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MOONDREAMER:第二章~

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第12話 新生楓誕生:前編

 チルノと華扇と楓の三人で憩いのかき氷パーティーを行って少ししてからの事。
 この日もいつもと同じように楓と華扇は二人で一緒に朝食の食卓を取り囲んでいたのだった。
 そして、その一時も終わりを迎える事となる。
「ごちそうさまでした」
 そう二人は大切な食事に感謝の気持ちを込める通過儀礼の言葉を同時に口にするのだった。
 その辺りは、楓も華扇も良くわきまえている所なのであった。基本的に二人は地に足を着けた真面目な性格なのだから。
 故に、二人はどちらからともなく一緒に後片付けをするようになり、これが二人の食後の通例となっていたのである。
 そうして、いつも通りの通例が滞りなく行われて行く中で、ふと華扇が思い出したかのように口を開いたのだった。
「あ、楓さん。これは前々から言おうと思っていたんだけど……」
「何ですか?」
 突然話題を振られて、楓は何事だろうかと首を傾げる事となる。
 だが、華扇はどこか勿体ぶった様子でうまくはぐらかして来る。
「それは……秘密よ。そこへ行ってからのお楽しみ♪」
「何なんですかぁ~……」
 飄々とのたまう華扇に対して、楓は少し不満そうにして頬を膨らませる。
「まあ、そう膨れないで。後でそこまで案内するから楽しみにしていなさい」

◇ ◇ ◇

 その意味ありげなやり取りの行われた後片付けタイムも終わる事となった。後は楓は華扇の案内を待つまでになっていたのであった。
 そんな今か今かと待ちわびている楓に対して、華扇はこれ以上じらしては可哀想だと思い声を掛ける。
「お待たせ楓。それじゃあ行こうかしら?」
「はい。でも一体どこへですか?」
「それは、まあ見てなさい♪」
 そう茶目っ気を出しながら言う華扇は、おもむろに庵の外へと赴いていったのだった。
「?」
 何故外へ? そう訝りつつも楓はその後を着いて行った。
 そして、華扇達が辿り着いたのは、何の変哲もない、いつも見ている場所であった。
「あの……華扇さん……?」
「何かしら?」
 さも当然と言わんばかりに華扇は楓に言い返すが、構わず楓はその今の心情を言葉にするのだった。
「……ここ、いつもの庭ですよね……?」
 その言葉が全てを物語っていたのである。
 そう、ここはいつも外に出れば変わらぬ光景の存在している、何の変轍もない庵の庭だった。
「どういう事ですか?」
 思わずそう楓は疑念を華扇にぶつけてしまう。だが、当の華扇はさもあっさりとした態度を取っていたのだ。
「そう、いつもの庭ですね。でもここで間違いありませんからご安心を♪」
 そう華扇は言うと、ウキウキとした様子で庭のある場所へと向かったのである。
 そこは……。
「丸太……ですよね?」
 華扇の行き先を見ていた楓は、その言葉を反芻するかのように紡ぎ出したのであった。
 そう、何の変哲もない丸太であった。普段からこの上で薪を割って生活に使えるようにする際に活躍する、普段から二人が見慣れた代物であったのだ。
「ええ、問題ないわ。何と言ってもお目当ての物は『この中』にあるのだからね♪」
「中に……ですか?」
 そのように華扇に言われて、楓は今自分達が使っている言語が本当に日本語かを疑ってしまう程であった。
 だが、そんな態度を見せる楓に対しても華扇は至って平静を保っていたのである。
 そして、華扇はいとも平然としてこう言った。
「さあ、後はこの切り株を『押す』だけね♪」
 言った華扇はおもむろにその切り株を両手でグッと押し込む姿勢を見せたのであった。まるで玉転がしの大玉を押すかのように。
 この華扇の奇行には、当然楓は現状が正常であるか疑う。
「? 華扇さん?」
「まあ見ていなさいって♪」
 そうあっけらかんと華扇は言うと、そのまま前方に切り株を押し込んだのであった。
 そう、ものの見事に切り株を前方へと、まるで引き戸のようにスライドさせる事によりその位置をずらす事に成功したのであった。
「んん??」
 これには楓は自分の感覚がまともに働いているのか疑念に思わずにはいられなかったのだ。
 故に、彼女は自らの脳を十分に働かせるのに足りうる酸素を送り込むべく深呼吸を始めた。それも吸うのが1に対して吐くのが2の割合という楓の性格らしい理に敵った仕様の下に。
「すぅ~、はぁ~。落ち着くのよ……落ち着くのよ黒銀楓……」
 このようにして脳に正確な仕事をしてもらうべく的確な呼吸法で以て楓は、落ち着きを確立していったのだった。
 だが、現実は非情であったようだ。
「華扇さん……やっぱり切り株を『押して』しまったんですね……」
 いくら呼吸を整えようが、いくら目を凝らそうがその結果は変わらなかったのであった。
 しかも、切り株が元々あった場所には、地下へと向かう下りの階段が存在していたのである。
「さあ楓、この中ですよ」
「『この中ですよ』じゃありませんって!? 何ですかこのRPGツクール作品的な展開は?」
「ああ、あれは名作揃いだからね、その例えは光栄よ♪」
「いえ、論点が違いますって!」
 何か華扇の真面目そうなイメージがどんどん壊れてきたな、楓の胸にはそのような疑念が浮かんでくるのだった。
「じゃあ楓、中に入ってみますか? 『せっかくだから』♪」
「……」
 その瞬間に楓の疑問は確信に変わったのだった。──この人は断じて真面目な人ではないのだ、と。
 故に、楓には諦めの感情が生まれながら華扇に従い地下へと降りていくのだった。決して赤くない赤の扉やら真紅の銃やらがない事を祈って。

◇ ◇ ◇

 華扇に導かれながら未知の地下空間へと足を踏み入れて行く楓。
「ほええ~……」
 そんな最中彼女は感心の余り思わず声に出してしまうのだった。
 地下道と言えば、陰気臭かったりカビ臭かったりといったマイナスのイメージが付き物であろう。
 だが、華扇が案内するこの通路はそのイメージからはまるでかけ離れていたのだった。
 まず壁は石が敷き詰められているが、カビなどの不純物は全く存在してはいなかった。
 そして、所々にオレンジ色の薄明かりを浮かべる照明が壁に立て掛けられていて、足元を見失う危険性が全く取り除かれていたのである。
 これらの様相を見ながら、楓は華扇の評価を改めるのであった。──この人は真面目そうで真面目じゃないけれど、根本は真面目なのだと。
 このややこしい流れだと、紳士的に見えて実は卑劣だったけど、実際は理由があったが故のいい人……という扱いになっているどこぞの『ファンサービス』みたいでひっちゃかめっちゃかである。でもその人と違って華扇は『いい人』である事は楓には分かる所であった。
 とまあ、自分に何かと良くしてくれるこの人がいい人だという確かな安心は得られたという気分を胸に、楓は一つの疑問をぶつけるのだった。
「あの、華扇さん?」
「何かしら?」
「この壁の照明ですが、一体どういう原理で灯りを灯しているのですか?」
 それは当然の疑問であろう。いくら幻想郷と言えど、原理もエネルギー源もなく灯りで照らす事など出来るものではないのだから。
 この至極真っ当な疑問に対して、華扇はすんなりとその答えを提示する。
「これはね……『照明石』と呼ばれる特殊な石を核にしたものよ」
 華扇はそう流暢に楓に説明していったのである。
「そんな石が存在するんですかぁ~……」
 その話を聞いて楓は驚きと感心で以て感嘆の声を出してしまう。当然だろう、そのような代物は十年後となった現代でも確認する事など出来なかったのだから。
 そんな楓に、華扇は諭すように丁寧な態度で言っていく。
「当然でしょう。ここは幻想郷なのよ。外で幻想になったものがこの世界に呼び込まれてくるのだから、外で見た事がない物があって当たり前でしょう」
 そのように、非常に論理的な物言いで迫る華扇に対して、楓はグゥの音も出ない程に言いくるめられてしまったのである。
 こうして無駄のない理論攻めを決め込まれた楓であったが為に、彼女の脳の処理能力は些か肝心な事に気付けなかったようである。──そう、咄嗟に聞かれた楓の質問に対して、華扇が非常に無駄のなさすぎる説明をこなす事が出来たという事の都合の良さに。
 そうとは気付く事の出来なかった楓は、当然気にも留める事もなく華扇との地下探検と洒落込む所なのであった。
 そして、楓達は今までの通路とはうって変わった、開けた場所へと繰り出していたのである。
「うわあ、ここは……?」
「ここは私が溜め込んでおいた、いざという時の為の倉庫のようなものよ」
 そう言って華扇は中の中程のボリュームはあるだろう自身の胸を張って見せるのだった。
 しかし、悲しきかな。大分彼女よりも年齢の低い筈の楓の方がその佇まいは強固に仕上がっていたのである。
「……あなた、本当に14歳?」
「……何の話ですか?」
 互いに疑問系というとある殺人鬼がかなり嫌いそうな不毛なやり取りになりそうになってしまったので、ここで楓が話題を変えて行動に移すのであった。
「まあ、それは置いておいてですね。もし差し支えなければ色々見て回ってもいいですか?」
 折角の仙人という現代では類いまれな存在が拵えた倉庫という稀少にて貴重な産物まで辿り着いたのである。加えて楓とて14歳という好奇心旺盛な年頃の少女なのだ。故に彼女はその知的探究心を満たすべく今正に行動を起こしたのであった。
「まあ、余りいじくらなければいいでしょう」
 華扇とて、その楓の流行る心は理解出来る所なのである。だから、彼女は快く承諾の意を楓に示したのである。
 そして、楓はその華扇の言葉に甘える形で地下倉庫の探索を始める。
 まず、彼女が始めに入った部屋には宝剣とおぼしき立派な刀や、占いに使いそうな水晶玉などのいかに高価そうな代物が存在していたのだった。
「華扇さん、これらは一体どこで?」
 その疑問に華扇は『やはり順応過ぎる位に』軽やかに答えを返していった。
「楓、私は仙人をやっているのよ。だから、仙道には長けているから、その力を目当てに病院では治すのに時間が掛かるような症状の者達の治療に当たって、その時の報酬代わりに受け取ったのが、この宝達という訳よ」
「成る程~」
 仙人という半ば世捨て人のような役職でもちゃんと人の役に立つ仕事もしているのだと、楓は非常に感心したのである。
 そして、説明をした華扇はここである『魔』が心に差してしまったのである。
「そうだ楓、あなたのその見事なモノが原因で肩が凝るような事態になっても、特別にタダで診てあげようじゃないの♪」
 そう言ってニヤニヤと実に嫌らしい笑みを楓に向ける。それも地下倉庫の『照明石』の灯りにより照らし出されていて、実に粘着質な生理的に受け付けないような代物へとなっていたのであった。
 だが、その華扇のささやかな嫌がらせにも楓は動じる事はなかったのである。いや、寧ろ……。
「あ、成る程。華扇さん、『妬いて』いたんですねぇ~♪」
「う゛っ……」
 ものの見事に墓穴を掘ってしまったのは華扇のようであった。逆に彼女は楓のコールタールのようにこびりつくような笑みで以て迎えられてしまい、ここに華扇の完全敗北は決まってしまったようである。
 だが、ここで素直に負けを認める華扇ではなかったのだった。それは、努力だけではいけないという彼女の良くも悪くも負けず嫌いな特性がもたらす心情のようである。
「さあ、楓。まだ倉庫の中は見て回りたいでしょう?」
「そうですね~」
 その華扇の機転に、楓は乗る事にしたのであった。それは、楓とてこの不毛な神経の逆撫で合いは続けてもどちらも得をするような事はないと踏んでの事であったのである。
『無駄な争いはしない』それが楓の信条なのであり、今この場で彼女はその自身のルールに従う事にしたのだった。──例え、この『勝負』が自分の勝ちであるのであれども。
 そして、どうにかしてやったりと思う事が出来た華扇に連れられて、楓は更なる地下倉庫の探索を続けるのだった。
 そのようにして進む事暫く、二人は突き当たりの通路まで来たのである。
 そこは、部屋が数える程しかなく、何やら特に重要な物が仕舞ってあるように思われた。
 その中のとある一つの扉に目が行った楓は、おもむろにそれに手を着けようとする。
 どこか、そこには『人外』めいた何かがほのかに醸し出されていた。
 そこで華扇に電流走る。
「!?」
 そして、彼女は弾かれるように、思考よりも先に身体が動いてしまったのであった。
「チェストォォォォ!!」
 その意味不明な叫び声と共に、華扇は転がり込むように楓とその扉の前に一気に割り込んだのである。
「はうあっ!?」
 そのような奇行には、誰であろうとおののくに至るだろう。当の楓も例外ではなく、今正に手を掛けようとしていたその扉から手を離してしまう事になるのだった。
「ど、どうしたんですか華扇さん!?」
 取り乱す一歩手前な所を、辛うじて楓は平静を保ちながら華扇に聞きながら思った。
『チェスト』等とは、一体どこぞのぬいぐるみに身を包んだ謎の生物だろうか? はたまた一生童貞宣言をしてしまったタキシードの男であろうか。
 それはこの際問題はないのである。要はこのような奇行を起こした本人が一体何なのであるかだ。
 その楓の注目を嫌という程さらっていった張本人たる華扇は、息もたえだえな様子で楓に言うのであった。
「はあ……はあ……。すまなかったね楓。少々驚かしてしまって……」
「少々では済まないのですが……。まあ何やら訳ありみたいですね」
 そう言って楓は頷くのであった。
 人には他人に言えないような秘密の一つや二つはある事は、14年というまだ短い人生の中でも楓は学んで来た事である。
 だから、華扇に対して詮索を行うのは止めにしておく事にしたのだった。
 そんな楓の気遣いに、華扇は漸く呼吸を整えた様子で言葉を返した。
「ありがとう楓。出来れば隠し事なんてしたくはないのだけれども、私にも事情があるというものなのよ」
「分かりました。だから、もうこの扉には近づきませんからご安心下さい」
「そう言ってもらえると助かるわ」
 このようなやり取りの下、華扇の秘密は守られる事となったのであった。
 そして、華扇は反省する所であった。この場所は仙術か何かを施して、むやみに他人に発見されるのを避ける術をしこまなければならないだろうと。
 今回の事は、自分のミスだと華扇自ら心の中で認めるのだった。普段はこの地下倉庫に人を招き入れるような事がないから気が緩んでしまっていたのだと。
 それだけ、華扇にとってここまで親密になる者は楓が始めてである事なのだった。そこに彼女は何か運命的なものを感じるのだった。
 ともあれ、当面の目的はそのような感傷に浸る事ではないのだ。そこで華扇は気を引き締め直して楓を案内するのであった。
 その気持ちと共に、華扇は楓を目的の場所へと誘導していく。
「ここよ」
 そう言って華扇は楓にその場所を紹介したのだった。
 
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