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MOONDREAMER:第二章~

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第五章 ローズ味
  第13話 新生楓誕生:後編

「ここ……ですか?」
 そう楓は華扇に先導されて首を傾げてしまった。
 ここが華扇が再三に渡り楓に紹介したかった場所のようである。
 見れば、その場所はどこか他の所よりも小洒落ているような、そんな雰囲気が醸し出されていたのだった。
 その雰囲気に、楓は何だか安心感を覚えるのだった。それは何故か特に女性の何かをその肌で感じられるのだ。
 そして、華扇はそのように気持ちを弾ませるような心情を察してか、待ちきれないだろう彼女に応えるかのように扉を開いていったのであった。
「うわあ~……」
 その扉の奥の部屋の中をかいま見た楓は、そのように感嘆の声を漏らしてしまったのである。
 そこには、見渡す限りの服、服、服と、大量の衣服が掛けられていたからであった。どうやらここは大掛かりなクローゼットのような役割の場所のようである。
 どうやらこれが楓が直感的に心を弾ませるに至った要因のようであった。つまり、彼女とて年頃の少女であるが故におしゃれには興味津々だからという事が起因していたのだ。
「華扇さん、これは……?」
 そういても立ってもいられないといった様子で、楓は華扇に食い付くかのように迫ってくる。
 その楓の様子を見ながら、華扇は掴みは上々だと心の中で歓喜する所であったのだ。
 そんな些かしたたかな心情を察せられまいとして華扇は、一つ咳払いをして楓に自分の魂胆を説明していく。
「楓……まずあなたは弾幕ごっこで先日チルノにも勝った事もあって、例え一時的であってもあなたは立派な幻想郷の一員となったのよ」
「幻想郷が受け入れる者に、一時も永遠もないわ」と華扇は付け加える。
「あ、はい……」
 そう言われて、楓はふつふつとその事実に実感が沸いていくのだった。──もう自分は立派な幻想郷に生きる者なのだと。
「でも、それとこの服達の関係は……?」
 イマイチその二つが線で結び付かずに楓は首を捻るのである。
 そんな楓に対して、華扇は少しも苛立ったような気持ちも抱かずに極めて落ち着いて説明していく。
「それはね楓、まずこれから幻想郷に住むにしては、あなたの今の服装は些か不釣り合いという事ですよ」
「確かに……」
 そう華扇に指摘されて、楓は成る程と納得する。
 それもその筈、今の楓の出で立ちは、外の世界の文化の象徴とも言える『セーラー服』だったからである。
 確かにそれは楓の外の世界で今まで生きてきた思い出の象徴と言えるだろう。
 だが、これから彼女は幻想郷の住人となるのだ。故にそれとは一時的とはいえお別れをしなければならないだろう。
 つまり、その事から今回の華扇の真意が見えてくるというものなのである。
「そういう訳で楓、あなたには私からこれから幻想郷で暮らすのに相応しい服装を用意したい……そう思ってあなたをここへ招待したという事よ」
「華扇さん……」
 その彼女が語る内容が本当に突然の事であったが為に、楓はそれを脳内で整理するのに暫し時間が掛かったようである。
 だが、それも終えると彼女には雪解けのように嬉しさがじわじわと体中を巡っていったのだった。
「華扇さん、ありがとう。私の為に」
 そして、素直な気持ちで華扇にお礼を言うと、彼女の素敵な行為を余す事なく受け入れる事にしたのである。
「私の方も喜んでもらえたようで何よりね。それじゃあ……」
 楓に自分の真意を理解してもらえたようで華扇の方も気分は上々となるのであった。そして、その気持ちを胸に彼女は次なる行動に出る為に動き出す。
「楓、あなたに相応しそうなお召し物……私が選んであげるわね」
 そう言うと華扇は、服の軍勢の中へと飛び込んでいったのだった。全ては楓の為に。

◇ ◇ ◇

 そして、戦場へと赴いた華扇は、無事に楓の下へと帰還するのであった。その手には戦利品を持ってである。
「お待たせ、楓」
 そう片手に楓に合いそうな服を携えながら、華扇は舞い戻ってきたのであった。
 無論、華扇と楓では身長差が存在する訳であるから、その事も考慮して彼女は今の自分基準ではなく、昔の楓と同じ位の体格の時の物をチョイスしてきたのだった。これも、何だかんだで真面目な性質の多い華扇の配慮故なのだ。
 だが、楓は気付いていないようであったが、心なしか華扇が飛び込んで行った服の山にはその『楓と同サイズ』の代物の方が多く、今の華扇には小さいサイズの物は少なかったのであった。
 その事をどうやら感づかれていないようだと華扇は安堵しつつ、楓にその自分が選んだ服を提示する。
 それを見ながら、楓は物珍しそうに言うのだった。
「……チャイナ服ですか……?」
 その楓の指摘通り、華扇の手には伝統的な中華衣装であるチャイナ服が握られていたのだった。
「どうですか楓?」
「う~ん……」
 華扇にその感想を求められながら、楓はいまいち腑に落ちないといった様子で考え込んでしまう。
 その理由は、全体の配色が鮮やか過ぎる赤色である事。そしてノースリーブかつご丁寧にスリットまで入っている事であり。要は……。
「ちょっと、私には派手すぎるんですよねぇ……」
 それが楓の率直な意見であった。これを14歳の少女が着るとなると、些か目立ち過ぎてしまうのではないかという懸念が彼女にはあったのだった。
 対して、華扇は納得半分と意外半分といった様子でそれを聞いていた。
「それは悪かったわ。どうも私は中国の文化から仙術を学んだ関係で、どうやら中華系の服を多く持っているようなのよね」
 素直に楓の趣味に合わなかった事、自分の方向性といった事などの非を認める華扇。だが、もう一つ彼女には思う所があり、それを口にしていく。
「しかし、幻想郷で中華系の服を着ても全く問題はないわよ。現に私がこうして着ているのだし、紅魔館の門番の紅美鈴なんかは色は違えど立派なチャイナ服だしね」
「そうなんですか……?」
 そう説明されて楓は納得もする所であったのだが、それでも彼女には肌に合わないというのは譲れなかった訳であり、更には彼女にとって最重要項目とでも言うべき事が残されているのであった。
「でも、やっぱり私はノーパンになる気はありませんよ」
「んなっ?」
 この爆弾発言に、思わずさすがの華扇もよろけそうになってしまう。だが、その内容は決して突拍子もない事ではないのは華扇も知る所なのだ。
「んまあ……何かしら? 取り敢えず、良くその事を知っていましたね?」
 華扇は取り敢えず、その14歳では余り知る機会もないだろう『チャイナ服を着る際のマナーの一つ』を楓が知っていたという事実を褒める選択肢を取ったのである。
 その事に対して楓は種明かしをする。
「外の世界では、『インターネット』という物を使えば色々な情報が手に入りますから、そこで私は知ったという……ただそれだけの事なんですよ」
「そうだったのね」
「でも、華扇さんが今後使うかどうか分かりませんが気を付けて下さいね。確かに調べれば簡単に情報が手に入りますけど、さすがに
この世の全ての情報が出る訳ではありませんし、嘘の情報だって混じっていますから鵜呑みにするのは危険ですからね」
「……参考にしておくわ」
 楓の助言を聞きながら、華扇は素直に彼女の忠告を心に留めるに至ったのである。
 まあ、幻想郷に一昔前のパソコンが流れ着いて来る可能性は十分にあれど、今後華扇が自ら進んで幻想郷の外の世界へ行くケースはそう起きないだろうと思いながらも。
 華扇が外の世界に興味が無い訳ではない。寧ろ、今の彼女にとって話題から欠く事の出来ない重要な存在の一人が外の世界の住人だったのである。
 だが、今の彼女がその事をどうこう出来るような状況には置かれていないのだ。
 故に、華扇は今後とも『今』を生きていくしかないという事なのである。
(その事を今気にしていても……仕方ないか)
 そう、今華扇にとって重要な事は、過去を思い返す事ではないのだ。そう思い直した華扇は改めて楓に言う。
「取り敢えず楓、別にチャイナ服の正式な着方は確かにノーパンだけど、何も律儀に守る必要はないのよ」
「そう言われましても、そもそもの問題は私にとって派手すぎるって事なんですよね……」
 そう言って楓は考え込んでしまうのであった。
「まあ、無理強いはしないわ」
「ごめんなさいね華扇さん、折角あなたが用意してくれたのに。でも、ちなみにお姉ちゃんだったら大喜びで着てたと思いますよ。何と言っても無類のノーパン好きですから」
「んなっ!?」
 何やら自分の耳に異物的な言葉が飛び込んできたようだと華扇は我が脳を疑ってしまった。そして、願わくば何かの手違いである事を期待して彼女は聞き直す。
「あの……楓さん。今のは私の聞き間違いであって欲しいわ。別に100年早くなくてもいいから」
「いえ、きっちり言い間違いではありませんね。お姉ちゃんは三度の飯よりもノーパンが好きですからね」
「……」
 ここに華扇は無言で項垂れるしかなかったのであった。どうしてこうも現実というものは非情に出来ているのだろうかと。
 だが、華扇とて伊達に仙人をやってはいないのである。彼女はここで気を取り直して次なるステップを踏む事にしたのであった。
「まあ、取り敢えず楓さんが余りこの服をお気に召していない事は分かったから無理強いはしないわ。断じてあなたのお姉さんにも薦めはしないけど」
 そう言って華扇はその手に持ったチャイナ服を片しに行き、その帰りに新たな服を持って来たのであったが。
 どうやら、彼女は勇美の性癖の事を聞かされてどこかで気が動転してしまっていたようであり、その悪影響に彼女は知らずの内に苛まれてしまっていたのだった。
「楓さん、次のこれはどうかな?」
「……華扇さん、これをですか?」
「?」
 どこか歯切れの悪い楓のその反応を目の当たりにして、一体どうしたのかと華扇は落ち着いて今の状況の把握に努めて……そして気付いたようだ。
「あああ……これは楓さんにはないでしょうね……」
「そうでしょう。私は別にカンフー映画に出演する気はないですからね」
 その二人の会話が示す事実はこうであった。
 今華扇が手に持っているのは、全体が黄色で袖部分に黒のラインが入っているタイツという、少なくとも年頃の少女が着るような代物ではなかったのだった。
「と、言うか。これは華扇さんが昔着ていたって事の裏返しになるのですよね」
「ああ、私とて仙術を学ぶ際にカンフーにも興味を持った事があるからね」
 そう華扇はどこか遠い目をしながら感慨深く呟いていた。
 これは自分には絶対に合わないだろうと楓は確信する所であった。特に現代だったら語尾に『ちょ~』を付ける、明らかに教師失格になるだろうあの人を見る者から彷彿とさせられてしまうだろう。
 こうなって来ると迷走もいい所であると楓は思うのであった。そして、華扇に気を遣って今まで出さなかった案をここで出す事にしたのだった。
「華扇さん、ここは私に選ばせてもらえませんか?」
「あ、ああ。私もそれがいいんじゃないかと思い始めていた所よ」
 勇美の事での混乱が抜けきらない華扇は、今の自分では楓にとって力不足である事は否めないだろうと、ここは本人に任せる事にしたのだった。
「少々量が多いから、自分にあったのを探すのが大変かも知れないが、楓くらいの女の子なら寧ろそれが楽しいのかも知れないからね♪」
「よくおわかりで♪」
 その女の子の気持ちを考慮してくれた華扇に感謝しつつ、楓は服の大海原へと帆を張って向かうのだった。

◇ ◇ ◇

 そして、一時間位楓は品定めという名の格闘を続けて、どうやらそれに勝利したようであった。
 続けて、彼女はその服を片手に華扇の元へと向かった。
「華扇さん、こんなのは私にどうでしょう?」
「おっ?」
 その服を見て、華扇は目を見張ったのだった。そして、その感想を楓に対して下す。
「やっぱりお姉さんとは血が争えないようね。いや、実にいい選択だと思うわ」
 そう華扇が評価した楓の持ってきた服。
 それは丈の短いミニスカート状の和服であったのだ。そう、かつて幻想郷で彼女の姉の黒銀勇美が着ていた服とコンセプトが同じなのである。
 と言っても、全体が黒が基調な勇美のそれとは違って、楓のは全体が山吹色という爽やかな雰囲気を醸し出す物であったのだ。それに加えて、こんな特徴があった。
「楓さん、いいのを選んだと思うわ。特に、その紅葉の模様は正にあなたを象徴するみたいで洒落ているわね」
 そう、この服には紅い手の平のような形の葉……即ち紅葉、はたまた『楓』の模様があしらわれているのだった。
 そして、華扇からもお墨付きを貰った楓は上機嫌になった。
「そうでしょう、そうでしょう。これは私にとても合うんじゃないかって思ったんです。華扇さんもいいと思う事ですし、これで決定しますね」
「それがいいわ。それじゃあ早速着てみる?」
「そうさせて貰えると嬉しいですね」
 華扇からも着替えの許可を貰った楓は、丁度この部屋に備え付けられていた試着部屋へと赴き、そこで着替えるに至ったのである。
 そして、無事にサイズもピッタリだったようで試着の終わった楓が試着部屋から出てきたのだった。
「華扇さん、どうですか?」
「ええ、素敵だわ……」
 そう華扇が見惚れてしまう程に、そのミニ丈の和服に身を包んだ楓は艶やかであったのである。
 楓の可憐な容姿をその山吹色と紅色のコントラストが彩り、加えて裾から覗くスラリとした肌色も程よく引き立てるに至っていたのだから。
 そして、楓の気持ちも引き締まる所なのであった。こうして過去の幻想郷で姉が身に纏ったようなデザインの衣装に身を包む事で、これから愛しの姉が歩んだ道を追いかける事となるのだ。
 その想いを胸に、楓の胸の内に温かいものが満たされるような心持ちとなっていくのであった。
 
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