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たたりもっけ

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第三章

「そしてです」
「最初から産まれなかった」
「そうされてです」
 芭蕉は曾良に悲しい顔のまま話していった。
「お通夜もお葬式もなく」
「お墓もですね」
「何もなく。こっそりと弔われただけで」 
 まさにそれだけでというのだ。
「人知れず埋められます」
「そうなりますね」
「ですが産まれてです」
「生きていたことは事実で」
「そうした赤子の魂がです」
 確かに産まれてこの世にあったそれがというのだ。
「彷徨いです、家に宿ったり」
「梟にもですか」
「宿ってです」
「ああした風にですか」
「昼でも鳴くのです」
「そうなのですね」
「家に憑けばその家に祟りが起こったりもします」
 そうもなるというのだ。
「怨みと悲しみによって」
「そうですか」
「ですからその時は」
「たたりもっけに出会えば」
「あの様にです」
「供養することがですか」
「いいのです。悲しい想いをした魂は」
 芭蕉はまだ悲しい顔だった、声もだ。だがそれでもそこには優しさも宿らせてそのうえで曾良に話した。
「供養して次の生にです」
「入るべきですね」
「来世では幸せに」
 産まれてすぐに間引かれることなくというのだ。
「そうなってもらうことをです」
「願って」
「そうしてです」
「供養されましたか」
「そうしました、では」
「そうでしたか」
「出来ればこうしたことは起こるべきではないです」
 産まれたばかりの赤子を間引く、そうしたことはというのだ。
「やはり、ですが」
「起こってしまったならですね」
「せめてまつろわなくなった魂を供養し」
「来世での幸せを願うことですね」
「そうです、ではです」
「それではですね」
「はい、またこうしたことがあれば」
 その時はとだ、芭蕉は曾良に話した。
「そうしていきましょう」
「わかりました」 
 曾良は芭蕉のその言葉に頷いた、そうしてだった。
 二人は蕎麦を食べ宿で休んだ、そのうえで旅を続け多くの句を残していった。俳人松尾芭蕉の知られざる話である。一人でも多くの人が知ってくれれば幸いである。


たたりもっけ   完


                2021・8・17 
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