプレーが役に立つって寸法だよ」
 そう言ってにとりは説明の意味を込めて先程使ったというスプレーを再び取り出した。
「一体、それは何だったんですか?」
 説明も無しにそのスプレーを浴びる事をにとりから薦められて成り行きで浴びたものの、それがどんな役割をするのかという重要な事は楓には未だに分かっていなかったのだ。
 そんな楓を目の前にして、にとりは得意気になって説明を続けた。
「これはね、名付けて『防水スプレー』だよ。このスプレーを浴びた衣服とそれを着た人は、暫くの間水を浴びても濡れる事はないって訳」
「そんな馬鹿な!?」
 その常軌を逸した効能を聞いて、楓は素っ頓狂な声で以て返してしまったのである。
 いくら何でも都合の良すぎる性能ではないだろうか? 今まで現代で生きてきた楓はその幻想と技術の融合した反則的な産物に舌を巻くしかなかったのであった。
「でも……まあ、華扇さんのその包帯の義手だって防水仕様というよく分からない産物ですからね」
「……人をそんな天然記念物を見るような目で見るのはやめなさい」
 そんな結論に行き着いた楓に、突如として槍玉に上げられた華扇は心外だと言わんばかりに抗議する所であったのだ。
 ともあれ、楓は色々納得のいかない所も多々あるのであったが、ここで腹を括る事にしたのだった。何せ、受け売りの言葉ではあるが『幻想郷では常識に囚われてはいけない』のだから。
 そして、利用出来るものは全て利用してしまおうという反逆者的な感性を持ちながら楓は先を促すのだった。
「まあ、色々理不尽ではあるけど心の整理はつきましたから。始めましょうか、にとりさん」
「そう来なくっちゃね♪」
 いよいよ相手もやる気を出してくれたようだ。そう思いながらにとりも意欲的な感情が芽生えてきたのだ。
「まずは、私から行くね」
 そう先陣を切ったのはにとりであった。どうやら楓が後手に出るのが得意そうだと華扇から聞かされていたので、それを考慮しての事のようである。
「まずはこれだよ。【洪水「ウーズフラッディング」】」
 ここににとりのスペル発動第一号が決め込まれたのであった。そして、そのスペルの効果はすぐに出て来る事となる。
「!?」
 その効果に楓はいち早く気付く事が出来たのであった。彼女の足下の水の水かさがこのスペルの発動を期に徐々に増していくのが分かるのだった。
 どうやらこのスペルの発動により、この川辺一帯の水かさが操作されて、川の水量にまで影響を及ぼしたようなのだ。
 この現象にいち早く楓が気付けたのは他でもなく。
「どうやら敵に塩を送るハメになりましたね。私を裸足にしたのが間違いだったようですね♪」
 そう、彼女が素足で以て川の水に浸かっているが故に、敏感にその事に気付けたのである。しかも、この現象から楓にはある推測が導き出されたのであった。
「それと、にとりさん。あなたの能力は『水を操る』ものですね♪」
「っ……!?」
 この楓の指摘にはにとりも驚いてしまった。こうもたやすく人の能力を言い当てるとは。
 既に態度で『それが正解』だと言い表してしまったようなものであり、もはや言い逃れは出来ないだろうと踏んでにとりはこう言った。
「どうして分かったの?」
 その疑問に対して楓は諭すようにそのからくりを明かしていく。
「それはですね。にとりさんのスペルの干渉が『水』に関して規模が大きかったからなんですね」
 そして、楓は説明を続けていく。
 その理由は、川の水にまで影響を与えるというこのスペルの効果の規模が大きかったという事なのだ。
 このような現象は、少し水を操作する程度の事では出来ないだろうと楓は思う所なのであった。
 そういう考えに至ったのは、先日に戦ったチルノが原因なのであった。彼女が妖精としてはその力の度合いが大きいのは、彼女が氷や冷気の専門家となっているが故だろうなと楓は感じながら戦っていたのである。
 つまり、その経験が今回にとりが『水の専門家』である事を推測するのに役に立ったという訳なのだった。
(楓、成長していっているわね)
 華扇も、そのように経験を活かして自分の力を高めていっている楓の事を、あくまで心の中でだが称賛したのだった。今この場で声に出して楓を褒めたら、下手そしたら敵であるにとりを有利にする悪手となりかねないのだから。
 この事は勝負が終わったら楓を褒めると一旦決めて、華扇は再び二人の勝負に対して集中する。
(でも楓、気を付けなさいね。勝負はまだ始まったばかりなのだからね)
 そう思いながら華扇は楓を見守る事にした。何せ、楓はにとりの能力を見破ったのであるが、それだけである。まだ戦いは始まったばかりであるのだから。
 対して、自身の能力を見破られたにとりはというとどういう様相であったのかと言うと……。
「まあ、この事は餞別代わりだと思って取って置くといいよ」
「!?」
 今度は楓が驚く番であった。何せ、自身の能力を看破されるという致命的な展開になったにも関わらず、にとりには余裕すら見受けられるのであったのだから。
 その理由を、にとりは沸々を明かしていく。
「まさか楓。私のこの『ウーズフラッディング』を『ただ水かさを増やすだけ』のスペルだと思ってはいないよね」
「……」
 その言葉に対して楓は無言になるしかなかったのだった。
 確かにそうだろう。スペルカード発動に置いて、ただ水量を上げる等といった無意味な現象では『相手を倒せはしない』のだから。
 その事はまだ弾幕ごっこ歴の浅い楓とて分かる訳であり、故に彼女も身構えるのであった。
「いい心構えだよ。それじゃあこの『ウーズフラッディング』の真骨頂と行くよ♪」
 そう言うと、にとりは両手に妖気を集めて、そこから波動のようなものを辺りに送り込んだのである。
 そして、いよいよを以て異変は起こったのだ。辺りの川の水が、コポコポと泡立ち始めて来たのである。──まるで脈動するかの如く。
 勿論それだけで終わりはしなかったのである。無数の泡立ちが起こった水辺の一ヶ所から、そこから卵が産み出されるかのように一つの水の球体が吐き出されたのである。
 その球体の大きさは野球ボール位のサイズなのであった。そう、正にそれはこれから行う事において、これでもかと言わんばかりに『うってつけ』の産物なのである。
 もうお分かりかも知れないだろう。その水辺という郡体から産み出たはぐれ者のような水球はすべからく今その役割を果たしに向かうのだった。──その身を敵である楓に直行させるという形で。
(楓……一体どうでるかしらね?)
 その様子を華扇は至って落ち着いて見据えていたのだった。少しばかり楓に対して申し訳ないと感じながらも。
 だが、これは弾幕ごっこという名の真剣勝負なのである。故に部外者たる自分は下手に介入すべきではないのだ。
 だから、華扇は敢えてあからさまに楓の応援をする事なく平等に二人の戦いを見守る事に決めていたのだった。
 当然華扇はその思惑を脳内で行っているが為に、その内容を楓が知る由もなかったのである。
 だが、楓には何となく華扇から放たれる雰囲気から彼女の想いが言葉ではなく気持ちで感じ取る事が出来たのだ。──そう、無言ではあるがちゃんと華扇は自分の事を見守ってくれているのだと。
 そうと分かれば、楓としては非常に心強いものがあるのだった。後はその想いを胸に行動あるのみなのだ。
「やはり、来ましたね!」
 断じて臆さずに楓はそう言ってのけると、その凶弾へと凛々しい表情を向けながら言い切るのだった。
「こうなるだろう事は分かっていましたよ。では【紙符「汎用性キッチンペーパー」】です」
 そうスペル宣言した楓の側に何かが出現したのであった。そして、その出現先はと言うと今まさに彼女目掛けて飛んでくる水球の眼前なのだった。
 そして、その何かは瞬く間に水球を包み込んだのであった。
「いっ!?」
 驚かせる番だと思っていた所で、逆に驚かされてしまった。にとりは驚愕の声をあげながらそう心の中で歯噛みしてしまったのだ。
 だが、それも無理のない事であろう。決まるだろうと思っていた自分の自慢の水による攻撃が、こうもあっさりと受け止められてしまったのだから。
 しかも、その防御手段の詳細はよく分からないとまできているのだ。この理不尽な展開には頭を抱える思いになるしかないだろう。
 そして、今しがたにとりの攻撃を防いだ物の正体が判明するのであった。
「お料理の……吸水ペーパー……?」
 それがにとりが確認出来た、揺るぎない内容なのである。
 そして、敵の攻撃を防ぐという大役を終えた吸水ペーパーはそのまま宙で消滅してしまったのだった。
「使い終わった物を捨てたりしたら環境を悪化させますからね」
「うん、水の能力を使う者として、その事はとても大事だってよく分かるよ……ってそうじゃなくて!」
 危うく相手のペースに乗せられる所だったにとりは、間一髪で自分の流れを取り戻したのであった。
「吸水ペーパーって、『そんなんじゃないよね』? 使い方とか規模とか……」
 と、自分の調子を取り戻したにとりはそのまま楓の起こしたこの理不尽な現象にツッコミを入れる。
 そんなツッコミに対して楓の方はと言うと、こうも悠然とのたまうのだった。
「いえ、これは幻想郷での戦いでしょう? しかも弾幕ごっこという名の」
「う゛っ……」
 この楓の理屈にはにとりも言葉を詰まらせてしまうのだった。──何せ、幻想郷にとってのしきたりに対して、これでもかという位に的確に触れていたのだから。
 だが、ここで引き下がるにとりではなかった。元より諦めが悪かったら、貪欲にどんどん新しい技術を取り入れていく技師など務まってはいないのだから。
「たった一発攻撃を防いだからって、いい気になっちゃ駄目だよ~♪」
 さっきまでの相手に翻弄されていた時とは一変して、にとりは飄々とした態度でそうのたまい次なる手に出る。
「それじゃあ、『ウーズフラッディング』の本勝負と行くよ」
 言うとにとりは先程よりも濃い妖力を両手に込めて辺りに送り出した。すると、それに応えるかのように辺りの水は反応を示し始める。
 そして、遂に事は起こったのである。水辺という水辺、その全てから先程の水球がポコポコと量産されるが如く吐き出されていったのであった。
「来たわね!」
 その光景をみながら凜とした表情の元にそう言う楓。勿論彼女もこういう展開に対して心の準備というものはしていたのである。
 そんな楓に対して、にとりの繰り出した水の弾丸の群れは次々とその身を撃ち放っていったのである。
 だが、至って平静を保ちながら楓はこれに対処してみせたのだった。
「それじゃあ、クッキングペーパー大展開といきますね♪」
 そう楓は言いながら両手を翳すと、再び彼女の眼前にペーパー……を模した耐水性のバリケードが生成されていく。
 そして、今度は一つだけではなかったのである。二つ、続いて三つとペーパー型の防護膜が形成されていき、ことごとくにとりの繰り出す水の弾丸を吸い取っていったのだ。
「んんっ?」
 これにはにとりは驚愕せざるを得なかったのであった。
 無理もないだろう。確かに先程の一球は防がれてしまった訳であるが、それは僅か一球でしかなかったからである。
 だが、今度のは正真正銘のにとりの本気であったのだ。それすらもこうも易々と防がれてしまうものなのだろうかという事だ。
「うぬぅ……!」
 だが、ここでにとりはその事実を認める訳にはいかなかった。確かにこのスペルは最初に繰り出したが故に小手調べの意味合いが大きいが、こうも簡単に攻略されていいものではないのだから。
 故に、にとりはここで根性を見せに出たのであった。
「あんまりいい気になってもらっちゃ困るよ! これならどうだ!」
 言うとにとりは両手から水に送り込む妖力の性質を変えたのである。それにより、今まで水弾を生み出していた水面にも変化が起こったのであった。
 それは一目瞭然だった。今まで散々攻撃を行っていた水面がピタリとなりを潜めてしまったのだ。
「?」
 この展開に楓は当然ながら首を傾げてしまったのだ。それもそうだろう。弾幕ごっこの最中でありながら攻撃の手を緩めるとは、一体どういう風の吹きまわしであると彼女も思う所なのである。
 その答えを、にとりは言葉の代わりに行動で示した。
「さあ、『これ』をどう攻略する?」
 そうにとりが言うや否や、再び水面から無数の水弾が形成されたのである。そして、それらは先程とは些か様相が違っていたのである。
「!」
 その光景を見て、さしもの楓も些か驚いてしまうのだった。
 何故なら今度の水弾の群れは、二列に並べられたラインから放出されたからである。──そう、丁度楓を挟み撃ちにでもするかの如く。
「さあ、この布陣を一体どうやって攻略する?」
 この無駄のない攻撃を繰り出したにとりは、得意気になりながら楓へと言葉を向ける。
「それじゃあ、集中放火、いくよ♪」
 そう言ってにとりが指で楓を指したと同時、無数に宙に浮かび上がっていた水弾がまるで統制のとれた兵隊の如く一斉に標的目掛けて襲い掛かったのであった。
 そして、次々と弾丸がぶつかると爆ぜる、それが延々と続いていったのである。その余りの激しい攻撃の為に、楓のいた所からは盛大な水飛沫が巻き上がっていた。
「……」
 それを華扇は無言で見据えていた。これで勝負は決まったのだろうか、それとも。どちらにしても、最後の瞬間まで自分は見届けるだけだと腰を据えるような心持ちで見守っていた。
 そして、止まない雨はないというものである。華扇が見守る中で繰り出されたこの水の連撃もやがて終わりを迎える事となるのだった。
 加えて、攻撃が止んだ事により徐々に水飛沫の幕も晴れていき、視界が段々と明らかになっていったのである。
 いよいよ視界が完全に晴れ渡る、そこにあるものに対してにとりは見据える構えを見せていた。
 ──この攻撃は自分の自信作なのである。故に手応えというものをにとりは感じていたのだった。
 どれだけの打撃を相手に与えただろうか? 例え止めを刺していなかったとしても、今の攻撃は自分で思う程相当なものである自覚があるのだ。
 故に、例え倒し切れていなくても敵はタダでは済んではいないだろう。そう期待を胸に馳せながらにとりはその視線を凝らしていった。
「!?」
 そして、粗方敵の様相をその視界に収めた時、にとりは思わず息を飲んでしまったのである。
 その理由は、そこに繰り広げられていた光景が自分の予想していたものとはかなり違ったからであった。
「楓……それ……」
 しどろもどろになりながらも、にとりはどうにかその言葉を喉の奥から絞り出したのである。そして、そんなにとりに対して楓は『それ』の名前を口にした。
「【外家「ユースフルキャンプ」】……いやあ、間一髪でしたよ♪」
 そう、ふうと一息つきながら説明する楓はというと、何とキャンプで使うようなテントの中から顔を出して言っていたのだった。
 楓は迫り来る水の猛攻に対して、文字通りテントを張るという大胆な発想により難を逃れたという事なのであった。
「テントって便利ですねえ。簡易な造りながら雨を凌ぐ性能はピカイチなんですから♪」
「いやいやいや!」
 その楓の主張を聞いて、にとりは手を横に振りながら被りを振るうのだった。何せツッコミ所が多すぎたのだ。
 まず、戦闘中にテントを張るという発想、それで自分の水の猛攻を凌いでしまった事、何より……。
「テントを造り出すなんて、どういう能力よ!?」
 そこが一番の論点であった。もはや弾幕ごっこの範疇を超えていると言って良いだろう。
 弾幕ごっこで造り出せるのは、基本的にエネルギーの塊が一般的なのだ。だと言うのに目の前の楓ときたらテント等という『固形物』を造ってしまっているではないか。
 こんな理不尽な事をやってのけてしまう楓に対して、にとりが掛ける言葉は限られてくるというものである。
「楓……あなた規格外にも程があるよ」
(確かに……)
 そのにとりの意見には、華扇も心の中で同意する所であった。
 だが、あくまで『心の中』だけに留めておく事に華扇はするのである。この戦いにおいて楓に余計な事を考えさせない為の華扇なりの配慮なのだ。
 そして、楓はこのテントの解除を試みるのであった。
 川辺にテントという組み合わせは、いかにもキャンプというものでありオツなのではあるが、この体勢ではとてもでは戦えないし、第一にとりを小馬鹿にするような真似になってしまうからである。
 幻想郷に住まう者として、そして人間の盟友として弾幕ごっこに臨んでくれているにとりに対してこれ以上無礼な事は出来ないだろう。
 そう思いながら、楓は自身の能力で造り出していたテントを跡形もなく消し去ってしまったのだった。
 やはりこれも一瞬の事であった。このように楓の能力は何かと汎用性が高いようである。
「お待たせ♪」
 そして、再び臨戦体勢となった楓は、にとりに向き合いながら爽やかにそう言ってのけた。
 即ち、それは楓が流れに乗っている事の証であると言えよう。彼女は敵の猛攻を防いだばかりか、ペースを自分の方へと引き寄せ始めていたのである。
 だが、そこはにとりとて幻想郷の住人。皮肉では彼女とて負けてはいなかった。
「だけど、せっかくのキャンプが雨天中止にならないといいけどね♪」
「言ってくれるじゃないの♪」
 そう言葉を交わし合って、互いに心意気を確かめ合って二人は微笑み合うのだった。
 
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