| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

MOONDREAMER:第二章~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五章 ローズ味
  第14話 楓と幻想郷式『水のともだち』:前編

 楓が華扇の『お古』の中から、自分好み、そして最愛の姉がこなした物と同じ嗜好の一品を見出して自分のスタイルとする事に成功してから少しの時が経っていた。
 そして楓は今、暫しの間その可憐な衣装から身を離している所なのであった。その理由とは。
「ああ~、冷たくて気持ちがいい~♪」
 その言葉と共に、楓は全身で水飛沫をあげてはしゃぐのであった。
 そう彼女は今、絶賛水浴び中なのだ。
 事の発端は、華扇に薦められて妖怪の山のほとりにある川に水浴びをしに行かないかと誘われて今に至るのであった。
 そして、これが今しがた楓が新しい自分を彩る役目を果たしてくれる事となった衣装との暫しの別れに至っている理由なのである。さすがに和服のままで水浴びをする訳にはいかないだろう。
 ちなみに、彼女が今身に纏っているのは、紺の遊泳用の衣服、即ち水着は水着でも『スクール水着』なのであった。
『どうしてそのような代物を幻想郷の住人たる華扇が所持していたのか?』その事を敢えて楓は聞かない事にしたのだった。人には誰にだって他人には言えない事情というものがある事は楓には良く分かるからである。
「喜んで貰えたようで、何よりだわ」
 そう言葉を返すのは、当の今回の水遊びの提案者たる華扇その人であった。
 そんな彼女が身に纏っているのはチャイナ服をアレンジしたような白の水着であり、これにも彼女のお気に入りなのか薔薇の刺繍がなされている。だが、問題はそこではないのだ。
「それはそうと華扇さん。包帯のまま水浴びなんてして大丈夫なのですか?」
 それが現状で一番おかしい事実なのであった。普段から華扇の右手の代わりをしている包帯。それが水の中でも平然とその形を維持したままであるのだ。
「大丈夫よ、問題ないわ」
「何かもう、装備って範疇を越えていますよねそれ」
 この理不尽な現実に、楓は頭を抱えるしかなかったのであった。
「まあそう言わない事よ。私の知る限りはそもそも包帯はそもそも腕の形を維持出来るようには作られていないようだし」
「はい、それを言ってしまったらもう取り付く島もないって感じですねトホホ……」
 その事実を胸の内に仕舞い、楓はもう考えるのをやめる事にしたようだ。
 このようにして、華扇に対して理不尽な感情を多少抱く楓であったが、基本的にはこのような憩いの一時を用意してくれた事への感謝の下に楽しい時は過ぎていったのだった。
 そして、楓は名残惜しさを感じながらもその身を水から引き上げようとする。さすがにいつまでも人間が水に浸かっているなど体には悪いからである。
「華扇さん、先に上がらせてもらいますね」
 そう言って楓は水の中から身を乗り出して地上へと舞い戻ったのであった。
「さてと……」
 呟きながら楓はまずは誰も通らないような物陰に隠れたのである。そして、そこで身に纏ったスクール水着を脱いでいく事とする。
「ふう……」
 それにより、彼女の豊満な胸が解放されたのであった。スクール水着の上からでも立派に彩られていたそれであったが、その枷を外せば更に強調される事となるのだ。
 だが、誰もいないからといって、いつまでもそのいたいけな体を外気に晒している訳にもいかないだろう。故に、楓はすぐさま予め用意されていたバスタオルでその身の水分を拭い始めたのである。
 そこは14歳でありながら巨乳の少女である。その仕草だけで彼女の艶めかしい肉体が引き立てられてしまっていたのだ。
 そして、手際よく彼女は水分を拭き終えると、後は衣服に袖を通すだけであった。
 そう、先日華扇から譲り受けた、楓の新しい自分を彩る事となった紅葉をあしらったミニ丈の和服である。それを手際よく彼女は身に纏った。
 まずは右側から袖を通して、次に左側をその上から合わせるのである。これを逆にしてしまうと、亡くなった人をあの世へ旅立たせるという意味合いになってしまい、生きた人間がすると非常に縁起でもなくなってしまうのだ。
 そして、その上から帯を結んでいき、その身に完全に固定したのである。
 この和服において最難関の事までも、楓はいとも簡単にこなしてしまう事が出来るのだった。
 やはり、そこも姉たる勇美とは血を争えないという所であろう。そんな和服を愛する勇美を見ながら育った楓もまた、その作法を知らず知らずの内にマスターするに至る要因となっていたのである。
 そして、愛用の和服を完全に自分の一部とした楓は、颯爽と未だ水浴びする華扇の前へと繰り出していったのだった。
「華扇さん、お待たせ♪」
「ああ楓、もう上がったのね。水浴びはどうだった?」
「はい、最高でした。幻想郷は自然も綺麗な所で心洗われるような気分でしたよ」
「それは良かったわ」
 華扇の計らいに満足した楓と、それを提供した華扇。ここに両者とも快い気持ちとなる空間が完成される事となったのであった。
 そして、華扇は既にひとときの時間から切り上げた楓に倣う形で彼女も水から上がろう……そうした時であった。
「華扇さん、向こうから何か来ますよ!」
 そう言いながら楓は華扇のいる方向の前方を指差すのであった。その楓のアドバイスと華扇自身の長年の仙人としての修行の賜物から、咄嗟に彼女は『それ』に対処したのである。
「はあっ!」
 その掛け声と共に華扇が行動で示した答えは、これであった。
「ハーミットナックル!」
 即ちそれは、実力行使という手段であった。瞬く間に華扇の右腕を形成している包帯の部分が伸びるように前方へと直進していったのだ。
 そして、その飛び道具の役割を持つ鉄拳は、ものの見事に敵を捉えたのだ。包帯からでも華扇には手応えというものが感じられたのである。
「いったあっー!!」
 華扇が今しがた捉えた『敵』は、堪らずに苦悶の声を漏らしたかと思うと、その勢いのまま水の中から地上へと飛び出したのである。
 そして、その主はそのまま抗議の声を上げてくる。
「いったいなあ! 人が気持ち良く泳いでいる所に何さらしてくれるんだよ!」
 そう訴えの声を上げるその存在であったが、それにより二人の意識は視覚へと移行していったのである。
 その者の容姿はと言うと、一言で表すと『小柄な少女』だった。
 髪の色は鮮やかな水色であり、その身に纏っているのは先程まで楓が着ていた物と同じ、スクール水着なのであった。
 そして、何より楓の目に付いたのが……。
「わあ、この子私と同じ髪型なんだね♪」
 その楓の言葉通り、目の前の水色の髪の少女は、立派なツインテールをこしらえていたのであった。
 自分の同志を見付けた喜び、そしてその少女自身の愛くるしさに魅せられ、気付けば楓は少女の頭をさわさわと撫でていたのだった。
「こら、いったい私に何してんの?」
「あ、ごめんなさい」
 その少女に指摘されて、楓は我にかえって謝った。そんな楓の様子を見ながら、華扇は訝りながら楓に注意を促す。
「楓、そいつは『河童』よ」
「えっ?」
 そう華扇に言われて、少々楓は驚く所なのであった。そして、その事実に対する恐怖というものが芽生えていった。
「という事は……お願いだから私のアナルヴァージンは奪わないで下さい」
「……せめて『尻子玉』にしておこうよ……」
 楓のその卑猥な発想には、さすがの河童も呆気に取られてしまったのだった。
 ともあれ、このままでは(様々な意味で)誤解が生まれたままとなってしまうだろう。それを解消すべく河童は踏み切ったのである。
「安心しなよ。別にあなたを取って食べようなんて思っていないからね。私は『河城にとり』妖怪の山で技師をやってる河童だよ」
 そう言いながら『にとり』と名乗った河童は楓に対して握手を求めて来たのだった。
 それに対して、楓の方も快く応えたのである。
「よろしくね、にとりさん♪」
「こちらこそよろしくね……楓だったっけ?」
「うん、私の名前覚えてくれたんだね」
 その事に楓は心温まる気持ちとなるのだった。今しがたあったばかりだというのに律儀に自分の名前を覚えてもらえたのだから。
「勿論だよ。何と言っても人間は盟友だからね♪」
 そう言うと、にとりはニカッと爽やかで可愛らしい笑みを楓に向けたのであった。
 にとりのその言葉と振る舞いには、全くの裏がない純粋なものであった。もしかしたら、この世界とは少し別の道筋を辿っていった世界なら『盟友』という言葉は建前であったり何かと低俗な言動が目立っているのかも知れないが、幸いこの時間軸上のにとりは純粋に人間を掛け替えのない友だと思っている穏和な存在なのである。
 閑話休題。このようにして『この物語に関しては』純粋なにとりと、人間である楓の間にひょんな事から友情が生まれたのであるが。
 これはこれである。にとりは次に重要な事となる話題に話を持って行くのであった。
「それはそうとそこの仙人! さっきはよくも私を殴ってくれたよね」
 と、楓に見せていた穏和さから一転、一気に喧嘩腰となって華扇に向かい合っていたのだった。
「河童のお前が不用意に人間に近付くからこうなるのよ。言うなれば正当防衛ね♪」
 対する華扇も何故か喧嘩腰で返すのだった。と、言うのも華扇は河童という種族に対しては余り気を許してはいないからである。
 それは、仙人という謂わば自然と同化と言ってもいいような生活をする存在と、近代的な技術をどんどん取り入れていって幻想郷にいながら現代のような行きすぎた文明にまでなりかねない河童という種族からであろうか。
 ともあれ、楓にとっては今しがた芽生えたにとりとの友情も、過去の世界から迷い込んだ自分を一時的とはいえ養ってくれている華扇の恩も両方大切にしたい所なのである。
 故に、彼女の次なる行動は決まっていたのであった。
「まあまあ、にとりさんも華扇さんもそう喧嘩っ早くならないで下さいって」
 そう言って彼女は二人の間に割って入って宥めるように彼女達を諭したのである。
 そんな健気な楓の振る舞いに、とげとげしくなっていた二人の感情も毒気を抜かれる事となった。
「ふっ……」
「ふふっ……」
 そして、どちらからともなく二人は堪らずに吹き出してしまったのである。
「ここは、楓に一本取られたって感じだね」
「全く、その通りね」
 にとりも華扇も先程のような雰囲気が一転して、とても和やかな空気がそこには生まれていたのである。
「ここは楓さんに免じて、一時休戦としましょう」
「うん、それがいいね。それに、まずお互いに着替えないといけないしね」
「確かに」
 そのにとりの指摘には華扇も納得をする所なのであった。弾幕ごっこに発展するにしても、水着に身を包んだまま戦うのは些か問題があるというものだろう。世の中には水着こそが正式な戦闘服となっているような創作物もあったりするのであるが、いくら幻想の世界とはいえ、ここは現実なのだから。
 そして、華扇とにとりは先程の楓と同じように、人目のつかない場所にて着替えを済ませていく。
 両者ともそこは非常に手際が良かったのである。華扇は仙人の暮らし故に服を着替える機会は多く、にとりも河童であるが故に日常的に水の中に潜る為に水着と普段着の着分けは大得意とするのであったから。
「楓さん、待たせたわ」
「お待たせ、楓」
 そう言う二人は各々、普段身に纏う衣装へと移行していたのであった。
「……」
 それを見て、楓は思う所があるのだった。
 まずは華扇の方である。これは普段のどこかワイルドな造りの普段の中華風の仙人服……これは問題ない。
 目が行くのは、にとりの方であった。何せ彼女は見事なまでの作業着に身を包んでいたのだから。これは楓が外の世界で確立した河童のイメージからはかけ離れていたのだった。
 そんなにとりを見ながら、楓は言う。
「にとりさん……あなたって自動車修理工だったんですか……?」
「うん、いい加減アナルの話題から離れようね。それで私はちょっとワルっぽい、くそみそな人って訳か? しかも、幻想郷に車はないし」
 にとりは楓のボケに対して的確なツッコミを入れつつ呼吸を整えて続ける。
「さっきも言ったけど、私達河童は『技師』よ。楓の世界で言えば工場や現場で働いている人達を想像してもらえればいいんじゃないかな?」
「ほえ~、にとりさんってさっきはそんな仕事しているようには見えなかったよ」
 工場や現場で働く人となれば、屈強な人間でなければならないのだ。そんな心身ともに強靱なスペックを要求される仕事に、この愛らしい少女のにとりが就いている所に楓はギャップというレベルではないものを感じるしかなかったのである。
「ふふ、楓。人もだけど特に妖怪は見た目で判断しちゃ駄目って事だよ♪」
「心に留めて置きますね」
 にとりの言葉をありがたいアドバイスだと、楓は心から受け止める事としたのであった。
 それはそうと、にとりも華扇も普段着に着替え終わったのである。つまり、準備は万端という事なのだ。そこで、華扇はこうにとりに聞いてくる。
「ところで、着替えも済んだ事だし。これからあなたは私と弾幕ごっこをするのかしら?」
 そう華扇の指摘する所は的を得ているだろう。不可抗力とはいえ、先程水の中で殴られた鬱憤を晴らそうというのは至極必然な発想だからである。
 そんな今の展開を目の当たりにして楓はというと……。
(うん、何だか面白くなってきたね♪)
 不謹慎であるとは思いつつも、そう心の中でぬけぬけとふてぶてしい発想が生まれてしまっていたのであった。
 だが、そう楓が心躍らせるのも無理はないだろう。何せ、仙人と河童という如何にも昔話、おとぎ話の産物といった存在同士の戦いがこれから行われようというのであるのだから、そういった夢のある話が好きな楓は今のこの状況を非常に注目して刮目していたのである。
 だが、その楓の予想は裏切られる事となる。それも、あまりよろしくない意味で。
「いや、私は楓と弾幕ごっこがしたいと思っているんだよ♪」
「ほえっ?」
 その予想だにしないにとりの発案に、楓は声をひっくり返して反応してしまった。
 そして、当然納得はいかない内容であった。だから、彼女はにとりに聞き返す事にする。
「ちょっと、にとりさん? この状況で私と勝負するってのはおかしくない? さっきまで、あなたと華扇さんにいざこざが起こっていて、それを二人が弾幕ごっこで白黒つけるというのが筋な流れでしょ?」
 その楓の主張は至極真っ当なものであろうう。弾幕ごっこというものは、基本的に幻想郷でのもめ事を解決する為のシステムなのだから。故に、にとりとはもめていない楓が弾幕ごっこをするという内容は理不尽であろう。
 だが、にとりの方も真っ当な言い分があるのであった。その内容を彼女は提示する。
「確かに、基本的には弾幕ごっこはそうだけど。別にもめ事の解決に使う必要はないんだよ?」
 そう言ってにとりは続けていく。
「私は弾幕ごっこをすれば、みんな仲間になれる……そう思っているよ。と、言ってもこの言葉はとある『人間』の受け売りなんだけどね」
 そう自嘲気味にネタ明かしをするにとりであった。そして、その人間というのは楓にとってとても重要な関係のある存在だったりするのであるが、その事を楓は当然ながら知る由もなかったのである。
 その事を知らないのはにとりも同じようで、彼女はそのまま言葉を続けていく。
「弾幕ごっこは便利だよ。私のように人見知りの激しい河童であっても、人間に歩み寄っていく機会が得られるんだからね」
 そう言い切ってにとりは再びはにかんだ笑みを見せた。やはりこの少女は何かと笑顔が似合うようである。
「にとりさん……」
 そのにとりの言葉を聞きながら楓は感慨深いものを抱くに至ったようだ。
 何故なら、これによりにとりの気持ちが沸々と伝わってきたからである。『自分と友達になりたい』という気持ちがである。
 そこまで分かったなら、最早楓に断る理由はなかったのである。故に彼女の答えは決まっていたのだった。
「分かりました。一緒に弾幕ごっこ、一勝負しましょうね、にとりさん♪」
「ありがとう、楓♪」
 ここに多少予想だにしなかった形で、一つの対戦カードが誕生したのである。だが、これもご愛敬というものだろう。これこそが幻想郷のフリーダムな一面の現れなのだから。

◇ ◇ ◇

 そして、華扇が審判的な役割を務める中で、楓とにとりの弾幕ごっこの火蓋が落とされようとしていた。
 だが、ここで楓は今の状況が『普通の』弾幕ごっことは違う様相である事を指摘する。
「これは……ちょっと変わった弾幕ごっこになりそうですね」
 そう言うのは、ここが水かさが浅いとはいえ、川に足を浸らせた状態という土俵となっていたからである。
 何故、そのような状況になったのかを、にとりは説明していく。
「ちょっとね、突飛な思いつきなんだけどね。楓のその美脚がセクシーなお着物を見てたらね、その格好のままで裸足で水辺で戦ったら気持ちいいんじゃないだろうかって思ったんだけど……お気に召さなかったかな?」
 そう、これはにとりの思いつきからの粋な計らいなのであった。無論、現在の楓は水辺に足を付けている為に裸足であるのだ。
「ううん、寧ろ嬉しいよ」
 対して楓はにとりにそう言葉を返したのである。そして、それは断じて嘘偽りからではない本心によるものであった。
 裸足で自然の中を駆け回る。そんな無邪気な遊び方は、今では都会では絶対にありつけない内容のものであろう。その機会を今にとりは自分に与えてくれたのである。感謝はすれど煩わしさを感じる事など何一つないのだった。
 だから、楓はこう言葉を掛けるのだった。
「ありがとうね、にとりさん♪」
「気に入ってもらえたようで何よりだよ」
 喜びの意思を見せる楓に対して、その催しを考えたにとりの方も嬉しい思いとなったのである。
 だが、楓にはまだ懸念というものが存在していたのであった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧